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超巨大地震
巨大地震の中でも、特にモーメント・マグニチュードにおけるMw9程度以上あるいはMw9クラスの地震に対し使用される名称 ウィキペディアから
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超巨大地震(ちょうきょだいじしん)は、巨大地震の中でも特にモーメント・マグニチュード尺度でMw9程度以上[1][2]あるいはMw9クラス[3]のものに対し使用される名称である。しかし、地震学的に厳密に定義付けられているわけでもなければ学術用語でもない[4]。
超巨大地震の震源分布 |
概要

超巨大地震とされる地震は、確認される範囲では全てがプレート収束帯で発生する低角逆断層のプレート境界型地震であり、断層長がおよそ500 km以上に達する。また、長大な破壊域をもつ海溝型巨大地震は複数のセグメントが連動して断層破壊する連動型地震を仮定すれば説明できるとされる[5][6][7]。海溝沿いで海底地形の大きな変異を伴うためいずれも大津波を伴っている。比較沈み込み学やアスペリティモデルから超巨大地震の発生する場所は若いプレートの沈み込み帯に限定されるとされてきたが、2004年スマトラ沖地震や2011年東北地方太平洋沖地震は従来の理論を覆すものとなり、特に高感度地震観測網など高密度の観測網が整備された日本付近で発生した東北地方太平洋沖地震は超巨大地震に関して新たな知見を与えるものとなった。
観測時代におけるデータの蓄積では発生頻度を論ずるに充分ではないが、地球上においておよそ1世紀の間に数回程度発生しているものと見られる[8]。Mw9クラスの地震の発生頻度は1世紀の間に1 - 3個程度との見積もりもある[9]。またその発生間隔は一様でなく比較的短期間の間に数年の間隔を空けて集中的に発生する傾向が見られる[2][8]。地震モーメント放出の時系列から、このような超巨大地震のクラスタリングの傾向は明らかであるとする説がある一方で[10][11]、クラスタリングはランダムな変化に局在化した余震活動が加わったものにすぎず見かけのものであるとする説もある[12][13]。
かつて表面波マグニチュードなど、地震計に記録された最大振幅の常用対数に基づくマグニチュードが主流として用いられていた時代はMs8.5程度が最大級とされていたが、超巨大地震の規模になると最大振幅に基づくマグニチュードは数値が飽和して頭打ちとなり、規模が適切に表されていなかった[14]。1977年に金森博雄が、断層活動のモーメントに基づくモーメント・マグニチュードを提唱して以来、1960年チリ地震など幾つかの地震がMw9以上と推定され規模が適切に表されるようになった[15]。
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超巨大地震が発生する場所
要約
視点
比較沈み込み学

上田誠也および金森博雄 (1979) は地球上の沈み込み帯を海洋プレートの沈み込み角の違いから「チリ型」と「マリアナ型」に分類し、連動型の巨大地震はチリ型の沈み込み帯で起こると考えた[16][17]。上田らはチリ型に属すのは南チリおよびアラスカ等であるとしたが、Heuret (2011) らによれば、沈み込み角が15°以下の低角であるのは、南チリの他、プエルトリコ、ココス、カスケード、南海トラフ、スマトラ-アンダマンおよび地中海東部の各海溝である[18]。
また、Ruffおよび金森 (1980) は、沈み込み帯で発生する巨大地震の規模は収束レートと沈み込むプレートの年齢の関数として表されると考えた。収束レートが大きく、且沈み込むプレートの年齢の若いプレートほど規模が大きくなる傾向があり、回帰分析からMw=-0.00889T+0.134V+7.96という関係式を得た[19]。
- チリ型
- 比較的若いプレートが低角で沈み込み、プレート間の固着が強く、超巨大地震はこのような沈み込み帯のみで起る。
- マリアナ型
- 古いプレートが高角で沈み込み、プレート間の固着が弱く、プレート間の非地震性の滑りが大きく巨大地震は起こりにくいとされる。
また、沈み込み帯は定常的なものでなく、低角の沈み込み帯も地震が繰り返されるにつれ断層面は弱くなり、強い固着が次第に失われて、高角の沈み込み帯へと進化していくとされた[15][17]。
アスペリティモデル


T.レイおよび金森博雄 (1982) らは、プレート間には固着が強いアスペリティと滑らかに滑っている部分が存在し、アスペリティの空間的分布や面積比によって地震の起こり方に特徴があると考え、世界各地の沈み込み帯を4つのカテゴリに分類した。超巨大地震はカテゴリ1の沈み込み帯で起こり、これに属すのはチリ南部、カムチャツカ、アラスカとされた[17][20]。
- カテゴリ1:チリ南部
- 沈み込み帯は全面的にアスペリティを形成しプレート間は強く固着している。
- 常に500 kmを越えるほぼ同じ長さの断層破壊が、規則正しい時間間隔で発生する傾向がある。
- カテゴリ2:アリューシャン
- 各セグメント毎に大きなアスペリティが存在する。
- カテゴリ1よりやや小さい断層破壊となり、それぞれのセグメントが別々に断層破壊する場合と、海溝全体が連動して断層破壊する場合がある。
- カテゴリ3:千島列島
- 各セグメントに複数の小さなアスペリティが存在する。
- セグメント毎にいつも同じ部分が断層破壊して地震を発生させるが、それらが連動して破壊することは稀である。
- カテゴリ4:マリアナ
- アスペリティを形成せず、プレート間は殆ど固着していない。
- 非地震性の滑りの割合が多く、巨大地震を発生することはない。
比較沈み込み学では古いプレートでは連動型地震は起こりにくいとされ、アスペリティモデルも沈み込みがやや高角の古いプレートは固着領域が小さく連動型の超巨大地震は起こりにくいとされてきた。しかし2004年スマトラ沖地震はこの法則には当てはまらないとされ[21]、2011年東北地方太平洋沖地震の発生した日本海溝もアスペリティモデルではカテゴリ3の千島列島に類似すると考えられ連動型の巨大地震が起りにくいとされていた[22]。
プレート間カップリングと超巨大地震
プレートの相対速度から推定される歪みの蓄積に対する、地震によって解放される歪みの比率である地震カップリング係数は、チリ、カスケード、スマトラ、南海トラフなどは1.0に近いが、アラスカ、カムチャッカ、千島、日本海溝などは0.6前後、トンガ海溝南部、ケルマデック海溝は0.1強、マリアナ、伊豆小笠原、琉球海溝などは0に近いと推定されている[23]。
超巨大地震は、プレート間カップリング係数が中程度以上(0.6程度以上)の沈み込み帯で起こっており、カップリングによる滑り欠損速度が年間2 cm以上の沈み込み帯で起こっているとされる[24]。
付加体形成と超巨大地震
Bilek (2010) は、地球上の沈み込み帯を、付加体が形成されつつある部分と、沈み込むプレートが陸側のプレートを削り込んでいる部分に分類し、超巨大地震は付加体を形成する沈み込み帯で発生し、対して陸側のプレートを削り込むような沈み込み帯では津波地震が発生しやすい事を見出した[25]。
付加体を形成する沈み込み帯は、南チリ、プエルトリコ、カスケード、アラスカ、アリューシャン、カムチャツカ、南海トラフ、スマトラ-アンダマンの各海溝であり、20世紀の超巨大地震や2004年スマトラ沖地震は何れもこれらの沈み込み帯で発生しているが、東北地方太平洋沖地震の起こった日本海溝はこの法則に反して陸側のプレートを削り込む沈み込み帯であった[26]。
地震の発生頻度と超巨大地震
井出哲 (2013) は世界の沈み込み帯で発生している中規模 (M4.5) 以上の地震の発生頻度とプレートの沈み込み速度との関係を検討し、南西太平洋を中心に多くの地域で沈み込み速度と地震発生頻度が比例するという常識的な関係を見出した。
その中で、例外的に沈み込み速度は比較的速いが地震発生数が極めて低いという比例関係から外れる地域があり、この地域ではしばしばゆっくり地震が見出されており、さらに超巨大地震はこの地域で起こっている事を見出した。この「一見静かだが超巨大地震の起こる危険な地域」はアラスカ、カスケード、ペルー、チリ、南海トラフから琉球海溝であるという[27][28]。
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超巨大地震の多様性
要約
視点
井出哲 (2011) は東北地方太平洋沖地震の地震波の解析から海溝側のプレート境界浅部と陸側のプレート境界深部との間で断層破壊が往復する形で進行し、海溝側の過剰滑りであるダイナミックオーバーシュートが大津波を励起したと推定している[29][30]。
古村孝志 (2012) は、2011年東北地方太平洋沖地震において海溝軸付近で超大滑りが認められ巨大津波を誘発したことから、沈み込み帯の陸側深部の断層破壊に加えて、海溝軸付近が震源域となる事により地震が巨大化するとした。南海トラフでも同様の事が起こるとされ、宝永地震の震源域に加えて海溝軸付近が震源域とも推定される慶長地震の震源域が同時に断層破壊して巨大津波が発生するとされた[31]。しかし、南海トラフはSingle Segmentationであり、宝永地震単独でも海溝軸付近まで断層破壊が及んでいる可能性があり、Double Segmentationとなる証拠は見出されないとされる[32]。
小山順二 (2013) らは東北地方太平洋沖地震発生を期に超巨大地震の発生場には二つの異なった特徴があることを突き止め、宝永地震と東北地方太平洋沖地震は異なる震源過程で発生したと推定しそれぞれ「Along-strike Single Segmentation (ASSS)」および「Along-dip Double Segmentation (ADDS)」と分類した。従来チリ型とされた低角の若いプレートの沈み込み帯がASSSに相当し、超巨大地震の発生には多様性が認められるとした[1]。
カスケード地震を起こしたカスケード沈み込み帯や、宝永地震を起こした南海トラフは現在地震空白域を形成しプレート間が強く固着していると推定されるが、東北地方太平洋沖地震を起こした日本海溝や、アラスカ地震の震源域では明白な地震空白域が見られない等の特徴が見られる[33]。
- タイプ1:Along-strike Single Segmentation (ASSS)
- プレート間の強い固着域が海溝軸から沈み込み帯全域に拡がっており、本震前に明白な地震空白域を形成している。
- 本震では横並びのセグメントが連動して破壊し地震活動帯が細長く、断層の幅と長さの比が1:5程度である。
- 地震モーメントの放出はパルス的でなく、長時間にわたって継続する。
- 表面波であるレイリー波やラブ波の振幅は観測点が断層破壊方向と反対側にある場合、偶数番の優弧[注 1]を回ったものが、伝播距離の短い劣弧を回った奇数番のものより大きく、断層破壊が進展する方向に地震波のエネルギーが集中するため方位依存性が著しい。
- 例:1700年カスケード地震、1707年宝永地震、1960年チリ地震、2010年チリ・マウレ地震等
- タイプ2:Along-dip Double Segmentation (ADDS)
- プレート間の強い固着域は海溝軸近くのセグメントに限定され、本震前には明白な地震空白域が見られず島弧沿いに顕著な地震活動がある。
- 本震では陸側と海溝側の二重に配列したセグメントが連動して破壊し地震活動帯が幅広く、断層の幅と長さの比が1:2 - 3程度である。
- 断層破壊初期に狭い範囲で超大すべりが発生し、地震モーメントの放出がパルス的である。
- 表面波であるレイリー波やラブ波の振幅は、偶数番と奇数番で差が認められず、方位依存性が見られない。
- 例:1952年カムチャッカ地震、1964年アラスカ地震、2011年東北地方太平洋沖地震等
2004年スマトラ沖地震は、初期破壊過程においてADDS的な性格を帯びるが、アンダマン諸島付近ではASSS的な性質であるという[1]。
超巨大地震の例
要約
視点
CMT解などから精度の高いモーメント・マグニチュード (Mw) が推定できるようになったのは1970年代後半以降である[34]。それ以前は津波遡上高や地殻変動などから想定される断層モデルによる推定値であり、さらに19世紀以前の歴史地震については断層モデルの根拠となる津波遡上高も諸説あり地殻変動推定の史料も限定され、また激震域の長さなどによる推定値でもあり精度は低い[35]。
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噴火の誘発


20世紀に地球上で発生したMw9クラスの巨大地震および2004年スマトラ沖地震等は何れも地震後数年以内に近隣の複数の火山の噴火を誘発しているとの見方がある[72][73][74]。
一方で、超巨大地震の後に噴火が誘発されたと思われるケースもあるが、地震の有無と関係なく通常期に活発な火山もあり地震直後に噴火を誘発したとは結論できないものもあるという見方もある[75]。また、必ずしも震源域に近い火山活動が活発化するわけでもなく、これは地震による直接的な応力変化では無く、地震動が長時間火山体を揺らすことによる影響も考えられるとされる。宝永噴火やベズイミアニ山の様に大規模な噴火が誘発されたと思われる事例もあるが、これらの大噴火には900 - 1200年程度の時間間隔が存在し噴火のエネルギーが充分に蓄えられ、地震により誘発された噴火が大規模に発展したとの見方もある[76]。
- 684年白鳳地震
- 869年貞観地震 [注 2]
- 1年11か月後:鳥海山(VEI:2)
- 1707年宝永地震
- 1952年カムチャツカ地震
- 1日後:カルビンスキー山(VEI:5)
- 8日後:タオ・ルシィル山(VEI:3)
- 31日後:マールイセミャチック山(VEI:3)
- 1年9か月後:サリチェフ山(VEI:2)
- 2年11か月後:ベズイミアニ山(VEI:5)
- 1957年アリューシャン地震
- 2日後:ヴィゼヴェドフ山(VEI:2)
- 1年5か月後:オクモク山(VEI:3)
- 1960年チリ地震
- 2日後:コルドン・カウジェ火山(VEI:3)
- 49日後:ベテロア山(VEI:1)
- 54日後:トゥプンガティト山(VEI:2)
- 7か月後:カルゴフ山(VEI:3)
- 1964年アラスカ地震
- 2004年スマトラ沖地震
- 105日後:タラン山(VEI:2)
- 1年2か月後:メラピ山(VEI:1)
- 1年5か月後:バレン山(VEI:2)
- 2年9か月後:ケルート山(VEI:2)
- 2年10か月後:アナク・クラカタウ山(VEI:2)
- 2010年チリ・マウレ地震
- 1年3か月後:コルドン・カウジェ火山(VEI:3)
- 1年6か月後:ペテロア山
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地軸への影響
超巨大地震による地形の変形により極運動が励起され、地軸がずれることが知られる[78]。
1957年から1967年の間に観測されたChandler運動(周期約14か月の極運動)のうち、1960年の観測結果からチリ地震発生によって地軸の年周運動に不連続が認められた[79]。
地球に弾性球の変形が生じた場合、Chandler運動に変化が生じると予測されるが、たとえ1960年チリ地震であってもその変形量ではChandler運動を励起するには全く不十分であるとされていた。しかし、1964年アラスカ地震において、震源域から約5000 kmも離れたハワイ諸島においても10-8程度の永久歪が観測され、このような微小な地殻変動であっても全地球にわたって積分すればChandler運動を励起する可能性があるとされた[80]。
地軸がずれた結果、地震の前後で地球の自転周期がわずかに変化し、2004年スマトラ沖地震、2010年チリ・マウレ地震、2011年東北地方太平洋沖地震では、いずれもマイクロ秒オーダー (10-6s) で自転周期が速くなったという観測結果もある[81][82]。
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起こり得る最大規模の地震
観測史上最大級の地震は1960年チリ地震Mw9.5であり、地質調査からもこれ以上の規模の地震が発生した証拠は見出されていないが、松澤暢 (2012)、および蓬田清 (2013) らは、世界各地の沈み込み帯について検討し、最大Mw10程度の超巨大地震は起こり得るとした[83]。M10の地震が起ったと仮定したならば何が生じるかを知ることも必要としているが、これは極めて荒い推定に過ぎず学問的には極めて稚拙なレベルの話としている[83]。
蓬田清 (2013) は、沈み込み帯におけるプレート間の地震性滑りは深さ60 km付近を限度としてそれより深いところではスラブ内地震に限定されるとし、震源域の幅は最大でも300 km程度が最大限であり、断層の長さは1500 km、滑り幅が100 m前後ならばMw10も可能と考えられ、1960年チリ地震および2010年チリ・マウレ地震の震源域を包括するような沈み込み帯が候補に挙がるとした[32]。しかし、実際には1960年の地震は震源から南側へしか断層破壊は起こらず、50年後に発生した2010年の地震とは連動のイメージから程遠い形で発生したため、少なくともこの地域でこの規模を超える地震は数百年は発生しないとされる[32]。
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脚注
参考文献
関連項目
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