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海藻の一種 ウィキペディアから
モズク(モヅク、学名: Nemacystus decipiens)はシオミドロ目ナガマツモ科に属する褐藻の1種である。柔らかく細長い胞子体と微小な匍匐糸状体である配偶体の間で異型世代交代を行う。日本では本州から沖縄に分布し、ふつうヤツマタモクなどのホンダワラ類(褐藻綱)に着生している(名の由来の一つ、下記参照)。イトモズクやホソモズク、ハナモズク、ホンモズク[注 1]とよばれることもある。
モズク | ||||||||||||||||||||||||||||||
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モズク胞子体の全形 (1)、横断面 (2)、同化糸と単子嚢 (4)、同化糸と中性複子嚢 (5) | ||||||||||||||||||||||||||||||
分類 | ||||||||||||||||||||||||||||||
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学名 | ||||||||||||||||||||||||||||||
Nemacystus decipiens (Suringar) Kuckuck, 1929[1] | ||||||||||||||||||||||||||||||
シノニム | ||||||||||||||||||||||||||||||
100 gあたりの栄養価 | |
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エネルギー | 18 kJ (4.3 kcal) |
1.4 g | |
食物繊維 | 1.4 g |
0.1 g | |
飽和脂肪酸 | 0.03 g |
一価不飽和 | 0.01 g |
多価不飽和 |
0.02 g 0.01 g 0.01 g |
0.2 g | |
トリプトファン | 4 mg |
トレオニン | 11 mg |
イソロイシン | 9 mg |
ロイシン | 17 mg |
リシン | 11 mg |
メチオニン | 6 mg |
シスチン | 3 mg |
フェニルアラニン | 10 mg |
チロシン | 8 mg |
バリン | 12 mg |
アルギニン | 12 mg |
ヒスチジン | 4 mg |
アラニン | 14 mg |
アスパラギン酸 | 21 mg |
グルタミン酸 | 22 mg |
グリシン | 12 mg |
プロリン | 10 mg |
セリン | 11 mg |
ビタミン | |
ビタミンA相当量 |
(2%) 15 µg(2%) 180 µg |
リボフラビン (B2) |
(1%) 0.01 mg |
ナイアシン (B3) |
(0%) 0 mg |
パントテン酸 (B5) |
(0%) 0 mg |
ビタミンB6 |
(0%) 0 mg |
葉酸 (B9) |
(1%) 2 µg |
ビタミンB12 |
(4%) 0.1 µg |
ビタミンC |
(0%) 0 mg |
ビタミンD |
(0%) 0 µg |
ビタミンE |
(1%) 0.1 mg |
ビタミンK |
(13%) 14 µg |
ミネラル | |
ナトリウム |
(6%) 90 mg |
カリウム |
(0%) 2 mg |
カルシウム |
(2%) 22 mg |
マグネシウム |
(3%) 12 mg |
リン |
(0%) 2 mg |
鉄分 |
(5%) 0.7 mg |
亜鉛 |
(3%) 0.3 mg |
銅 |
(1%) 0.01 mg |
他の成分 | |
水分 | 97.7 g |
| |
%はアメリカ合衆国における 成人栄養摂取目標 (RDI) の割合。 出典: USDA栄養データベース |
モズクの胞子体は食用とされ、養殖もされているが、「もずく、モズク」の名で流通している海藻の多くは別属のオキナワモズクである。日本では、他にイシモズクやフトモズク、キシュウモズクなども食用とされる。
標準和名はモズク、またはモヅクと表記される[3]。モズクの漢字表記は水雲[4]や海雲[5]、海蘊[4]であり、毛都久[4]、毛豆久[6]、母豆久[7]などと書かれることもある。語源は諸説あるが[3]、最もよく説明されるのはホンダワラ類に着生することに基づく「藻付く(藻着く)」である[4][8][9]。ほかにも「藻屑」の倒置、「藻次芽(モニツヅメ)」、「藻束(モツカネ)」、「藻雲(モ-ツ-ク)[注 2]」などの説が挙げられる[3]。1930年代までは「モヅク」の表記が一般的であったが、戦後は1946年に公布された「現代かなづかい」による影響で「モズク」の表記が大勢を得た[3]。2008年現在では、水産業では専ら「モズク」が用いられ、藻類学者の中では「モズク」が三分の二程度を占め優勢であるが[3]、語源的見地から「モヅク」を用いるべきとする意見もある[10]。
別名として、モゾク[11]、モゾコ[12]、スノリ[12]、ハナモズク[12]、イトモズク[13]、ホソモズク[13]、ホンモズク[13][注 1]などがある。
日本国内で「モズク」や「もずく」として流通している海藻のほとんどは、標準和名でモズクとよばれる種(本記事で扱っているモズク)ではなく、オキナワモズクである[16][17]。沖縄の漁業者は、オキナワモズクを「モズク」または「本モズク」、「太モズク」とよび、標準和名でモズクとしている種は「糸モズク」、「細モズク」とよばれている(オキナワモズクにくらべて細いため)[15][18]。
大型で複相(染色体を2セットもつ)の胞子体と小さな単相(染色体を1セットもつ)の配偶体の間で異型世代交代を行う[13][8]。
胞子体は大型であり、小さな盤状付着器から伸びている細長い円柱状の体は粘質に富み柔らかく、不規則に多数分枝し、直径約1ミリメートル、長さはふつう20–30センチメートルだがまれに1メートルに達する[13][8][19](右上図1)。色は淡褐色から褐色、古くなると黒くなる[19]。藻体の中軸には1列の中軸細胞糸があり、髄細胞で取り囲まれ、さらに外側には同化糸からなる皮層がある[13][19](右上図2)。中軸細胞糸は古い藻体では崩壊し、藻体は中空になる[19]。髄細胞は直径50–100マイクロメートル、長さ 100–1000マイクロメートル、偽柔組織を形成する[19]。同化糸は無分枝またはわずかに分枝、やや湾曲、9–21細胞からなり、長さ120–200マイクロメートル、褐藻毛の長さは最大で400マイクロメートル[13][19]。
胞子体の発生初期には同化糸から分枝した単列の中性複子嚢が形成され(右上図5)、2本鞭毛性の遊走子を放出する[8][19]。遊走子は着生し、再び胞子体へと発生する無性生殖を行う[13][8]。また胞子体の発生後期に同化糸基部に形成される単子嚢は楕円形から卵形、長さ約80マイクロメートル、幅40–50マイクロメートル(右上図4)、遊走子を放出する[8][19]。この遊走子は、着生して微小な匍匐糸状体である配偶体になる[13][8]。配偶体は単列細胞列からなる複子嚢を形成し、配偶子を放出、これが接合して接合子となり、配偶体に似た匍匐糸状体を経て、大型の胞子体を形成する[13][8]。未接合の配偶子は、再び配偶体になる無性生殖を行う[13][8]。
モーリシャス、中東、南アジア、東アジア、ベトナム、オーストラリア、ハワイから報告されている[1]。日本では本州(太平洋側では千葉県以南、日本海側では秋田県以南)、四国、九州、沖縄に分布する[13][8][19]。
日本ではふつう大型の褐藻であるホンダワラ類のヤツマタモク(ときにマメタワラ、エンドウモク)の体表上に特異的に着生している[13][19]。ただし人工的にはさまざまな基質上で発生させることが可能であり、また南西諸島では死サンゴ上や他海藻上などに着生している[13][8][19]。
モズクの産地では古くから、採取したものを生のままで、または塩蔵して利用していた[13]。最も一般的には「もずく酢」(三杯酢、二杯酢、土佐酢など)とされるが、他にも吸い物、味噌汁、塩辛、雑煮、天ぷらなどにも用いられる[13]。またオキナワモズクなど他のモズク類と同様、低カロリー(右表)で食物繊維であるアルギン酸やさまざまな生理活性作用(抗血栓作用、抗炎症作用、抗腫瘍作用、免疫調整作用など)を示すフコイダンを豊富に含むことから、注目されている[13][20]。
1970年代からオキナワモズクの養殖が開始され、「モズク」が一般的な食材となったが、これは上記のモズク(標準和名としてモズクとよばれる種)ではなく、オキナワモズクである[16]。モズクはオキナワモズクにくらべて食感が繊細で喉ごしが良いともされ、流通量が少なかったため高価な食材であった[13]。しかし沖縄でモズクも大規模に養殖されるようになり、一般的な食材となった[13]。ただし、それでもオキナワモズクよりも生産量ははるかに少ない(次項参照)。
モズクの養殖は、長崎県で1970年代に試験養殖が始まった[13]。その後、1993年に沖縄で胞子体の同化糸を高塩分、低照度で培養したものを種苗として利用する方法が開発され、沖縄県で本格的に養殖されるようになった[13]。またその後、糸状体のフリー培養による種苗保存も開発され、利用されている[13]。
2019年現在では、日本のモズク類生産量(16,470トン)の90%以上を沖縄県での生産が占め、そのうちオキナワモズクが約15,000トン、モズクが約500トンである[21][17](下表)。
養殖されているオキナワモズクの収穫の最盛期は4月から6月であり、"モズク類"の普及のため、4月の第3日曜日を「もずくの日」としている[18]。
上記のように「もずく」として食用に流通している海藻の多くはオキナワモズクであり、またはるかに少ないがモズクも養殖・食用とされている。その他にも、下記のようないくつかの近縁種(すべて褐藻綱シオミドロ目ナガマツモ科)が「もずく」として食用に利用されている。
褐藻綱シオミドロ目ナガマツモ科の中には、他にも「モズク」の名がついた種がいくつかある[22](下記)。
また紅藻(モズクが含まれる褐藻とは縁遠い)の中でも、ひも状で柔らかい藻体をもつ種の中にはベニモズク(Helminthocladia australis)やアケボノモズク(Trichogloea requienii)など「モズク」と名がついたものがいる[39]。
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