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3I/ATLAS

観測史上3例目の恒星間天体 ウィキペディアから

3I/ATLAS
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3I/ATLAS または C/2025 N1 (ATLAS) は、2025年7月1日チリコキンボ州Río Hurtadoで観測を行っていた小惑星地球衝突最終警報システム (ATLAS) によって発見された、恒星間天体に分類される非周期彗星である[15][16][17]。発見直後は A11pl3Z と呼称されていた[2][18]。発見時は木星軌道のやや内側である太陽から約 4.5 au(約6億7000万 km)離れたところを内太陽系に向かって進んでいた。この彗星は、太陽に対して 58 km/s という非常に速い双曲線過剰速度太陽系を通過する双曲線軌道を描いている[8][注 3]。高速で太陽系内を縦断していくが、地球から約 1.8 au(約2億7000万 km)以内に近づくことはないため、脅威となるような天体ではない[15]オウムアムア (1I/ʻOumuamua) とボリソフ彗星 (2I/Borisov) に続いて太陽系外からの飛来が確認された観測史上3例目の恒星間天体であり[15][19][20][21]、名称には「3I」という接頭辞が付けられている。2025年11月頃に見かけの明るさが最も明るくなると計算されているが、それでも12等級程度であると予測されており[5][22]近日点の通過前後でも肉眼で観測することはできないとされている[23]

概要 ATLAS彗星, 仮符号・別名 ...

3I/ATLAS は活動的な彗星で、主に固体で出来た彗星核と、そこから噴き出すガスと氷の塵から成るコマで構成されている。3I/ATLAS の彗星核の大きさは、彗星核からの光とコマ全体の光とを分離できないため、正確には求められていない[24]。太陽への接近がこの彗星活動の原因となっており、太陽は彗星核を加熱して表面の氷をガスに昇華させ、このガスが放出されて彗星の表面から塵を巻き上げ、コマを形成する[25]ハッブル宇宙望遠鏡によって撮影された画像によると、考えらえる 3I/ATLAS の彗星核の直径は 0.32 - 5.6 km であり、1 km 未満の直径しかない可能性が最も高いと示唆されている[11]ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡 (JWST) による観測では、3I/ATLAS の組成は二酸化炭素に異常に富んでおり、少量の水の氷、水蒸気一酸化炭素硫化カルボニルを含んでいることが示されている[26]。また、超大型望遠鏡VLTによる観測では、3I/ATLAS が太陽系内の彗星で見られる濃度と同程度のシアン化物ガスと原子状ニッケルの蒸気を放出していることも示されている[27]

2025年10月29日に太陽に最も接近する近日点に達し、地球軌道と火星軌道の間である太陽から約 1.36 au(約2億300万 km)の距離にまで接近する[3]。3I/ATLAS は銀河系薄い円盤英語版厚い円盤英語版と呼ばれる領域のいずれかに起源を持つと考えられている[28]。仮に厚い円盤に起源を持つ場合、3I/ATLAS は形成されてから少なくとも70億年が経過しているとみられ、つまり太陽系の天体よりも古い天体である可能性がある[10][29][30]

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歴史

要約
視点

発見

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3I/ATLASは、恒星が密集している天の川に近い領域で発見された。ATLAS によって最初に観測された際の画像が差し込まれており、これは天の川における赤枠部分を拡大したものである。

3I/ATLAS は、チリコキンボ州Río Hurtadoにて観測が行われている小惑星地球衝突最終警報システム (ATLAS) の望遠鏡によって2025年7月1日に発見された[4][19][31]。発見当初の見かけの明るさは約18等級、太陽に対する相対速度は約 61 km/s(約 220,000 km/h)[15]、太陽からの距離は木星軌道のやや内側である約 4.51 au であり[32]天の川付近のいて座へび座の境界付近をゆっくりと移動していた[21]。この新たに発見された天体は、直後に暫定的な仮称として A11pl3Z と呼称され[2]、発見時の観測データは国際天文学連合 (IAU) が運用している小惑星センター (MPC) に提出された[31][33]。これらの観測結果から、当初この天体は地球軌道に接近する可能性のある非常に軌道離心率の高い軌道を描く天体である可能性が示され、小惑星センターは確認待ちの地球近傍天体候補の天体が掲載される地球近傍天体確認ページ (Near Earth Object Confirmation Page, NEOCP) に A11pl3Z を掲載した[31]

天文学者アマチュア天文家などによって行われた他の観測施設による追跡観測により、この天体は地球に接近するような軌道ではなく、星間空間から飛来してきて二度と太陽へ接近しない双曲線軌道となっている可能性があることが明らかになり始めた[20][31][34]。そして正式な発見の前に行われていた観測データも用いてこの天体が実際に星間空間から飛来してきた恒星間天体であることが確認されるようになった。これらの観測記録には、同年6月14日から6月21日にかけて行われた Zwicky Transient Facility による観測や[4][35]6月25日から6月29日にかけて行われた ATLAS による観測の結果が含まれている[21][20][31]。アマチュア天文家の Sam Deen は、同年6月5日から25日までの ATLAS による正式な発見前に行われた観測の結果にも注目し、A11pl3Z が早期に発見されなかったのは、銀河系中心部の恒星が高密度で分布している領域の前を通過していたためと推測している[22]

初期観測では、A11pl3Z が小惑星なのか彗星なのかは分かっていなかった[21][34][35]。2025年7月2日にチリの Deep Random Survey やアメリカアリゾナ州ローウェル・ディスカバリー望遠鏡ハワイ島マウナケア山カナダ・フランス・ハワイ望遠鏡による観測では、A11pl3Z の周囲にコマと見かけの長さが約3秒角の短いが観測され、A11pl3Z で彗星活動がみられることが示唆された[4][22]。一方で、アラン・ヘールを含む多くの天文学者は、A11pl3Z に彗星のような特徴は見られないとも報告されていた[22]。2025年7月2日21時31分(協定世界時日本標準時では翌3日6時31分)、小惑星センターは小惑星電子回報 (Minor Planet Electronic Circular) にて A11pl3Z の発見を正式に発表し、最初に発見を報告した「ATLAS」とこれまでに確認された3番目の恒星間天体であることを示す符号「3I」を付した 3I/ATLAS という名称を正式に命名した[4][22]。また、同時に非周期彗星としての符号である C/2025 N1 (ATLAS) という名称も付与された[4]。3I/ATLAS の発見・命名が正式に発表されるまで、小惑星センターには31ヵ所の異なる観測施設で記録された122の観測データが収集された[4]

更なる観測

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2025年5月から8月にかけて測定された 3I/ATLAS の明るさをプロットした光度曲線で、明るさは見かけの等級で表されている。この期間中、3I/ATLAS は太陽に接近していたため、明るさは時間とともに増加しているのが分かる。灰色の網掛け部分は、ATLAS による正式な発見前にトランジット系外惑星探索衛星 (TESS) によって観測されていた期間を表している。
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2025年8月6日にジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡近赤外線観測機器 NIRSpec によって撮影された 3I/ATLAS の画像。左の画像では彗星核の周囲に広がったコマが見える。中央と右の画像は、コマ内のガス分子の回転と振動による赤外線放射により、3I/ATLAS のコマの明るさが光の波長によってどのように変化するかを示している[26]。中央の画像は 3I/ATLAS における二酸化炭素の放出を、右の画像は水蒸気の放出の様子を示している。

2025年7月2日、天文学者のデビッド・C・ジューイットジェーン・ルーノルディック光学望遠鏡を用いた観測を行ったところ、3I/ATLAS は「明らかに活動的」であり、拡散した尾を伸ばしていることが明らかになった[36]。同日に Miguel R. Alarcón とカナリア天体物理学研究所の研究者らによる研究チームも、スペインテイデ天文台英語版にある口径 2 m の望遠鏡2台による観測から、3I/ATLAS には少なくとも約 25,000 km の長さの尾が伸びていることが確認された[37]。複数の異なる望遠鏡による観測から、3I/ATLAS のコマは塵の存在を示唆する赤みがかった色をしており、2019年に発見された観測史上初の恒星間彗星であるボリソフ彗星に似ていることが分かった[13][14][38]。2025年8月に Toni Santana-Ros らが発表した研究では、3I/ATLAS のコマが2025年7月を通して赤みを増してきており、3I/ATLAS の彗星活動が活発になった結果として表面またはコマの組成が変化していることを示していると報告されている[13]

さらに同年7月6日には、Zwicky Transient Facility による5月22日から6月21日までの期間に行われた10回分の観測データ内からも 3I/ATLAS が検出されたことが小惑星電子回報にて公表されている[39]7月18日にはそれよりもさらに早い5月21日以降にイスラエルワイツマン天文観測所 (Weizmann Astrophysical Observatory) によって観測されていた記録が公表された[40]

2025年7月から8月にかけて超大型望遠鏡VLT北欧光学望遠鏡ロジェン天文台による偏光観測により、3I/ATLAS のコマは小さな位相角で異常に高い負の偏光度を示していることが明らかとなった。つまり、3I/ATLAS のコマから反射された光の大部分が、太陽-彗星-観測者間の平面に沿って振動しているということになる[41]。3I/ATLAS の負の偏光は、太陽系外縁天体で見られるものと似ており、コマが氷と暗い物質の混合物でできていることを示唆している[41]

2025年6月にファーストライトが公開されたばかりであるヴェラ・C・ルービン天文台も、同年6月21日から7月3日までの科学的検証の観測中において 3I/ATLAS を偶然観測することに成功していた[42]。これらの観測により、中心部のコマがわずかに大きくなっていることが示され、想定されるの直径に制約を課すことが出来た。ヴェラ・C・ルービン天文台による検証観測がさらに2週間早く始まっていれば、ATLAS よりも先に 3I/ATLAS を発見できていた可能性がある[42]アメリカ航空宇宙局 (NASA) が打ち上げたトランジット系外惑星探索衛星 (TESS) でも、正式に発見される前である2025年5月7日から6月3日にかけて 3I/ATLAS が観測されていたことが分かっている[6]。これらの観測により、2025年5月に太陽から約 6.4 au(約9億5700万 km)離れた時点でも、3I/ATLAS は既に明るく活動していたことが示されており、この彗星活動は水以外の揮発性物質の氷が昇華によって引き起こされた可能性が高いことが示唆されている[6]

7月20日には、3I/ATLAS のコマから初めて水の氷が検出されたと報告された。これは、ジェミニ南望遠鏡NASA赤外線望遠鏡施設英語版による同年7月5日7月14日近赤外線による分光観測に基づいている[43]スウィフト望遠鏡による紫外線観測からは、 同年7月30日8月1日に 3I/ATLAS のコマに水蒸気水酸化物イオンが存在していることが示唆された[44]8月21日には、NASAのSPHERExミッションとカリフォルニア工科大学の天文学者らは、8月中旬からのSPHERExによる観測で水の氷と明るい二酸化炭素ガスの放射を検出したと報告した[12][45]8月22日にはローウェル天文台の天文学者らは、3I/ATLAS でシアン化物の放射の兆候が暫定的に検出されたと初めて報告した[46]。その前日の8月21日に超大型望遠鏡VLTによって行われた分光観測で実際にシアン化物の存在が確認され、さらに 3I/ATLAS のコマからはニッケルも検出された[27]

7月21日には初めてハッブル宇宙望遠鏡による 3I/ATLAS の観測が行われ、そのコマの様子がとても詳細に分かるようになり、その彗星核の直径は 5.6 km 以下であると制限された[11][47]。ハッブル宇宙望遠鏡によって撮影された画像は同年8月7日にNASAと欧州宇宙機関 (ESA) によって公開された[16][17]。同年8月6日には、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡 (JWST) に搭載されている近赤外線観測機器 NIRSpec 用いた初めての 3I/ATLAS の観測が行われ[25][48][49]、その結果は8月25日にNASAによって発表された[50]。また、同年11月にはハッブル宇宙望遠鏡は 3I/ATLAS の紫外線分光観測を行って核から放出されているガスの組成とそれに含まれている硫黄酸素の比率を調査する予定となっており[25][51]、それ以降も太陽から離れていく 3I/ATLAS の様子を観測する見通しである[52]。ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は近日点通過後の12月にも 3I/ATLAS を観測する予定となっている[25][53]

3I/ATLAS が太陽から約 2.33 au(約3億4900万 km)の位置にあった同年9月7日にはジェームズ・クラーク・マクスウェル望遠鏡によって 3I/ATLAS の観測が行われ、この時のシアン化水素分子の生成率が (1.5 ± 0.5)×1025 個/秒と測定された。しかし1週間後の9月14日には、生成率は (4.5 ± 1.9)×1025 個/秒(約 2 kg/秒)にまで増加したことが天文電報中央局が発行する Central Bureau Electronic Telegram (CBET) にて報告された[54]9月15日時点のシアン化水素のコマは直径が約 180,000 km に及ぶ非対称の形状をしており、太陽がある方向とは反対方向に伸びていた。同日には、見かけの直径が50秒角(実際の距離にして約 100,000 km に相当する)のダストの尾も観測された[55]。9月14日時点の 3I/ATLAS の見かけの等級は14.2等級であった[54]

エクソマーズ計画で打ち上げられた火星探査機であるトレース・ガス・オービター英語版に搭載されている Color and Stereo Surface Imaging System (CaSSIS) を使用して、3I/ATLAS が火星に最接近した際にそのコマの撮影を行った[56]。この探査機で観測を行うのに適している対象よりも 3I/ATLAS は約50,000倍暗かったため、5秒間の露出時間で画像が撮影された[56]

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軌道

要約
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3I/ATLAS は太陽からの重力で束縛できないほど速く移動しているため、太陽を通過する際に極端な双曲線軌道を描いて移動していく[15]。太陽系内の天体からの重力の影響を受けない星間空間での双曲線過剰速度)は約 58 km/s 程度とされている[7][8][9][10][注 3]。これは 3I/ATLAS よりも前に発見されていた恒星間天体であるオウムアムア(約 26 km/s)とボリソフ彗星 (2I/Borisov)(約 32 km/s)と比較してもかなり速い[9]。3I/ATLAS が太陽に接近し、太陽からの重力に引き寄せられるようになるとその移動速度は上がり[15][60]、逆に近日点を通過して太陽から離れ始めると太陽の重力に引き寄せられ続けて移動速度は低下するようになるも、それでも 3I/ATLAS は太陽の重力を振り切って太陽系を離脱していく[20]

3I/ATLASの軌道の形状は、軌道離心率と呼ばれるパラメータによって記述される[35]。特定の天体を楕円焦点として公転する楕円軌道の際は軌道離心率の値は1未満となるが、軌道が開いた双曲線軌道場合は1より大きい値を示す[61]。3I/ATLAS の軌道離心率の値は 6.1374 ± 0.0006 に及んでいる[3][注 5]。この極めて高い軌道離心率により、3I/ATLAS の軌道は曲線ではなく直線的に見える[62]。3I/ATLAS は現在までに知られている3つの恒星間天体の中で最も高い軌道離心率を持ち[34]、オウムアムア(約 1.201[63])やボリソフ彗星(約 3.356[64])よりもかなり大きい[35]。発見直後の予備的な計算結果では軌道離心率は10を超えるとも予測されていたが[65]、観測データが増えてきたことで軌道が精査され、軌道離心率は6前後へ収束することとなった[18][66]

2025年10月29日11時47分頃(協定世界時)には太陽に最も接近する近日点に到達する[67][注 6]。近日点では太陽から約 1.357 au(約2億300万 km)の距離まで近づき、これは地球軌道と火星軌道の間に相当する[3][15]。その約4週間前の同年10月3日には火星から約 0.194 au(約2900万 km)にまで接近するとみられている[68]。近日点通過時の太陽に対する相対速度は 68 km/s に達すると予測されている[8][20][注 2]

3I/ATLAS の軌道は、偶然にも太陽系の惑星軌道面すなわち黄道とほぼ一致している[69][70]。具体的には、3I/ATLAS の軌道は黄道面に対して約175度傾いており、つまり他の惑星の公転方向とは逆方向に約5度傾斜した軌道を持つということになる[3][38]。3I/ATLAS は金星、火星、そして木星に接近するが、地球には接近しない位置関係となる[69]。3I/ATLAS は地球に近づくことはないため、地球へ脅威を及ぼすような天体にはならない[15][62][69]。近日点通過の約4週間前の同年10月3日には火星から約 0.194 au(約2895万 km)にまで接近した[68]。この火星への接近時に火星から見た見かけの明るさは11等級に達し、マーズ・リコネッサンス・オービターなどの火星の周回軌道上にある火星探査機から観測できる可能性が示されていた[21]。近日点通過後の同年11月3日頃には金星から約 0.649 au(約9710万 km)にまで[71]、同年12月19日頃に地球から約 1.797 au(約2億6882万 km)にまで接近するとみられ[72]、12月上旬頃から再び地上からでも観測できるようになる[15]。さらにその後の2026年3月16日頃には木星から約 0.359 au(約5377万 km)にまで接近すると予測されている[3][73][74]

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観測

要約
視点

3I/ATLAS は地球や太陽に大きく接近することはないので、地球から見た見かけの明るさが11.5等級よりも明るくなることは予想されていない暗い彗星である[5][75]。最大光度に達する時期でも、地上からでは肉眼または口径 70 mm 以下の双眼鏡では観測できない[76][77]。そのため、3I/ATLAS の観測には少なくとも口径が 76 mm から 114 mm のプレートソルビング英語版スマート望遠鏡によって撮影されている[76]。2025年10月3日時点で、3I/ATLAS の彗星核とコマの明るさを足した全光度 (M1) は12.3等級で、3I/ATLAS と同時期に観測された彗星であるレモン彗星 (C/2025 A6) の約120倍、SWAN彗星 (C/2025 R2) の約190倍暗い[75]

2025年7月から9月下旬にかけて、3I/ATLAS は日没後に地球上から観測可能であった[78]。2025年7月の前半は、3I/ATLAS はいて座の領域内に位置し、見かけの明るさは17.5等級であった[78]。2025年7月の後半までに 3I/ATLAS はへびつかい座へ移動し、見かけの明るさは16等級にまで明るくなった[78]。その間、3I/ATLAS は天の川付近の恒星が密集した領域に位置していたため、背景の無関係の恒星と重なる可能性があり、観測が困難であった[78]。太陽に近づくにつれて 3I/ATLAS は明るさを増し続け、2025年8月を通してへびつかい座、さそり座てんびん座の領域を横断した[78]。9月の間は 3I/ATLAS はてんびん座の領域内に留まり、見かけの明るさが12等級から13等級程度まで明るくなった[75][76]。観測条件が良い暗い夜空の下でも、14等級の点状の天体を肉眼で観測するには、少なくとも口径が 200 mm 以上の望遠鏡が必要となるが[79]、点状ではなくぼやけて拡散状に見える彗星であることを考慮すると、口径 300 mm の望遠鏡が必要になるかもしれない[注 7]

同年10月29日の近日点通過が近づくにつれ、地球上から見た際の 3I/ATLAS の太陽からの離角は小さくなり続け、日没直後に地球上の赤道地域のみでしか観測できなくなった[76]。同年10月1日から11月9日にかけては太陽からの離角は30度未満となる[80]。3I/ATLAS の近日点通過前後に太陽からの離角が小さくなる理由は、近日点通過の8日前の10月21日(地球から見て天体が太陽を挟んで反対側に位置する関係)となるためである[21][76]。彗星の近日点通過時は 3I/ATLAS が地球から見て太陽のほぼ真後ろに位置するため[注 8]、この期間中は地球からの観測ができなくなる[21][76]

3I/ATLAS は近日点を通過した後、2025年11月になると日の出直前に再び観測できるようになる[76]。そして太陽から遠ざかるにつれて暗くなり、太陽からの離角も大きくなっていく[76]。12月になると 3I/ATLAS はおとめ座しし座の領域を通過し、その明るさは12等級よりも暗くなると予想されている[76]

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2024年から2026年にかけての天球上における 3I/ATLAS の軌跡を示した図。10日ごとの天球上での位置が赤点で示され、それぞれの日付は黄色の字で表記されている。軌跡は左端のいて座の領域から始まり、右端のふたご座の領域で終わる。軌跡の両端に見られるループ状の模様は、地球が太陽の周囲を公転していることによる視差によって生じている。

起源と年齢

要約
視点
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銀河系内における太陽(黄色)と想定される 3I/ATLAS(赤色)の軌道を示した図。側面から見た図(下図)に示すように、3I/ATLAS は太陽よりも銀河面から上下に傾いた軌道を描いて銀河系内を公転している。

3I/ATLAS は、その極めて双曲線的な軌道と太陽系に対する非常に速い相対速度のため、太陽系外から飛来した恒星間天体であることが分かっている[15]。3I/ATLAS は、太陽系の惑星に大きく接近したことで相対速度を上げた訳ではないため、少なくとも太陽系内に起源を持つ天体ではない[81]。3I/ATLAS の天球上における軌跡を追跡すると、3I/ATLAS は銀河系の中心があるのいて座の方向の星間空間から飛来してきたことがわかる[38][81]

これまでに発見されていた2つの恒星間天体とは異なり、3I/ATLAS は天球上において南半球側から飛来しており、これは北半球側にある太陽向点とは反対方向である[81]。太陽向点は、太陽が銀河系内において近くの恒星に対して相対的に移動する方向を指す[10]。3I/ATLAS が南半球側から発生したことは予想外であった。なぜなら、天文学者らは当初、太陽系が進んでいく方向である太陽向点からより多くの恒星間天体が出現するはずであり、望遠鏡では南半球起源の恒星間天体の発見は北半球よりも困難になるだろうと予測していたからである[10]。3I/ATLAS が稀な発見である可能性もあれば、南半球起源の恒星間天体が当初考えられていたよりも一般的であることを示す可能性もあるとされている[10]

3I/ATLAS の起源は、その双曲的過剰速度銀河座標における動径方向 (U) 、横方向 (V) 、鉛直方向 (W) の速度成分に分解することで推測できる[10][注 9]。3I/ATLAS が太陽系に到達したとき、太陽に対する銀河座標における相対速度成分は、動径方向成分 (U) は −51.0 km/s で銀河中心から遠ざかっており、 鉛直方向成分 (W) は +18.5 km/s で銀河面に対して上向きに移動していた[10]。3I/ATLAS の横方向の速度成分 (V) は、近くの恒星や他の星間物体と比較しても非常に大きく、これは 3I/ATLAS が銀河系内を銀河面から傾いた軌道を描いて公転しており、したがって銀河系の銀河円盤における薄い円盤英語版厚い円盤英語版と呼ばれる領域のいずれかに起源を持つと考えられている[28]。厚い円盤は主に、太陽よりも重元素の含有量が少ない年老いた恒星で構成されている[10][29][30]

2025年7月に Matthew Hopkins らが主導した研究では、厚い円盤内の恒星の典型的な年齢に基づき、3I/ATLAS の年齢は 68% の信頼度で76億年から140億年の間であると推定された[10][29]。これは、3I/ATLAS が太陽系の年齢(約46億年)よりも古い天体である可能性があり、これまでに観測された中で最も古い彗星である可能性があることを意味している[10][29]。同月に Aster Taylor と Darryl Seligman が行った独立した分析では 3I/ATLAS の年齢は30億年から110億年と推定され、Hopkins らの推定と概ね一致している[9][25]

主星と形成

3I/ATLAS は数十億年にも渡って銀河系内を公転しており、無関係な恒星の中に混ざるようになるのには十分な時間が経過しているため、起源となった主星がどれかまでは遡ることはできない[10][25]。3I/ATLAS の速度は、恒星や星雲への接近による重力の影響を受け、恒星間空間を彷徨う過程で変化した可能性が高いと考えられている[16]。2025年9月に Yiyang Guo らが行った研究では、3I/ATLAS は過去1000万年の間に25個の既知の恒星から1パーセク(3.26光年)以内の範囲を通過した可能性があることが明らかとなっている[28]

3I/ATLAS の主星は不明であるが、その組成と銀河円盤における力学的構成から、主星が持っていた特性とその周囲の環境を推測することはできる[25]。仮に 3I/ATLAS が厚い円盤内に起源を持つ天体であるならば、3I/ATLAS の主星は、少なくとも太陽の約 40% の重元素を含む低金属量の恒星である可能性がある[9]。3I/ATLAS は、主星が若い頃にその周囲を覆っていたガスと塵から成る原始惑星系円盤内で形成されたと推定されている[9][10]。ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡と SPHEREx による観測では、3I/ATLAS は二酸化炭素(CO2)に富んでいることが示されており[12]、これは 3I/ATLAS が主星から遠く離れた、二酸化炭素が固体凝縮するのに十分な温度である、二酸化炭素の雪線(スノーライン)よりも外側の領域で形成されたことを示唆している[26]。形成後のある時点で、3I/ATLAS は巨大惑星または主星系への他の恒星の接近によって、重力の影響で主星系から追い出されてしまったと考えられる[9][10][25]

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物理的特徴

要約
視点

2025年7月2日、Miguel R. Alarcón とカナリア天体物理学研究所の研究者らによる研究チームはスペインテイデ天文台英語版にある口径 2 m の望遠鏡2台による観測から、3I/ATLAS には少なくとも約 25,000 km の長さの尾が伸びていることが確認された[83]ハレアカラ天文台英語版 に設置されている口径 2 m の Faulkes Telescope North に搭載されている様々な波長の光フィルターで 3I/ATLAS の明るさを測定した結果、3I/ATLAS のコマは塵の存在を表す赤みがかった色をしていると分かった[38]。様々な望遠鏡による即時観測では、3I/ATLAS の自転周期を求めることはできなかったが、約29時間に渡って行われた観測では、3I/ATLAS の明るさの変化量は0.2等級以下とほとんど変化していないことが判明している。これは、コマに存在している塵が自転している核を覆い隠していることに起因している可能性があるとされた[38]。しかし、口径 10.4 m のカナリア大望遠鏡によって同年7月2日から7月5日にかけて行われたさらに精度の高い観測により、3I/ATLAS には0.2等級の振幅の変光がみられると報告され、その周期から核の自転周期は17時間弱であると求められた[81]

発見直後の 3I/ATLAS の絶対等級 (H) は14.8等級ともされていたが[84]、その後の観測では13.7等級と求められている[42]。物理学者の Marshall Eubanks はコミュニティ内のメーリングリストにおいて、初期の観測結果に基づいた推定では 3I/ATLAS の彗星核の直径が最大で約 20 km 程度にもなる可能性があると述べており、それまでに知られていた2つの恒星間天体よりもかなり大きな直径を持っていることが示された[23][7][66]ミシガン州立大学の助教授である Darryl Seligman らによる研究チームは、3I/ATLAS が正式に発見された2日後である2025年7月3日に論文掲載ウェブサイト arXiv に3I/ATLAS の特性を調査した初期観測結果の論文を寄稿したが、ここでは絶対等級 (H) を12等級、3I/ATLAS の核が表面の暗い小惑星と同様の特性を持つと仮定して、核の直径は最大で約 24 km になる可能性を示唆したが[38]、その後のヴェラ・ルービン天文台による観測結果を分析した研究では絶対等級 (H) が現在の13.7等級へ下方修正され、核の直径の最大値も 11.2 km に改められた[42][85]。さらに、3I/ATLAS は先述の通りコマまたは光を反射する塵に囲まれた活動的な彗星であると考えられているため、核とコマの絶対等級を組み合わせた全光度 (M1) で計算すると、実際の核の大きさはこれよりも大幅に小さくなると予想されている[36]。それでも、3I/ATLAS はもう1つの既知の恒星間彗星であるボリソフ彗星と比較すると彗星活動は弱いとみられていることから、核の直径はボリソフ彗星よりも1桁(10倍)大きいと考えられている[38]。ボリソフ彗星の核の直径が最大で 0.4 - 0.5 km 程度と推定されており[86][87]、ここまでの核の直径に関する推論をそのまま当てはめるのであれば、3I/ATLAS の核の直径は最大で 4 - 5 km 程度になる可能性もあるが、実際の直径はそれよりもさらに小さく、1.2 km 未満であるとする意見もあった[88]。2025年7月5日と7月14日ジェミニ南望遠鏡NASA赤外線望遠鏡施設英語版で行われた近赤外線での分光観測から、3I/ATLAS のコマは粒径が約 10 μm の水の氷やケイ酸塩の粒子で構成されていることが明らかとなっており[43]、太陽への接近で1秒あたり 0.1 - 1 kg の物質が放出されているとも推定されている[14]

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探査

要約
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2025年10月3日に火星探査機のトレース・ガス・オービターが撮影した 3I/ATLAS(中央右上を下へ移動する点)のタイムラプス映像。

2025年7月に公表された研究では、地球から宇宙探査機を打ち上げて 3I/ATLAS をフライバイ探査を行うことは実現不可能であることが判明した。正式な発見後(2025年7月1日以降)の打ち上げには、少なくとも 24 km/s という極めて高いデルタV (Δv) が必要となり、これは現時点で利用可能な如何なる推進システムの出力を超えているためである。仮に 3I/ATLAS が2025年7月1日より前に発見されていた場合、その日に地球から打ち上げられた宇宙探査機は 3I/ATLAS への到達に 7 km/s 程度のデルタVが必要となり、地球よりも火星から出発する宇宙探査機を用いて 3I/ATLAS をフライバイする方が実現可能であっただろう。火星から出発する宇宙探査機は、デルタVを大幅に小さくする必要がある。例えば、2025年7月から9月の間に火星から宇宙探査機を 3I/ATLAS へ向かわせて同年10月初旬に 3I/ATLAS へのフライバイを可能とするには 5 km/s 程度のデルタVが必要となる[89]

3I/ATLAS が火星に接近した2025年10月1日から10月7日の間に、ESAの2機の火星探査機であるトレース・ガス・オービター英語版 (TGO) とマーズ・エクスプレスが、3I/ATLAS の観測を行った。トレース・ガス・オービターは搭載されているカメラで 3I/ATLAS を撮影することに成功したが、マーズ・エクスプレスは露出時間が短かったためか、3I/ATLAS の撮影は確認できなかった[90]。NASAのマーズ・リコネッサンス・オービターや探査車のパーサヴィアランスも観測を行っているが、同年10月1日から行われている、NASAを含むアメリカ合衆国政府機関の閉鎖英語版により、これらのデータは公式には公開されていない[91]木星探査機ジュノーは、2026年3月に 3I/ATLAS が木星に接近する際に観測を行える可能性があるが[73]、ジュノーは打ち上げから10年以上が経過していることから燃料が少なく、エンジンにも問題が生じてきているため、3I/ATLAS へのフライバイ探査を行える可能性は低い[92]。天体物理学者の Marshall Eubanks の計算によると、小惑星 (16) プシケへの探査を行う予定の宇宙探査機サイキが2025年9月4日に 3I/ATLAS から約 0.302 au(約4520万 km)のところを通過し、木星への探査を予定している木星氷衛星探査計画の JUICE が同年11月4日に 3I/ATLAS から約 0.428 au(約6400万 km)のところを通過すると予想されている[69][93]。しかし、これらの探査機に 3I/ATLAS を観測させるのは困難であり、メインの探査ミッションに影響を及ぼす可能性があるが[69]、JUICE は搭載されているカメラ、分光計、粒子センサーを用いて11月に 3I/ATLAS の観測を試みることを予定している。JUICE にとっては太陽に近い内太陽系という熱的環境が厳しい領域を巡航している時期であるため、これらの観測データは2026年2月より前には地球に届かないと予想されている[93][94][95]

2025年10月30日から11月6日までの期間、JUICE と同様に木星へ巡航中のエウロパ・クリッパーは 3I/ATLAS から伸びるイオンの尾の内部を通過する可能性があり、恒星間彗星のイオンの尾の組成を検出できる機会となることが予測されている。太陽風による尾の特徴的な変化も観測されると予想されている。さらに、小惑星(65083) ディディモスへの探査を予定している探査機 Hera も同年10月25日から11月1日までの期間に 3I/ATLAS のイオンの尾の内部を通過する可能性があると予測されている[96]

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宇宙船仮説論争

要約
視点

2025年7月16日ハーバード大学アヴィ・ローブ英語版イギリスの非営利団体である Initiative for Interstellar Studies (i4is) の研究者らは、3I/ATLAS が「異常な」特徴を持っていると考えられたことから、地球外生命体によって作られた人工的な宇宙船である可能性があると推測する論文を arXiv に発表し話題となった[97][98][99]。研究チームがそう考える根拠として、想定される 3I/ATLAS の大きさが明らかに大きいこと[88]、識別可能な化学物質が含まれていないこと、そして軌道が黄道面にほぼ一致していることを挙げている[97][100]。ローブらは 3I/ATLAS が黄道面とほぼ一致するような軌道を描きながら金星、火星、木星にここまで接近する確率は 0.005% 未満であると分析し、また、惑星の公転方向に対して逆行することで特定の惑星に容易に到達できる上に、人類が 3I/ATLAS への接近および迎撃したりすることを極めて困難にさせているという仮説を提唱した[97][98]。また、3I/ATLAS が近日点を通過する前後は地球は太陽を挟んで反対側に位置しており、地球から観測した際の離角が30度未満になるように 3I/ATLAS と太陽と地球がほぼ一直線に位置関係が揃う確率は約 7% であると計算している[97]。この仮説が公表されると、他の天文学者からは即座にローブらの仮説を非難する声が上がった。科学ニュースサイトの Live Science は、3I/ATLAS が自然由来の彗星であるという意見が圧倒的であると報じ、多くの研究者がこの新しい論文に失望し、他の科学者の研究の邪魔になると指摘していると付け加えた[100]。3I/ATLAS に関する最初の研究論文を公表した研究チームを率いた Darryl Seligman は「3I/ATLAS には数多くの望遠鏡による観測が行われており、典型的な彗星活動の兆候が示されている」と述べている[100]。Seligman はさらに、3I/ATLAS はまだ太陽から遠く離れているため、その中に含まれている化学物質はまだ詳細に検出できない可能性があると説明している[100]。それ以来、観測により 3I/ATLAS には彗星ではごく一般的な水の氷が含まれているという証拠が報告されている[10][43]

ローブは以前にも、初めて観測された恒星間天体であるオウムアムアについても、地球外生命体による人工物である可能性があると主張し、多くの研究者から批判を受けている[100][101]。ローブ自身もブログで「最も可能性の高い結論は 3I/ATLAS が完全に自然な恒星間天体、おそらく彗星であるということだ」と述べている一方で、自身の仮説について「仮説自体は興味深い試みであり、その妥当性に関わらず、探求するのは楽しい」と擁護している[98][100]レジャイナ大学の天文学者である Samantha Lawler は「いかなる『検証可能な予測』に対しても偏見を持たないことが重要ではあるが、ローブらによる新しい論文はこの考え方を押し広げすぎている」と強調しており、さらに、カール・セーガンの言葉を引用して「研究者の大多数は途方もないことを主張するにはそれ相応の途方もない証拠が必要という考えに賛同しており、ローブらが提示した証拠は決して並外れたようなものではない」と述べている[100]

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ギャラリー

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脚注

関連項目

外部リンク

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