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新型宇宙ステーション補給機
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新型宇宙ステーション補給機(しんがたうちゅうステーションほきゅうき)HTV-Xは、国際宇宙ステーション(ISS)へ機材・食料・水などの物資を届ける目的の日本の無人宇宙補給機。宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発し、与圧モジュールと機体システム全体の取りまとめを三菱重工が、サービスモジュールを三菱電機が担当した[1][2]。初号機開発費は356億円[3][4][注釈 1]。
2009年から2020年まで9回のISS補給ミッションを完遂したHTV(こうのとり)の後継機として開発され、輸送量の大幅な増加や、モジュール構成の見直しによる射場作業の短縮などの改善が図られた。加えて、補給ミッションを終えた後にISSを離脱し、HTV-X単独で最大1年半の技術実証ミッションが実施される[5]。
HTV-X 1号機は2025年10月26日に種子島宇宙センターからH3ロケット7号機で打ち上げられた[6][7]。ISSへは2029年度までに計5回の補給ミッションを想定している[8]。

また、開発計画当初からISSへの補給だけではなく、月軌道プラットフォームゲートウェイやISS後の商業宇宙ステーションへの補給など発展的な活動に適用することを想定されている。
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名称
先代のHTVは「H-II Transfer Vehicle」のアクロニムであったが、HTV-XはHTVの後継機として提案段階から仮称された呼び名[9]をそのまま正式名称としたもの[8]で、個別のアルファベットが具体的な意味を持つわけではない[10]。また、「こうのとり」のような和名の愛称を公募する計画はない[8]。1号機打上後の会見でプロジェクトマネージャは「愛称を付けていただけるような雰囲気が盛り上がれば付けてもらえるのでは」と説明し、プロジェクトチーム主導で愛称を設定するものではないとの認識を示した[11][12]。
開発計画
要約
視点
2020年まで運用された宇宙ステーション補給機(HTV)の後継機として開発され、計画開始当初は2021年度に1号機を打ち上げISSへの補給業務を担当する計画であった[13]。しかし、打ち上げロケットであるH3ロケットの開発スケジュールの遅延に伴い、HTV-X1号機の打ち上げ計画は2023年度末以降となり[14]、H3ロケット1号機の打ち上げ失敗によって2025年度に延期された[15]。また、新型コロナウイルスの感染拡大の影響でサービスモジュールの製造遅延があった[2]。
ミッション要求
年表

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運用計画
日時は日本時間。
主な輸送物資・ミッション
| HTV-X 1号機 | 曝露カーゴ
与圧カーゴ
技術実証ミッション
|
| HTV-X 2号機 | 技術実証ミッション
|
| HTV-X 3号機 | 技術実証ミッション |
| 未定 | 技術実証ミッション |
機体設計
要約
視点

HTV-Xはサービスモジュールと与圧モジュールの2つのモジュールで構成され、それぞれ独立性が高く設計されており、将来的にはそれぞれ単独で使用することが念頭に置かれている[32]。サービスモジュール(三菱電機鎌倉製作所、神奈川県)と与圧モジュール(三菱重工飛島工場、愛知県)は別々に射場へ輸送され、種子島宇宙センターの衛星フェアリング組立棟で結合される[36][37]。
単独飛行中のHTV-Xは無人機であるが、ISSと結合するとISSの一部として宇宙飛行士がHTV-Xの与圧カーゴ内に出入りするために一部有人機と同水準の安全性が要求され、また結合前の接近時にも高い安全性が要求されることから計算機や推進系などは3系統の高い冗長性をもって設計されている[38]。
サービスモジュール
サービスモジュール(SM)はHTV(こうのとり)で電気モジュール・推進モジュールに分散していた機能が統合され[39]、人工衛星として必要な機能が集約された形となる。
HTVに搭載されていた500N級メインエンジン×4基は廃止され、120Nの姿勢制御スラスタ×24基のみで飛行制御を行う[39]。スラスタの推進剤には無水ヒドラジンより比較的毒性の低いモノメチルヒドラジン(MMH)が使用され、酸化剤には四酸化二窒素(NTO)に一酸化窒素を3%混ぜたMON3が使用される。燃焼時に酸化剤を多めに混合させることで、未燃焼のMMHが残ることを防ぎ、燃焼ガスがHTV-Xの外壁やハッチに付着していてもISS内を汚染する可能性を低く抑えている[38]。HTVではスラスタが複数モジュールにまたがっていたことで全機結合後に配管作業や推進系試験が必要だったが、推進系の集約により結合後に実施する必要がなくなり射場での作業が短縮された[22]。
HTVで機体中央にあった開口のある非与圧部は、曝露カーゴとしてサービスモジュールの端面に配置され、フェアリング内の空間を活用して大型のモジュールを搭載可能となった[40]。曝露カーゴ部には遮熱壁が設置されており、太陽光に曝される技術実証機器への影響を和らげる役割を果たす。遮熱壁はアルミ合金製で黒色陽極酸化処理されている[41]。
HTVで機体表面にボディマウントされていた太陽電池パネルは、30°のキャント角がついた展開式(太陽を追尾する回転機能はない)となり、ISS補給ミッション後の技術実証フェーズにおいてβ角(太陽光とのなす角)がある中でも年間を通して安定して電力を発生させるよう設計となっている。また、一次電池は搭載せず、二次電池(充電池)のみを搭載する[40]。
与圧モジュール
与圧モジュール(PM)はHTVの与圧部が流用されている。モジュール内の収納棚には先代HTVで開発された棚構造HRR(HTV Resupply Rack)が引き続き使用され、奥にTypeDを1式、上下左右の4か所2列に8式(TYPE 5、6、6L)の合計9式搭載可能。TYPE 6Lがレイトアクセスに対応する[42]。
HTVでPAFから遠い位置に配置されていたが、今回PAF接続部に配置されたことで機体全体の軽量化に貢献している。PCBM(ドッキング機構)や与圧部の気圧センサーなどは、シエラ・ネヴァダ・コーポレーションが開発している[43]。
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ロケット
要約
視点
打ち上げにはH3ロケットの
フェアリング
フェアリングはHTV-X専用となる直径5.4m×長さ16.5mのスイスのビヨンド・グラビティ社製[8]ワイドフェアリング[注釈 4]。PAFの内側・与圧部の下部につながる縦1.6m×横1.5mの大型ドアが準備され、ロケット搭載後の打ち上げ直前に生鮮食品や実験機材を搬入できるレイトアクセスが可能になっている[44][45]。曝露カーゴにレイトアクセスするための直径0.6mのアクセス窓(標準フェアリングのアクセス窓と同じ大きさ)も設計されているが、1号機のフェアリングには設置されていない[45]。標準のロング型フェアリングでも寸法上HTV-Xを搭載可能とされるが、既に開発済みで実績のあるレイトアクセスドアのついたフェアリングが適用可能であるとメーカーから打診され、一方でHTV-X対応フェアリングを国内開発するためのリソースが不足していたことからスケジュール等を優先して設計済みのものがワイド型として採用された[46]。H3ロケットはフェアリングの回収コストを抑えるために海中に水没する設計になったが、ワイド型は水没する設計ではないため回収される[47]。
自律飛行安全システム
HTV-Xは公称質量16トンであるが、HTV-X 1号機を搭載したH3ロケット7号機のシステムでは同質量を打ち上げる性能はなく、またHTV-X 1号機ではロケットに要求する打ち上げ能力が小さかったこともあり[48]、HTV-X 1号機は満載質量よりも約1.5トン少ない約14.5トンの状態で打ち上げられた[49]。H3ロケットは地上局から直接通信可能な範囲の外で燃焼をするために必要となる、ロケットの自律判断で飛行中断するための自律飛行安全システムを搭載する計画である。しかし、H3ロケット7号機(HTV-X 1号機の打ち上げ)までにこの機能は実用化されていないため、飛行効率を最大化できる(搭載ペイロード質量を最大化できる)水平方向に加速する飛行経路をとらず、高度方向に加速して第2段エンジン燃焼終了(SECO1)を地上コマンド局の可視範囲内に設定する従来技術で制御可能な効率がやや低い飛行経路をとった[45]。また、同じH3ロケット7号機でこの自律飛行安全システムのソフトウェアを稼働させたが、飛行中断に繋がる線は結線させない状態とし、第2段燃焼フェーズ後半で実証データの取得だけ実施する形となった[50]。自律飛行安全システムを使った打ち上げはHTV-X 2号機以降で実施される可能性がある[51]。
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質量・輸送能力

質量
与圧カーゴ
曝露カーゴ
- 曝露カーゴ搭載物:最大4個
- HTV-X単独飛行中の給電能力:120VDC、最大400W[2]
- 技術実証プラットフォーム[16][53]
- 供給電力:50V、最大1,000W
- 底面積2.6m2×高さ1.5m
- 対地上直接データ通信
- Sバンド:最大1Mbps
- Xバンド(オプション):200Mbps

赤:与圧カーゴ、黄:非与圧カーゴ
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運用フェーズ


- 初期軌道投入フェーズ(Initial checkout Phase)[38]
- ランデブーフェーズ(Rendezvous Phase)
- ロケット分離後の位相調整・高度調整
- AI点(フェーズの到達点)の保持[38]
- 近傍運用フェーズ(Proximity Ops Phase)
- ISSへの最終接近
- ISS下方の規定点(距離約10m)で相対停止し、ロボットアーム(SSRMS)により捕獲される
- Node2のNadirポート(地球面のポート)に結合される[38]
- 係留フェーズ
- クルーにより補給物資のISSへの搬入、および不用品のHTV-Xへの搬入
- ISSのロボットアームによる曝露カーゴの取り外し[38]
- 近傍運用フェーズ(ISS離脱)(Departure Ops Phase)
- HTV-Xの航法系を動作させた状態でリリース
- リリース後、クルーコマンドによりHTV-X制御開始[38]
- 技術実証ミッションフェーズ(On-Orbit demonstration Phase)
- 曝露カーゴに搭載した超小型人工衛星の放出や、搭載した実証モジュールの運用が最長1.5年間実施される[38]
- 再突入位相調整フェーズ(Reentry Prep Phase)
- 再突入フェーズ(Reentry Phase)
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管制

管制室(MCR、Mission Control Room)はJAXA筑波宇宙センター内にあり、HTVで使用された管制室をリニューアルして使用される[54]。運用管制チーム(FCT、Flight Control Team)約40名、技術チーム(ET、Engineering Team)約120名体制[55][56]。
ISS接近から離脱まではNASAジョンソン宇宙センター(ヒューストン)のMCC-Hと連携して運用する[32]。ISS係留中はきぼう運用管制チーム(JFCT)が運用する[57]。
通信
HTV-XはJAXA追跡管制地上ネットワークとS帯で通信するほか、IOS(Inter-Orbit link System)アンテナによるNASAのTDRS(静止軌道データ中継衛星)を経由しての通信、ISS近傍では近傍通信システムPROX(Proximity Communication System)によりISS[注釈 5]と直接通信する[32][58]。
自動ドッキング(2号機で実証予定)の際にISSクルーが映像をモニタするためのWi-Fi規格を使った通信技術WLD(Wireless LAN for Docking、ワイルド)はHTV9号機で2020年5月に実証済みである[59][60]。
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HTVとの違い

輸送内容の向上
従来のHTVでは与圧部・非与圧部を合わせて約4トンの物資を輸送できたのに対し、搭載量を5.82トンまで増加。またカーゴ容積も従来比で約60%増となる。さらにカーゴ内に搭載する実験ラック等へ給電を行うことも可能になる[5]。構成としては与圧部の搭載箇所を拡大する一方で、曝露カーゴをサービスモジュールの先端部に取り付ける形に変更するなどの変更が行われる[5]。ISSへの滞在期間も、従来の最大60日間から最大6ヶ月間に延長される。

把持機構の変更
HTV-Xではロボットアームの把持機構グラプルフィクスチャがPVGF(Power and Video Grapple Fixture)となり、結合前からロボットアーム経由で給電を受けることが可能になった。HTVは給電機能のないFRGF(Flight Releasable Grapple Fixture)だった[61]。
軌道上運用能力の強化
前述したとおり、HTV-XではISSからの離脱後も最長1年半の間軌道上にとどまり、各種実証実験のためのプラットフォームとして利用することが想定されている[5]。具体的には「小型衛星の放出」「ISSから離れた環境での与圧実験」「自動ドッキングの技術検証」などが計画されており、そのため推薬タンクの容量増、太陽電池パネルのパドル化・大型化などが行われる[5]。
発展構想

月探査補給機
アメリカや日本などが計画している、月軌道プラットフォームゲートウェイ(Gateway)への物資・燃料補給機として、HTV-Xの発展型となるHTV-XGが検討されている[62]。
ISSへの補給におけるHTV-Xでは、HTVで用いられてきたロボットアームにより捕獲される方法を採用するものの、ゲートウェイへの補給活動では完全な自動ドッキング能力が求められることになっている。HTV-X2号機において、この技術の安全性の確認と技術リスクを低減するために自動ドッキング技術実証が計画されており、メインの補給ミッション終了後に一旦ISSから離脱し、与圧モジュールのドッキング部とは反対側となる曝露カーゴ搭載部に搭載した自動ドッキングシステムでISSに自動でドッキングする計画になっている[32]。
また、ISS軌道よりも遠い月へ到達する軌道へ投入するにはロケットの打ち上げ能力が不足するため、サービスモジュールと与圧モジュールを別々に打ち上げ、軌道上でドッキングを行う形で検討されており[39]、設計当初から各モジュールの独立性が高くなるよう設計されている。HTVで搭載され、HTV-Xには採用されなかった500N級スラスタの搭載も検討されている[63]。
商用物資補給船
HTV-Xをベースとした商用物資補給船 HTV-XC(HTV-X for Commercial)の開発が進められている[64]。宇宙戦略基金の交付事業者に日本低軌道社中(三井物産の100%子会社)が決定したことを受け、2025年7月に同社から開発開始が発表された[65][66]。同社はISSのきぼう後継モジュールの開発も開始している[65]。
HTV-XCはポストISSとなる海外の商業宇宙ステーションの接続が可能になるとしている[64]。
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脚注
外部リンク
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