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アメリカ合衆国における死刑
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アメリカ合衆国における死刑(アメリカがっしゅうこくにおけるしけい)では、アメリカ合衆国における死刑について解説する。

死刑廃止州
法律上は死刑制度を維持。ただし、死刑を執行しないという公約をしている州
法律上は死刑制度を維持。ただし、死刑を過去10年以上実施していない州
法律上は死刑制度を維持。ただし、特殊な事情が適用される州
死刑存置州

死刑制度存置州
死刑制度廃止州

歴史
要約
視点
アメリカ合衆国の歴史において、死刑の執行人数が最も多い時代は20世紀初頭である。例えば、1930年代~1940年代は年間100~200人が執行されていた。
1950年代頃から50~100人へと漸減し、1960年代はアメリカ社会がリベラルであったため死刑執行人数が特に減少した[1][2]。
1972年6月に、死刑はアメリカ合衆国憲法修正第8条が禁止する残虐な刑罰に相当する違憲であるか、相当しない合憲であるかについて争われた、ファーマン対ジョージア州事件の連邦最高裁判決で違憲と判断され[3]、その年から1976年までの約4年間全米で死刑制度が廃止された。
1976年7月のグレッグ対ジョージア州事件の連邦最高裁判決で、犯した罪の重大性と比較して過剰でない条件付で合憲との判断を出したため死刑制度が復活し、翌1977年1月17日から死刑の執行も再開された。再開時最初の死刑執行は、「死刑にされる権利」をユタ州のランプトン知事に要求したゲイリー・ギルモアの銃殺刑であった。それ以後も、執行方法によっては残虐であるとして違憲とされたケースが有る。
1990年代においては三振法に代表される厳罰化傾向が顕著になり、死刑判決数は1996年には1977年の死刑判決再開以後の最多の315人に増加し、死刑執行数は1999年には1977年の死刑執行再開以後の最多の98人に増加し、確定死刑囚は2000年には1977年の死刑判決再開以後の最多の3593人に達した[4]。
2000年代以後は、冤罪事件が続々と明らかになることなどにより、死刑判決数も死刑執行数も減少傾向である[5][6]。NPO団体『死刑情報センター(Death Penalty Information Center)』によると、1976年の連邦最高裁の合憲判決による死刑判決再開後、死刑判決数は1996年には最多の315件に増大したが、2020年以降は、一時的に執行人数が20人前後で推移しており、2024年は増加し26件となったが、1996年と比較して約8.3%である。
1976年の連邦最高裁の合憲判決による死刑執行再開後、死刑執行数は1999年には最多の98人に増大したが、2020年~2022年には2019年コロナウイルス感染症流行の影響により、2020年において死刑判決再開後の最少の11人となった。その後の2024年は25人であるが、1999年と比較して25.5%に減少した[6]。
ワシントン州では、1972年、1979年、1981年の3回、死刑は違憲との判断を下していたが、その都度州議会が新法が採択、死刑が存続されてきた。しかし2018年、死刑囚の異議申し立ての中で、ワシントン州の各裁判所で死刑の判断が異なることや、全ての条件が同じならばアフリカ系アメリカ人が死刑判決を受ける確率は白人の4.5倍となる可能性を示す調査結果などが示された結果、州の最高裁判所は「人種的に偏りがある」として死刑を廃止する判断を下し、直ちに実行された[7]。
2025年1月1日時点では、全米で2,095人の死刑囚が収監されている[8]。また、州別では最多はカリフォルニア州(591人)で全米の約28.2%を占めており、アメリカ南部州のフロリダ州(283人)とテキサス州(178人)も含めた場合、約50.2%と3つの州で約半数を占めている。
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立法行政司法単位別の死刑に関する法律と判決と執行の差異
2024年12月時点で、連邦+軍隊+27州の合計29の立法行政司法単位は法律で死刑を定めている[9][10]。ネブラスカ州議会は2015年に死刑を廃止したが、2016年に死刑を復活させた[11]。
2024年12月時点で、23州+ワシントンD.C.+5自治領の合計29の立法行政司法単位では法律に死刑は無い[9][10]。
2024年には、法律で死刑を定めている合計29の立法行政司法単位のうち、アラバマ、アリゾナ、カリフォルニア、フロリダ、アイダホ、ミシピッピ、ネバタ、オハイオ、テネシー、テキサスの合計10の立法行政司法単位で死刑判決が有った[5]。アリゾナ、カルフォニア、アイダホ、ネバタ、オハイオ以外は、南部諸州である。
2024年には、法律で死刑を定めている合計29の立法行政司法単位のうち、アラバマ、フロリダ、ジョージア、インディアナ、ミズーリ、オクラホマ、サウスカロライナ、テキサスの合計8の立法行政司法単位で死刑が執行された[12]。ミズーリとインディアナ以外は、南部諸州である。
2015年~2024年の間で、法律で死刑を定めている合計29の立法行政司法単位のうち、アラバマ、フロリダ、ジョージア、ミズーリ、オクラホマ、テキサスの合計6の立法行政司法単位は、死刑執行があった年が5年以上あった[6]。ミズーリ以外は、南部諸州である。
2024年終了時点で、法律で死刑を定めている合計29の立法行政司法単位のうち、軍隊、カリフォルニア、アイダホ、カンザス、ケンタッキー、ルイジアナ、モンタナ、ネバダ、ノースカロライナ、オレゴン、ペンシルバニア、ワイオミングの合計12の立法行政司法単位は、最近10年以上連続で死刑の執行が無い、死刑の執行が停止状態の立法行政司法単位である[6]。ケンタッキー、ルイジアナ、ノースカロライナは南部諸州である。
1847年にミシガン州が最初に死刑を廃止して以後、法律に死刑が無い立法行政司法単位も、法律上は死刑を定めているが10年以上連続で死刑の判決が無い判決停止状態の立法行政司法単位も、法律上は死刑を定めているが10年以上連続で死刑の執行が無い執行停止状態の立法行政司法単位も、時代の進行とともに増加してきた[5][6][9][10]。
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立法行政司法単位別の死刑の有る無しと殺人発生率の関係
アメリカ合衆国では連邦+軍隊+50州+ワシントンD.C.+5自治領の計58の立法行政司法単位が有り、法律上の死刑の有無、死刑判決・死刑執行は、連邦+軍隊+50州+ワシントンD.C.+5自治領の計58の立法行政司法単位により差異が有る。殺人の発生率の高い州で死刑制度が維持される傾向であり、特に南部諸州で顕著であるが、法律に死刑が無い死刑廃止地域であるワシントンD.C.とプエルト・リコは、毎年の殺人発生率が他の50州と比較して大差で1位と2位であり、殺人発生率の高低と死刑制度の有無が関連しているかは不明である。
死刑が無い立法行政司法単位と死刑が有る立法行政機関のどちらが殺人発生率が高いか低いか、死刑が有るか無いかが殺人発生率に影響を与えるか、下記の原因により正確な比較・判定は困難である。
- 死刑が有る立法行政司法単位と死刑が無い立法行政司法単位の明確で統一された定義は存在しない。
- 下記の状態-1は死刑が有る立法行政司法単位、下記の状態-5は死刑が無い立法行政司法単位と判定されるが、状態-2・状態-3・状態-4は、死刑が有る立法行政司法単位に分類するか、死刑が無い立法行政司法単位に分類するか、明確な分類基準は無い。
- 状態-1:法律で死刑を認めていて、死刑判決と死刑執行が毎年有る。
- 状態-2:法律で死刑を認めていて、死刑判決と死刑執行が毎年は無いが、最近10年以内に少なくとも1件は死刑判決と死刑執行が有る。
- 状態-3:法律で死刑を認めていて、最近10年以内に少なくとも1年は死刑判決が有るが、最近10年以上連続で死刑執行が無い、死刑執行停止状態。
- 状態-4:法律で死刑を認めていて、最近10年以上連続で死刑判決と死刑執行が無い、死刑判決も死刑執行も停止状態。
- 状態-5:法律で死刑を認めていない。
- 上記の状態-1・状態-2・状態-3・状態-4・状態-5は年度により変化する(下記の表を参照)、または、時代の進行により変化するので(下記の表を参照)、年度または時代により、死刑が有る立法行政司法単位と死刑が無い立法行政司法単位の母集団は変動・変化していて、母集団を特定する明確な基準が無い。
- アメリカ合衆国全体でも、連邦・軍隊・50州・ワシントンD.C.・5自治領のいずれも、殺人発生率は年度や時代により変化し、1960年~2018年の期間に、アメリカ合衆国全体では2倍以上、立法行政司法単位別では、最小2倍以上~最大18倍以上変動している(下記の表を参照)。
死刑の適用の制限
要約
視点
アメリカ合衆国連邦最高裁は死刑を適用できる犯罪者の対象を制限する傾向であり、2000年以降に死刑の適用範囲を制限する判例を出している。たとえば2002年6月に陪審員による裁判を選択した被告人は、裁判官ではなく陪審員によって死刑の是非を判断してもらう憲法上の権利が有るとされた。2002年6月にはバージニア州の精神遅帯者(知能指数が低い)被告人に対するバージニア州の死刑判決を『異常な刑罰』として憲法違反とした(アトキンス対バージニア判決)[13]。[14]
2005年3月にはミズーリ州の18歳以下の少年犯罪者に対する死刑適用は憲法違反との判決を出した。当時全米19州が少年犯罪者に対する死刑を規定[15]していたが、テキサス州など6州は存置意見を表明[13]していた。また後述のように2008年6月に被害者が死んでいない犯罪行為に死刑を適用する法律を違憲としている。そのため連邦最高裁は死刑制度を容認しているが、誰を死刑にするか慎重になってきている。
アメリカ合衆国では、かつて生命までを奪わない「強姦を罪状とする死刑」が横行していた。1870~1950年までに強姦を理由に771件が死刑判決を受けたが、そのうち701人が黒人であった。人種差別との批判が相次ぎ、1972年に連邦最高裁によって「強姦を罪状とする死刑」は違憲判決が出された。しかし、判決が成人が対象であったことから、「未成年に対する殺害を伴わない性犯罪の再犯者」へ死刑が適用される州法がサウスカロライナ州、フロリダ州、ルイジアナ州、モンタナ州、オクラホマ州の5州で成立していた。この殺人を犯していない性犯罪者に対する死刑適用は過酷であり、憲法違反であるとの強い批判があったが、連邦最高裁は2008年6月25日[16]にルイジアナ州で8歳の少女を強姦したケネディ対ルイジアナ州事件に対し「非道な犯罪であっても、被害者が死んでいない事件で死刑を適用する法律は、残酷な刑罰であり合衆国憲法に違反し無効」という憲法判断を5対4の小差で判断し、ルイジアナ州法の「13歳未満に対する強姦犯罪に死刑が適用される」との規定を違憲とした。なお、この連邦最高裁の違憲判決に対し、バラク・オバマ(後にアメリカ大統領に当選、当時は予備選挙中だった)は「強姦に対する死刑」を肯定する発言を行い、違憲判決を批判している。
近年の犯罪捜査ではDNA鑑定が導入されてきた結果、1993年にカーク・ブラッズワースに無罪判決が出されたことを皮切りに、過去に死刑判決を受けた数多くの死刑囚の冤罪が明らかになり全米に大きな衝撃を与えた。そのため2004年には連邦議会は有罪判決確定後もDNA鑑定を受ける権利を保障した、冤罪者保護法(Innocent Protection Act 2004)を成立させた。1973年から2023年1月8日までにアメリカ国内で190名の死刑囚の無罪が判明し釈放されているが、その内29名がDNA鑑定によるものである[17]。特にフロリダ州では30名も釈放されており(内DNA鑑定によるものは3名)、10名の死刑執行が行われる間に3名が無罪放免されたことになる。
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執行の状況
要約
視点
赤は銃殺刑、橙色はガス室、黒は電気椅子、紫は絞首刑、緑は薬物注射、黄緑はその他
1900年代までは、絞首刑が主流であったが、死刑執行方法に電気椅子を採用してからは、電気椅子に代わる形で著しく減少した。1924年2月8日~1999年3月3日の間にガス室による執行も行われ、1939年~1964年の間は、電気椅子に次いで行われていた。
グレッグ対ジョージア州事件の後、殆どの州が薬物注射による死刑に変わり、1990年以降は、主流となっている。
アメリカ合衆国史上初めて死刑執行された人物は、ジョージ・ケンドール大尉(罪状:スペインのスパイ。執行当時、イギリス植民地のジェームズタウンの評議員)であり、1608年12月1日に銃殺により死刑執行された[18]。
そして、アメリカ独立前の1622年からハイチ侵攻を始めた1915年まで、死刑執行方法は主に絞首刑(執行開始自体は1622年、アメリカ合衆国内で最後にこの方法で執行されたのが1996年)であった。その後、1916年から公民権法が制定された1964年は絞首刑に変わって電気椅子(執行開始自体は1890年)が主となった。そして、死刑再開前の1965年から1967年の3年間は各年で10人未満の死刑執行が行われた。その後、1967年6月3日~1977年1月16日の約9年7カ月の一時停止が行われた後、1977年1月17日に再開した。そして、1980年代は再開前と同じ電気椅子が主であったが、1990年以降は、1991年を除き薬物注射による死刑(執行開始自体は1982年)が主流となっている[19][20]。
2007年1月、ノースカロライナ州では死刑制度を実質的に停止せざるをえない状況に追い込まれた。2006年4月、内科医ロベルト・ビルブロなど5人の医師が、医師免許を管轄する権限を持つノースカロライナ州メディカル・ボード(医療監察委員会)に投書し、「医師が死刑執行に関わるのは『命を救う』という本来の責務に悖る。倫理の観点から医学界として立場を明確にしなければならない」と「死刑執行に関わる医師の役割」についてボードが立場を明確にすることを求めた。2007年1月、ボードは、既にアメリカ医師会が倫理規定で「医師は死刑執行に関わるべきでない」と決めたことを指摘して「反倫理行為は罰する」と立場を明確にし、全員一致で「医師が死刑執行に関わる行為は倫理の観点から許されない。今後、関わった医師は免許取消など処罰対象とする」と結論した。ノースカロライナ州は州法で「死刑執行に医師を立ち会わせなければならない」と規定しているが、ボードが方針を決定した後、立ち会う医師がいなくなった(州矯正局職員である医師も立ち会いを拒否)[21]。
アメリカ合衆国国内の死刑執行のうち大部分は南部諸州で行われ、実際に1977年から2024年までの48年間で約80.8%(1,607人中1,299人)が南部諸州で行われている。更に1977年~2024年の間(但し、2020年~2022年の間と2024年を除く。)に南部諸州の1つであるテキサス州は2位以下に大差をつけている最多執行州である(下記の表を参照)。アメリカ合衆国の死刑執行総数におけるテキサス州の割合は、1977年から2024年までの48年間で全米で1,607人のうちテキサス州で591人(36.8%)、1980年から1989年の10年間で全米で117人のうちテキサス州で33人(28.2%)、1990年から1999年の10年間で全米で478人のうちテキサス州で166人(34.7%)、2000年から2009年の10年間で全米で590人のうちテキサス州で248人(42.0%)、2010年から2019年の10年間で全米で324人のうちテキサス州で120人(37.0%)、2020年から2024年の5年間で全米で95人のうちテキサス州で24人(25.3%)を執行している(下記の表を参照)。
テキサス州では、現在では合衆国連邦裁判所で憲法違反判決が出され禁止された、18歳以下の少年犯罪者に対する死刑執行も行われていた。連邦および全米18州で精神遅滞者に対する死刑を禁止(日本の刑法39条に相当)しているが、テキサス州では禁止されていなかった。そのため、テキサス州議会が精神遅滞者に対する死刑を禁止する法案を2001年に可決したが、州知事によって拒否権が発動したため、施行されなかった。ただし、連邦最高裁が精神遅滞者に対する死刑を「異常な刑罰」として違憲判決を出したため、このような処刑は行われないことが確定した。
テキサス州では、2007年に全米で執行された42人のうち26人が同州で執行され、全米の執行の61.9%が執行されていた。同州のこのような姿勢をニューヨーク・タイムズは「執行に対する住民の積極的な支持」、ロイター通信は「犯罪者に厳罰を科すことをいとわない『カウボーイ気質』と報道した[22]。また死刑再開前では、19世紀後半から死刑違憲判決前の1972年まで、州別ではテキサス州は1位でないものの上位5位に入るほどの多さであった[23]。但し、2005年に絶対的終身刑を導入したことにより、執行数は2016年以降2018年を除いて1桁執行であり、判決に関しては、2008年以降2014年を除いて1桁で推移している。
そのテキサス州において、死刑執行反対運動が起きた女死刑囚にカーラ・フェイ・タッカー(en:Karla Faye Tucker)(1959年11月18日生まれ)がいた。タッカーは1983年6月13日、友人の男と共謀し、車を奪うという強盗目的で自身の元恋人とその交際相手の女性が住むアパートに侵入、女性をツルハシで28回に渡り滅多刺しにして殺害し、ツルハシを心臓に突き刺したまま逃走するという、残虐かつ猟奇的な殺人事件を起こしていた。のちにタッカーと共犯の男は、周囲に自身が起こした猟奇殺人を自慢気に語っていたところを警察に通報され、逮捕された。主犯の女・タッカーは友人に対し「心臓につるはしを突き刺した時、あまりの興奮に絶頂を迎えた」と語っていた。裁判ではその残虐性などから死刑が宣告された。当時の世論では、女死刑囚に対して死刑が執行されることは無いのではとの声もあがっていたが、当時のブッシュ知事(のちの第43代大統領)は死刑執行許可の書類にサインした。
その後、タッカーは神父と獄中結婚、キリスト教(カトリック)へ改宗した。タッカーは執行数週間前から宗教番組に獄中から出演、キリスト教徒として自らの罪を悔い改め、世の中の人々に役立つ行いをしていきたいと語ったことから、特に死刑廃止論者たちからは多くの同情を集めたほか、当時のローマ教皇ヨハネ・パウロ2世は助命嘆願をした。そのため全米で死刑制度問題が改めて注目を集める事になった。結局ブッシュ知事は恩赦を拒否し、1998年2月3日に執行された。38歳。タッカーは南北戦争後にテキサス州で処刑された初めての女死刑囚であり、全米では14年ぶりの女死刑囚に対する処刑であった。なおアメリカではタッカー役にジェニファー・ジェイソン・リーを起用して"Crossed Over: A Murder/A Memoir"(邦題:クロスオーバー ふたりの女)というテレビドラマが制作されたほか、死刑廃止論者らによってタッカーを偲ぶサイトが作られるなどした。
1995年に発生したオクラホマシティ連邦政府ビル爆破事件(168人殺害)で11の連邦法違反で有罪になったアメリカ人テロリストのティモシー・マクベイに対する薬殺刑による死刑執行が2001年6月11日にインディアナ州テレホート連邦刑務所で行われた。この連邦政府による死刑執行は38年ぶりのことであった。当時のCNNの世論調査によれば8割以上のアメリカ市民が彼の死刑執行に賛成したが、問題になったのが彼の死刑執行の瞬間を全米に散らばっている被害者の遺族800人に見せるため生中継(暗号送信のため、関係者以外は見られないよう配慮されていた)したことであった。これは処刑の立会いに全員が参加出来ないためにとられた措置であったが、このことについては論議になったという。
2011年、薬殺刑に用いられるチオペンタールが、アメリカ合衆国内で入手が困難になり、各州で新たな薬剤の組み合わせによる薬殺刑が模索された。しかし、2014年4月29日、オクラホマ州で行われた死刑では、新たな薬剤の組み合わせによる薬殺刑が40分以上かかるなど事実上失敗。同日に執行される予定であった死刑執行が中止されるなどの余波が生じた[24]。2016年のアラバマ州の執行例では、死刑囚が13分にわたって苦しんだことが明らかになっており、チオペンタールなどに代わる薬物が有効に機能しているかという点に疑問が投げかけられている[25]。
2019年7月25日に、ウィリアム・バー米司法長官は25日、連邦政府が2003年を最後に停止していた死刑執行の再開を決め、殺人罪で有罪となった死刑囚5人の刑執行日を2019年12月9日から2020年1月15日の間に設定したと発表した。執行日が確定した死刑囚には、家族3人を殺害した白人至上主義者組織のメンバー(Daniel Lewis Lee)や63歳の祖母を刺殺した男(Lezmond Mitchell)、16歳の少女に性的暴行を加えた上で殺害した男(Wesley Ira Purkey)などが含まれる。バー氏は米連邦刑務所局に対し、死刑執行の再開に向け、薬物注射による刑執行の新手順制定を指示した。バー氏は声明で「司法省は法の支配を守る。われわれには、犠牲者とその家族のために、司法制度が言い渡した刑を執行する義務がある」と説明した。執行を停止していた理由は、主に2つある。1つは、連邦レベルの死刑執行では以前、意識を失わせ、まひさせ、心停止させるという3段階の薬剤を投与する手法がとられていた。だが、残虐な刑罰を禁じる憲法に違反すると指摘する訴訟が起こされるなどしたこと、もう1つは、バラク・オバマ前大統領の執行に対する消極的姿勢によるものである。前者については、問題が指摘されていた死刑執行に使用する薬品を14州で広く使用されている麻酔薬ペントバルビタールだけを用いるよう運用を変更することで再開が可能になったこと、後者は、2017年に大統領となったドナルド・トランプ大統領の暴力犯罪に対する処罰の厳格化によって、死刑執行はその期間内に再開されるはずであった[26][27][28][29][30]。しかし、同年10月には、1人が別の訴訟により死刑執行停止の判断が下され、残りの4人も11月には死刑施行の際に投与する薬物の問題が解決されていないことを理由として、連邦地方裁判所が死刑執行差し止めの判断を下し、最終的に連邦高等裁判所が地方裁判所を支持する形で、差し止めの判断を下したため、連邦政府による死刑執行が一時見送られることになった[31][32]。
だがその後、2020年7月14日に米連邦最高裁は、死刑執行の差し止め命令を無効とする判断を下し、その日の内に家族3人を殺害した白人至上主義者組織のメンバー(Daniel Lewis Lee)を執行し、連邦で17年振りに執行されることとなった[33]。また、次期政権への移行中に当たる時期は死刑執行を差し控える慣習があるが、それを無視する形でクリーブランド政権以降、131年振りにその期間における連邦政府による死刑執行が行われた[34]。そして、2020年中には連邦政府によって10人が死刑執行され、この年でテキサス州を抜いて立法行政司法単位別で最も多く執行した機関となり、連邦政府として120年超で初めて2桁の執行を行った[35]。更に、2021年1月13日午前1時31分に、女性死刑囚であるリサ・モンゴメリーが2019年コロナウイルス感染症の流行による影響で死刑執行の延期をした上でインディアナ州テレホート連邦刑務所で薬物注射により執行され、連邦政府による女性への死刑は1953年9月28日にボニー・ヘディが誘拐殺人の罪で死刑執行されて以来と67年振りであり、全米においては2015年9月30日にケリー・ギッセンダナーが死刑執行されて以来の5年振りであった[36][37]。そして、同年1月16日午前1時23分に3人の黒人女性を殺害したダスティン・ヒッグスが薬殺刑によって死刑執行され、トランプ政権で最後の連邦政府による死刑執行となった。トランプ政権により2020年7月~2021年1月の7カ月間に死刑囚13人が死刑執行されたことになる[38]。
2020年大統領選挙に勝利し、2021年1月20日に就任したバイデン大統領は、連邦政府による死刑を廃止し、死刑存置州に対して廃止を促す考えを表明した[39]。その後、同年7月1日において、メリック・ガーランド司法長官より、連邦政政府による死刑執行を一時停止することを発表した。一時停止する理由は、前トランプ政権時に行われた死刑執行に対する政策や手続きについて検証を行うことを述べ、検証期間は明示しなかった。また、メリック・ガーランドは発表の際、「司法省は、連邦刑事司法制度の誰もが、米国の憲法と法律によって保証された権利を与えられるだけでなく、公正かつ人道的に扱われることを保証しなければならない」「死刑の場合、この義務は特段の強制力がある」と述べており、人種間(特に黒人が死刑になりやすい傾向にあること)における死刑格差や冤罪による死刑執行を念頭に置いた発言を行っている[40][41][42]。実際に、発表前の同年2月に議会で開かれた司法長官指名承認のための公聴会でも、人種間格差と冤罪による死刑執行に対する懸念を述べている[42]。
2023年1月3日に交際女性に対し不同意性交殺人をした罪で、[43] ミズーリ州で薬物注射による死刑執行を受けたアンバー・マクラフリンが、自身がトランスジェンダーであることを公表した上でアメリカ合衆国内で死刑執行された初めての人となった[44]。また、女性の死刑執行は前述のリサ・モンゴメリーから約2年ぶりであった。
2024年1月25日にアラバマ州アトモアのホルマン矯正施設(刑務所)で、1988年に被害者の夫(後に捜査が自らに迫ると自死した。)に依頼され1人当たり1,000ドルの報酬を条件に共犯2人(1人は仮釈放のない終身刑を受刑し2020年11月に獄死、もう1人は2010年6月10日に薬物注射により執行)と一緒に暖炉の道具で刺し、殴打して殺害した罪で死刑囚となったケネス・ユージン・スミスに対して、世界初となる高重度窒素ガス吸入による死刑施行が行われた。行われた背景には、2022年11月に薬物注射による死刑が執行されたが、血管を浮き上がらせることが出来ずに執行が失敗に終わったため、別の執行方法で行う必要が迫られたことにある。なお、この執行方法に対して国連人権高等弁務官事務所と連邦最高裁判所のリベラル派判事であるソニア・ソトマイヨールが反対を表明している[45][46][47]。
2024年12月23日にバイデン大統領により、連邦法違反で死刑が確定した死刑囚40人の内37人を仮釈放のない終身刑に減刑された[48]。この決定に対して、被害者遺族や一部の共和党員から批判の声があがり、大統領に就任している間に13人の死刑執行したトランプは「減刑された死刑囚37人に『メリー・クリスマス』とは言わない。『地獄に行け!』。」「寝ぼけたバイデンが暴力的な犯罪で死刑になった囚人に恩赦を与えた。」とSNSで非難した[49]。
なお、トランプは2017年~2021年の間で大統領として就任している時に、恩赦や減刑などの減免制度を利用する頻度が他の大統領に比べてはるかに少なかったものの143人に対する恩赦と減刑を行っている。その中にアメリカ=メキシコ国境に壁を建設する費用の名目で、数十万人からクラウドファンディングで資金を集め、その一部を着服した疑いで捕まったトランプの元首席戦略官だったスティーブ・バノンが含まれている[50]。更に、2024年アメリカ合衆国大統領選挙に勝利し2025年1月20日に大統領に就任した際、議会襲撃事件で起訴された参加者のほぼ全員となる1500人余に恩赦を与えている[51]。そして、恩赦と減刑に関してバイデンは、11日前には非暴力犯罪で有罪判決を受けた米国民39人への恩赦と1499人への減刑を行っており[52]、22日前には銃の購入や所持をめぐる3件の連邦法違反の事件で有罪評決を受けた自身の息子のハンター・バイデンに恩赦を与え物議を醸している[53]。なお、減刑されていない死刑囚3人はボストンマラソン爆弾テロ事件の実行犯ジョハル・ツァルナエフとチャールストン教会銃撃事件を引き起こし白人至上主義を公言するディラン・ルーフとピッツバーグ・シナゴーグ銃撃事件を引き起こしユダヤ教礼拝者11人を殺害したロバート・バウアーズである[48]。
2024年大統領選挙に勝利し、2025年1月20日に再び就任したドナルド・トランプ大統領により、就任当日に一時停止した連邦政府による死刑を大統領令「RESTORING THE DEATH PENALTY AND PROTECTING PUBLIC SAFETY」(連邦政府の死刑制度の復活と公共の安全の保護)[54]により復活した。
また、大統領令第1条では前述のバイデン政権に行われた一時停止や死刑囚37人の減刑恩赦を非難している。他にも、第3条b項より警察官や刑務官を含む法執行官への殺人と不法滞在者が起こした死刑に相当する犯罪に対しては法律に違反しない範囲で死刑の求刑を必ず行わなければならなくなった。更に、同条e項でバイデン大統領により減刑恩赦された前述の元死刑囚37人に対して拘束状況を評価した上で、元死刑囚が起こした犯罪の残虐性と脅威に見合った条件に合う措置を行わなければならないことが明記されている。
調査会社ギャラップの世論調査では、2023年10月の調査では、殺人の罪に対しての刑罰に死刑を含めることに賛成する者が約53%を占め反対派(約44%)を上回っているが、1994年の約80%をピークに賛成と回答する割合が低下傾向にある。また、政治的傾向があり、共和党支持者が約81%と過半数を大幅に上回るのに対して、民主党支持者は約32%と半分以下である。
なお、別に行われた2019年10月調査で、米国民は殺人に対する刑罰に対し、仮釈放の無い終身刑を60%が支持し、死刑は36%が支持している。この調査より、1990年代は同調査で約6割程の米国民が支持していた死刑が、2019年時点で、死刑より終身刑を望む米国民が多くなっている事実が表れている[55][56][57]。これは、前述の免罪事件が次々と明らかになったこと、グレッグ対ジョージア州事件の連邦最高裁判決により死刑になる可能性のある事件に対して手厚い手続的保証によりコストがかかること、代替刑である仮釈放の無い終身刑の存在が挙げられる[58]。
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死刑と社会的格差の関連
要約
視点
死刑が適用されるのは、アメリカでも殺人犯が大半であるが、黒人よりも白人が被害者の場合4倍死刑になる確率が高いと言う調査結果をスタンフォード大学の研究グループが1984年に発表[59]している。それによると1984年当時女性13人を含む1273人の死刑囚が収監されていたが、スタンフォード大学の研究グループは全米6州の約17000人の殺人犯を対象にして導いた結果であった。この人種間差別は北部では特に顕著で、オハイオ州では白人による白人殺害事件173件のうち44件(25.4%)で死刑が言い渡されていたが、黒人殺害事件47件のうち死刑が言い渡されたのは0件(0.0%)であった。南部では北部のような被害者の人種による死刑が言い渡される確率の大きな違いは認められなかった[60]。
そして、1608~2002年の間に14州とコロンビア特別区が、被死刑執行者の半数以上を黒人が占めていた。また、全てがアメリカ合衆国統計局の分類でアメリカ南部とされる地域であり、州別で最も多かったアラバマ州においては、黒人が約85.0%を占めていた。逆に非南部州であるミネソタ州・バーモント州・ニューハンプシャー州・ミシガン州・ノースダコタ州は、黒人が死刑執行されたのが1人のみであり、ハワイ(ハワイでは、日本人移民を含めたアジア系移民を受け入れた背景から、アジア系が被死刑執行者の約9割を占める唯一の州となっている。)とウィスコンシン州に至っては無しであり、州間においても執行数も含め格差がある[61]。
また、1900年から1969年の間に、白人は殺人以外の罪で死刑を受けることはなかったが、黒人は性犯罪や窃盗でも死刑になっていた。更に南北戦争前まで遡ると、白人が被害の場合の死刑適用や犯罪内容によって黒人が加害者に限り適用する法律が存在していた[62]。
2022年10月1日時点において、死刑囚の人種別では、42.07%が白人、13.97%はラテン系、41.05%が黒人、1.02%がネイティブアメリカン、1.90%がアジア系であった。[63]そして、国勢調査による人口に占める人種の割合では、約12.2%しか占めない黒人が死刑囚では約4割も占めており、黒人が死刑囚になる割合が高いことを示している。また、2021年3月25日にバージニア州知事のラルフ・ノーサムは死刑廃止法案に署名する際、20世紀中に同州で処刑された死刑囚の8割近く(377人の内296人)が黒人だったと指摘しており、独立前の1608~2002年においてはアラバマ州に次いで黒人の死刑執行の割合が多かった[39][61]。
刑事事件の捜査段階において、被害者の家族に対して慰謝料や賠償金の支払いや受領の交渉をして承諾や同意を得られるか、検察官に対して責任能力が必要十分に有るか限定されるか無いかの鑑定や、責任能力に照らして起訴か不起訴か交渉できるか、刑事裁判の判決において、有罪か無罪か、有罪判決の場合に量刑判断が、死刑か、恩赦や仮釈放の可能性を認めない無期刑か、恩赦や仮釈放の可能性を認める無期刑か、有期刑か、被疑者・被告人やその家族が、優秀な能力と強い意思を持つ弁護士を依頼できる収入や財産が有るか無いか、収入や財産が多いか少ないかで、結果に差異が発生する格差が存在している。
死刑執行を死刑囚に当日まで告知しない日本とは異なり、アメリカでは死刑執行が本人だけでなく公表される場合が有る。そのため、前述のカーラのように死刑囚本人がテレビに出演したり、死刑存置派の執行歓迎集会と死刑廃止派の執行抗議集会が死刑執行が行われる刑務所の周辺で開催されることもある。また、連続少年強姦殺人犯(犠牲者33人)のジョン・ゲイシーに対し、いち早い死刑執行を訴えデモ活動が行われた[64]ほか、執行に際しては逮捕前に彼がよくしたピエロの扮装をした一団が執行を称えるパレードが行われた[65]という。
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立法行政司法単位別・年度別の死刑判決数と執行数
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立法行政司法単位別・年度別の殺人発生率
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薬物による執行方法
薬物による死刑を執行している連邦・軍隊・州では以下の3種の薬物が使われている。
しかし、死刑廃止が主流となっているヨーロッパの医薬品メーカーは、アメリカの死刑に自社の薬品を使わないように求めており、アメリカは代替薬の使用を迫られている。2014年1月16日、オハイオ州で執行された死刑では、ミダゾラムとヒドロモルフォンが使われたが、死刑囚が10分にわたって苦しんだため、論議を呼ぶ可能性が有る[148]。2014年4月29日には、オクラホマ州で薬物注射による刑執行が行われた時、薬物注入後も頭を上げ、言葉を発するなどしたため、刑執行が中止された。死刑囚は執行開始から約40分後に心臓発作で死亡したが、これは拷問死ではないかと議論を呼んだ[149]。
また、2010年以降、ジョージア州、ミズーリ州、およびテキサス州を含む14州で上記の3種の薬物に代わり、麻酔薬のペントバルビタールが使用されている[26]。
前出の薬物の出荷制限や失敗事例を受け、薬物の代替となる新たな死刑執行方法として、2024年1月にアラバマ州アトモアのホルマン矯正施設で、体内に高重度の窒素ガスを吸入させ、低酸素症を起こさせる方法での死刑が執行された。イギリスの医学誌によればこの方法による処刑は世界初とされており、死刑反対派などからは「新手法の実験台になる」との懸念が出ていた[150]。執行された当該死刑囚は窒素ガス吸引後身をよじらせ、呼吸が荒い状態が約5分間続き、死に至ったとされる[151]。窒素ガスによる処刑が認められている州はアラバマ州、オクラホマ州、ミシシッピ州の3州となっている[152]。
脚注
参考文献
関連項目
外部リンク
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