トップQs
タイムライン
チャット
視点
ハダカムギ
オオムギの品種 ウィキペディアから
Remove ads
ハダカムギ(裸麦、英語: Naked barley, hulless barley、学名:Hordeum vulgare var. nudum)は、オオムギの粒の皮裸性(実と皮の剥がれやすさ)に着目した系統名の一つで、オオムギの品種のうち実(穎果)が皮(内外穎)と癒着せず容易に離れるため、揉むだけで皮が剥けてつるつるした実が取り出せる品種群のことをいう。これに対して、実が皮と癒着しているため、揉んでも皮が剥がれない品種群はカワムギ(皮麦)という。分類上は、ハダカムギはオオムギの原種に近いカワムギの突然変異が固定されてできたオオムギの変種である。ハダカムギの栽培品種のほとんどは穂に小花が6条ずつ並んでつく六条オオムギで、穂に小花が2条ずつ並んでつく二条オオムギ(主にビールの原料になるのでビールムギとも呼ばれる)の栽培品種は大半がカワムギである。ハダカムギにはコメと同様にうるち性の品種以外にもち性の品種のもち麦がある。ハダカムギは食用や家畜の飼料用に栽培されている。
Remove ads
栽培
世界の栽培地域
オオムギは最古の栽培植物の一つであり、起源を遡るとまず原種に近いカワムギの栽培が西南アジアで紀元前7000年頃には始まり、次いでカワムギの変種であるハダカムギの栽培も紀元前6000年頃までには始まったことが考古学の研究で明らかになっている。歴史的には、ハダカムギは東アジア(日本、朝鮮半島)、ヒマラヤ地方(チベット、ネパール)、アフリカ東北部(エチオピア)などで主要な食用穀物の一つとして栽培されてきた。ヨーロッパでは、アルプス地方やベルギー、ノルウェーが主なハダカムギの産地であった。それ以外のオオムギ栽培地域では、カワムギの方が主に栽培されてきた。
日本の栽培地域
日本では、ハダカムギは愛媛県、香川県を中心とする四国と九州で主に栽培されている。松前町(愛媛県。読みは、まさきちょう)の特産品で農林水産省の統計によると、2007年度の日本におけるハダカムギの収穫量は14,300tで、都道府県別では愛媛が最も多く41.1%を占め、次いで香川の17.0%であった。
日本の作付面積
日本におけるハダカムギの作付面積は、明治10年代は40万ha台であった。最高だったのは大正初期の70万ha台で、その後は漸減したものの昭和30年代初期の作付面積は50万ha台を維持していた。その後、ハダカムギの作付面積は急速に減少し、1970年に10万haを割り、1986年には1万haを割り、1994年に最低の3,230haをつけたが、その後やや回復し、2007年産ハダカムギの作付面積は4,020haとなっている。
Remove ads
用途
日本の用途
ハダカムギは容易に皮を剥いで実が取り出せ食用に好適であることから、日本では第二次世界大戦前から精麦が食用に流通し、押麦(大麦の外皮を剥いで蒸気で加熱してローラーで平らに加工したもの)を白米に混ぜて麦飯にしたり、炒って粉に挽いてはったい粉(麦焦がし)にしたり、炒ったものを煎じて麦茶にしたりするなどして日常食として消費されてきた。また押麦が普及する大正時代以前は、粒のままでは米に比べて煮えにくいハダカムギは、予め茹でて水に浸けておいた「えまし麦」や、臼で荒く挽き割った挽割麦の形にして煮えやすくしたものを麦飯や粥、雑炊などに調理して食される、米の不足を補完する主食の一つであった。
しかし、近年は米飯に比べて食味が劣る麦飯用のハダカムギの需要は少量に限られ、代わって麦味噌(大豆とオオムギを発酵させた味噌)の適性が高く評価され、生産量の大半が麦味噌の原料に用いられている。また、流通する精麦の主流は、従来の押麦から、黒条線(麦種子が形成される際の水分や養分の通り道である腹溝由来の麦粒の黒い線)に沿って切断した切断麦や黒条線で切断して米粒状に剥いで米と混ざりやすくした米粒麦に変わりつつある。
大分県などでは、ハダカムギを麦焼酎の原料としても利用しており、一定の評価を得ている。
海外の用途
チベットではハダカムギを炒って粉に挽いたものがツァンパと呼ばれ、チベット人の伝統的な主食となっている。 チベット人はツァンパにジャ(チベット語でバター茶のこと)を加えてこねて団子状にしたものを食べる。また発酵させて酒とし飲用する。
欧米ではハダカムギは主にブタやニワトリなどの単胃動物の飼料用として利用されてきたが、最近では食物繊維のβ-グルカンを多く含むことなどハダカムギの健康機能性が注目され、新たに食用の需要が出てきている。
食味
オオムギは、コメやコムギに比べて粒に含まれるポリフェノール系のタンニン(渋成分)の含量が多い。オオムギに含まれる主なポリフェノールは、カテキンやプロアントシアニジンである。ポリフェノールは精麦の白度を低下させ、米飯に比べて麦飯の食味や白度が劣る主な原因となる。麦飯の問題点として挙げられる炊飯後の変色(白度の低下)は、飯粒に含まれるポリフェノールが多いほど顕著になる。
麦粒のポリフェノール含量は、低ポリフェノール品種を用いたり精麦したりすることによって低下する。日本のハダカムギのポリフェノール含量は、品種によって差異があるが、世界の平均値に比べると低い。もっとも、食味に優れた品種が好んで育成・栽培されてきた水稲とは異なり、低ポリフェノール化によって食味を改善することは、ハダカムギの育成においてこれまでのところあまり重視されていない。オオムギの遺伝子資源の中にはポリフェノール含量が非常に低いものもあり、将来活用される余地がある。
Remove ads
品種
要約
視点
日本で育成・栽培されているハダカムギの既存の栽培品種は条性分類上は全て六条オオムギである。また、日本で栽培されているハダカムギのほとんどは、草丈が低く肥料を多く与えても倒伏しにくく収量が上げやすい半矮性を示す渦性遺伝子を持つ渦オオムギであり、草丈が高くなる並性遺伝子を持つ日本の栽培品種は、農林番号が付されたハダカムギではバンダイハダカだけである。
日本のハダカムギの主な育種組織については、農研機構(旧:東海近畿農業試験場、旧:中国農業試験場、旧:四国農業試験場、旧:九州農業試験場)、鳥取農試東伯分場および鹿児島農試鹿屋分場のハダカムギ育種組織が昭和36年に統合され、その後の育成地は農研機構だけとなっている。農林番号が付されたハダカムギは、2005年のトヨノカゼまで34品種が育成されている。
育成傾向
日本におけるハダカムギの栽培品種の過去の育成には、主に次のような傾向がある。
- 水稲作期の早期化に伴う晩生品種から中生品種、そして早生品種への早生化の動き。
- 多肥化および土地利用効率化と関連した多収化の動き。
- 機械収穫への移行に従い耐倒伏性を追求した強稈化の動き。
- 粒の外観品質及び精麦品質の良質化の動き。
- もち麦品種や飼料用の高蛋白・高リジン品種など多用途化の動き。
主な品種
もち麦
イネ科の穀物の中でイネやオオムギなどには、含まれるデンプンに粘り気が少ないうるち性(粳性)の品種だけでなく、粘り気が多いもち性(糯性)の品種があり、もち性のハダカムギはもち麦と呼ばれる。うるち性品種はデンプンの成分のうちアミロースの含有割合が比較的多いのに対して、もち麦はアミロペクチンの含有割合が多い。もち麦の歴史は非常に古く、紀元前3,000年頃までには西南アジアで栽培化され、その後ユーラシア大陸全土とアフリカ東北部に伝播したが、現在もち麦を栽培しているのは日本など東アジアだけである。日本のもち麦の在来品種はすみれ色の穂をつけるため、収穫期のもち麦畑は一面特有のすみれ色に染まる。
用途
日本では主に四国、中国、九州の水稲もち米が獲れにくい地域を中心に昭和初期まで広く耕作され、もち米の代替品として麦米や餅、団子にして自家消費されるケースが多かった。その後は次第に作付けされなくなっていたが、最近は食物繊維の多さなどから健康志向の食材として見直されている。農研機構が2017年に品種登録した「くすもち二条」が、米飯と混ぜて炊き込む用途向けに複数の食品メーカーから商品化されている[3]。米飯への添加や餅・団子類以外にも、麺や煎餅などの和菓子、パン、クッキー、ロールケーキ、カステラ、レトルトカレー[4]など、様々な新たな用途が開発されつつある。
アミロースフリーもち麦
もち米と在来のもち麦のもち性には差異があり、もち米はアミロース含有率がほぼゼロ(アミロースフリー)であるのに対して、もち麦はアミロースを5%前後含みデンプンがやや「硬質」である。ただし、ハダカムギには在来のもち性品種だけでなく、突然変異で得られたアミロース含有率がほぼゼロでもち米とほぼ同等のもち性を持つ系統(四国裸97号[7]など)があり、もち性の高さを活かしてアミロースフリーのもち麦の地域特産食品などへの利用が今後拡大する可能性がある。
低ポリフェノールもち麦
また、農研機構では、突然変異で得られたプロアントシアニジンフリー遺伝子を持つ海外のビールムギの系統を交配親として、プロアントシアニジンフリー遺伝子を導入したもち麦の系統の育成を進めている[8]。元々、もち麦は炊くと軟らかさと粘りが感じられ[3]、うるち性品種に比べて麦飯として炊飯したときの食感や食味に優れている。日本での栽培適性がある低ポリフェノールのもち麦の系統が作出され、米飯に比べて麦飯の食味や白度が劣る主な原因となるもち麦のポリフェノール高含有の問題が解消されれば、白米のように炊飯時の加熱や炊飯後の保温を経ても褐変しない白くて美味しい麦飯が、将来日本の食卓に上る可能性がある。
Remove ads
脚注
参考文献
関連項目
Wikiwand - on
Seamless Wikipedia browsing. On steroids.
Remove ads