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デーヴァナーガリー
インドの文字 ウィキペディアから
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デーヴァナーガリー(サンスクリット語: देवनागरी, devanāgarī)は、インドの文字。アブギダに属する音素文字で、ヒンディー語、マラーティー語、ネパール語などの表記に用いられるほか、古典語のサンスクリットなどの表記にも用いる。


インド憲法第343条では、デーヴァナーガリーで表記されたヒンディー語を連邦公用語と規定している[1]。
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歴史
紀元前3世紀頃から用いられてきたブラーフミー文字は地方によってさまざまな文字に分化した。まず南部と北部で分かれ、北部からはグプタ文字が生まれた。グプタ文字からシッダマートリカー文字(いわゆる梵字)が発展した。ナーガリー文字はシッダマートリカー文字の文字の上部の横線が伸び、全体に角張った形に変形したものである。
ナーガリー[2]はナガラ[3](都市)の文字という意味である。それがのちに神聖化されデーヴァ[4](神)を加え、デーヴァナーガリー(神聖なる都市文字)と呼ばれるようになった。
ナーガリー文字の出現時期を7世紀あるいは8世紀とする説もあるが[5]、年代が確実にわかるものは9世紀後半のものがもっとも古い[6]。11世紀になると字体がほぼ現在のものと同じになり、シッダマートリカー文字にとってかわった。ほかの文字が地方ごと・言語ごとに異なっていたのに対し、デーヴァナーガリーはサンスクリットを書くための地域をこえた文字として発達し[7]、北部インドだけでなく、デカン地方や南インドでも使用された。
インドでは多種多様なブラーフミー系文字が発達したが、デーヴァナーガリーは20世紀なかばまでにその使用範囲を広げ、北インドの地方文字であるマイティリー文字、カイティー文字、ランダー文字、モーディー文字、ドーグリー文字、タークリー文字などはデーヴァナーガリーに置き換えられて衰退していった。しかしベンガル文字、オリヤー文字、グルムキー文字、グジャラーティー文字などの地位を脅かすには至っていない[8]。
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特徴
一目で分かるデーヴァナーガリーの特徴としては、各文字がシローレーカー(śirorekhā、頭線)と呼ばれる上部の横線画で繋がっている点が挙げられる(例外的に頭線を含まない文字や途切れている文字もある)。この横棒は、書き順から言えば、最後に「仕上げ」として書かれる。複数文字が連なる単語・文の場合は、先に横棒以外を(「単語・分かち書き」単位を目安に)まとめて書き、最後にそれらをつなげる形で、横棒を引く。現代語では、この線が単語毎に一繋がりになっているが、一文を区切らずに書くサンスクリットの伝統的書法では、文全体が長く連なって書かれる(ただし、母音・アヌスヴァーラ・ヴィサルガで終わる語の次に子音で始まる語が続くときは、そこで切れる)。この最後に書き加えられるシローレーカーを省くと、グジャラーティー文字に近い字形になる。
デーヴァナーガリーは、子音字が随伴母音aを伴った音節として読まれるアブギダであり、子音字に母音符号を付加することで、随伴母音以外の母音を伴う音節を表すことができる。左から右へ書かれる。
古典サンスクリットを表すためには、33種の子音字と10種の母音字、加えて9種の母音符号や鼻音、無声気音や省略などを表す幾つかの記号、それに10種の数字を使用する。言語によって使用する文字の種類に多少の出入りがある。ヒンディー語の表記では、外来語音や新たに発達した音を表すために、ヌクターと呼ばれる点(़)を付加した7種の子音字が加えられている。
母音が続かない単一の子音を表すには、ヴィラーマ[9](ヒンディー語ではハラントと呼ぶ)という脱母音記号( ्)を使う。子音連結のために複雑な結合文字が作られるが、現代では簡略化される傾向にある。
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文字
要約
視点
母音
デーヴァナーガリー(及び、近親の類似文字)での母音表現は、子音が付かない場合に独立した「母音字」で書かれる場合と、子音が付く場合に子音字に「母音記号」(半体)を付加して表現される場合の2通りがある。
サンスクリットでは、短母音は a i u の 3種類のみであり、e o は常に長い。
ṛ などは、本来は音節主音化した接近音だったが、現代インド語派の主要言語にはこの音は存在しないため、慣例的に母音を加えてヒンディー語では[ɾiː]、マラーティー語では[ɾuː]などのように発音される。
現代のマラーティー語では音素としての母音の長短の区別はない。
(※「◌」は子音字を表す。)
(※なお、子音字「र」(r)と、母音記号の「ु」(u)や「ू」(ū)が組み合わされる場合、これらの記号は、視認性を高めるために、「रु」「रू」のように、下ではなく右に付される点に、注意が必要。)
サンスクリットに存在しない区別を表すための以下の母音字も用いられる。このうち、左の2つは e/o の長短の区別のあるドラヴィダ語の文字を翻字するために存在する。チャンドラ記号と呼ばれる記号のついた右の2つは英語からの借用語に使われることがある。
音節末子音
(※ちなみに、インド系宗教における聖音「オーン」(Oṃ)を表す特殊文字「ॐ」は、「ओ」(o) と鼻母音を表すアヌナーシカ(ँ)が癒着したものである。)
子音
IPAはサンスクリット(推定)。これらの後に「ळ」(ḷ(a) [ɭ(ə)])も追加される。
ヒンディー語では、音素としてड़(ṛa, /ɽ/)とढ़(ṛha, /ɽʱ/)が追加されており、逆にङ(ṅa, /ŋ/)とञ(ña, /ɲ/)はほぼ使用されない。また、ペルシア語・アラビア語・英語など外来語表記に、क़ (qa, /q/)、ख़ (xa, /x/)、ग़(ġa, /ɣ/)、ज़(za, /z/)、झ़(zha, /ʒ/)、फ़(fa, /f/)が追加されているものの、通常は文字のみの対応で、発音は点を打たない字と同様のものとなる。(日本語の「バ」と「ヴァ」と同様。)
結合文字(合字)

द् + ध् + र् + य = द्ध्र्य
ラテン文字では ddhrya
- 基本的には、先行する子音字の右側が削られ、後続の子音字と結合した字形になる。
- 右側を削れるだけの幅・特徴の無い「ङ」(ng)、「ट」(ṭ)、「ठ」(ṭh)、「ड」(ḍ)、「ढ」(ḍh)、「द」(d) などが先行する場合は、文字を縦に並べるが、現代では結合文字にならず、ヴィラーマ「्」を用いて表現されることが多い。
- 「र」(r) は、ほかの子音に前置する場合・後置する場合の専用の字形を持つ。
- 「क्ष」(kṣ)、「ज्ञ」(jñ) などは特別な形を持つ。
2文字の結合において、先行子音字を縦、後続子音字を横に並べて表にすると、以下の表のようになる。ただしこのほとんどは現実には用いられない(※特殊な字形は背景をオレンジ、ヴィラーマ「 ्」を用いるものは背景を灰色で表示する)。
使用例:
記号類
数字
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 0 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
१ | २ | ३ | ४ | ५ | ६ | ७ | ८ | ९ | ० |
→「b:ヒンディー語/単語・熟語/数」も参照
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デーヴァナーガリーと言語
デーヴァナーガリーは、サンスクリットを表記するためにはおおむね表音的と言えるが、それ以外の言語を表す場合には、かならずしも音とつづりが一致しない。
ヒンディー語をはじめとして、現代インドの多くの言語では、第一音節を除く開音節で母音aが省略される。したがって、देवनागरी は「デーヴァナーガリー」ではなく「デーヴナーグリー」のように呼ぶ。これにともなって、語末のヴィラーマはあってもなくても同音になり、また子音連結は結合文字を使わなくても書けることが多くなった。
ヒンディー語を含む多くの言語では श (ś) と ष (ṣ) を区別しない。さらに स (s) も区別しないことがある。
ヒンディー語では ai au は長母音 [æː ɔː] を表す[10]。
ヒンディー語では ह ha は [hɛ]、語中の हु hu は [ho] のように発音される。また Cah の a も [ɛ] になる。語末の ह はほとんど発音されない。したがって「これ」を意味する यह は「イェ」のように発音する[11]。
マラータ語やネパール語では母音 i u の長短を区別しないため、どちらの字を用いるかは正書法的な約束ごとになる[10]。
ज्ञ (jña)の発音は言語によって大きく異なる。ヒンディー語では [ɡj]、マラータ語では [ɟɲ] になる[10]。
ほかに、デーヴァナーガリーには以下のような文字が用意されている。
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コンピュータ
キーボード
Windowsの「デバナガリ - INSCRIPT」キーボードの配列は、以下の通り。
- 左側中段に「o、e、a、i、u」の順で母音が、更にその上の左側上段にそれと対になる長母音などが集中的に配置されている。
- 右側中段は「p、(r)、k、t、c、ṭ」が、更にその上の右側上段にはそれと対になる有声音「b、(h)、g、d、j、ḍ」が集中的に配置されている。
- 下段は「m、n、v、l、s、y」など。
この配列は、InScript(インスクリプト、Indian Script の略)として、インド政府によって標準化された配列であり、他のインド系文字のキーボードでも採用されている。


Unicode
Unicodeでは以下の文字が下記の領域に収録されている。
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脚注・出典
参考文献
関連項目
外部リンク
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