木星の衛星

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木星の衛星

本項では、木星衛星(もくせいのえいせい)について述べる。2025年5月1日現在知られている木星の衛星の総数は97個[1]で、そのうち57個が命名されている[2][3][4]。太陽系の惑星の中では土星に次いで2番目に報告された衛星の総数が多い。また、未発見の小さな衛星が存在する可能性もある。

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木星とガリレオ衛星(合成画像)

1999年以降に発見された衛星の多くは長楕円軌道だったり、逆行していたりする。これらは直径が平均 3 km 、最大のものでも 9 km 足らずで、木星に捕獲された太陽系小天体だと思われるが、これらについてはごくわずかなことしか知られていない。

発見

要約
視点

1610年に、木星の最初の衛星4個(ガリレオ衛星)が発見された。それから4世紀の間に、地上からの観測でさらに衛星9個が発見された。

1975年テミストが発見されたが、軌道を確定する十分な観測がないまま見失われた。

1979年ボイジャー1号が3つの衛星を発見し、衛星の総数は16個となった(テミストを除く)。

1999年以降

1999年10月6日に小惑星探査プロジェクトのスペースウォッチにより小惑星1999 UX18」が発見されたが、やがて実は木星の新衛星だったことが判明した。この衛星はカリロエと命名された。

2000年11月23日から12月5日にかけ、スコット・S・シェパードデヴィッド・C・ジューウィットに率いられたハワイ大学のチームが木星の小さな衛星の組織的な捜索を始めた。同チームはマウナケア天文台群にある13基の望遠鏡のうち2つ(1つは日本のすばる望遠鏡)に世界最大級のCCDカメラを取り付け、2000年だけでテミストの再発見を含む衛星11個を発見した。ディアについては存在を疑問視する意見もあったが、2010年から2011年にかけての観測で存在が確定された[5]

2001年12月9日から11日の捜索では11個、2002年にはわずか1個だったが、2003年2月5日から9日の捜索でさらに衛星23個が発見された。

2010年9月7日S/2010 J 1、翌9月8日にはS/2010 J 2という新衛星2個が発見された。公転周期はJ1が約2年、J2が約1.6年とされる[6]

2011年9月27日チリラスカンパナス天文台マゼラン望遠鏡で、木星に新たな2つの衛星が周回していることが撮影された。それぞれS/2011 J 1S/2011 J 2と仮符号が付けられた。この2つの新衛星は不規則衛星に分類される逆行衛星群の一部で、木星からの距離が遠く、公転軌道も傾斜した楕円状という。衛星直径はいずれも1キロほどで、公転周期はそれぞれJ1が約580日、J2が約726日[7]

2017年、スコット・S・シェパードらの率いるカーネギー研究所のチームは、チリのセロ・トロロ汎米天文台で冥王星以遠の惑星を探索したが、偶然木星も観測範囲内にあったために合わせて衛星を探索することとし、この結果12個の衛星が確認された[8]。これらの発見は、2017年7月2日に2個、2018年7月17日に10個が小惑星センターを通して公表された。この中には、3つの逆行衛星群を横切って順行するバレトゥードーも含まれる。これによって木星の衛星は79個となった[8]

2021年6月初旬、アマチュア天文家の Kai Ly がカナダ・フランス・ハワイ望遠鏡によって撮影されていた画像の中にまだ未発見の衛星が写っているかもしれないと思い分析を行っていたところ、2003年2月に撮影された画像の中に木星の80番目の衛星が写っていたことを発見した[9]。その後、同年11月15日に公表された小惑星電子回報 (Minor Planet Electronic Circular) にて正式にS/2003 J 24と命名された[10]

分類

要約
視点
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木星の不規則衛星。横軸は軌道長半径 / 100万 km、縦軸は黄道面に対する軌道傾斜角 / °。

一般に惑星の衛星は、離心率軌道傾斜角が小さい規則衛星と、それらが大きい不規則衛星に分けられる。木星の衛星では、内側の8つが規則衛星である。また、内側の21個は順行衛星、それ以外は逆行衛星である。逆行衛星は、捕獲された小天体だと考えられている。なお、古くに名づけられた衛星や特殊な軌道を持つ衛星を除き、順行衛星は語尾が‐a、逆行衛星は語尾が‐eと名づけるよう決められている。

1979年ボイジャーによる発見からしばらくの間、知られていた16の衛星は4個ずつ4つのグループ(内部群、ガリレオ衛星、ヒマリア群、外部逆行群)に整然と分けられていた。しかし1999年以降、新しい小さな衛星が多数発見されたことで分類は複雑になった。現在発見されている衛星は、7つの主なグループと、いくつかの孤立した衛星に分けられている。

さらに見る 規則/不規則, 順行/逆行 ...
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アマルテア群(内部群)
直径200 km以下、軌道半長径20万 km以下、軌道傾斜角0.5°以下の4つの小さい衛星。現在の位置で形成されたのではなく、外から取り込まれたものであるとの報告がある[11]
ガリレオ群(ガリレオ衛星)
軌道半長径が20万 kmから400万 kmの、ガリレオ・ガリレイによって発見された4つの大きな衛星(いくつかは太陽系で最大級)。
ヒマリア群
軌道半長径が1100万 - 1200万 km、軌道傾斜角が1.6°という狭い範囲(27.5°±0.8°)に「密集」している。離心率は0.11から0.25と幅広い。
カルポ群
軌道長半径が1700万 km前後、軌道傾斜角が50°強。長らくカルポにしか見られない独自の軌道であるとされてきたが、S/2018 J 4 の発見により、スコット・S・シェパードはこの2つを併せて独自の衛星群として扱っている[4]。しかし、両者の軌道長半径と軌道傾斜角は似通っているが、離心率には大きな差がある。
アナンケ群
軌道半長径が平均2127万6000 km、軌道傾斜角が149.0°±0.5°、離心率が0.216 - 0.244の、境界が明瞭でないグループ。
カルメ群
軌道半長径が平均2340万4000 km、軌道傾斜角が165.2°±0.3°、離心率が0.238 - 0.272(S/2003 J10は例外的に大きな離心率を持つ)のグループ。
パシファエ群
軌道半長径が平均2362万4000 km、軌道傾斜角が151.4°±6.9°、離心率が0.156 - 0.432(最も大きく分散していることに注意)。

アマルテア群、ガリレオ群以外のグループは、それぞれ共通の起源を持つと考えられている。

衛星の一覧

要約
視点
さらに見る 順序, 確定番号 ...
木星の衛星
順序 確定番号 名前 直径/幅
(km)
質量
(kg)
軌道
傾斜角
(度)(4)
離心率 軌道
半長径
(km)(3)
公転周期
(日)(3)
発見
(年)
1XVIメティス60 × 40 × 341.2 ×10170.0000.0012127,690(1)0.294780(2)
(7.08時間)
1979アマルテア群
2XVアドラステア26 × 20 × 167.5 ×10150.0000.0018128,690(1)0.29826(2)
(7.11時間)
1979アマルテア群
3Vアマルテア262 × 146 × 1342.1 ×10180.3600.0031181,170(1)0.49817905(2)
(11.92時間)
1892アマルテア群
4XIVテーベ110 × 901.5 ×10180.9010.0177221,700(1)0.6745(2)
(16.23時間)
1979アマルテア群
5Iイオ3660.0
× 3637.4
× 3630.6
8.9 ×10220.0500.0041421,700(1)1.769137786(2)1610ガリレオ衛星
6IIエウロパ3121.64.8 ×10220.4710.0094671,034(1)3.551181041(2)1610ガリレオ衛星
7IIIガニメデ5262.41.5 ×10230.2040.00111,070,412(1)7.15455296(2)1610ガリレオ衛星
8IVカリスト4820.61.1 ×10230.2050.00741,882,709(1)16.6890184(2)1610ガリレオ衛星
9XVIIIテミスト86.9 ×101415.3460.20067,391,645129.8276111975
(2000)
 ?
10XIIIレダ201.1 ×101627.2100.185411,097,245238.8241591974ヒマリア群
11VIヒマリア1706.7 ×101829.5900.144311,432,435249.7263051904ヒマリア群
12LXXIErsa330.610.09411,483,000252.02018ヒマリア群
13LXVPandia328.150.18011,525,000252.12017ヒマリア群
14Xリシテア366.3 ×101625.7710.113211,653,225256.9954131938ヒマリア群
15VIIエララ868.7 ×101730.6630.172311,683,115257.9848881905ヒマリア群
16LIIIディア49.0 ×101326.1690.205812,570,575287.9310462000ヒマリア群
17XLVIカルポ34.5 ×101356.0010.273617,144,875458.6248182003カルポ群
18(lost)S/2003 J 1211.5 ×1012142.6800.444917,739,540482.6912552003 ?
19LXIIバレトゥードー134.0140.221918,980,000532.012017
20XXXIVエウポリエ21.5 ×1013144.6940.096019,088,435538.7798392001アナンケ群
21LXEupheme21.5 ×1013146.3630.250719,621,780561.5177392003アナンケ群
22LXXIIS/2011 J 121.5 ×1013165.3180.253423,446,000736.352011カルメ群
23LVS/2003 J 1821.5 ×1013147.4010.157019,812,575569.7280152003アナンケ群
24LIIS/2010 J 21150.40.30720,307,150588.12010アナンケ群
25XLIIテルクシノエ21.5 ×1013102.8440.268520,453,755597.6066952003アナンケ群
26XXXIIIエウアンテ34.5 ×1013123.6490.200020,464,855598.0933682001アナンケ群
27XLVヘリケ49.0 ×1013120.9080.137520,540,265601.4019182003アナンケ群
28XXXVオーソシエ21.5 ×1013101.8610.243320,567,970602.6191432001アナンケ群
29LXVIIIS/2017 J 72143.40.21520,627,000602.62017アナンケ群
30LIVS/2016 J 11139.80.14120,650,845602.72016アナンケ群
31LXIVS/2017 J 32147.90.14820,694,000606.32017アナンケ群
32XXIVイオカステ51.9 ×1014127.0430.287420,722,565609.4266112000アナンケ群
33S/2003 J 1621.5 ×1013149.2790.318520,743,780610.3621592003アナンケ群
34XXVIIプラクシディケ74.3 ×1014132.0990.184020,823,950613.9040992000アナンケ群
35XXIIハルパリケ41.2 ×1014143.9440.244121,063,815624.5417972000アナンケ群
36XLムネメ21.5 ×1013147.6470.221421,427,110640.7686602003アナンケ群
37XXXヘルミッペ49.0 ×1013149.0580.229021,182,085629.8090402001アナンケ群
38XXIXスィオネ49.0 ×1013116.0880.252621,405,570639.8025542001アナンケ群
39LXXS/2017 J 93152.70.22921,487,000639.22017アナンケ群
40XIIアナンケ283.0 ×1016149.5260.396320,815,225613.5184911951アナンケ群
41Lヘルセ21.5 ×1013139.8420.237922,134,305672.7518822003カルメ群
42XXXIアイトネ34.5 ×1013143.2510.392722,285,160679.6413472001カルメ群
43LXVIIS/2017 J 62155.20.55722,455,000683.02017パシファエ群
44XXXVIIカレ21.5 ×1013133.3420.201122,409,210685.3238732001カルメ群
45XXタイゲテ51.6 ×1014140.5210.367822,438,650686.6747152000カルメ群
46LXIS/2003 J 1921.5 ×1013140.9560.196122,709,060699.1247642003カルメ群
47XXIカルデネ47.5 ×1013119.5720.291622,713,445699.3269042000カルメ群
48LVIIIPhilophrosyne21.5 ×1013109.1680.093222,721,000699.6761162003パシファエ群
49(lost)S/2003 J 1021.5 ×1013115.0210.343822,730,815700.1294032003カルメ群
50(lost)S/2003 J 2321.5 ×1013137.5760.393122,739,655700.5379902003パシファエ群
51XXVエリノメ34.5 ×1013143.3540.255222,986,265711.9646252000カルメ群
52XLIアオエデ49.0 ×1013112.7630.601223,044,175714.6567542003パシファエ群
53XLIVカリコレ21.5 ×1013141.2400.204223,111,825717.8061122003カルメ群
54LXVIS/2017 J 52164.30.28423,232,000719.52017カルメ群
55LXIXS/2017 J 81164.70.31223,232,700719.62017カルメ群
56XXIIIカリュケ51.9 ×1014137.1250.214023,180,775721.0206622000カルメ群
57XIカルメ461.3 ×1017120.6590.312223,734,465747.0080621938カルメ群
58XVIIカリロエ98.7 ×1014131.8950.264424,356,030776.5433351999パシファエ群
59XXXIIエウリドメ34.5 ×1013143.0330.377023,230,860723.3588592001パシファエ群
60LXIIIS/2017 J 22166.40.23623,303,000723.12017カルメ群
61XXXVIIIパシテー21.5 ×1013144.1120.328923,307,320726.9329632001カルメ群
62LIS/2010 J 11163.20.32023,314,335723.22010カルメ群
63XLIXコレ21.5 ×1013137.3710.195123,238,595776.022003パシファエ群
64XLVIIIキレーネ21.5 ×1013115.5070.411623,396,270731.0986032003パシファエ群
65LVIS/2011 J 221.5 ×1013153.5970.349323,124,000718.372011パシファエ群
66XLVIIエウケラデ49.0 ×1013118.3840.282923,483,695735.1999802003カルメ群
67LIXS/2017 J 12149.20.39723,547,105734.22017パシファエ群
68(lost)S/2003 J 421.5 ×101398.6600.300323,570,790739.2939612003パシファエ群
69VIIIパシファエ603.0 ×1017143.0370.295324,094,770764.0820321908パシファエ群
70XXXIXヘゲモネ34.5 ×1013150.3140.407723,702,510745.5000072003パシファエ群
71XLIIIアルケ34.5 ×1013146.2890.149223,717,050746.1854692002カルメ群
72XXVIイソノエ47.5 ×1013118.5540.166523,832,630751.6469372000カルメ群
73(lost)S/2003 J 911.5 ×1012135.4520.276223,857,810752.8387512003カルメ群
74LVIIEirene49.0 ×1013117.9220.307123,973,925758.3412962003カルメ群
75IXシノーペ387.5 ×1016146.6570.246824,214,390769.7796651914パシファエ群
76XXXVIスポンデ21.5 ×1013112.4090.443224,252,625771.6035662001パシファエ群
77XXVIIIアウトノエ49.0 ×1013129.0730.369024,264,445772.1677622001パシファエ群
78XIXメガクリテ52.1 ×1014143.7600.307824,687,240792.4369472000パシファエ群
79S/2003 J 221.5 ×1013157.2910.410028,347,000980.532003アナンケ群
80S/2003 J 242162.1050.254923,088,000715.902003カルメ群
81S/2018 J 2329.4040.118411,467,500250.882018ヒマリア群
82S/2011 J 3328.6590.175811,797,000261.772011ヒマリア群
83S/2016 J 32164.0660.236022,213,500676.372016カルメ群
84S/2021 J 12149.7530.246120,667,000606.992021アナンケ群
85S/2021 J 2150.1140.341321,140,600627.962021アナンケ群
86S/2018 J 3164.9000.273122,826,600704.562018カルメ群
87S/2021 J 3150.1040.355721,495,700643.852021アナンケ群
88S/2021 J 4164.5470.158522,946,700710.132021カルメ群
89S/2021 J 5163.1750.200222,831,800704.802021カルメ群
90S/2021 J 6166.4990.362523,427,200732.552021カルメ群
91S/2018 J 453.1780.057316,504,300433.162018カルポ群
92S/2016 J 4146.2550.198623,664,100743.692016パシファエ群
93S/2022 J 1165.4340.191522,015,500667.342022カルメ群
94S/2022 J 2165.3900.182022,413,200685.512022カルメ群
95S/2022 J 3144.4520.272220,912,400617.822022アナンケ群
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衛星の仮称

アマルテア (Jupiter V) からレダ (Jupiter XIII) までは1975年に国際天文学連合 (IAU) によって正式に命名されたが、このうちVIからXIIまでについてはそれまで現在の名称とは違う名が付けられていた。それらは当時の天文年鑑にも掲載されており、一種の非公式な仮称として用いられていたと思われる。

これらの仮称の多くにはゼウス(木星)が長であるオリンポス神族の名が使われており、クロノス土星)が長であるティターン神族の名が土星の衛星に使われたのに対応していた。しかし、以前に名づけられていた小惑星の名と重複していたため、重複しない名前がIAUにより選ばれた。

さらに見る 番号, 現在の正式名称 ...
番号 現在の正式名称 '75以前の仮称
Vアマルテア
VIヒマリアヘスティア
VIIエララヘラ
VIIIパシファエポセイドン
IXシノーペハーデス
Xリシテアデメテール
XIカルメパン
XIIアナンケアドラステア
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一時的な衛星となった彗星

木星は、その強い重力で彗星を一時的に捕獲し、衛星にすることがある。この中で最も著名なのは、1994年に衝突した衛星、シューメーカー・レヴィ第9彗星である。木星の周回軌道に乗っていることが実際に観測されたのはこの彗星のみだが、ほかにも軌道計算により、以下のような彗星が衛星になったと見られている。

作品

X星
1965年の映画『怪獣大戦争』に登場。13番目の衛星という設定(公開当時に発見されていた衛星は12個)。

出典

関連項目

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