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アーケアメーバ
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アーケアメーバはアメーボゾアのコノーサ亜門に含まれる系統群の1つであり、古アメーバ類[4]ともよばれる。分類学的にはふつうアーケアメーバ綱(学名: Archamoebea)に充てられる。1本の鞭毛をもつアメーバ鞭毛虫、多数の不動鞭毛をもつ巨大アメーバ、または鞭毛を欠くアメーバである(図1)。透明な半球形や葉状の仮足(偽足)を形成する。鞭毛をもつ場合、鞭毛基部に別の基底小体は付随しておらず、また鞭毛運動は緩慢である。典型的なミトコンドリアやゴルジ体を欠く。酸素呼吸能を欠き、水底や動物の消化管内など嫌気的な環境に生育している。病原性を示すものもおり、赤痢アメーバはヒトにアメーバ赤痢を引き起こす。真核生物がミトコンドリアを獲得する以前に分岐した生物群であると考えられたためこの名があるが(archae- は「古代の」を意味する)、現在ではこの仮説は否定されており(アーケゾア参照)、二次的に酸素呼吸能を欠失してミトコンドリアが縮退したと考えられている。
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特徴
要約
視点
体制
単細胞性であり、仮足(偽足)を形成して運動するアメーバであるが、同時に鞭毛をもつもの(アメーバ鞭毛虫)もいる[5][6](図1, 2)。鞭毛をもつ種が、生活環の一時期に鞭毛を欠くアメーバとなることも多い[5]。
細胞構造
仮足(偽足)は噴出状に形成され、透明で半球状、ときに幅広い葉状や指状である[5](図3)。短く先細の仮足をもつものもいる[5]。細胞後端にウロイドを形成することもある[5](図1中)。細胞の外質と内質が分化が不明瞭なものから明瞭なものまでいる[5]。
3a. Pelomyxa palustris(ペロミクサ科)の細胞運動
真核生物では、鞭毛を1本のみもつものでも、ふつうその鞭毛の基部にもう1個基底小体が付随している。しかしアーケアメーバでは、このような鞭毛を欠く基底小体が付随しておらず、鞭毛につながる1個の基底小体しかない[5]。マスチゴアメーバ属(マスチゴアメーバ科)などではこの構造が1個のみ存在し、1本の鞭毛をもつが、ペロミクサ属(ペロミクサ科)などではこの単位が複数存在し、細胞表面から複数(数本から数百本)の鞭毛が生じている[5]。鞭毛軸糸はダイニン外腕を欠き、鞭毛運動は緩慢である[5]。また、ペロミクサ属の鞭毛は短く、典型的な9+2構造を示さず、運動能をもたない[5]。基底小体周辺から生じた多数の微小管が細胞後方へ伸び、円錐状、筒状または束状の構造を形成しており、マスチゴアメーバ科ではこれによって核と結びついている[5][7]。これに加えて基底小体側部から生じたシート状の微小管性鞭毛根(lateral root)が側面後方へ伸びていることが多く、この微小管性鞭毛根の基部には二層の繊維構造(bilaminate root sheet)が付随している[5][7]。
殻のような明瞭な細胞外被をもつものはいないが、ふつう細胞表面は不定形または繊維質の有機物で覆われている[5]。一部の種では、細胞表面に多数の針状構造(成分は不明)が存在する[5](図2a)。
多くの種は1個の核をもつが、数個の核をもつものもいる[5]。例外的に、ペロミクサ属の種はときに数十個から数百個の核をもつ[5]。また、単核性の種であっても、生活環の一時期に複数の核をもつアメーバ細胞やシストを形成することがある[5]。染色質は、核膜に沿って存在することが多いが、核の中心にある核小体に結合して存在することもある[5]。エントアメーバ属では、染色質の分布パターンに多様性があり、種の分類形質として使われている[5]。
ミトコンドリアは縮退して好気呼吸能、クリステ、DNAを欠いており、MRO(mitochondrion-related organelle)と総称される[2][5]。赤痢アメーバ(エントアメーバ科)ではATP生成に関わる代謝を欠いており、マイトソームとよばれる[5][8]。また、Mastigamoeba balamuthi(マスチゴアメーバ科)のMROは水素分子とATPを産生するためハイドロジェノソームとよばれるが、クエン酸回路や電子伝達系の一部をもつことから、より祖先的な特徴を残した水素産生型のミトコンドリアである可能性がある[2][9]。鉄硫黄クラスター合成に関わるミトコンドリアのISF(iron-sulfur cluster)経路を欠き、かわりにイプシロンプロテオバクテリアからの遺伝子水平伝播に由来し細胞質基質で働くNIF (nitrogen-fixation) 経路によって鉄硫黄クラスターを合成する[5]。
ペルオキシソームをもたないとされていたが[5]、Mastigamoeba balamuthi において嫌気的なペルオキシソームの存在が示されている[10]。
構造的に典型的なゴルジ体は見つかっていないが、内膜系の基本的な機能は存在することが示されている[2][5][11]。一部の種では、層状や網状の発達した膜構造が報告されている[5]。
ペロミクサ属では、Methanosaeta(メタン生成古細菌)、Syntrophorhabdus(サーモデスルフォバクテリウム門)、ロドコッカス属(放線菌門)が細胞内共生していることが報告されてる[2][12]。Mastigella や Rhizomastix でも、細胞内共生原核生物が報告されている[5]。厚い細胞外被をもつものでは、原核生物が細胞外共生していることがある[5][13]。これらの細胞内、細胞外共生生物の機能はよくわかっていない[5]。また、ペロミクサに細胞内共生するマスチゴアメーバが存在することが報告されている[5][6]。
生活環
基本的に二分裂によって増殖するが、多分裂や出芽状分裂を行う例も知られている[5]。

多くの種において、細胞壁に囲まれたシストを形成することが知られている[5](図4)。シスト壁の成分が調べられた例はほとんどないが、Entamoeba invadens(エントアメーバ科)ではキチンとさまざまな糖タンパク質からなることが知られている[5]。シストの核数には多様性があり、単核のもの、2核のもの、4核のもの、8核のものがいる[5]。動物共生性(寄生性を含む)の種では、基本的に宿主外で生存できるのはシストのみであり、シストによって宿主に感染する[2][14][15][16]。
季節的に変化する例も知られており、Pelomyxa palustris(ペロミクサ科)では、春にシストから生じた小型のアメーバが細胞長 200 µm ほどの2核状態になり、やがて大型の多核アメーバへと成長し、夏には30–60個の核、共生原核生物、鞭毛、ウロイドを有する細胞長 5 mm に達する細胞になる。秋には、共生原核生物を伴う数千個の核をもつ大型の球状アメーバ細胞になり、分裂して冬にシストまたは小型アメーバを形成する[5]。
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生態

従属栄養性であり、細菌や宿主細胞、有機物などを捕食または吸収する[2][5]。自由生活性のものと他生物に共生(寄生を含む)するものがおり、いずれも酸素濃度が低い嫌気的または微好気的な環境に生育している[2][5]。自由生活性のものの多くは、河川、湖沼、湿原などの淡水域の水底から見つかり、一部は海の潮間帯堆積物から報告されている[5][17]。共生性のものは、脊椎動物・無脊椎動物を含むさまざまな動物の消化管に生育しているが、ヒト以外の宿主についてはあまり研究されていない[5]。宿主に明瞭な害を与えない(片利共生)ものが多いが、Endolimax piscium(マスチゴアメーバ科)はシタビラメに、Entamoeba invadens(エントアメーバ科)はヘビに、赤痢アメーバ(Entamoeba histolytica)はヒトに、それぞれ害を与える(寄生)[5][18][19](図5)。自由生活性かつ共生性(通性共生性)と考えられているものもいる[5]。
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人間との関わり
アーケアメーバ綱のいくつかの種は、ヒトの消化管内に生育することが知られている[5]。このうち多く(大腸アメーバ、偽赤痢アメーバ、ヨードアメーバ、小形アメーバなど)は非病原性であると考えられているが、赤痢アメーバ(Entamoeba histolytica)はときに病害を引き起こす(アメーバ赤痢や赤痢アメーバ症とよばれる)[5][14][15][16](図5)。また、歯肉アメーバ[20](Entamoeba gingivalis)はヒトの口腔内にふつうに生育するが、これが肺に侵入してアメーバ性肺膿瘍症となった例が報告されている[19][21]。
系統と分類
要約
視点
高次分類
1983年、トーマス・キャバリエ=スミスがアーケゾア仮説(ミトコンドリアを欠く真核生物はミトコンドリアを獲得する前に分岐した生物とする仮説)を提唱した際に、アーケアメーバ門(Archamoebae)として設立された[3]。その範囲は変動し、たとえばエントアメーバ科はミトコンドリアを二次的に喪失したと考えられるようになり、アーケアメーバから外されたこともある[22][23]。その後、分子系統学的研究などの発展により、アーケアメーバに分類される生物はいずれもミトコンドリアを二次的に喪失したものと考えられるようになり、アメーボゾア門に属する亜門[24]や下門[25]、綱とされた。またアメーボゾアの中では、鞭毛装置の類似性(微小管からなる円錐状構造)などから、変形菌などとともにコノーサ亜門に分類することが提唱された[25]。このようにアーケアメーバの位置付けは変動したが、系統群としてのアーケアメーバの一体性は一貫して支持されており、2025年時点では、一般的にアーケアメーバはアメーボゾア門の綱の1つとして扱われている[5][26][27]。分子系統学的研究からは、アーケアメーバ綱の姉妹群は真正動菌(変形菌やタマホコリカビ類など)であり、ヴァリオセア綱やクトセア綱とともに系統群(エヴォセア)を構成していることが示唆されている[28]。
下位分類
2024年現在、アーケアメーバの中には、4つの系統群(エントアメーバ類、ペロミクサ類、Rhizomastix、マスチゴアメーバ類)が認識されており、これらはそれぞれ科として扱われていることが多い[5]。
古典的には、エントアメーバ科にはエントアメーバ属(Entamoeba)の他にエンドリマックス属(Endolimax)やヨードアメーバ属(Iodamoeba)、エンドアメーバ属(Endamoeba)などが分類されていたが[29]、エンドリマックス属やヨードアメーバ属はアーケアメーバに属するもののエントアメーバ属とは系統的に異なり、マスチゴアメーバ科に含まれることが示されている[5]。このことは、アーケアメーバの中では鞭毛の完全な欠失が少なくとも2回独立に起こったことを示している[5]。またエンドアメーバ属などについてはDNA情報がなく、その系統的位置は明らかではない[5]。
分子系統解析の進展により、アーケアメーバ属(Archamoeba)がエンドリマックス属やヨードアメーバ属(両属は単系統群を形成する)に対して側系統であることが示された[30][7]。そのため、アーケアメーバ属は分割され、狭義のアーケアメーバ属、Paramastigamoeba、Seravinia の3属に分けられた[7]。後2属はエンドリマックス属+ヨードアメーバ属により近縁であり、また鞭毛装置の構造においても狭義のアーケアメーバ属と区別できる[7]。
アーケアメーバ綱の中では、エントアメーバ科(エントアメーバ属のみ)が最初の他と分かれたと考えられており、一般的にエントアメーバ科をエントアメーバ目、他をまとめてペロミクサ目に分類する[5][30](図6)。ただし、後者をペロミクサ目とマスチゴアメーバ目に分けることもある[2]。広義のペロミクサ目の中では、ペロミクサ科が最初に分岐し(ペロミクサ亜目)、Rhizomastixidae とマスチゴアメーバ科が単系統群を形成する(マスチゴアメーバ亜目)と考えられている[5][30](図6)。
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6.アーケアメーバ綱内の系統仮説[7][30] |
表1. アーケアメーバ綱の分類体系の一例[30][7][22][31]
- アーケアメーバ綱 Archamoebea Cavalier-Smith, 1983
- シノニム: Mastigamoebea Cavalier-Smith, 1987; Pelobiontea Cavalier-Smith, 1987; Peloflagellatea Goodkov & Seravin, 1991; Entamoebea Cavalier-Smith, 1991
- エントアメーバ目 Entamoebida Cavalier-Smith, 1993
- 生活環を通じて鞭毛を完全に欠いている。動物の体内(おもに腸管内)に共生(片利共生または寄生)しているものが多いが、自由生活性と考えられるものもいる。2024年時点では、確実な属としてはエントアメーバ属のみを含む。
- エントアメーバ科 Entamoebidae Chatton, 1925
- エントアメーバ属 Entamoeba Casagrandi & Barbagallo, 1895
- 葉状仮足によって匍匐する。核小体は小さく核の中央に位置する。赤痢アメーバ (Entamoeba histolytica) はヒトの病原体となる。
- エントアメーバ属 Entamoeba Casagrandi & Barbagallo, 1895
- ペロミクサ目 Pelobiontida Page, 1976
- シノニム: Mastigamoebida Frenzel, 1892; Phreatamoebida Cavalier-Smith, 1991
- アメーバ鞭毛虫またはアメーバ。水底堆積物などに自由生活または動物腸管に共生している。
- ペロミクサ亜目 Pelomyxina Starobogatov, 1980
- ペロミクサ科 Pelomyxidae Schulze, 1877
- シノニム: Mastigellidae Cavalier-Smith, 1991
- 基本的に鞭毛をもつが、運動能が低いまたは欠如。単核単鞭毛から多核多鞭毛。自由生活性。
- ペロミクサ科 Pelomyxidae Schulze, 1877
- マスチゴアメーバ亜目 Mastigamoebina Frenzel, 1897
- マスチゴアメーバ目として独立させることもある。
- 科 Rhizomastixidae Ptáčková et al., 2013
- Rhizomastix Alexeieff, 1911
- 単鞭毛性(1種のみ2本鞭毛)のアメーバ鞭毛虫であり、単核性、鞭毛運動は比較的活発、鞭毛基部から核へ微小管の束(rhizostyle)が存在する。16種ほどが記載されており、多くは脊椎動物または昆虫の腸管内に共生しているが、自由生活性とされる種もある。
- Rhizomastix Alexeieff, 1911
- マスチゴアメーバ科 Mastigamoebidae Goldschmidt, 1907
- シノニム: Phreatamoebidae Cavalier-Smith, 1991; Endolimacidae Cavalier-Smith, 2004
- 単鞭毛性アメーバ鞭毛虫または鞭毛を欠くアメーバ、基本的に単核であるが多核のこともある。鞭毛は運動し、鞭毛基部は核と連絡している。アメーバは扁平で運動は遅い。自由生活性または動物の腸管に共生する。
- マスチゴアメーバ亜科 Mastigamoebinae Goldschmidt, 1907
- マスチゴアメーバ属 Mastigamoeba Schulze, 1875
- 単鞭毛性のアメーバ鞭毛虫、鞭毛基部から生じた微小管は下部に広がる円錐状構造を形成する。鞭毛移行部に電子密度が高い構造が存在する。
- マスチゴアメーバ属 Mastigamoeba Schulze, 1875
- 亜科 Seraviniinae Chistyakova et al., 2023
- 単鞭毛性のアメーバ鞭毛虫または鞭毛を欠くアメーバ、鞭毛基部から生じた微小管は円柱状構造を形成して下に伸びる。
- 属 Paramastigamoeba Chistyakova et al., 2023
- 単鞭毛性のアメーバ鞭毛虫。Paramastigamoeba lenta のみが知られる。
- 属 Seravinia Chistyakova et al., 2023
- 単鞭毛性のアメーバ鞭毛虫、基本的に単核性。3種ほどが知られる。
- エンドリマックス属 Endolimax Kuenen & Swellengrebel, 1917
- 鞭毛を欠くアメーバ。核小体は核中央や核膜に沿って存在する。脊椎動物や昆虫の腸内に共生する。共生関係は一般的に片利共生であるが、Endolimax piscium は魚類の筋肉組織に病害をもたらすことが報告されている。小形アメーバ(Endolimax nana)など20種ほどが記載されている。分子系統解析からはヨードアメーバ属に対して側系統であることが示唆されている。
- ヨードアメーバ属 Iadamoeba Dobell, 1919
- 鞭毛を欠くアメーバ。核小体は大きく、核中央に位置する。シストには大きなグリコーゲン塊が存在する。脊椎動物(哺乳類、爬虫類)の腸内に共生する。ヨードアメーバ(Iadamoeba buetschlii)など4種ほどが記載されている。
- 所属不明 Incertae sedis
- 以下の属についてはDNA情報がなく、系統的位置は不明であるが、アーケアメーバ綱に属すると考えられている。
- エンドアメーバ属 Endamoeba Leidy, 1879
- マスチギナ属[32] Mastigina Frenzel, 1897
- 単鞭毛性のアメーバ鞭毛虫であり、リマックス型、鞭毛運動は緩慢、鞭毛基部と結びついた1核をもつ。数種が記載されている。Tricholimax と混同されていたことがある。マスチゴアメーバ属と同一属とされたこともあるが、アメーバの形態で区別される。
- Tricholimax Frenzel, 1897
- 単鞭毛性のアメーバ鞭毛虫であり、リマックス型、鞭毛は非運動性、1–6核をもち、そのうち1つが鞭毛基部と結びついている。両生類の腸管から報告されている。1種(Tricholimax hylae)のみを含む。独立の科(Tricholimacidae Cavalier-Smith, 2013)とすることが提唱されているが、DNA情報がなくその妥当性は不明である。形態形質からはペロミクサ科への所属が示唆される。
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脚注
外部リンク
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