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モクレン属

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モクレン属
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モクレン属(モクレンぞく、学名: Magnolia)は、モクレン目モクレン科に属する被子植物の1つである。常緑性または落葉性高木から低木であり、切れ込みがない互生する。枝先に1個ずつつく花は大きく、ふつう3数性の花被片をもち、多数の雄しべ雌しべが花軸にらせん状についている(図1)。果実は集合性の袋果であり、赤い種皮で包まれた種子が糸で垂れ下がる。東アジアから東南アジア北米東部から南米に隔離分布する。広く観賞用に植栽され、また生薬木材として利用されることもある。特に園芸関係などでは、属名をカナ読みしてマグノリアとよぶこともある[4][5]

概要 モクレン属, 分類 ...

属名の Magnolia は、フランス植物学者ピエール・マニョル (Pierre Magnol) に因んで名づけられた。21世紀初頭まではオガタマノキ属など複数のに分けられることが多かったが、分子系統学的研究ではそのような属の区分は支持されず、2022年現在ではモクレン科の中でユリノキ属以外のものは全てモクレン属に分類されることが多い。タイサンボクホオノキオオヤマレンゲコブシハクモクレンオガタマノキなどおよそ230–340種が知られている。

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特徴

常緑性または落葉性高木から低木[6][7](下図2a, b)。は単葉で全縁葉柄をもち、葉脈は羽状、互生でふつう螺生し(下図2c)、ホオノキなど一部のでは枝先に集まってつく(偽輪生)[6][7]は合着した2枚の托葉からなるキャップ状の芽鱗で覆われているが、この托葉は早落性であり、枝を一周する托葉痕を残して落ちる[6][7][8][9](下図2d)。

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2a. タイサンボクは常緑高木
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2b. モクレン(シモクレン)は落葉低木から小高木
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2c. ヒメタイサンボクの葉
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2d. ソコベニハクモクレン(サラサモクレン)の芽(枝を取り巻く托葉痕が見える)

は大きく、放射相称、1個ずつつき、ふつう枝先に頂生するが、オガタマノキ節では葉腋の短枝につく(偽腋生)[6][7][10](下図3)。ふつう両性花であるが、まれに単性花雌雄異株または雄性両性異株[11][12]花被片は離生し、6–9(–45)枚、ふつう3枚ずつ2–多輪につく(下図3)。花被片はふつう花弁状であるが、種によっては最外輪が小さく萼片状(下図3c)[6]雄しべ雌しべは多数、伸長した花托(花軸)上にらせん状につく[7](下図3a, b, d)。雄しべは離生し、花糸はふつう太く短く、葯隔は突出、は内向または側向する[6][7][10](下図3d)。雌性先熟であり、雄性期の雄しべが早く脱落することもある[12](下図3a)。雌しべは離生心皮で多数、ときに数個、縁辺胎座で胚珠は1心皮あたり2-20個[6][11][13][13][8][10]。花の匂い成分は多様であり、によってテルペノイドモノテルペンセスキテルペン)、フェニルプロパノイド含窒素化合物(ベンジルシアニドなど)、脂肪酸誘導体(ペンタデカンなど)、分枝鎖アミノ酸誘導体(酢酸イソブチルなど)などをそれぞれ主成分とする例が知られている[14]

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3a. タイサンボクの花: 雄しべが脱落している
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3c. モクレン(シモクレン)の花: 最外輪の花被片は小さく萼片
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3d. Magnolia amoena の雄しべ群と雌しべ群

果実は裂開する袋果であり、1つの花の果実が集まって集合果を形成し、ときに部分的に融合する[11][13](下図4a–c)。個々の果実はふつう縦に裂開するが、横周裂開するものもある[10]。1個の果実は1–12個の種子を含む[11]。種子は赤い肉質の種皮で覆われ、果実から出て珠柄でぶら下がる[11](下図4)。内種皮は石質で硬く、黒色、発芽抑制物質を含む[9]。基本染色体数は x = 19[13][8]

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4b. シデコブシの集合果
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4c. キンコウボクの集合果
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4d. ホオノキの種子
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分布・生態

日本を含む東アジアから東南アジアおよび南アジアの一部と、北米東部から南米の一部の温帯域から熱帯域に隔離分布する[6][11][8][10](下図5)。

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5a. シデコブシの自生地 三重県菰野町田光)
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5b. 東南アジアに分布するキンコウボク

葉は、常緑性のものと落葉性のものがある[15]虫媒花である大型の花をつけ、甲虫ハエ目ハチ目などによって送粉される[8][11][13][15]

果実が裂開して露出する種子は赤く目立ち(上図4)、主に鳥によって種子散布される[16][17][18]

人間との関わり

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6. アメリカ合衆国議会議事堂と植栽されたモクレン属

モクレン属は大きく美しい花をつけるため、観賞用に広く栽培されており、また人工交配による雑種作出や品種改良が盛んに行われている[10](図6)。特にモクレン(シモクレン)やハクモクレン、両種の交配品種であるソコベニハクモクレン(サラサモクレン)、コブシシデコブシタイサンボクなどが広く植栽されている[5][19]

シモクレンハクモクレンタムシバコブシなどモクレン類のつぼみ(花芽)を風乾したものは辛夷しんいとよばれ、鼻炎や頭痛、熱、咳などに対する生薬とされる[20][21][22][23][24][注 1]。またコウボク(カラホオ、Magnolia officinalis)やホオノキの樹皮を乾燥させたものは厚朴こうぼくとよばれ、フェニルプロパノイドのマグノロール (magnolol) やホノキオール (honokiol) を含み、健胃、整腸、鎮咳などの作用をもつ生薬とされる[26][27][28][29][30][31][注 2](下図7b)。既に『神農本草経』(後漢から三国時代)には、生薬として厚朴が記されている[33]

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7a. 辛夷
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7b. 厚朴を含む半夏厚朴湯
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7c. 朴葉味噌

モクレン属の植物は香水や香料に用いられることもある[5][34]。またが利用される例もあり、さらにホオノキの葉は食物の皿や容器として用いられる[32][35][36](上図7c)。

系統と分類

要約
視点

進化

モクレン属のは、大型でらせん状に配置した多数の雄しべ雌しべをもつ(上記参照)。このような特徴は、被子植物における原始的な特徴とされることが多い[10][37]。ただしこのような特徴は、モクレン科またはモクレン目の一部における派生形質であると考えられることもあり、また甲虫媒に対する適応の結果ともされる[8][38]

分類史

初期の記録

スペインメキシコ征服の後、フェリペ2世は侍医のフランシスコ・エルナンデス (Francisco Hernandez) に新大陸の学術調査をおこなわせた。エルナンデスは植物の記載を多数行ったが、出版は遅れ、原稿はアッカデーミア・デイ・リンチェイ (Accademia dei Lincei) の会員たちによって再編集され、1651年に3分冊の『Nova plantarum historia Mexicana(メキシコ植物史)』として出版された。この研究には、現地名で 'Eloxochitl' とよばれていた植物(おそらく Magnolia macrophylla subsp. dealbata)の図が含まれている。おそらくこれが、最初に西洋に紹介されたモクレン属植物の記録であると考えられている[39]

イギリスフランスから北米に派遣されたキリスト教伝道使節によってモクレン属植物が記録されたか否か不明確であるが、モクレン属植物のヨーロッパへの移入については記録が残っている。宣教師で植物収集家であったジョン・バニスター (John Bannister; 1654–1693) が、北米バージニアからロンドン司教ヘンリー・コンプトン (Henry Compton) に Laurus tulipifera, foliis subtus ex cinereo aut argenteo purpurascentibus[注 3] を送付した。この植物はヒメタイサンボクMagnolia virginiana)であったと考えられている。つまり、下記のようにシャルル・プリュミエールによって最初に Magnolia の名が使われる以前に、モクレン属植物は既にヨーロッパに移入されていた[39]

モクレン属の記載

1703年、フラスの植物学者であるシャルル・プリュミエ (Charles Plumier) は、『Nova plantarum Americanarum genera[40]においてカリブ海マルティニーク島の植物を記載した。この中で、プリュミエは地元で 'Talauma' と呼ばれていた植物を、植物学者のピエール・マニョル (Pierre Magnol; 1638–1715) の名に因んで Magnolia と命名した(植物の学名の起点である1753年以前であるためこの時点では正式な学名ではない; 下記参照)。プリュミエが最初に Magnolia と命名した植物は、後にラマルクによって Annona dodecapetala と命名され[41]、それ以降に Magnolia plumieriTalauma plumieri などさまざまな名で命名されたが、今日では Magnolia dodecapetala[注 4] の名称で知られる。

プリュミエ以降に最初に Magnolia の名を用いた人物はおそらく、マニョルの弟子であるジョゼフ・ピトン・ド・トゥルヌフォール (Joseph Pitton de Tournefort) のもとでパリで植物学を研究していたイギリスの植物学者ウィリアム・シェラード (William Sherard) である。ディレニウス (Johann Jacobs Dillenius) の『Hortus Elthamensis[42]マーク・ケイツビー (Mark Catesby) の『カロライナの自然史』[43]の中で、シェラードは北米温帯域の植物のいくつかのに対して Magnolia の名を用いた。

リンネは、1753年の『植物の種Species Plantarum)』の初版において、プリュミエが創設した Magnolia の名を使用しているため、この学名の正式な記載者はリンネとなる。彼はただ1種、Magnolia virginianaヒメタイサンボク)を記載し、この中に5つの変種(glauca, foetida, grisea, tripetala, acuminata)を認めた。『Systema Naturae』の第10版 (1759年) では変種 griesaglauca をまとめ、残った4つの変種をそれぞれ種に格上げした[注 5]

18世紀の終わりまでに、アジアを探検した植物学者とプラントハンターは中国と日本のモクレンを命名し記載しはじめた。西洋の植物学者によって記載された最初のアジアの種はハクモクレンMagnolia denudata)とモクレン(シモクレン、Magnolia liliiflora[注 6]、またトキワレンゲMagnolia coco)とカラタネオガタマMagnolia figo[注 7]である。その後間もなく、1794年にツンベリー (Carl Peter Thunberg) がホオノキMagnolia obovata)を日本で採集、記載し、それと前後してコブシMagnolia kobus)が採集された[注 8]

属の分類

モクレン科の中で、ユリノキ属の2種(ユリノキシナユリノキ)はモクレン科の他の種とは明瞭に異なる特徴を多くもつ。ユリノキ属以外の種は、全縁、内向または側向する果実は裂開する袋果であるなどの共通点をもつ[9]。これらの種は成長様式(仮軸成長または単軸成長)、葉の芽内形態(葉の折りたたまれ方)、花の位置(頂生または偽腋生)、花の性表現、葯の裂開方向、雌しべ群の柄の有無、果実の形状および裂開様式、1心皮あたり胚珠数、などの点で多様であり、この多様性に基づいてさまざまに分類されてきた[10][9][12]

20世紀後半には、モクレン科の中でユリノキ属以外のは、モクレン属(Magnolia)、オガタマノキ属Michelia)、モクレンモドキ属(Manglietia)、KmeriaPachylarnaxElmerilliaなどいくつかの属に分けられることが多かった(下表1a, b)。この中で多くの種がモクレン属に分類され、モクレン属はしばしば複数の亜属に分けられていた。分類体系は安定しておらず、研究者によってかなり異なるものが提唱されていた。極めて多くの属(15–16属)に分ける分類体系(下表1c, d)や、全てモクレン属にまとめる分類体系(下表1e)もあった[12]

さらに見る a. Dandy (1978), b. Nooteboom (1987) ...

20世紀末以降には分子系統学的研究が行われるようになり[46][47][48]、上記のような分類体系の変遷にも関わってきた。初期の分子系統学的研究では不明確な部分も多かったが、2020年頃には葉緑体DNAおよびDNAの多量のデータに基づく研究が報告されている[12][49](下図8)。これらの研究ではいずれも高い統計的信頼度で系統関係が示されているが、葉緑体DNAと核DNAでは系統仮説の間には一致しない点がある[49](下図8)。

8. モクレン科内の系統関係に関する仮説2例
モクレン科

ユリノキ属

モクレン属

トキワレンゲ節 sect. Gwillimia

sect. Splendentes

ネッタイモクレン節 sect. Talauma

sect. Tuliparia

sect. Macrophylla

ヒメタイサンボク節 sect. Magnolia

モクレンモドキ節 sect. Manglietia

オオヤマレンゲ節 sect. Oyama

ホオノキ節 sect. Rytidospermum

sect. Kmeria

sect. Gynopodium

sect. Tulipastrum

ハクモクレン節 sect. Yulania

sect. Maingola

オガタマノキ節 sect. Michelia

8a. 葉緑体DNAに基づく系統関係[12][49]
モクレン科

ユリノキ属

モクレン属

トキワレンゲ節 sect. Gwillimia

ネッタイモクレン節 sect. Talauma

sect. Tuliparia

オオヤマレンゲ節 sect. Oyama

モクレンモドキ節 sect. Manglietia

ホオノキ節 sect. Rytidospermum

sect. Macrophylla

ヒメタイサンボク節 sect. Magnolia

sect. Kmeria

sect. Gynopodium

sect. Tulipastrum

ハクモクレン節 sect. Yulania

オガタマノキ節 sect. Michelia


 

8b. 核DNAに基づく系統関係[49]Splendentes節とMaingola節を含まない)

上記のような分子系統学的研究から、ユリノキ属を除くモクレン科内におよそ15個の系統群の存在が示されている[12](上図8)。この系統関係は、これまでの亜属の分類体系(上表1)とは一致せず、またこれら系統群は形態的特徴でそれぞれ共通するが、必ずしも形態的特徴で明瞭に系統群を分けることはできない(下表2)。そのため、2022年現在ではユリノキ属を除くモクレン科の種は全てモクレン属にまとめられることが多く[6][2][8][12]、その中で(属との間の分類階級)のレベルで区分することが提唱されている[12](下表3)。この広義のモクレン属には、230–340種ほどが知られる[6][2][8][12]

さらに見る 節, 分枝 ...


表3. モクレン属の分類体系の1例[2][10][12][50]

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ギャラリー

脚注

関連項目

外部リンク

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