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サハ語
シベリアに住むテュルク系民族であるサハ人(ヤクート人)の言語 ウィキペディアから
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サハ語(さはご、サハ語:саха тыла(sakha tyla))は、テュルク語族の北東語群(シベリア・テュルク語群)に属すヤクート諸語の言語のひとつ。シベリアに住むテュルク系民族であるサハ人(ヤクート人)の言語である。話者数は約36万3000人。ヤクート語(ロシア語: Якутский язык)ともいわれる。
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系統
中央アジアやトルコなどで使われているテュルク語族である。そのうち、ヤクート語群に属し、同語群の最大言語である。他のテュルク諸語と同様、サハ語は母音調和を持ち、膠着語であり、文法性を持たない。語順は通常SOVである。サハ語はツングース語族とモンゴル語族に影響を受けている。
歴史的には、サハ語は共通テュルク語話者のコミュニティを比較的早くに離脱した。これにより、サハ語は多くの点で他のテュルク語族の言語と異なり、サハ語と他のテュルク語族の言語の相互理解性は低く、多くの同源語の語源をたどるのは難しい。しかし、サハ語は長母音の保存などテュルク祖語の再建に役立つ多くの特徴を備えている。大きな分岐的特徴があるにも関わらず、サハ語はチュヴァシ語とともにオグール語群にではなく、共通テュルク語派に分類される。比較的少数の学者(W. ラドロフなど)は、サハ語(ヤクート語)はテュルク語ではないという見解を表明している。テュルク諸語に属する言語は一般にお互いに共通性が高いが、ヤクート語群は他のテュルク語との違いが大きい。(たとえば属格の欠如と与格と共格の存在と命令形に近未来と遠未来の存在など)ヤクート語群に属する他の言語としてクラスノヤルスク地方タイミル自治管区のタイミル半島で話されるドルガン語があり、サハ語とはごく近い関係にある。
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分布
サハ語は主にロシア連邦のサハ共和国で話される。また、ハバロフスク地方のヤクート人や、ロシア連邦の他地域、カザフスタン、トルコ、その他の地域に少数のディアスポラによっても使用される。サハ語の近縁言語で、かつてはサハ語の方言とみなす学者もいたドルガン語は、クラスノヤルスク地方のドルガン人によって話されている。サハ共和国では、サハ語は他の少数民族によってリンガ・フランカとして広く用いられており、多くのドルガン人、エヴェンキ人、エヴェン人、ユカギール人は自民族の言語ではなくサハ語を話す。2002年の国勢調査では、サハ共和国に住むヤクート人以外の民族の約8%がサハ語の知識を持つと答えている。
音韻
要約
視点
音韻構造
音節構造は、(C1)V1(C2)(C3)の構造を持つ。一語中に母音連続は存在できない。(C)VCCは語末に主に表れ、子音連続の組み合わせは/-lt, -rt, -lk, -rk, -mp, -ŋk/に限られる。
母音
サハ語は20の母音音素を持ち、8つが短母音、8つが長母音、4つが二重母音である。下表の//はIPA表記、太字はキリル文字表記、カッコ内はラテンアルファベット表記である。
子音
サハ語は18の子音音素を持つ。
接辞頭子音交替
語幹と接辞の境界においては、子音が大規模な同化を受ける(順行同化と逆行同化の両方がある)。すべての接辞は多くの異形態を持つ。子音で始まる接辞の場合、その子音の表出形は語幹の末尾の音によって決定される。このような「基底音素的」な子音には B, T, L, Gの4種類がある。以下の表にはそれぞれの例が示されている:
- -BIt(一人称複数所有接辞)→ oɣo-but 「私たちの子」
- -TA(分格接辞)→ tiis-te 「いくつかの歯」
- -LArA(三人称複数所有接辞)→ oɣo-loro 「彼らの子」
- -GIt(二人称複数所有接辞)→ oɣo-ɣut 「あなたたちの子」
なお、母音の交替は母音調和によって決定される(本項および下記の節を参照)。
母音調和
他のテュルク諸語と同様、サハ語には順行的母音調和(progressive vowel harmony)が存在する。多くの語根は母音調和に従う。例えば кэлин (kelin) 「背中」 では、すべての母音が前舌・非円唇である。 サハ語の接尾辞における母音調和は、テュルク諸語の中で最も複雑な体系である[8]。
母音調和とは、ある音節の母音が、それに先行する音節の母音の特徴を取り入れる同化過程である。
サハ語では、後続する母音はすべて前舌・後舌の区別を先行母音に従って取り、また非低母音はすべて先行音節の母音の円唇性を継承する[9][10]。
母音調和には主に二つの規則がある:
- 前舌/後舌の調和
- 前舌母音の後には必ず前舌母音が来る。
- 後舌母音の後には必ず後舌母音が来る。
- 円唇調和
- 非円唇母音の後には必ず非円唇母音が来る。
- 円唇狭母音は、必ず閉じた円唇狭母音の後に現れる。
- 非円唇広母音は、円唇狭母音と円唇性において同化しない。
二重母音 /ie, ïa, uo, üö/ の調和上の性質は、その二重母音の第一要素によって決定される。
これらの規則を総合すると、サハ語の語の後続音節のパターンは完全に予測可能であり、すべての語は次のパターンに従う[11]。
子音同化の規則と同様に、接尾辞は語幹に応じて多様な異形態を示す。
このとき二つの基底的原母音(archiphoneme)母音がある:
- I(基底では狭母音)
- A(基底では広母音)
母音 I の例は、一人称単数所有一致接尾辞 -(I)m に見られる。例えば (a) において:
a. aat-ïm 名前-POSS.1SG '私の名前' |
et-im 肉-POSS.1SG '私の肉' |
uol-um 息子-POSS.1SG '私の息子' |
üüt-üm ミルク-POSS.1SG '私のミルク' |
基底的に低母音である音素 A は、三人称単数所有一致接尾辞 -(t)A を通して表される。例えば (b) において:
b. aɣa-ta 父-POSS.3SG '彼(女)の父' |
iỹe-te 母-POSS.3SG '彼(女)の母' |
oɣo-to 子供-POSS.3SG '彼(女)の子供' |
töbö-tö 頭-POSS.3SG '彼(女)の頭' |
uol-a 息子-POSS.3SG '彼(女)の息子' |
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表記体系
サハ語は、3つの過去の発展段階を経た後、現在はキリル文字を用いて書かれている。
1939年にソビエト連邦によって制定された現代サハ文字は、ロシア語のすべての文字に加えて、ロシア語に存在しない音素のための5つの追加文字と2つの二重文字(ダイグラフ)から成っている。これらは以下の通りである: Ҕҕ, Ҥҥ, Өө, Һһ, Үү, Дь дь, Нь нь。
ロシア語に用いられるものに5字を加えた拡張キリル文字(1939年制定)を用いる。
長母音は母音を二重にして表される。例えば、үүт (üüt) /yːt/ 「ミルク」。この方法は、多くの学者が言語のローマ字化において採用している。
完全なサハ文字には、固有語には存在しない子音音素を表す文字(したがって上記の音韻表には示されていない)が含まれている。これらの文字は以下であり、ロシア語からの借用語においてのみ用いられる: В /v/, Е /(j)e/, Ё /jo/, Ж /ʒ/, З /z/, Ф /f/, Ц /t͡s/, Ш /ʃ/, Щ /ɕː/, Ъ, Ю /ju/, Я /ja/。
さらに、固有のサハ語においては、軟音符 ⟨Ь⟩ は二重文字 ⟨дь⟩ および ⟨нь⟩ においてのみ使用される。
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文法
要約
視点
品詞
サハ語の品詞は、名詞類(名詞、形容詞、副詞、数詞)、動詞、代名詞、接続詞、間投詞などが含まれる。
統語
典型的な語順は主語-目的語-動詞 (SOV) であり、より詳細には主語-副詞-目的語-動詞の順序をとる。修飾語は被修飾語の前に置かれ、所有者-被所有者、形容詞-名詞の語順となる。サハ語の名詞類には数・格の範疇があるが性の範疇はない。
数
名詞は単数と複数を区別する。複数は接尾辞/-LAr/で示され、語幹末子音と語幹の母音により次の16の異形態を持つ: -лар (-lar), -лэр (-ler), -лөр (-lör), -лор (-lor), -тар (-tar), -тэр (-ter), -төр (-tör), -тор (-tor), -дар (-dar), -дэр (-der), -дөр (-dör), -дор (-dor), -нар (-nar), -нэр (-ner), -нөр (-nör), -нор (-nor)。複数形は、数量を指定するときではなく、物事の集合を指すときにのみ用いられる。(例: үс ат 「3頭の馬」であり、үс аттар とはならない)
複数接尾辞には /-LAr/ の他に -ттАр (-ttAr)もあり、主に人間、特に親族や社会的集団を表す名詞に付加され、集合的な意味合いを持つ。形容詞にも付加することができる。
- уол (uol) 「少年;息子」 → уолаттар (uolattar)
- эр (er) 「男」 → эрэттэр (erettér) または民俗的形 эрэн (eren)(ウズベク語の民俗的形 eran と比較せよ)
- хотун (xotun) 「貴婦人」 → хотуттар (xotuttar) または хотут (xotut)
- тойон (toyon) 「司令官」 → тойоттор (toyottor) または тойот (toyoт)
- оҕонньор (oҕonnjor) 「老人、夫」 → оҕонньоттор (oҕonñottor)
- кэм (kэм) 「時、時間」 → кэммит (kэмmit)
- дьон (dʹon) 「人々」 → дьоммут (dʹommut)
- ойун (oyun) 「シャーマン」 → ойууттар (oyuuttar)
- доҕор (doҕor) 「友人」 → доҕоттор (doҕottor)
- күөл (küöl) 「湖」 → күөлэттэр (küölettér)
- хоһуун (xoһuun) 「勤勉な」 → хоһууттар (xoһuuttar)
- буур (buur) 「牡(鹿やヘラジカの雄)」 → буураттар (buurattar) 「牡鹿たち」
- кыыс (kïïs) 「少女;娘」 → кыргыттар (kïrgïttar)(標準、補充的)または кыыстар (kïïstar)(方言的、規則的)
кыргыттар (kïrgïttar)は、複合的な複数接尾辞 -(ы)ттар を無視すると、多数のテュルク諸語に同根語を見出すことができる。例えば、ウズベク語(qirqin 「女奴隷」)、バシキール語、タタール語、キルギス語(кыз-кыркын 「娘たち」)、チュヴァシ語(хӑрхӑм)、トルクメン語(gyrnak)、そして消滅したカラハン朝語、ホラズム語、チャガタイ語など。
名詞
サハ語は他のシベリア・テュルク語群と異なり、豊富な格組織を持つ。古テュルク語からの古い共格を保持している(モンゴル語の強い影響による)が、他のテュルク諸語では古い共格は具格になっている。しかし、サハ語では古テュルク語の場所格が分格を表すようになったため、場所格としての機能を持つ格は存在しなくなった。その代わりに、場所格、与格、向格は共通テュルク語の与格接尾辞によって表される。
Норуокка
"хайа
хаппыыстата"
диэн
аатынан
биллэр
хайаҕа
үүнэр
үүнээйи.
現地の人々の間で「山のキャベツ」と呼ばれる、山に生える植物。
与格は-ҕаで、хайаҕаは文字通り「山へ」という意味である。さらに、場所格に加え、属格と同格も失われている。
サハ語には8つの文法格を持つ:主格(語尾なし)、対格 -(n)I、与格 -GA、分格 -ТА、奪格 -(t)tAn、具格 -(I)nAn、共格 -LIIn、比格 -TAAɣAr。以下の表は母音で終わる語幹「eye(平和、モンゴル語由来)」と子音で終わる語幹「uot(火)」の例である。
分格の目的格は、対象の一部を指定する意味を持つ。例:
Uː-ta
水-PTV
is!
飲む-IMP.2SG
水を 少し 飲め!
対格のこれに対応する例は対象の全体を指定する意味を持つ。例:
Uː-nu
水-ACC.
is!
飲む-IMP.2SG
水を [全部] 飲め!
分格は命令形や必要を表す表現においてのみ使用される。
Uː-ta
水-PT
a-γal-ϊaχ-χa
持っていく-PRO-DAT
naːda.
必要がある.
水を持っていく必要がある.
サハ語に特徴的なのは、おそらくエヴェンキ語(ツングース語族)との接触による属格の欠如である。そのため、所有関係は「所有者(無格)+ 被所有者(所有接尾辞付き)」という構造で表現される。所有者は格標示を受けず、被所有名詞に人称と数を一致させる所有接尾辞が付加される。 例として、(a)では一人称代名詞の主語は属格において標示されない。また、(b)では完全な名詞の主語(所有者)も標示を受けない。
a.
min
1SG.NOM
oɣo-m
子供-POSS.1SG
/
/
bihigi
1PL.NOM
oɣo-but
子供-POSS.1PL
'私の子供' / '私たちの子供たち'
b.
Masha
Masha.NOM
aɣa-ta
父-POSS.3SG
'マシャの父'
また、与格接尾辞の形態は人称代名詞の接尾辞になるかどうかで変わる。
"Хос-ко киирдэ" - (彼/彼女は)ある/その部屋に入った .
"Хоһу-гар киирдэ" - (彼/彼女は)彼/彼女の部屋に入った.
-ко と -гарはどちらも与格接尾辞である(-yは彼/彼女を指す)。
人称代名詞
サハ語の人称代名詞は以下のとおりである。
名詞は性を区別しないが、人称代名詞は三人称で人間と非人間を区別する。人称代名詞も格変化するが、その際に語幹が変化することがある。
数詞
数詞語幹の多くは後続する接尾辞によって2つの異形態(第一語基、第二語基)を持つ。第一語基は自立形式であり単数主格形で数詞句として用いることができる。名詞形態法を含めほとんどの接尾辞が第一語基に付加する。第二語基は非自立形式でそれに付加する形式は限られている。下表に数詞の概要を示す。「-」はその形式が欠如していることを示す[12]。
第一語基に付加する概数接辞・分配数接辞・回数接辞はこの順で付加される(uon-ča-lïï-ta「約10回ずつ」)。
サハ語にある二つの集合数の形式は、接尾辞-IAによる集合数は無生物にも使えるが、接尾辞-IAnは無生物に使いにくいという違いがある。
動詞
サハ語の動詞は、動詞語幹に様々な機能を持つ接尾辞が膠着することで複雑な意味を表す。基本的な構造は「動詞語幹 + (態) + (否定) + (時制・相・法) + (人称)」の順となる。
E. I. Korkina (1970)は以下の時制を列挙している:現在‐未来時制、未来時制、そして8種類の過去時制(未完了を含む)である。
サハ語の未完了は二つの形式をもつ。すなわち分析的形態と統語的形態である。両形式とも、全てのテュルク諸語に共通するアオリスト接尾辞 -Ar に基づいている。
分析的形態は、過去の相を表すにもかかわらず、共通テュルク語の過去接尾辞を欠いている。これはテュルク諸語において非常に異例なことである。これについては、ツングース語族のエヴェン語からの影響の一つであると考える者もいる。
Биһиги
иннибитинэ
бу
кыбартыыраҕа
оҕолоох
ыал
олорбуттар.
我々の前は、子供を持つ家族がここに住んでいた。
エヴェンキ語/エヴェン語との接触の影響で、サハ語は命令形を即時的命令と未来的命令の二種類発達させた。
即時的命令の例:
共通トルコ語には名詞由来接尾辞 -LA が存在し、名詞から動詞を作るために用いられる(例えば、ウズベク語 tishla = 「噛む」、tish = 「歯」から作られる)。この接尾辞はサハ語にも存在する(母音調和により様々な形態をとる)が、サハ語はさらに一歩進めている。理論上、任意の名詞にこの名詞由来接尾辞を付けることで動詞を作ることが可能である。
否定
動詞の否定は、動詞語幹と時制・法人称接尾辞の間に否定接尾辞 -мA- を挿入して作る。
- барар (barar) - 行く → бары-ма (barï-ma) - 行くな
- кэлбитэ (kelbite) - 彼は来た → кэл-бэ-тэхэ (kel-be-texe) - 彼は来なかった
形動詞と副動詞
サハ語では、日本語の連体形や接続形のように、文と文を繋ぐために形動詞(分詞)と副動詞(動詞副詞)が多用される。
- 形動詞 : 名詞を修飾する節を作る。「~する(人・事)」、「~した(人・事)」の意味を表す。
- кинигэни ааҕар киһи (kinigeni aaɣar kihi) - 本を読む人
- 副動詞 : 主節の動詞を修飾する副詞節を作る。「~して」「~しながら」など、時、原因、様態などを表す。
- кини миигин көрөн күлбүтэ (kini miigin körön külbüte) - 彼は私を見て笑った。
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その他
サハ語にはラクダやゾウなど、サハ共和国に生息していない動物を指す単語が多く存在する[13]。
脚注
関連項目
参考文献
外部リンク
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