池内 紀(いけうち おさむ、1940年11月25日 - 2019年8月30日[1][2][3])は、日本のドイツ文学者、エッセイスト、翻訳家。
カフカを中心にドイツ文学の評論・翻訳が専門。旅行記や人物伝、大衆芸能と幅広く文筆活動を行う。著書に『ウィーンの世紀末』(1981年)、『海山のあいだ』(1994年)、『カント先生の散歩』(2016年)など。
兵庫県姫路市出身。姫路市立城北小学校卒業[4]。兵庫県立姫路西高等学校卒業、東京外国語大学外国語学部卒業、1965年東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了。神戸大学講師、旧:東京都立大学助教授、1986年東京大学文学部助教授を経て、1990年に教授。定年前の1996年に早期退官。
以後は文筆業、翻訳家として幅広く活躍し、特にフランツ・カフカの全作品の翻訳・伝記著述[5]で著名。NHKFM放送「日曜喫茶室」の準レギュラー。将棋の観戦記を執筆したこともあり、2001年から2003年まで将棋ペンクラブ大賞の選考委員も務めた。
子息にアラブ研究者の池内恵、弟に宇宙物理学者・天文学者の池内了がいる[3]。
種村季弘、平賀敬、恩田侑布子、秋山祐徳太子、原田多加司らとも「酔眼朦朧湯煙句会」を行っていた。俳号は「黙念」。
2019年8月30日、虚血性心不全のため死去、78歳[2]。
- 『カール・クラウス詩集』(カール・クラウス、思潮社) 1967
- 『人類最期の日々』(カール・クラウス、法政大学出版局、カール・クラウス著作集9・10) 1971、のち新版(上・下) 2016
- 『眩暈』(エリアス・カネッティ、法政大学出版局) 1972、新版 2004、のち改版 2014
- 『猶予された者たち 戯曲』(エリアス・カネッティ、小島康男共訳、法政大学出版局) 1975
- 『アフォリズム』(カール・クラウス、編、法政大学出版局、カール・クラウス著作集5) 1978
- 『ガレッティ先生失言録』(編訳、創土社) 1980、改訂版『象は世界最大の昆虫である』(白水社) 1992、のち白水Uブックス 2005
- 『同時代人の肖像』(フランツ・ブライ、法政大学出版局、叢書ウニベルシタス) 1981。新版刊
- 『さまざまな場所 死の影の都市をめぐる』(ジャン・アメリー、法政大学出版局、叢書ウニベルシタス) 1983
- 『罪と罰の彼岸』(ジャン・アメリー、法政大学出版局、叢書ウニベルシタス) 1984、のち改訂(みすず書房)2016
- 『ホフマン短篇集』(ホフマン、岩波文庫) 1984
- 『影をなくした男』(アーデルベルト・フォン・シャミッソー、岩波文庫) 1985
- 『カフカ短篇集』(編訳、岩波文庫) 1987
- 『香水 - ある人殺しの物語』(パトリック・ジュースキント、文藝春秋) 1988、のち文春文庫 2003
- 『ウィーン世紀末文学選』(編訳、岩波文庫) 1989
- 『聖なる酔っぱらいの伝説』(ヨーゼフ・ロート、白水社) 1989、のち白水Uブックス 1995、のち岩波文庫 2013 - 他四篇を新訳
- 『夢小説・闇への逃走』(アルトゥル・シュニッツラー、岩波文庫) 1990
- 『蜘蛛の巣』(ヨーゼフ・ロート、白水社) 1991
- 『ウッツ男爵 - ある蒐集家の物語』(ブルース・チャトウィン、文藝春秋) 1993、のち白水Uブックス 2014
- 『古代への情熱』(ハインリヒ・シュリーマン、編訳、小学館地球人ライブラリー) 1995
- 『リヒテンベルク先生の控え帖』(G・C・リヒテンベルク、編訳、平凡社ライブラリー) 1996
- 『音楽家の恋文』(クルト・パーレン、西村書店) 1996
- 『ウィーン 1890 - 1920 芸術と社会』(R・ヴァイセンベルガー編、岡本和子共訳、岩波書店) 1995
- 『カフカ寓話集』(編訳、岩波文庫) 1998
- 『カフカの恋人たち』(ネイハム・N・グレイツァー、朝日新聞社) 1998
- 『ファウスト』全2巻(ゲーテ、集英社) 1999 - 2000、のち集英社文庫 2004 - 毎日出版文化賞受賞[3]
- 『黄色い街』(ベーツァ・カネッティ(夫人)、法政大学出版局) 1999
- 「フランツ・カフカ小説全集」全6巻(白水社) 2000 - 2002、のち白水Uブックス 全8巻 2006
※前者で2002年度日本翻訳文化賞受賞
- 『蟹の横歩き ヴィルヘルム・グストロフ号事件』(ギュンター・グラス、集英社) 2003
- 『永遠平和のために』(イヌマエル・カント、綜合社(集英社)) 2007、のち新版 2015
- 『ブリキの太鼓』(ギュンター・グラス、河出書房新社、世界文学全集12) 2010
- 『ドナウ - ある川の伝記』(クラウディオ・マグリス、NTT出版) 2012
- 『ミレナへの手紙』(フランツ・カフカ、白水社) 2013
- 『罪と罰の彼岸 打ち負かされた者の克服の試み』(ジャン・アメリー、みすず書房) 2016
児童向け
- 『魔女様御優待乗車賃無料』(編訳、高岸昇絵、書肆山田、世界のライト・ヴァース) 1982
- 『グリム童話集』全3巻(グリム兄弟、アーサー・ラッカム絵、新書館)1985、のちちくま文庫(上・下)1989
- 『かめのスープはおいしいぞ』(アンドレ・オデール、ほるぷ出版) 1985
- 『ふしぎないきもの』(アネリース・シュヴァルツ、ほるぷ出版) 1990
- 『ゾマーさんのこと』(パトリック・ジュースキント、ジャン=ジャック・サンペ絵、文藝春秋) 1992
- 『レンヒェンのひみつ』(ミヒャエル・エンデ、岩波書店) 1992
- 『ケストナーの「ほらふき男爵」』(エーリヒ・ケストナー、泉千穂子共訳、筑摩書房) 1993、のちちくま文庫 2000
- 『魔法の学校 エンデのメルヒェン集』(ミヒャエル・エンデ、佐々木田鶴子, 田村都志夫, 矢川澄子共訳、岩波書店) 1996、のち岩波少年文庫(上・下) 2017
- 『ちいさなヘーヴェルマン』(リスベート・ツヴェルガー、太平社) 1997
- 『鼻のこびと』(ヴィルヘルム・ハウフ、太平社) 1999
- 『アデレード そらとぶカンガルーのおはなし』(トミー・ウンゲラー、ほるぷ出版) 2010
- 『飛ぶ教室』(エーリヒ・ケストナー、新潮文庫) 2014
座談・対談
- 「世紀末 貴族のたそがれ」(安野光雅、平凡社、『空想茶房』) 1986
- 『快著会読』(川本三郎, 奥本大三郎、リクルート出版) 1990
- 『うその学校』(松山巌、高岸昇画、筑摩書房) 1994
- 「太平洋戦争期の日本の言論と熱狂は、第一次大戦のドイツとソックリです」(保阪正康、山川出版社、『戦争とこの国の150年』) 2019
- 『すごいトシヨリ散歩』(川本三郎、毎日新聞出版) 2021
- CD2枚組『対談 池内紀 vs 川本三郎 本は友達』(書肆フローラ) 2021
編著
- 『ドイツの世紀末〈1〉ウィーン 聖なる春』(原研二, 須永恒雄, 中居実, 檜山哲彦訳、国書刊行会) 1986、新装版 1997
- 『名随筆選 音楽の森 5 旅の音楽』(音楽之友社) 1989
- 『西洋温泉事情』(編著、鹿島出版会) 1989
- 『日本幻想文学集成 7 石川淳』(国書刊行会) 1991
- 『読んで旅する世界の歴史と文化 ドイツ』(新潮社) 1992
- 『美しき町 / 西班牙犬の家 他六篇』(佐藤春夫、岩波文庫) 1992
- 『日本幻想文学集成 13 小川未明』(国書刊行会) 1992、新編 2017
- 『日本幻想文学集成 19 神西清』(国書刊行会) 1993
- 『日本幻想文学集成 29 花田清輝』(国書刊行会) 1994、新編 2016
- 『読んで旅する世界の歴史と文化 オーストリア』(新潮社) 1995
- 『ドイツ名句事典』(恒川隆男, 檜山哲彦共編、大修館書店) 1996
- 『深田久弥の山さまざま』(編・解説、五月書房、池内紀のちいさな図書館) 1996
- 『山下清の放浪日記』(編・解説、五月書房、池内紀のちいさな図書館) 1996
- 『早川良一郎のけむりのゆくえ』(編・解説、五月書房、池内紀のちいさな図書館) 1997
- 『福田蘭童の釣った魚はこうして料理』(編・解説、五月書房、池内紀のちいさな図書館) 1997
- 『江上波夫の蒙古高原横断記』(編・解説、五月書房、池内紀のちいさな図書館) 1997
- 『福沢一郎の秩父山塊』(編・解説、五月書房、池内紀のちいさな図書館) 1998
- 『素白先生の散歩』(岩本素白、編・解説、みすず書房、大人の本棚) 2001
- 『百間随筆』1・2(内田百閒、編、講談社文芸文庫) 2001 - 2002
- 『新編 みなかみ紀行』(若山牧水、編・解説、岩波文庫) 2002
- 『カフカ事典』(若林恵共編、三省堂) 2003
- 『尾崎放哉句集』(編、岩波文庫) 2007
- 『森毅の置き土産』(青土社) 2010、のち改題『森毅ベスト・エッセイ』(ちくま文庫) 2019
- 『ろんどん怪盗伝』(野尻抱影、編・解説、みすず書房、大人の本棚) 2011
- 『女の二十四時間 ツヴァイク短篇選』(シュテファン・ツヴァイク、編、みすず書房、大人の本棚) 2012
- 『椋鳥通信』上・中・下(森鷗外、編・注解、岩波文庫)2014 - 2015
- 『ル・アーヴルの波止場で 二十世紀歌謡・映画・ノスタルヒア・港町』(松井邦雄、龜鳴屋(私家版)) 2014
- 『ちいさな桃源郷 山の雑誌「アルプ」傑作選』(串田孫一ほか、編・解説、中公文庫) 2018
アンソロジー
- 『温泉百話 - 東の旅』(種村季弘共編、ちくま文庫) 1988
- 『温泉百話 - 西の旅』(種村季弘共編、ちくま文庫) 1988
- 『ちくま文学の森』(安野光雅, 井上ひさし, 森毅共編、筑摩書房) 1988 - 1989、のち新編(ちくま文庫) 2010 - 2011
- 『ちくま哲学の森』(鶴見俊輔, 安野光雅, 井上ひさし, 森毅共編、筑摩書房) 1989 - 1990、のち新編(ちくま文庫) 2011 - 2012
- 『燐寸文学全集』(安野光雅共編、筑摩書房) 1993
- 『新・ちくま文学の森』(鶴見俊輔, 安野光雅, 井上ひさし, 森毅共編、筑摩書房) 1994 - 1996
- 『ちいさな桃源郷』(編、幻戯書房) 2003
- 『山の仲間たち』(編、幻戯書房) 2005
- 『日本文学100年の名作』全10巻(川本三郎, 松田哲夫共編、新潮文庫) 2016
- 『読鉄全書』(松本典久共編、東京書籍) 2018
- NHK - ハイビジョンスペシャル 煙はるかに 世界SL紀行 第1回「魔女の森ドイツ・ハルツ地方」2001年4月23日、2022年10月25日・26日、2023年5月9日・10日、2023年10月17日 放送
文藝春秋編『少年少女小説ベスト100』(文春文庫)P.383