マネー・イン・ザ・バンク・ラダー・マッチ (Money in the Bank Ladder Match )は、アメリカのプロレス団体WWE で行われるさまざまな試合形式のうちの一つである。2010年までは3月〜4月に開催されるWWEの最大イベントレッスルマニア で、それ以降は7月のPPV WWEマネー・イン・ザ・バンク で試合が開催され、勝者は男性レスラーの場合はMr.マネー・イン・ザ・バンク (Mr.Money in the Bank )、女性レスラーの場合はMs.マネー・イン・ザ・バンク (Ms.Money in the Bank )と称される。
2011年Raw MITBラダー戦
2009年レッスルマニアXXV で行ったMITBラダー戦
基本は6人のレスラーで天井に吊るされているアタッシュケースを奪い合うラダー・マッチ であるが、アタッシュケースの中には男性レスラーであればWWE王座 またはWWEユニバーサル王座 のどちらかに、女性レスラーであればロウ女子王座 またはスマックダウン女子王座 のどちらかに挑戦できる契約書が入っているというのが大きな特徴である。
考案者はクリス・ジェリコ である。なお、ジェリコは発案者でありながら一度も獲得経験がなく、それどころか権利を行使されている。
契約書の内容は、契約書を獲得したレスラーが試合が行われた日から1年以内に好きな時に1度だけ王座に挑戦可能という物で、この権利を行使する事を「キャッシュイン(cash in)」と呼ぶ。しかし、この権利が行使されるのは王座保持者が激しい試合を行って疲労困憊している時や負傷した時であるのが常であり、観客に著しく卑怯な印象を与えてしまう。このため、この権利を獲得する者は元々ヒール である場合が多く、ベビーフェイス であってもこの権利の行使を期にヒール転向する者もいる。
なお、本人以外のキャッシュインは認められず、そのルールによってザ・ミズは事実上1年間で2度行使した経験がある。
また、稀に即日行使することもあり、2016年のディーン・アンブローズ は事前にMITB戦に勝利すればその日のWWE世界ヘビー級王座戦後に行使すると宣言し、その発言の通りに行使した。
2005年 2月28日に開催されたRAW でクリス・ジェリコ が発案したのが始まりである。翌週の3月7日に開催されたRAWで当時RAWのGMであったエリック・ビショフ がこの案を採用。WrestleMania 21 での試合が決定された。出場者は発案者のジェリコに加え、エッジ、クリス・ベノワ 、クリスチャン 、シェルトン・ベンジャミン 、ケイン の6人。試合ではエッジが勝利した。WrestleMania 21終了後、ヒール であったエッジは契約書の入っているアタッシュケースを常に持ち歩き、試合では凶器として使用していた。
1月8日に開催されたニュー・イヤーズ・レボリューション のメイン戦、エリミネーション・チェンバー・マッチ 終了後に、エッジは契約書の権利を発動。エリミネーション・チェンバー・マッチを戦い抜いて疲労困憊状態のWWE王者ジョン・シナ と対戦し、王座を奪取した。その後、エッジは同月の1月29日に開催されたロイヤルランブル で再びシナに王座を奪取されている。
2月20日に開催されたRAWでカリート が再びマネー・イン・ザ・バンク・ラダー・マッチの開催を提案し、翌週に受理された。今回は出場者をRAW所属レスラーだけではなく、SmackDown! 所属レスラーからも募り、両番組内で予選試合が開催された。RAWからは、ロブ・ヴァン・ダム、リック・フレアー 、シェルトン・ベンジャミン、SmackDown!からはボビー・ラシュリー 、マット・ハーディー 、フィンレー が出場した。前年と同じくWrestleMania 22 で試合が行われ、ロブ・ヴァン・ダムが勝利した。契約書を獲得したロブ・ヴァン・ダムは、同年6月11日に開催されたECW ワン・ナイト・スタンド で契約書の権利を発動。WWE王者のシナと対戦し、王座を奪取した。
2007年 4月1日に開催されたWrestleMania 23 においてマネー・イン・ザ・バンク・ラダー・マッチが行われ、ミスター・ケネディが勝利し翌年のWrestleMania XXIVにて権利を行使すると予告するが、腕を負傷した状態で5月のRAWにて防衛戦が行われエッジが勝利し権利移動、その週のSmackDown!において世界ヘビー級王座を防衛したジ・アンダーテイカー が直後のマーク・ヘンリー からの不意打ちを受けて既にボロボロになっているのを見て契約書の権利を行使してテイカーと対戦し勝利。エッジが世界ヘビー級王座を獲得した。
2008年3月30日に行われたWrestleMania XXIV においてマネー・イン・ザ・バンク・ラダー・マッチが行われ、CMパンク が勝利した。6月のRAW ドラフトにてCMパンクがRAWへ移籍、翌週のRAWにおいてバティスタ の襲撃によりグロッキーになっていたエッジに対し契約書の権利を行使し、世界ヘビー級王者となる。
2009年4月5日に行われたWrestleMania XXV においてマネー・イン・ザ・バンク・ラダー・マッチが行われ、CMパンクが2年連続で勝利した。その後ドラフトにてCMパンクがSmackDown!に移籍。移籍後、契約書の権利を行使しようとするが乱入に会う。6月のエクストリーム・ルールズ では自身が試合をした後、世界ヘビー級王座戦でのエッジとジェフ・ハーディー のラダー・マッチ後に乱入し、契約書の権利を行使し、新王者になったばかりのジェフ・ハーディーに勝利し、世界ヘビー級王者となる。
2010年3月28日に行われたWrestleMania XXVI においてマネー・イン・ザ・バンク・ラダー・マッチが行われ、ジャック・スワガーが勝利した。そしてその週のSmackDown!オープニングにてクリス・ジェリコがエッジのスピアーを受けた直後、契約書の権利を行使しクリス・ジェリコに勝利、世界ヘビー級王者となる。
2010年7月18日に行われたPPVマネー・イン・ザ・バンク でもマネー・イン・ザ・バンク・ラダー・マッチが行われ、勝者には所属する番組の王座(ロウはWWE王座、スマックダウンは世界ヘビー級王座)に限定された権利が与えられる。
スマックダウンはケインが権利を獲得、同日に行われたレイ・ミステリオ 対ジャック・スワガー戦終了後にスワガーに暴行を受けたミステリオに挑戦権を行使し、世界ヘビー級王座を奪取。ロウはミズが権利を獲得。11月22日、ネクサス の袋叩きで負傷した上にウェイド・バレット 戦で大ダメージを受けた直後のランディ・オートン に挑戦権を行使してWWE王座を奪取。
2011年7月17日に行われたPPVマネー・イン・ザ・バンク においてマネー・イン・ザ・バンク・ラダー・マッチが行われ、スマックダウンはダニエル・ブライアンが権利を獲得。同年12月18日TLC:Tables, Ladders and Chairs 2011 にて試合後イスにDDTをうけたビッグ・ショーに挑戦権を行使し、世界ヘビー級王座を獲得。
ロウではアルベルト・デル・リオが権利を獲得し、8月14日サマースラム にてWWE王座を統一したが直後ケビン・ナッシュ のジャックナイフ・パワーボムを受けたCMパンクに権利を行使し、WWE王座を獲得した。
2012年7月15日に行われたPPVマネー・イン・ザ・バンク にてマネー・イン・ザ・バンク・ラダー・マッチが行われ、ロウではジョン・シナ が獲得しその後ロウの1000回目(7月23日)の放送にて権利を行使しCMパンクとの一騎討ちに挑むも、終盤ビッグ・ショーの介入で反則負け。初めてマネー・イン・ザ・バンクの失敗者となった。スマックダウンではドルフ・ジグラーが獲得したものの行使せず権利を持ったまま年をまたぐことになった。
しかしレッスルマニア翌日のロウにてアルベルト・デル・リオが2対1のハンデキャップ戦で疲労困憊になったところでドルフ・ジグラーが権利を行使し、世界ヘビー級王座を獲得した。2013年7月14日に行われたPPVマネー・イン・ザ・バンク ではランディ・オートン が権利を獲得、その年のPPVサマースラム で王者ジョン・シナ を破ったダニエル・ブライアン に権利を行使、レフェリーのトリプルH と共謀してWWE王座を獲得した。世界王座の権利を獲得したダミアン・サンドウ はPPVヘル・イン・ア・セル で世界王者になったジョン・シナに、翌日のロウで権利を行使した。結果的に一騎討ちの構図となったが、力及ばず敗北した。
2014年5月に首を負傷し手術を受けていたWWE世界ヘビー級王者 ダニエル・ブライアンの早期の復帰が見込めなくなったため、6月9日に彼の王座が剥奪された。これに伴い、本来は王座挑戦権を賭けておこなわれるマネー・イン・ザ・バンク・ラダー・マッチが、今回に限りWWE世界ヘビー級王座そのものを賭けたタイトルマッチとして開催されることが決まった。
その後、6月20日には、王座戦とは別に、王座挑戦権を賭けた本来のマネー・イン・ザ・バンク・ラダー・マッチも行われることが発表された。6月29日のPPVでは、このような経緯により2つのラダーマッチが開催された。王座挑戦権を賭けたラダーマッチでは、元シールドのディーン・アンブローズ とセス・ロリンズ が激しい攻防を演じるが、乱入したケイン の助けを受けたロリンズが王座挑戦権を獲得。WWE世界ヘビー級王座を賭けたラダーマッチでは、ここでも再びケインがロマン・レインズ らを退けランディ・オートンの王座獲得を支援するが、最終的にはジョン・シナがケインとオートンを倒し王座を獲得。
セスは2015年のWrestle Mania 31 の王座戦の最中に権利を行使し、王座を獲得した。なお試合中の行使は史上初であった。
6月14日のマネー・イン・ザ・バンク ではブレイ・ワイアット のロマン・レインズへの奇襲により、シェイマスがタナボタ 勝利をする。続く11月22日のSurvivor Series 2015 のWWE世界ヘビー級王座をかけたトーナメントに勝利したレインズに権利を行使。奇襲後に権利を行使したこともあり、王座を獲得した。
この年のマネー・イン・ザ・バンク はディーン・アンブローズが勝者となりケイン以来となる同PPV内で権利を行使、レインズの王座を奪取した直後のセス・ロリンズを倒し、王者となった。
この年、初めて女性レスラーによるマネー・イン・ザ・バンク 戦が行われたが、カーメラ に帯同していたジェームス・エルスワース がアタッシュケースを取ってカーメラに手渡した。そのため、2日後のSmackdown LIVE で無効と判断され、翌週にエルスワースを退場させて再試合を行ったが、結局はカーメラが取得した。
2018年4月10日のSmackDown LIVEにて、王者シャーロット・フレアー がビリー・ケイ とペイトン・ロイス から襲撃を受けた際に権利を行使、王座を獲得した[1] 。
男性レスラーによるマネー・イン・ザ・バンク戦では中邑真輔 が日本人レスラーとして最初の参加者になったが、入場中にバロン・コービンの襲撃を受け一時離脱。終盤に復帰してAJスタイルズ とラダー上で一騎打ちを行うもコービンに倒され、そのままコービンが勝者となった。
8月15日、サマースラム 直前週のSmackDown LIVE にて行われたWWE世界王者 ジンダー・マハル とジョン・シナ のシングルマッチ(防衛戦では無い)において、シナがマハルへスーパーAAを決めた直後にコービンが乱入、試合は反則裁定となり、更にシナをアタッシュケースで殴って追い出してから権利を行使した。しかし、ゴング直後にエプロンに上ったシナに気を取られてしまい、その隙をついたマハルに丸め込まれて3カウントを奪われた。王座奪取は失敗に終わった。
この年は12年ぶりにマネー・イン・ザ・バンク戦の予選試合が行われ、それぞれの勝者が本選に出場した。女性レスラーによる本選で勝利を収めたアレクサ・ブリス は、同PPV内で権利を行使。ロンダ・ラウジー と試合を行っていたRAW女子王座 のナイア・ジャックス を破り、新女王に返り咲いている。
この年は新型コロナウイルス が世界的に大流行。そのため、当初予定されていた会場を変更。コネチカット州 ・スタンフォード のWWE本社での開催となった。
それに伴い、ルールも変更された。男女同時スタートで、本社ビルの地上階からスタートし、いわゆる路上プロレスを行いながら上の階に上がっていき、最終的に屋上のリングに吊るされているアタッシュケースを奪い合うという形式である。
女子ラダーマッチは、リング上での戦いを制したアスカが勝利。これは日本人 ・アジア人 としても初となる快挙である。なお翌日放送のRAWにて、ベッキー・リンチ から自身の出産準備に伴うRAW女子王座の返上と、前日のMITB戦が同王座戦であることが発表され、アスカはキャッシュ・インすることなく王座を獲得した。
男子ラダーマッチでは、終盤に出場者全員がリングで攻防戦になる。やがてラダー上でAJスタイルズ とキング・コービン のアタッシュケースの奪い合いになると突如、以前までコービンと抗争を繰り広げていたイライアス が乱入。ギターショットでコービンを攻撃すると、その衝動でAJがアタッシュケースを落としてしまい、たまたま下にいたオーティスが幸運にもキャッチ。勝者となった。
男子ラダーマッチを制したオーティスだったが、2020年 10月25日 に行われたWWEヘル・イン・ア・セルでザ・ミズとのマネー・イン・ザ・バンク争奪戦に敗れて権利を失い、ミズがマネー・イン・ザ・バンクの権利を獲得した[2] 。
その後、TLC2020 でキャッシュ・インし、TLC形式WWE王座戦に参加するも敗北したが、このキャッシュ・インがジョン・モリソン によるものとして無効扱いとなり、権利が復活した。
最多出場者(2015年現在)はケイン で、7度の出場経験がある。
エッジ は2010年まで権利の行使や奪取、現場に居合わせるなど何らかの形でマネー・イン・ザ・バンクに関わっている。初代勝者として王者になり、ロブ・ヴァン・ダム の時には王者になる手助けをする。ミスター・ケネディ からは権利を奪い、自らが王者になる。CMパンク には権利を行使されてしまう。CMパンク が二度目に行使する時にはジェフ・ハーディー の対戦相手だった。ジャック・スワガー が行使した際には、クリス・ジェリコ にスピアーを食らわせている。