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ウィリアム・シェイクスピアの喜劇 ウィキペディアから
『ヴェニスの商人』(ヴェニスのしょうにん、The Merchant of Venice)は、ウィリアム・シェイクスピアの喜劇、戯曲である。1594年から1597年の間に書かれたとされている。『ベニスの商人』とも記される。「人肉抵當裁判」として紹介されたこともある。
ヴェニスの商人 The Merchant of Venice | |
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Q1のタイトルページ | |
脚本 | ウィリアム・シェイクスピア |
オリジナル言語 | 英語 |
シリーズ | ファースト・フォリオ |
主題 | 借金 |
ジャンル | シェイクスピア喜劇 |
舞台設定 | 16世紀 ヴェネツィア |
タイトルの『ヴェニスの商人』とは有名なユダヤ人の金貸しシャイロックを指すのではなく、商人アントーニオのことである。英語のmerchantというのは小売商のような「商人」ではなく、むしろ「貿易商」を意味する[1]。貿易で栄えたヴェニスが舞台になっているのはそのためである。
中世イタリアのヴェネツィア共和国と架空の都市ベルモントを舞台に繰り広げられる商取引と恋の喜劇で、高利貸しシャイロックが金を貸す際に取った、人命にかかわる内容の証文が現実になったことによって起こる裁判と、ベルモントの美しい貴婦人を射止めんとする若者の話を基軸とする。
この話の元になったものとして主に次の2つがある。ひとつは中世イタリアのデカメロン調の物語集『イル・ペコローネ(愚者)』(Il Pecorone)の4日目第1話であり、人肉裁判と指輪の部分の原話である。もうひとつはラテン語による短編集『ゲスタ・ローマーノールム』で、箱選びの部分の原話となっている。
舞台はイタリアのヴェニス(ヴェネツィア)。バサーニオは富豪の娘で相続人のポーシャと結婚するために先立つものが欲しい。そこで、友人のアントーニオから金を借りようとするが、アントーニオの財産は航海中の商船にあり、金を貸すことができない。アントーニオは悪名高い高利貸しのシャイロックに金を借りに行く。アントーニオは金を借りるために、指定された日付までにシャイロックに借りた金を返すことが出来なければ、シャイロックに彼の肉1ポンドを与えなければいけないという条件に合意する。
アントーニオは簡単に金を返す事が出来るつもりであったが、船は難破し、彼は全財産を失ってしまう。シャイロックは、自分の強欲な商売を邪魔されて恨みを募らせていたアントーニオに復讐できる機会を得た事を喜ぶ。一方、シャイロックの娘ジェシカは純真で心が美しく、父の冷酷非道を嫌ってロレンゾと駆け落ちしてしまう。
その頃、バサーニオは、ポーシャと結婚するためにベルモントに向かう。ポーシャの父親は金、銀、鉛の3個の小箱から正しい鉛の箱を選んだ者と結婚するよう遺言を残していた。バサーニオはポーシャの巧妙なヒントによって正しい箱を選択する。バサーニオはポーシャから貰った結婚指輪を絶対はずさないと誓う。しかし、バサーニオの元にアントーニオがシャイロックに借金返済が出来なくなったという報せが届く。バサーニオはポーシャから金を受け取りヴェニスへと戻る。一方、ポーシャも侍女のネリッサを連れて密かにベルモンテを離れる。
シャイロックはバサーニオから頑として金を受け取らない。どれだけ積まれても受け取らない理由はアントーニオが嫌いだからだという。
「好きになれなきゃ殺す、人間ってそんなものか?」
「憎けりゃ殺したくなる、人間ってそんなもんだろう?」
シャイロックは裁判に訴え、契約通りアントーニオの肉1ポンドを要求する。若い法学者に扮したポーシャがこの件を担当する事になる。ポーシャはシャイロックに慈悲の心を見せるように促す。しかし、シャイロックは譲らないため、ポーシャは肉を切り取っても良いという判決を下す。
シャイロックは「名判官ダニエル様の再来だ…年はお若いが名判官だ』(小田島雄志訳)と喜んで肉を切り取ろうとするがポーシャは続ける、「肉は切り取っても良いが、契約書にない血を1滴でも流せば、契約違反として全財産を没収する」。仕方なく肉を切り取る事を諦めたシャイロックは、それならばと金を要求するが一度金を受け取る事を拒否していた事から認められず、しかも、アントーニオの命を奪おうとした罪により財産は没収となる。アントーニオはキリスト教徒としての慈悲を見せ、シャイロックの財産没収を免ずる事、財産の半分をシャイロックの娘ジェシカに与える事を求める。そして、本来死刑になるべきシャイロックは、刑を免除される代わりにキリスト教に改宗させられる事になる。
バサーニオはポーシャの変装に気付かずに、お礼をしたいと申し出る。バサーニオを困らせようと結婚指輪を要求するポーシャに、バサーニオは初めは拒んだが、結局指輪を渡してしまう。
ベルモンテに戻ったバサーニオは、指輪を失った事をポーシャに責められる。謝罪し許しを請うバサーニオに、ポーシャはあの指輪を見せる。驚くバサーニオにポーシャは全てを告白する。また、アントーニオの船も難破しておらず、無事であった事がわかり、大団円を迎える。
執筆当時はただの喜劇として見られていたが、ハイネは「シャイロックの悲劇」と呼び、観劇中後ろで涙を流している女性を見たという逸話が残る。
『ヴェニスの商人』の物語はユダヤ教徒にとって侮辱的と捉えられる内容を含んでいる[3]。シャイロックは貪欲な金貸しという、ユダヤ人に対する悪意あるステレオタイプ的な人物として描かれており、裁判中にはユダヤ教徒を軽蔑する罵声を浴びせられた上に、その正当な権利を踏みにじられ、最終的に改宗まで強要されている。20世紀初頭以来、反中傷同盟などのユダヤ人人権団体は同作品を反ユダヤ主義を煽る作品として、学校教材や舞台演劇に使用することに反対する運動を行っており、アメリカでは1947年に『ヴェニスの商人』の図書館からの排除を巡る裁判が行われている。ニューヨーク州の最高裁判決では排除を拒否した教育委員会の勝訴となったが、その後も北米各州で『ヴェニスの商人』の使用に関する抗議は続き、学校教育の場や舞台からは意識的に避けられる傾向にある[3]。
しかしながら作中で、シャイロックが肉の抵当を取ることを頑として譲らない場面で叫ぶ「ユダヤ人には目が無いと言うのか?(Hath not a Jew eyes?)」から続く一連の台詞は、ユダヤ人に向けられた偏見に対しての憤りを如実に表した台詞とも取られることがあり、シャイロックを単なるステレオタイプの悪役ではなく“虐げられた民族の代表者”として捉える論者も少なからず存在する[4]。こうしたことを踏まえて日本の演劇界では、本作を喜劇ではなくシャイロックを主人公とした悲劇として上演する場合が多く、平幹二朗や市川猿之助など大物役者をシャイロック役に迎えている。
『ヴェニスの商人』を法学的見地から検証する試みは、古くは1872年に著されたルドルフ・フォン・イェーリングの『権利のための闘争』にも見られ、今日でも学問の場で法意識の正当性を学ぶ題材として用いられる事がある[3]。
イェーリングは、裁判官は契約内容自体を公序良俗に反するものとして無効と判断するべきところを、契約を有効とした時点でシャイロックの持つ権利を正当と認めているのに、裁判官自らが後からその権利を覆し法制度を破壊していると指摘している。
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