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海洋生態系の環境破壊
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海洋生態系の環境破壊(かいようせいたいけいのかんきょうはかい)には、古来からの過剰漁獲(乱獲)・生息地破壊・外来種導入・海洋汚染に加え、気候変動に伴う海洋酸性化・海洋温暖化など多様なものがある。これらは海洋生態系や海洋食物網を破壊し、海洋生物と海洋生息地に甚大な被害を及ぼし、将来の海洋生物多様性と存続に未だ認識されていない結末をもたらしうる[4]。

「我々は海の動物と戦うために軍隊を使うようなことをしており、彼らを絶滅させる戦いに勝利しつつある。」
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)によれば、1950年以降「多くの海洋生物種が、海洋温暖化・海氷変化・海洋酸素損失などの生物地球化学的変化に応じ、地理的分布や季節的活動を変化させてきた」[5]。2018年時点の研究によれば、海洋の原生的な状態が破壊されずに保たれているのは全地球海洋のわずか13%に過ぎず、そのほとんどは沿岸部にはもはや存在しない[6]。
過去50年間、人間活動による地球温暖化による熱量の90%以上と、人間が排出し続けている二酸化炭素が海洋に吸収されてきた。これにより海水温上昇と海洋酸性化が起こり、多くの海洋生物に害を及ぼしその生息地を損ない続けている[7]。サンゴは炭酸塩岩や石灰質堆積物を生成し、海洋生物に食料や住処を提供し、人間にさえも多くの利益をもたらす独自で価値ある生態系を形成している。にもかかわらず人為的海水温上昇と海洋酸性化はサンゴの白化を引き起こしている[8]。
人間が引き起こしている他の大問題のひとつに、全地球的規模の海洋プラスチック汚染がある[9]。海溝・深海堆積物・海底・海嶺・海面・沿岸海域に至るまで拡散し、絶海の孤島や北極海など極地でさえ例外ではなく地球上でおよそ汚染されていないところはないと言ってよい[10]。海洋ゴミの80%はプラスチックである[11][12]。遠隔地の島々の環礁や浜でさえも、遠くから流れ着いたプラスチックで埋まっていることが珍しくない。これはプラスチックの生産・使用・廃棄に対する人間の無責任な態度と不適切な廃棄物管理ないしインフラが原因である。2017年の国連の海洋会議は、2050年までには海洋棲息魚類の全重量を上回る量のプラスチックが海洋に流出しているかもしれないとした[13]。
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気候変動による海洋生態系への悪影響
要約
視点
→詳細は「気候変動による海洋への影響」を参照


海洋環境では微生物の一次生産が二酸化炭素隔離に大きく寄与する。海洋微生物は海洋食物網で栄養を再循環させ、微生物バイオマスや動植物の残骸はいずれは化石燃料に変換されうるが数百万年かかる。しかし人類がその化石燃料を莫大量燃焼し二酸化炭素その他温室効果ガスに一瞬で再変換してしまう結果、炭素循環が不均衡となり大気中の二酸化炭素濃度は上昇し続けている[14]。
海洋温暖化

→「en:Ocean heat content」も参照
地球温暖化による熱エネルギーの大部分は大気や陸地ではなく海洋に吸収される[16][17]。既に1980年代に科学者たちは、海洋は気候変動による人的影響を示す指標であり、「気候感度の理解を大きく改善する最良の機会はおそらく海洋内部温度の監視にある」と認識していた[18]。
地球温暖化が進むにつれ海洋生物はより冷たい海域へ移動している。例えば米国北東海岸とベーリング海東部で105種の海洋魚類と無脊椎動物を1982年から2015年まで観測したところ、平均的な生物量の中心は北に約10マイル、深さにして約20フィート移動していた[19][20]。


海洋温度の上昇が海洋生態系に打撃を与えている証拠がある。例えば2016年の研究ではそれ以前60年間にインド洋の植物プランクトンが最大20%減少したことが示されている[22]。夏季のインド洋西部は世界最大級の海洋植物プランクトンブルームの集中地である。温暖化が進むと海洋成層が強まり光合成に十分な光が到達する有光層での栄養混合が阻害される。その結果一次生産は制約され、その被害は食物網全体に行き渡る。急速な温暖化が続けばいずれインド洋は生態学的砂漠と化し生産性を失いうる[22]。
IPCC2019年特別報告は海洋温暖化が全世界的に漁業・食料生産に直接的な影響を及ぼしていると述べている。21世紀末までに海洋動物数が15%減少し漁獲量は21~24%減少しうる[23][24]。
2020年の研究によれば、温室効果ガス排出が削減されたとしても2050年までに深海での地球温暖化が現在の7倍の速さで拡大する可能性がある。中層およびより深い層での温暖化は、海洋生物のより冷涼な水域への移動を余儀なくし、深海の食物網に大きな影響を及ぼす[25][26]。

南極振動(南半球環状モードとも呼ばれる)は、南極を取り囲む偏西風または低気圧の帯であり、その位相によって北または南に移動する[28]。正の位相では、南極周極流を駆動する偏西風帯が強化され南極側に収縮し[29]、負の位相では赤道側に拡大する。南極振動風は南極大陸棚沿いで暖かい周極深層水の湧昇を引き起こす[30][31]。この結果氷棚の下部融解が嵩じ[32]南極氷床のかなりの部分を不安定化させうる[33]。
南極振動は2020年時点、過去1000年以上で最も極端な正の位相にあり、その原因は温室効果ガス濃度の上昇と成層圏オゾンの減少にあるとされる[34][35]。海洋温暖化はナンキョクオキアミの分布を変え、またショウワギスのような生息範囲が限られた浅瀬の魚種にも脅威を及ぼしている[27]。ナンキョクオキアミは沿岸棚以外の南極生態系におけるキーストーン種であり、海洋哺乳類や海洋鳥類の重要な食料源であることから、南極の海洋食物網のあらゆるレベルがこれら大規模な環境変化の影響を被っている[36]。
海面上昇


沿岸生態系は海面上昇によりさらなる変化に直面している。一部の生態系は内陸へ移動できても、自然または人工の障壁により移動が阻まれる場合がある。人為的障壁があると干潟や湿地などの生息地が失われる[40]。マングローブや潮汐湿地は堆積物や有機物を積み上げて垂直方向に成長することで、時間をかけて海面上昇に対応しうるが、海面上昇が速すぎれば追随できず水没する[41]。重要な生態系であるサンゴも、日光から十分なエネルギーを得るために海面近くで垂直方向に成長する必要がある。これまでは追随できてても将来はできない可能性がある[42]。
これら生態系は高潮・波・津波への天然の防壁であり、失われると海面上昇の影響がいっそう悪化する[43][44]。ダム建設などの人間活動は沿岸湿地への堆積物供給を制限し、潮汐湿地の消失を招く[45]。海水が内陸に侵入すると、陸上生態系の土壌を塩害汚染するなどの問題が生じ[46]、さらに沿岸部に棲息する生物の絶滅をも引き起こす。海抜3メートル未満のオーストラリア北部沿岸に棲息していた陸生哺乳類のブランブルケイメロミスは、そのような海面上昇の結果として絶滅した[47][48]。
海洋循環・海洋塩分
海洋塩分は陸地からの侵食や溶解塩類の輸送によって供給される。表層海洋の塩分は、地球規模の水循環、海洋/大気交換、海洋循環などの気候システムの重要要素の主要変数であり、これらは地球規模で熱・運動量・炭素・栄養素を輸送する[49]。冷水は温水より、また塩水は淡水より密度が高く、海水の密度は温度と塩分の変化によって変わり、これらの密度変化が海洋循環の主な駆動力である[49]。表層海洋塩分測定によれば塩分の高い水域はさらに高く、低い水域はさらに低くなっており、これは気候変動により水循環が強化されたことを意味する[50][51]。
海洋酸性化


海洋酸性化は主に大気中の二酸化炭素の吸収によって引き起こされ[53]、したがって化石燃料燃焼由来の大気中二酸化炭素増加は、海洋酸性度を上昇(水素イオン指数(pH)を低下)させている。IPCC2019年特別報告によれば、海洋酸性化は産業革命以降26%増加した[54]。これは人為的気候変動とともに「地球温暖化の悪魔の双子」[55]、「もう一つの二酸化炭素問題」[56]などと呼ばれている。
海水中の炭酸イオン濃度は二酸化炭素により増加しても、サンゴ・ウニなどの棘皮動物・貝類・円石藻・翼足類など多様な海洋生物が骨格や殻の材料とする炭酸カルシウムの溶解度は酸性度とともに上昇するため、海洋酸性化はそれら骨格や殻を不安定化しそれら海洋生物の生存を困難にしうる[57]。(後出「炭酸カルシウム」の項参照)また酸性度の増加は一部の生物で代謝率や免疫反応の低下、サンゴの白化などの害も及ぼす[58]。
クモヒトデは翼足類とともに北極圏の食物網の基盤を形成し、どちらも酸性化によって深刻な損傷を受ける。酸性化の進行でクモヒトデは付属肢の再生が大いに損なわれている[59]。さらにクモヒトデの卵は、予想される北極酸性化条件下では数日以内に死滅する[60]。北極の食物網は単純で小型生物から大型捕食者までの食物連鎖の段階が少なく、したがって酸性化により基盤から破壊されうる[61]。
海洋低酸素化
→詳細は「en:ocean deoxygenation」および「en:ocean anoxic event」を参照
海洋低酸素化は海洋の酸素最少域が拡大する現象で、海洋生産力・栄養循環・炭素循環・海洋生息地に影響し、いうまでもなく水中でエラ呼吸する魚介類などの海洋生物にとっては非常に大きいストレス要因である[62][63]。この変化はかなり急速で、栄養確保や生計を海産物に依存している人々にも被害を及ぼしている[64][65][66][67]。
海洋温暖化は海洋低酸素化を悪化させ、密度と溶解度の影響により海洋成層化を強化して酸素と栄養素の層間交換を低下すると同時に、代謝需要を増加させることで海洋生物へのストレスはさらに増大する[68][69]。IPCC2019年特別報告によれば、これにより海洋食物網全体で種の存続可能性が乱されている。[70]。
極地氷床
かつて氷床は炭素循環の不活性成分とみなされ地球規模モデルでほとんど考慮されてこなかった[71]。2010年代以降の研究はこの見方を変え、氷床に特有の微生物群集の存在、高い速度で進む生物地球化学的・物理的風化、1000億トンを超える有機炭素や栄養素の貯蔵と循環を明らかにしている[72]。

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海洋地球化学的な悪影響
要約
視点
→詳細は「en:Marine biogeochemical cycles」を参照
二酸化炭素

2023年時点で大気中二酸化炭素年間増加量は炭素換算で約4~5ギガトン[75]、年間約2~3ppm[76][77]であり、これは気候フィードバックプロセスを促進する気候変動を引き起こし、海洋循環と海水の物理的および化学的性質を変化させている[78][79]。海洋は人為起源二酸化炭素の25~31%を吸収していると見積もられており[80][81]、 前項で述べられているように海洋酸性化の原因となっている。
窒素

生物が利用可能な形の窒素(肥料由来の窒素など)は流出や大気沈着によって海洋生態系に流入し、富栄養化・デッドゾーン形成・酸素最少域の拡大を引き起こす。また人為活動による大気中への窒素酸化物放出は成層圏オゾンを破壊し、海洋生物への強いUVB曝露・酸性雨・海洋温暖化をもたらし、この海洋温暖化が海洋の成層化・低酸素化・さらなるデッドゾーン形成を引き起こす。デッドゾーンと酸素最少域は嫌気性アンモニウム酸化および脱窒のホットスポットであり、いっそうの窒素損失をもたらす。また海水酸性化は、硝化などpH依存の窒素循環過程を減少させ、窒素固定を促進する[82]。
炭酸カルシウム

アラゴナイトは多くの海洋動物が骨格や殻を作るために用いる炭酸カルシウムの形態である。いくつかの研究が1880年から2012年にかけての値に基づき、海洋表層水のアラゴナイト飽和度が(南極を除く)世界中の全ての大陸およびグリーンランドの東側の海洋全域で大きく低下したことを示している[83]。
海水中に溶解・飽和しているアラゴナイト濃度が低いほど、円石藻[84]のような微生物・ウニ・一般的貝類[85]など海洋生物が骨格や殻を構築・維持することが難しくなる。翼足類は広く分布する遊泳性の海洋巻貝の一群である。海洋酸性化の進行により水中炭酸塩飽和濃度が減少しアラゴナイト生成が損なわれることに加え、酸性化は殻を不安定化・溶解する作用がある二重苦により、翼足類は深刻な影響を被っている[86]。同様にサンゴ[87]・石灰藻[87]・有孔虫[88]も、海洋酸性化の影響で石灰化減少や殻溶解を被っている。海洋巻貝Lunella granulataをさまざまな pH (8.1~7.1) に 85 日間曝露した後の殻の成長・表面侵食・微細構造の変化を調べた研究では、pH≤ 7.5で殻の成長が著しく阻害され、内面に顕著な溶解穴が形成された[89]。
シリカ(ケイ酸、珪酸)
→詳細は「en:Silica cycle」を参照
海洋酸性化は、珪藻などケイ酸殻を有する海洋微生物が殻を作るのも困難にする。2019年の研究は、南極海で酸性化が珪藻による海洋ケイ酸生産を減少させていると示唆した[90][91]。さらに人間活動による淡水生態系での富栄養化(窒素とリンの増加)のため、陸上では非珪藻植物プランクトンが優勢となり、これにより珪藻を通じてのケイ酸の海洋供給が制限されうる[92][93]。
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複数要因の相乗的増悪効果

複数のストレス要因が存在すると影響は相加的ではなく相乗的に増強する[96][97]。例えば海洋温暖化と酸性化の組み合わせは、どちらか単独での有害影響をはるかに上回る複合的影響を海洋生物に及ぼし、すでに多くの研究がその大きさを示している[98][99][100][101]。また海洋温暖化は密度や溶解度の影響を通じて海洋成層を強化し栄養塩供給を制限すると同時に、代謝需要を増加させることで海洋低酸素化を悪化させ、海洋生物はこの二重苦に直面している[102][103]。

海洋酸性化・温暖化・低酸素化が海洋に与える影響の方向と大きさはメタ解析によって定量化されている[99][105][106]。これらの相互作用を模擬した研究では、温暖化に伴う食物網上位者の摂食量増加はそれを支える一次生産者の増殖量の増加を上回るという(平易に言えば上位者の餌が足りなくなる)、海洋食物網を破綻させる影響を見出した[107][108]。

沿岸生態環境の破壊

沿岸生態系は特に人間により損なわれている[110]。人為的撹乱により世界的にマングローブ林・海草藻場・サンゴ礁などが著しく喪失し減少している。2010年までに世界のマングローブ林は1980年以来5分の1が失われた[111]。コンブ林にとって最も差し迫った脅威は沿岸生態系の過剰漁獲であり、高次栄養段階の種が枯渇することで、生物学者が「ウニ不毛地帯」と呼ぶ、大型藻類や関連する動物相が存在しない貧相な生態系への移行を促している[112]。
海草生態系が提供するサービスは年間約1.9兆米ドルに相当し、栄養循環、ジュゴン・マナティー・アオウミガメなどの絶滅危惧種を含む多くの海洋動物への食料・生息地提供、サンゴ礁棲息魚類の支援など多岐に渡る。しかし2006年時点で地球規模で推定すると、海草藻場は1879年から2006年の間に51,000平方キロメートルが失われた[110]。
サンゴ礁は海洋微生物により貧栄養水域で栄養素を保持・再利用して繁栄している、地球で最も生産性が高く多様な生態系の一つである[113]が、人為的撹乱によってすでにその5分の1以上が失われた[114][115]。
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船舶バラスト水による侵入種・病原体の蔓延
要約
視点

→詳細は「en:Ballast water discharge and the environment」、「en:Dispersal_of_invasive_species_by_ballast_water」、および「バラスト水 § 生態系への影響」を参照
侵入種とはその場所に本来生息していなかった生物種で、環境・経済・健康に損害を与えるほどに増殖するものを指す[116]。(単なる外来種とは定義が異なる:外来であっても移動先の自然環境に害を及ぼさない種もある。)侵入種による損失と管理費用は米国だけで年間約1380億ドルに達する[117]。2008年の研究は数百種の海洋侵入種の経路を記録し、船体付着やバラスト水の移送がその主原因であることを突き止めた[118]。
特にバラスト水は外来海洋生物移動の主原因である。クルーズ船・大型タンカー・大型貨物船は膨大な量のバラスト水を運搬している。貨物船はある沿岸域で貨物の積み下ろしを行った後にバラスト水を取り込み、次の寄港地で貨物を積む際に放出する。バラスト水により、植物・動物・ウイルス・その他の微生物などさまざまな生物も運搬され、それらの中にはしばしば移動先の海洋生態系や人間に対して広範な被害をもたらす生物種や病原体(例:コレラ菌)も含まれる[119]。
バラスト水の放出は公衆衛生や環境リスクをもたらすだけでなく、水力・電力事業、商業・レクリエーション漁業、農業、観光業などの産業に対しても重大な経済的損失を引き起こしている[120]。研究によればバラスト水が適切に管理されないと、世界のどの港でも平均2回の中継寄港を経て種の侵入が拡大しうる[121]。
黒海・カスピ海・アゾフ海原産の淡水性外来種ゼブラ貝はヨーロッパ・米国の両方で蔓延しており、大西洋横断船のバラスト水を通じて運ばれた可能性が高い[122]。
西大西洋沿岸海域原産クシクラゲの一種Mnemiopsis leidyiは、1982年に初めて導入され、船舶のバラスト水で黒海に運ばれたと考えられている。このクラゲは急速に増殖し1988年までに地元漁業を壊滅した。カタクチイワシの漁獲量は1984年の204,000トンから1993年には200トンに、スプラットは24,600トンから12,000トンに、アジは4,000トンから1993年にはゼロになった[123]。このクラゲは魚類幼生を含む動物プランクトンを食い尽くしその後個体数は大幅に減少したが、生態系への支配は続いている。
バラスト水でも運ばれる病原体には細菌・菌類・原生動物などがあり、他の海洋生物よりも速く新しい条件に適応し海洋生態系で優位に立ちうる。また水産養殖や人間の排水は病原体とともに栄養分を海に放出し、病原微生物の生存を一層助長する[124]。
バラスト水で運搬されたとされる数百種の侵入種のうち、以下は 国際海事機関(IMO)の挙げる最悪10種である[125]:
- Cholera Vibrio cholerae (various strains)
- Cladoceran Water Flea Cercopagis pengoi
- Mitten Crab Eriocheir sinensis
- Toxic algae (red/brown/green tides) (various species)
- Round Goby Neogobius melanostomus
- North American Comb Jelly Mnemiopsis leidyi
- North Pacific Seastar Asterias amurensis
- Zebra Mussel Dreissena polymorpha
- Asian Kelp Undaria pinnatifida
- European Green Crab Carcinus maenas
その他の問題種として:
- Spiny Water Flea Bythotrephes longimanus
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乱獲・混獲・破壊的漁法・違法操業
要約
視点

乱獲を続けると、その魚種の個体群が自らを維持できなくなるほどの個体数減少(クリティカル・ディペンセーション)すなわちその水域での絶滅をもたらす。その結果その種を餌とする食物網上位種(サメやマグロなど)の個体数も低下させ、ひいてはその水域の総バイオマス量の減少を引き起こす。逆に食物網上位の生物を乱獲しても、海洋生態系全体のバランスを崩す[126]。いずれにせよ乱獲は結果として社会的・経済的な負の影響を及ぼす[127]。
多くの漁場では違法・無報告・無規制漁業が横行し、重要漁場では総漁獲量の30%に達すると業界関係者は見ている[128]。食物網中の位置で上位種の魚が乱獲され枯渇した結果、世界の漁業で対象種の食物網中での平均的位置が低下する現象が起きている[129]。国連食糧農業機関の2018年[130]および2020年報告[131]:54でも、乱獲量は世界の魚資源の3分の1にも達するとした。
また混獲は全海洋漁獲量の約4分の1を占め、エビ漁の場合、混獲水揚げ量はエビ水揚げ量の5倍にもなることさえある。いったん混獲されてしまった生物は、水揚げの際に被った重篤な怪我や、水から引き上げられ手荒に扱われた際に被ったストレスのため、たとえ海に戻されても多くの場合生き残れない。
さらに世界的漁業産業の成長に伴い、無慈悲で海洋環境を顧みない破壊的方法による集中的漁獲がほぼ全世界の漁場で実施されるようになった。例えば海底を引きずる底引き網漁業による海底の掻き取りは、商業漁業の対象種の生息地を提供しているサンゴ・海綿・その他の底生生物に壊滅的な被害を及ぼし、この破壊により元の種の構成や生物多様性が半永久的に失われうる。
2024年の研究は衛星画像を使用し、2017年から2021年にかけての世界の沿岸水域における漁船・産業船舶の活動と沖合インフラをマッピングした。その結果世界の漁船の約75%もが公的システムで追跡できないよう隠匿しており、その多くは南アジア・東南アジア・アフリカ周辺で操業していた。さらに輸送船など産業船舶も約25%が上記システムから逃れていた。このシステムで既知の船舶にこれら隠匿していた船舶を追加すると以下の表のようになり、「水産資源の3分の1が持続可能な水準を超えて捕獲され、重要な海洋生息地の推定30–50%が産業化により失われた」とされた[132]。
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多様な海洋汚染
要約
視点
→詳細は「en:marine pollution」を参照
海洋汚染は、化学物質汚染・富栄養化・海洋ごみ(プラスチック廃棄物、マイクロプラスチックを含む)・水中騒音など多くがある。海洋酸性化も人為的二酸化炭素を汚染源とする一種の海洋汚染である。
海洋汚染の原因廃棄物の80%は陸上活動に由来しそれゆえ大陸棚は特に汚染に脆弱であるが、海上輸送も大きく寄与している[124]。汚染の多くは陸上から河川や風によって海に運ばれるが大気汚染や深海採鉱も要因であり[133][134]、海洋環境・海洋生物・世界経済に膨大な被害を及ぼし続けている[135]。
産業汚染と有毒化学物質
古くからの人間産業活動が海洋に投棄し続けた莫大な量の汚染物質の多くは、PCB・DDT・TBT・農薬・ダイオキシン・フェノール類・放射性廃棄物・PFASなど海洋環境で非常に遅くまたは全く分解されない持続的な有毒化学物質である。これらに加え低濃度でも毒性を示す水銀・鉛・カドミウムなどの重金属がある。これらの多くは生体内組織に蓄積し(生物濃縮)、また河口や湾の泥などの底生環境にも蓄積する。
米国ではDDTは1972年に禁止[136]されるまで大量に海洋投棄されていた[137]。DDTは低次の栄養段階から生物濃縮され[138]、食物連鎖を通じて高次の栄養段階にも蓄積される。例えば、北極タラからアザラシ[139]、魚からイルカ[140]、タラやウナギからアザラシへの食物連鎖[141]での蓄積が実証されている。
すでに禁止されたPCBも依然として土壌・堆積物・生態系に存在している[142]。PCBも生体組織に蓄積することが知られており、特に海洋哺乳類であるイルカやシャチの脂肪に蓄積し、多くの種の繁殖を不全にする[143]。またPCBは海洋生物中で免疫系の機能に関わるDNAを損傷し感染抵抗力を低下させる[144]。
PFASもほぼすべての陸地・海洋を汚染しており[145][146]植物プランクトンの成長を著しく抑制し[147]、すでにアザラシ・ホッキョクグマ・イルカ中の蓄積が実証されている[148][149]。
悪名高い例としては:
- 水俣病
- 20世紀の間、南カリフォルニア沖の太平洋には、DDT、石油製品、放射性物質、硫酸などの多くの有毒物質が投棄されていた。
- アムール川における中国とロシアからの産業汚染による、水産資源壊滅と河口土壌汚染[150]。
- 南カリフォルニア沿岸の昆布の森は1960年代からすでに汚染が始まっている[151][152][153][154][155]。
- サンフランシスコ湾のチュウゴクモクズガニの水銀・カドミウムの体内蓄積[156][157]。
- 数多くの原油流出事故、例えばガリシア沖でのプレスティージ油流出事故、推定319万バレルの油が流出したメキシコ湾岸原油流出事故[158]など。
- 2005年イタリアのマフィア組織「’Ndrangheta」は、放射性物質を含む有毒廃棄物を積んだ少なくとも30隻の船を沈めた[159]。
- 複数の国々がバルト海に廃棄した化学兵器[160][161]。
- 2011年福島第一原子力発電所事故により発生したセシウム137の漏出。2016年時点での調査ではその海底の濃度は依然として高いままであり、非常に遅い減少の兆しを示していた[162]。
栄養素汚染(富栄養化)
農業からの肥料の流出と、未処理または低処理の生活排水が河川を経て海に流入すると、それらに含まれる窒素やリンなどの栄養分が富栄養化を引き起こし、植物プランクトンや藻類を過剰に成長させ、有害藻類を大発生させ、沿岸水域を低酸素化し生息している海洋生物に被害を及ぼす。その大発生した藻類が死滅し沈み水中で細菌によって分解されると、この分解過程が酸素をいっそう消費しさらに低酸素にする。その結果生物は死に絶えるか別の水域に移動し、その水域は全く生物のいないデッドゾーンとなる[163]。
また過剰に成長した藻類がサンゴ礁を覆うと、サンゴの健康と生物多様性にも被害が及ぶ[164]。
- 都市下水:雨水・漏出・あるいは人間の排泄物も含む。
- 農業で使用される化学肥料:地下水に浸透したり雨水により流出して河川を通じ海洋に入る。
- 畜産糞尿:特に工業的な畜産では何百頭、何千頭もの家畜が集中飼育され大量に排出する。
- 雨水排水:住宅地や不透水面から栄養素や肥料が雨水により流され、河川を通じ海洋に入る。
- 水産養殖:排泄物・余剰餌・その他の有機廃棄物が周囲の水を汚染する。
プラスチック汚染



→詳細は「海洋プラスチック汚染」および「プラスチック汚染」を参照


海洋プラスチック汚染はその広範囲さが顕著であり、遠隔地や北極海など極地でさえ例外ではなく地球上でおよそ汚染されていないところはないと言ってよい[171]。海洋ゴミの80%はプラスチックである[172][173]。
2017年の国連の海洋会議では、2050年までに海洋がそこに棲息する魚類の全重量を上回るほどのプラスチックが流出しているかもしれないと推定されている[174]。プラスチックは海中では分解しないため、2019年に房総半島の約500キロメートル沖合で水深6000メートルの海底から1984年製造の食品包装材が発見されるなど[175]、長期間にわたって残留する。
2021年の報告では年間約1900万から2300万トンのプラスチックが流出していると推定されている[176]。およそ1億5千万トンのプラスチックが海洋に存在すると推定され、その目立つもののひとつは海洋環流域に集まるゴミベルトである[177]。主要な5つの海洋環流(北太平洋環流・南太平洋環流・北大西洋環流・南大西洋環流・インド洋環流)すべてに大規模なゴミベルトが存在する[178]。
レジ袋・プラスチックボトル・合成繊維衣類の屑・漁具など無数の種類のプラスチック廃棄物が極地を含む全世界海洋全体に拡散し、海洋生物を危険やがては絶滅の危機に晒している[179][180]。海洋生物はこれら廃棄物により絡まり、窒息、また廃棄物を誤って摂食し[181][182]、世界中で推定年間10万匹の海洋哺乳類、100万匹の海洋生物がプラスチック汚染の結果として死亡している[183][184][181]。海鳥・クジラ・魚・カメなどの海洋生物は、プラスチック廃棄物を餌と誤認し、その結果餓死または病死する[185]。被害に遭った生物たちは生き残ったとしても裂傷・感染症・水泳能力低下・内臓傷害などを被り、本来の寿命を全うするのは極めて困難になる[186]。2023年の調査では、日本近海に生息する絶滅危惧種の海鳥コアホウドリ約100羽の死骸のうち、9割もの胃からプラスチック片が見つかった[187]。
また漁網は通常プラスチック製品であり、しばしば漁師が海中に紛失や投棄する。これらは「ゴーストフィッシング」となり、魚・イルカ・ウミガメ・サメ・ジュゴン・ワニ・海鳥・カニ・その他数多くの海洋生物を絡め取り動けなくし、海洋生物を継続的に捕獲してしまう[188]。水面呼吸する海洋生物がこれに絡まると窒息・餓死・裂傷・感染などにより死に至しめる[189]。
さらにプラスチック廃棄物は、海洋の小型無脊椎動物ですら摂食するほどのマイクロプラスチックに分解され、食物連鎖を汚染する。マイクロプラスチックはその小ささのため開放海洋環境から除去するのはほぼ不可能で集積していく一方である[190]。マイクロプラスチックからそれ以上の(ポリマーからモノマーへの)化学的な分解は起こらない[191]ため、海洋環境ではマイクロプラスチックやナノプラスチックはポリマーのまま半永久的に存在する。動物プランクトンのサイズのマイクロプラスチックは多様な海洋生物がそれを摂食し食物連鎖に入り込む[192][193]。すなわち海産物を摂食する人間の体内にもすでにマイクロプラスチックが入り込んでいる[194][195][196]。
海洋プラスチック汚染は人跡皆無な場所にまで拡散し、そのプラスチック廃棄物はすでに地殻の一部とさえなりつつある。ブラジルの沖合1140キロメートルに浮かぶ絶海の孤島トリンダデ島にいる人間はブラジル海軍の基地人員だけで、絶滅危惧種のアオウミガメが毎年産卵に訪れるところでもあり、その保護に関して世界でも特に重要な場所である。そのような場所でさえもプラスチックからできた岩(プラスチストーン)が発見された[197][198]。
水中騒音
→「en:Noise pollution」、「en:Marine pollution § Underwater noise」、「en:The Effects of Noise on Aquatic Life」、および「en:Marine mammals and sonar」も参照
海洋にも数万年にわたり生物が適応してきた自然の音環境がある。しかし人間はそれらを全く意識せず活動し騒音をまき散らし、生物が交尾・防御・移動に依存する音をかき消している。船舶のスクリュー・エンジン・工業漁業・沿岸建設・石油掘削・地震探査・軍事行動・海底採掘・ソナー航法など全てが海洋の騒音源である。地震探査の音波は海洋生物の聴覚器に深刻な損傷を及ぼす。これらにより海洋生物は行動・生理・繁殖が妨げられ健康が損なわれ、死に至ることもある[199]。
近年の世界的な船舶活動の増加は、特に長距離で減衰が少ない低周波数範囲において、過去数十年間で海洋環境音を約12デシベル増加させた。移動能力が限られていたり特定の生息地に依存している種は騒音があってもその地域から移動できないため、その局所的な生態系にリスクをもたらす[200]。2021年にサイエンス誌に掲載された総説によれば、過去50年間で主要航路沿いの低周波騒音は船舶輸送だけで32倍増加し、海洋生物を繁殖や採餌の重要な場所から追い出している[201][202]。
海洋学者シルヴィア・アールによれば、水中の騒音汚染は千の切り傷のようなものであり、それぞれの音は大したことなくてもそのすべてを合わせると50年前とはまったく異なる環境となる。その大騒音は海の生命に対し酷であり広範囲な影響は避けられない[203]。
騒音は特に反響定位を用いて通信・航行・採餌・交尾を行い、社会的に結束するクジラやイルカなどの海棲哺乳類にとって深刻な障害であり、これら重要な行動をできなくする[204][205]。これらの動物は船の騒音に慢性的に曝露されることにより、コミュニケーションのパターンが乱れ、移動ルートが変化し、ストレス関連の行動変化が生じる[206][207]。
海洋哺乳類以外に魚類や無脊椎動物にも影響があり、これらはあまり研究されていないが、交尾・捕食者回避・領域防御のために音響信号を使用する種もある[208]。騒音は、生息地の移動・繁殖の減少・捕食者と獲物の関係の乱れを引き起こし、局所的な食物網を不安定にする[209]。
船や人間の活動による騒音はまた、海洋生態系において非常に重要な生物である刺胞動物や有櫛動物を物理的に傷つけることがある。水中騒音による振動は腔腸動物の繊毛を損傷する。刺胞動物では音波により、毛細胞が外に押し出される・欠損する・曲がる・弛緩する・欠けるなどの損傷を被る[210]。
水中騒音汚染に対処する取り組みは依然として限られている。国際海事機関(IMO)は2014年に自主的なガイドラインを導入し、静かな船舶設計の採用・最適化されたプロペラ・改善された船体形状など、騒音排出を減らすための措置を奨励している[211]が、義務化はされていない。一方、欧州連合の海洋戦略枠組指令(MSFD)は、水中騒音レベルの評価と削減を義務付けている[212]。また、騒音制限の義務化・静かな技術を備えた船舶の改造に対する補助金・静かな海域や海洋保護区(MPA)の設立などが提案されている[213][214][215]。
深海採鉱
→詳細は「en:Environmental impact of mines」および「en:Deep sea mining」を参照
深海採掘で商業的に注目されている主な鉱石はマンガン団塊で、主に4~6キロメートルの深さにある深海平原に存在する。クラリオン・クリッパートン帯(CCZ)だけで210億メートルトン以上存在し、その重さの約30%を銅・ニッケル・コバルト・マンガンといった鉱物が占めている[216]。地球全体の海底には、陸上の埋蔵量の5倍にあたる1億2000万トン以上のコバルトが存在すると推定されている[217]。
350平方マイルのCCZの底生生態系に関する研究により、多様な深海平原の動物群の存在が明らかである。20ミリメートル以上の種(Megafauna)には六放海綿綱・イソギンチャク・目のない魚・ヒトデ・Psychropotes・端脚類・等脚目などが含まれ、0.5ミリメートル以上の種(Macrofauna)は種多様性が高く、1平方メートルあたり80~100種が報告された。対象とした海底域で最も種多様性が高いのは採掘対象となるマンガン団塊の周辺であり、海底採掘の可能性がある海底域での後続調査では、さらに1,000種以上が確認され、そのうち90%はこれまで知られていなかった種であり、その50%以上はその海底域に依存して生息している[218]。
これら海洋環境に対し深海採掘は重大な悪影響を及ぼす[219][220][221]。海底の一部を撹乱したり、海底大規模硫化物やコバルト鉱脈の場合に海底の一部を掘削することは、底生生物とその生息地に多大な被害を及ぼす[222][223]。深海資源の利用研究は増加の一途だが、その採掘による海底環境被害を顧みた研究はまだ少ない。ある研究はCCZで試作の採掘装置によって発生した海底堆積物の濁流を調査し、その濁流が海底に沿って広がることを示した[224][225]。
独特で脆弱な海底生態系への影響について重大な懸念がされており、これらの生態系は海洋および炭素循環にとって重要であり、海洋気候変動にも脆弱である。環境的・社会的・経済的リスクが十分に解明されるまで、深海採掘の一時停止を求める声が広がっている。国連環境計画(UNEP)は、深海採掘が環境に及ぼす影響を包括的に評価する必要性を強調している。対象となるのは、深度3~6.5キロメートルにあるマンガン団塊、深度1~4キロメートルの多金属硫化物、そして深度400メートル未満から3.5キロメートルにあるコバルトを含む鉄マンガン・クラストである[226]。2023年には海洋生物多様性に関する新たな協定が国連海洋法条約(UNCLOS)の下で採択された[226]。
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関連項目
引用
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