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アメリカ合衆国の第2世代主力戦車 ウィキペディアから
M60 パットン(M60 Patton)[注 1]は、アメリカ合衆国が開発した主力戦車である。M46からスタートしたパットンシリーズの最終モデルであり、前作のM48の機動力と火力に改良を加えたモデルである。愛称はパットン(Patton)とされるが、これは非公式であり[2]、公式にはパットンシリーズともされていなかった[2]。
ソ連のT-54/55に脅威を覚えた[3]アメリカ陸軍が、1956年に開発を開始した。
それまで、出力重量比が良い事や構造が簡易な事から戦車用にガソリンエンジンを採用して来たアメリカ軍も、本車に至り被弾時の安全性や燃費の良さから最初からディーゼルエンジンを採用し、主砲も90mm戦車砲からイギリス製105mm戦車砲L7A1に換装し、攻撃力を格段に向上させた。
数々の改良点はあるものの、M48との根本的な差異はなく、総合的にはM48の改良型である。本来は、ソ連のT-55に対抗しうる本格的な次期主力戦車が登場するまでのストップギャップであり、短期間で引退する予定であったが、肝心のMBT-70計画の頓挫により長期に渡って使用される事となり、各型の合計生産台数は約2万輌を数え、アメリカ軍のみならず西側諸国の標準的主力戦車となった。
アメリカ軍では、1991年の湾岸戦争まで使用され、その後も現在に至るまで各国で改良を重ねられて運用されている傑作戦車であることは間違いないが、旧式化も進行しているため、様々な近代化改修プランが各国のメーカーから提案されている。
M60はM48戦車の発展形であり、各部の構成もほぼ同一だが、M48の車体前部が丸みを帯びた鋳造製であるのに対し、M60では直線的な楔形の鋳造製となっていた。また、転輪やフェンダーなどにアルミ合金を採用し軽量化を図った[注 2]。砲塔はM48のものを引き継いだ形状[注 3][注 4]の亀甲型鋳造砲塔で、改良型のA1型からは"ニードル・ノーズ"(Needle Nose:細鼻形)もしくは"ロング・ノーズ"(Long Nose:長鼻形)と呼ばれる、全体的に細く絞った形状ものに変更された。
1970年代には、M60A1に「RISE(Reliability Improvements for Selected Equipment:信頼性向上および装備近代化)」と呼ばれる近代化改修が施された。更に射撃管制装置(FCS)を中心に改良したM60A3が開発され、M1エイブラムスが配備された後も1990年代まで現役で使用された。アメリカ海兵隊やイスラエル国防軍の使用車両には、爆発反応装甲も装着された。
M46 | M47 | M48 | M60 | |
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画像 | ||||
世代 | 第1世代 | 第2世代 | ||
全長 | 8.48 m | 8.51 m | 9.30 m | 9.309 m |
全幅 | 3.51 m | 3.65 m | 3.60 m | |
全高 | 3.18 m | 3.35 m | 3.10 m | 3.30 m |
重量 | 44 t | 46 t | 49 t | 52 t |
主砲 | 50口径90mmライフル砲 | 50口径90mmライフル砲 | 43口径90mmライフル砲(A1-A3) 51口径105mmライフル砲(A5) |
51口径105mmライフル砲 |
副武装 | 12.7mm重機関銃M2×1 7.62mm機関銃M1919A4×1 |
12.7mm重機関銃M2×1 7.62mm機関銃M73×1(A1-A3) 7.62mm機関銃M60E2×1(A5初期) 7.62mm機関銃M240C×1(A5後期) |
12.7mm重機関銃M85×1 7.62mm機関銃M3/M60E2×1(A1) 7.62mm機関銃M240×1(A1RISE/A3) | |
エンジン | 空冷4サイクルV型12気筒 ガソリン |
空冷4サイクルV型12気筒 ツインターボチャージャーガソリン(A1/A2) ツインターボチャージド・ディーゼル(A3/A5) |
空冷4サイクルV型12気筒 ツインターボチャージド・ディーゼル | |
最大出力 | 810 hp | 810 hp(ガソリン) / 750 hp(ディーゼル) | 750 hp | |
最高速度 | 48 km/h | |||
懸架方式 | トーションバー | |||
乗員数 | 5名 | 4名 | ||
装填方式 | 手動 |
M60はアメリカ軍に採用されたが、激化するベトナム戦争には投入されず、主にヨーロッパ派遣部隊で使用された。M1エイブラムスが導入されるまではアメリカ軍戦車の代表として、ヨーロッパでの演習の報道を始めとしてメディアに多く露出する車両でもあった。M1の制式採用後もアメリカ海兵隊では永らく装備されていた[注 5]が、湾岸戦争を最後にほとんどが退役した。
イスラエルに供与された車両は、第四次中東戦争以後の数々の紛争に投入され、近代化改修を加えられた車両は現在も使用されている。アラブ諸国に導入された車両は、第四次中東戦争を始めとしたイスラエルとの戦闘に投入され、M60同士の交戦も発生している。アラブ側がT-72を投入した際にはイスラエル側はブレイザーERA装備型のM60で対抗したが、数両が撃破されるなど少数の被害が出ている[3]。
イランに供与された車両は、イラン・イラク戦争でイラクの装備するソ連製戦車と交戦している[注 6]。
21世紀に入ると世界的に退役が進んでいるが、トルコに供与された車両は、2014年においても過激派組織ISILの進撃に備えて展開した姿が見られている。
本車は、車内容積にかなりの余裕があり、幾度の改良にも対応でき、同時期に出現したソ連のT-62との戦力差に関しては、第四次中東戦争にてイスラエルが鹵獲した車両を分析したアメリカ軍はM60の方が性能面でリードしていると評した。M60はT-62に比べて砲塔高があるために全高が1メートル近く高く、被発見率や被弾性において不利であるとされていたが、砲塔高があることは主砲の俯角を大きく取る事が可能であり、実戦ではM60の方が地形を利用して車体を晒さずに砲撃を行う事が可能であり、T-62に対し有利であったとされる。
T-62に対抗するため、砲塔を亀甲形からより内部容積が広く避弾経始に優れた前面装甲の厚い形状のものに変更し、砲塔が新型となったことに併せて車体各部の装甲厚を増加させ、サスペンションや射撃管制装置、操縦装置を改良、車内レイアウトの変更などの改修を施した改良型。1962年より、M60 シリーズの主力として大量生産された。
M60A2 バージニア州ダンヴィルのアメリカ装甲財団博物館(American Armoured Foundation Museum)の展示車両 | |
性能諸元 | |
---|---|
全長 | 7.62m |
車体長 | 6.99m |
全幅 | 3.632m |
全高 | 3.256m |
重量 | 51.5t |
懸架方式 | トーションバー方式 |
速度 | 48.2km/h |
行動距離 | 483km |
主砲 | M162 152mm ガンランチャー |
副武装 | |
装甲 |
|
エンジン |
コンチネンタル AVDS-1790-2A 4ストロークV型12気筒ターボ・ディーゼル 750HP(560kW) |
乗員 | 4名 |
新設計の砲塔を搭載した発展型。M162 152mm ガンランチャーを搭載し、対人用に榴弾、対戦車用にMGM-51 シレイラ・ミサイルを発射できる、という新世代の複合火砲装備戦車として期待された。
1961年8月には開発計画が開始され、この計画により開発されるM60の発展形は"M60A1E series"と仮称され、開発にあたっては"TypeA"、"TypeB"、"TypeC"の3種類の砲塔が検討された。TypeAはT95中戦車(英語版)の開発に際して設計されたT95E7型砲塔を流用したものである。TypeBはT95開発の際に検討されたものを踏まえつつ、この計画のために新たに設計されたもので、M60A1の“ニードル・ノーズ”形新型砲塔と比較しても正面投影面積で40%減少した、小型かつコンパクトなものとなっていた。TypeCは全体としてはTypeAに類似しており、M551シェリダン軽戦車の砲塔のデザインを発展させたもので、3種いずれも避弾経始を強く意識したものとなっていた。M60E1として準備された車両のうち3両がこの計画に廻され、TypeAからCの3種の砲塔を搭載することとなった。この車両群には、いずれも"XM66"の仮制式番号がつけられた。
しかし、計画が開始された1961年のうちに、ガンランチャーシステムの中心となるべき砲発射式ミサイルの開発に問題が生じていることから、ガンランチャーを搭載する戦闘車両すべての開発計画の見直しが必要になり、翌1962年1月10日には、「ミサイルが実用化できない場合に備え、代換となる武装を選定しておくこと」という決定がなされ、これに対する提案の期限が同年4月までとされたため、計画の全体的な取捨選択が行われることになり、M60A1Eシリーズの開発計画も急遽再検討を余儀なくされた。これによりガンランチャーではなく通常のライフル砲に武装を変更した試作車であるM60A1E3の開発や、MBT70戦車の仕様を採り入れた新たな試作車の検討といった各種の案が乱立し、M60A1シリーズおよびXM66開発の実作業にも大いなる混乱が生じることとなる。これらの混乱は、最終的にはガンランチャーシステムとその使用ミサイルの開発に目処がついたとされたため、1964年までには収束した。
3種類の砲塔が検討されたXM66のうち、TypeC案搭載型はモックアップのみで放棄され、1964年1月10日、陸軍は3つの砲塔案すべてを見直し、最終的にはTypeAのデザインを改良したものを選択した。1964年内には2基のTypeA改良砲塔が製造され、各種のテストが開始された。しかし、1966年には車体の仕様をM60A1と同じものとすることに計画が変更され、砲塔もTypeAからTypeBを搭載するものに変更された。これに基づいてTypeB砲塔を搭載しM60A1の車体を使用する試作車には"M60A1E2"の制式名称が与えられ、最初の試作車は1966年内に完成したが、各種の新機構の実用的改修に手間取り、1970年にようやく正式に採用され、"M60A2"の制式名称が与えられた。
M60A2の最初の発注は1971年に行われたが、生産は1973年まで開始されず、最初の先行量産車が生産、配備されたのは1975年からである。同年からは本格量産と部隊配備が開始されたが、ミサイルの価格が高かった事と、整備性が悪いこと、また、誘導方式の問題からミサイルを使用する場合には対戦車戦闘において行進間射撃ができないことが問題視され、生産は526輌に留まり、1981年には運用が中止されて短期配備に終わった。前線から引き揚げられたA2型の車体は架橋戦車や回収戦車などに転用されている。
M60A2は先進的な存在ではあったが、高価で運用が難しいため、運用側からは皮肉をこめて「スターシップ(宇宙船)」というニックネーム[注 8]を与えられた。
1978年に量産開始された、M60A1の近代化改修型。射撃管制装置の換装・強化により主砲の命中精度を高めた他、同軸機銃を7.62mm機関銃M73または7.62mm機関銃M60E2から7.62mm機関銃M240Cに変更し、細部が改良されている。M60A1との外見上の差異は、主砲にサーマルスリーブ(砲身被筒)が装着されていることと、砲塔上面の砲手用間接照準器が大型化されていることである。また、白色光/赤外線サーチライトはそれまで用いられた大型のAN/VSS-1に代えてより小型のAN/VSS-3が装備されるようになった。
約1,700輌が生産された他、M60A1より2,100輌がA3仕様に改修された。アメリカ陸軍の他、台湾陸軍やイスラエル国防軍などで使われている。
なお、アメリカ海兵隊はM60A3を導入せず、既存のM60A1を改修してM60A3相当としたM60A1RISEとして運用した。
1973年の第四次中東戦争にて、イスラエル国防軍(IDF)の使用したM48/M60に、被弾時に砲塔旋回機構の駆動油に引火して炎上するという欠点が明らかになった。この事から、同軍内でのM60系の愛称である「マガフ(Magach)」が、実はヘブライ語で「焼死体運搬車(Movil Gviyot Charukhot)」の略だとするジョークが語られた。
1995年5月17日、カリフォルニア州サンディエゴの州兵兵器庫に保管されていたM60(砲塔の形状から、M60A1かM60A3)が元陸軍戦車兵のショーン・ネルソンに強奪され、サンディエゴ市内を練り歩いて路上に駐車されていた車や消火栓などを多数踏みつぶし、高速道路上で中央分離帯に乗り上げてキャタピラが外れるまで暴走を続ける事件が発生した。
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