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2016年に環太平洋諸国間で署名された経済連携協定 ウィキペディアから
環太平洋パートナーシップ協定(かんたいへいようパートナーシップきょうてい、環太平洋(経済)連携協定、英: Trans-Pacific Partnership Agreement、略称:TPP[2])は[注釈 5]、オーストラリア、ブルネイ、カナダ、チリ、日本、マレーシア、メキシコ、ニュージーランド、ペルー、シンガポール、ベトナム、アメリカ合衆国の間で2016年2月4日に署名された経済連携協定(EPA)。2017年1月、アメリカ合衆国が本協定から離脱したため、アメリカ合衆国の離脱後、発効されたCPTPPと区別する必要がある場合は「TPP12(TPP Twelve)」と通称されている[注釈 6]。
環太平洋パートナーシップ協定 | |
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TPPに関する各国首脳の集い(2010年) | |
通称・略称 | TPP |
起草 | 2015年10月5日 |
署名 | 2016年2月4日 |
署名場所 | オークランド |
発効 | 未発効 |
現況 | 発効には元の署名国全員による批准、または(署名から2年後)元の署名国のGDPの85%に相当する少なくとも6カ国による批准が必要で[注釈 1]、現在は日本とニュージランドのみが批准[1] |
当事国 |
12[注釈 2] ①2005年の原協定からの当事国[注釈 3](4ヶ国) ブルネイ シンガポール ニュージーランド チリ ②2016年2月に調印した当事国(4+7ヶ国) カナダ 日本 マレーシア メキシコ ペルー ベトナム オーストラリア ③2016年2月に調印したが、2017年1月に離脱を宣言した当事国(1ヶ国) アメリカ合衆国 |
寄託者 | ニュージーランド |
言語 |
英語・フランス語・スペイン語 齟齬がある場合は英語の本文による(協定第30.8条) |
主な内容 | 加盟国間における関税の撤廃、投資家対国家の紛争解決・知的財産権(特許・著作権の保護期間等)・投資に関わるルール等 |
関連条約 |
大西洋横断貿易投資パートナーシップ協定(TTIP) 北米自由貿易協定(NAFTA) |
条文リンク | TPP協定 - 外務省 |
アメリカ合衆国の離脱後、残った国々は、TPPの一部の規定の発効を停止した新たな貿易協定を交渉し、新協定は「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(略称: CPTPP;TPP11[注釈 7])」として、2018年12月30日に発効した。
TPPは、2005年にブルネイ、チリ、ニュージーランド、シンガポールによって署名された環太平洋戦略的経済連携協定(TPSEPまたはP4)の拡大として始まった。2008年からは、より広範な合意のための議論にオーストラリア、カナダ、日本、マレーシア、メキシコ、ペルー、米国、ベトナムなどの国々が追加で参加し、交渉国は12カ国となった。
2017年1月20日、アメリカ合衆国大統領ドナルド・トランプはTPP離脱をアメリカ合衆国通商代表に指示する大統領覚書(Memorandum)[9]に署名し、アメリカ合衆国通商代表部が協定の寄託国であるニュージーランド政府に脱退[注釈 4]を通知した。他のTPP11カ国は2017年5月に協定復活に向けて交渉を行うことに合意し[12][13]、新しい協定は、『環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(かんたいへいようパートナーシップにかんするほうかつてきおよびせんしんてきなきょうてい、英語: Comprehensive and Progressive Agreement for Trans-Pacific Partnership、略称: CPTPP; TPP11)』[注釈 7]として、2018年1月に合意に達した。2018年3月、11カ国はCPTPPに署名した[14]。
中央日報やレコードチャイナ、アメリカのワシントンポストなどの各国新聞各紙は、「アメリカ合衆国の離脱後は、日本が主導した」と報道している[15][16][17][18][17][19][20][21]。
CPTPPは2018年12月30日に、メキシコ、日本、シンガポール、ニュージーランド、カナダ及びオーストラリアの間で発効し[22]、ベトナムについては2019年1月14日[23]に発効、ペルーについては、2021年9月19日に発効[24]、マレーシアについては、2022年11月29日[23]に発効、チリについては、2022年12月23日[注釈 8]、CPTPP発効のための国内手続を完了したので、チリについては2023年2月21日に発効[7][26]、ブルネイは、2023年5月13日、CPTPP発効のための国内手続を完了した旨を寄託国であるニュージーランドに通報したので、ブルネイについてはその批准の60日後の2023年7月12日に発効した[8][27]。
当初のTPPには、非関税障壁と関税障壁の両方を下げ[28]、投資家対国家の紛争解決(ISDS)メカニズムを確立するための措置が盛り込まれていた[29] 。アメリカ国際貿易委員会[30]、ピーターソン国際経済研究所、世界銀行、グローバル・アフェアーズ・カナダ首席エコノミスト事務所は、最終的な協定が批准されれば、すべての加盟国にとって純然たるプラスの経済的成果につながるとした一方で、タフツ大学の2人のエコノミストによる代替手法を用いた分析では、協定が加盟国に悪影響を及ぼすとした。 多くのオブザーバーは、この貿易協定は地政学的な目的、すなわち、加盟国の中国貿易への依存度を下げ、加盟国を米国に近づけることに役立っただろうと主張している[31][32][33][34]。
環太平洋パートナーシップ協定の原協定(英語: Trans-Pacific Strategic Economic Partnership Agreement, TPSEP)は、シンガポール・ブルネイ・チリ・ニュージーランドの4か国の経済連携協定(EPA)として始まり、2005年7月(ブルネイは8月)に署名され2006年5月28日にシンガポール、ニュージーランドについて、7月12日にブルネイについて、11月8日にチリについて発効した。
当初は、Pacific Three Closer Economic Partnership (P3-CEP) として知られ、2002年にメキシコのロス・カボスで開かれたAPEC首脳会議でチリ、シンガポール、ニュージーランドの3か国間で交渉が開始された。2005年4月に開かれた5回目の交渉会合から、ブルネイが完全な交渉当事者として加わった。この原加盟4か国は Pacific-4 (P4) と呼ばれる。また、拡大交渉中のTPP協定と区別するために、原協定 (original agreement) は、P4協定 (P4 Agreement) と呼ぶことがある。
加盟国間の全ての関税の90%を撤廃[35] 産品の貿易・原産地規則・貿易救済措置・衛生植物検疫措置・貿易の技術的障害・サービス貿易・知的財産・政府調達(国や自治体による公共事業や物品・サービスの購入など)、競争政策を含む、自由貿易協定の全ての主要な項目をカバーする包括的な協定となっている[35]。目的の一つは、「加盟国の戦略的提携によってマーケットにおけるプレゼンスを上げること」である[36](CHAPTER 16 STRATEGIC PARTNERSHIP Article 16.2: Objectives 2. (d))。
条文は、ニュージーランド政府サイト上で公開[36](#外部リンク参照)されており、日本語への私訳も複数存在している(日本政府からは、農林水産省から第3章の仮訳が公開されているのみである)。
原協定の構成、リスト |
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原協定の第20章 最終規定の第1条および第2条において、「別段の合意が無い限り、この協定に投資に関する章と金融に関する章を盛り込むことを目的として、この協定の発効(2006年5月28日)から遅くても2年後までに交渉を開始する」と定められている。これに従い協定の拡大交渉会合が開かれている。
拡大交渉に伴い、拡大交渉中の協定は 環太平洋パートナーシップ協定 (Trans-Pacific Partnership Agreement, TPP) と表現されるようになったが、内容は、環太平洋戦略的経済連携協定 (Trans-Pacific Strategic Economic Partnership Agreement, TPSEP, P4) の拡大である。ただし当初は原協定(TPSEP)に基づく拡大交渉として開始されたが、最終的には、原協定とは法的にまったく別の協定となったため、TTPにはTPSEPとの関連を規定する規定は一切ない。
2008年2月4日、アメリカ合衆国通商代表(以下、USTR)のスーザン・シュワブは、アメリカが投資と金融に関する交渉に参加すると表明した[37]。
その後、リーマン・ショックから1週間後にあたる2008年9月22日に、USTRのスーザン・シュワブは、原加盟国4か国の代表と共に交渉の立ち上げの声明を出し、アメリカは最初に追加された交渉国となった[38]。
翌日の2008年9月23日に、オーストラリアは参加の検討を発表した[39]。
なお、アメリカは、参加表明に先立ち日本、オーストラリアなど数カ国に一緒に参加することを外交ルートなどを通じ呼びかけたが、日本は、当時の経済産業大臣・二階俊博(自公連立政権)が参加に意欲をみせたものの、参加は見送っている[要出典]。
2009年11月14日に、アメリカは改めて参加の意思を示し、その中で、大統領のバラク・オバマは初めてTPPに係合する意向を発表し、USTR代表のロン・カークは輸出拡大と雇用確保などのメリットを強く訴えている[40]。
2010年3月に、オーストラリアにおいて、原加盟4か国にアメリカ、オーストラリア、ベトナム、ペルーの4か国を加えた第1回交渉会合が開催された[42]。
2010年6月に、米国において第2回交渉会合が開催された[42]。
2010年10月に、ブルネイにおいて第3回交渉会合が開催された。この会合からマレーシアが参加した[42]。
2010年11月に横浜で行われたAPEC首脳会議の際に、TPP協定交渉参加国首脳会合が開催され、「2011年11月のハワイAPEC首脳会議までの交渉妥結を目指す」ことで一致[42]。
2010年12月に、ニュージーランドにおいて第4回交渉会合が開催された[42]。
2011年2月に、チリにおいて第5回交渉会合が開催された[42]。
2011年3月に、シンガポールにおいて第6回交渉会合が開催された[42]。
2011年5月に、米国のモンタナAPEC貿易大臣会合の際に、TPP協定交渉参加国閣僚会合が開催され、共同声明で「2011年11月にTPP協定の大まかな輪郭を固めるとの目標を表明した[42]。
2011年6月に、ベトナムにおいて第7回交渉会合が開催された[42]。
2011年9月に、米国において第8回交渉会合が開催された[42]。
2011年10月19日〜10月28日の日程でペルーにおいて第9回交渉会合が開催された[43]。
2011年11月12日、TPP協定交渉参加9カ国は首脳会合を開催し、会合後にTPP首脳声明及びTPP協定の輪郭[44]。 に関する文書等を発表した[45]。また、オバマ大統領は「野心的な目標ではあるが、2012年中に協定を完成させるよう指示した」と発言した[46]。
2011年12月5日〜12月9日の日程でマレーシアにおいて第10回交渉会合が開催された[47]。
2012年3月1日〜3月9日の日程でオーストラリアのメルボルンにおいて第11回交渉会合が開催された[48]。
2012年4月にロサンゼルス他においてTPP協定交渉分野別中間会合が開催された[49]。
2012年5月8日〜5月16日の日程で米国のダラスにおいて第12回交渉会合が開催された[50]。
2012年7月2日〜7月10日の日程で米国のサンディエゴにおいて第13回交渉会合が開催された[51]。
2012年9月6日〜9月15日の日程で米国のリーズバーグにおいて第14回交渉会合が開催された[52]。
2012年12月3日〜12月15日の日程でニュージーランドのオークランドにおいて第15回交渉会合が開催された。11月の中間会合から交渉に参加したメキシコ及びカナダが始めて全体交渉に参加した[53]。
2013年3月4日〜3月13日の日程でシンガポールにおいて第16回交渉会合が開催された[54]。
2013年3月15日、日本の安倍晋三内閣総理大臣は記者会見でTPP交渉参加表明した。[55] 2013年5月15日〜5月24日の日程でペルーのリマにおいて第17回交渉会合が開催された[56]。
2013年7月15日〜7月23日の日程でマレーシアのコタキナバルにおいて第18回交渉会合が開催された。日本は、7月23日午後(米国時間23日0時)より参加した[57][58][59][60][55]。
2013年8月24日〜8月30日の日程でブルネイにおいて第19回交渉会合が開催された[61][58][59][60]。
2013年9月18日〜9月21日の日程で米国のワシントンにおいて首席交渉官中間会合が開催された[62][58][59][60]。
2013年10月8日〜10月8日の日程でインドネシアのバリ島において首席交渉官会合(1.2.4.5日)、閣僚会合(3,4,6日)、首脳会合(8日)が開催された[63][58][59][60]。
2013年11月19日〜11月24日の日程で米国のソルトレイクシテにおいて首席交渉官会合が開催された[64][58][59][60]。
2013年12月7日〜12月10日の日程でシンガポールにおいて閣僚会合が開催された[65][58][59][60]。
2014年2月22日〜2月25日の日程でシンガポールにおいて閣僚会合が開催された。また閣僚会合に先立ち2月17日〜2月21日の日程で首席交渉官会合が開催された [66][58][59][60]。
2014年4月9日〜4月10日の日程で東京において日米閣僚協議が開催された[58][59][60]。
2014年4月16日〜4月18日の日程で米国のワシントンにおいて日米閣僚協議が開催された[58][59][60]。
2014年4月24日の東京における日米首脳会談においてTPPについても協議され、これを受けて同日に日米閣僚協議が開催された[58][59][60]。
2014年5月1日〜5月19日の日程でベトナムのホーチミンにおいて首席交渉官会合が開催された[67][58][59][60]。
2014年5月19日〜5月20日の日程でシンガポールにおいて閣僚会合が開催された。[68][58][59][60]。
2014年7月3日〜7月12日の日程でカナダのオタワにおいて首席交渉官会合が開催された[69][58][59][60]。
2014年9月1日〜9月10日の日程でベトナムのハノイにおいて首席交渉官会合が開催された[70][58][59][60]。
2014年9月23日〜9月24日の日程で米国のワシントンで日米閣僚協議が開催された[58][59][60]。
2014年10月25日〜10月27日の日程でオーストラリアのシドニーにおいて閣僚会合が開催された。またこの前後(10月20日から24日、10月28日から11月2日)に首席交渉官会合)が開催された[71][58][59][60]。
2014年11月6日〜11月10日の日程で中国の北京において首席交渉官会合(6,7日)、閣僚会合(8日)、首脳会合(10日)が開催された[72][58][59][60]。
2014年12月7日〜12月12日の日程で米国のワシントンにおいて首席交渉官会合が開催された[73][58][59][60]。
2015年1月26日〜2月1日の日程で米国のニューヨークにおいて首席交渉官会合が開催された。[74][58][59][60]。
2015年3月9日〜3月15日の日程で米国のハワイにおいて首席交渉官会合が開催された[75][58][59][60]。
2015年4月19日夜から4月21日未明に東京において日米閣僚協議が開催された。[58][59][60]
2015年4月23日〜4月26日の日程で米国のメリーランドにおいて首席交渉官会合が開催された。[76][58][59][60]。
2015年4月28日の米国のワシントンにおける日米首脳会談においてTPPについても協議された[58][59][60]。
2015年5月16日〜5月27日の日程で米国のグアムにおいて首席交渉官会合が開催された[77][58][59][60]。
2015年7月24日〜7月27日の日程で米国のハワイにおいて首席交渉官会合が開催され、続いて7月28日〜7月31日の日程で閣僚会合が開催された[78][58][59][60]。
2015年9月26日〜9月28日の日程で、アメリカ合衆国ジョージア州アトランタにおいて首席交渉官会合が開催され、続いて9月29日〜10月5日の日程で閣僚会合が開催され、最終日の10月5日にTPP交渉が大筋合意した[79][58][59][60]。
2015年11月5日に、TPP協定の全体が暫定条文の形で初めて公表された[80]。
2016年2月4日、ニュージーランドのオークランドにおいて、TPP協定が12カ国により署名された[81][82]。
調印式会場のあるオークランドでは、約2万人の人々がTPPに反対するために抗議活動を行った。反TPP運動の主催者らは、TPPがニュージーランドの国家主権を侵害し、地元の企業を犠牲して海外の企業を利すると主張した[83]。
2017年1月、アメリカ合衆国がTPPを離脱[84]。TPP協定は米国抜きでは発効できず[注釈 1]、合意した市場開放や貿易・投資ルールを適用するには協定の見直しが必要となった[85]。
TPP協定については、日本が2017年1月20日[86]に、ニュージーランドが2017年5月11日[87]協定の受諾のための国内手続きを完了した旨を通報したが他の国は米国の離脱表明後手続きを進行させていない。
2017年5月21日、ベトナムにおいて開催された閣僚会合でアメリカを除いた加盟国11か国でTPP協定を早期に発効する事を確認[88][89]。新協定「TPP11」の発効を目指す事となった[90]。
2017年7月12日-14日、神奈川県箱根町において首席交渉官会合が開催され、早期発効に向けた具体策が話し合われた[91]。
2017年8月28日-30日、オーストラリアのシドニーにおいて首席交渉官会合が開催[92]。医薬品データを8年間保護する項目の凍結が固まったほか、著作権の保護期間延長や政府調達の規制緩和などの凍結や修正で、50程度の要望が出た[92]。
2017年9月21日-22日、東京都内において首席交渉官会合を開催[90]。
2017年9月、日本、オーストラリアと共に「TPP11」を引っ張ってきたニュージーランドの政権が選挙で交替。TPP慎重派の労働党が政権についた [93]。
2017年10月30日-11月1日、浦安市舞浜において首席交渉官会合を開催[94][95]。8月の会議で50程度出されたアメリカ合衆国の復帰まで、実施を棚上げする凍結項目を絞る作業が行われた[95]。ニュージーランドの新政権もTPP11の発効を支持する方向に政策転換をした[96]。
2017年11月、ベトナムのダナンで開催されたAPEC閣僚会合に合わせて開催された、TPP署名11か国の閣僚会合において、一旦は11月9日に大筋合意が宣言されたが[97]、カナダが大筋合意を否定するとともに、首脳会合の開催を拒否[98][99][100][98][99]。11月10日夜に再開された閣僚会合でようやく大筋合意[101]が再確認されたが、首脳会合は開催されなかった[102][103]。
この大筋合意では、オリジナル版TPPの内容のうち、20項目に関してアメリカ合衆国が復帰するまで実施を「凍結」をすることとし合意し、新名称を「包括的及び先進的な環太平洋パートナーシップ協定[注釈 9](英語: CPTPP, Comprehensive and Progressive Trans-Pacific Partnership)」にすること、CPTPPの略称も使うことを発表した[104][105][106]。また4項目についてはなお協議することとされた[107]。
2018年1月22日-23日、東京において首席交渉官交渉が行われ、継続交渉とされた4項目のうち、マレーシア、ブルネイの経過措置起算日については凍結で合意、ベトナムの労働、カナダの文化例外については、発効後の取り扱いについて各国とサイドレターを取り交わすことで合意した。それにより凍結項目が確定し、英文の法技術的チェック(リーガルスクラブ)も終了したことから、新協定のテキスト(英文)が確定したことが確認され、署名式を2018年3月8日チリで行うことで一致したと発表された[108][109][110][111]。カナダのトルドー首相も、世界経済フォーラム(ダボス会議)において、2018年1月24日にTPP11への署名の意向を表明[112]。
TPP11は、参加11か国の人口は合わせて約5億人(世界の約6%)、GDP合計は、日本円にして約1100兆円(世界全体の13%)規模の経済連携協定となる[113]。
2018年1月25日、アメリカのトランプ大統領は訪問先のスイスで受けた米テレビCNBCのインタビューで、就任時「永久に離脱する」としていたTPPへの参加を「より有利な条件であればやる」と復帰を検討する用意があると表明した[114]。
2018年3月8日、チリのサンティアゴにおいて、アメリカを除く11か国によるTPP11の署名式が行われた[115][116][117][118]。これにより、人口5億人の貿易圏が誕生することとなった[116][117][118]。
オーストラリアが2018年10月31日、CPTPPについての国内手続を完了した旨の通報をし、CPTPPの締約国が6か国になったことにより、CPTPPは2018年12月30日に、メキシコ、日本、シンガポール、ニュージーランド、カナダ及びオーストラリアの間で発効した[22]。
ベトナムは、2018年11月15日にCPTPPについての国内手続を完了した旨の通報[119]したので、ベトナムについてはその通報の60日後の2019年1月14日[23]に発効した。
ペルーは、2021年7月21日にCPTPPについての国内手続を完了した旨の通報[120]したので、ペルーについてはその通報の60日後の2021年9月19日[23]に発効した。
マレーシアは、2022年9月30日にCPTPPについての国内手続を完了した旨の通報をしたと10月5日に公表した[121][122]。マレーシアについてはその通報の60日後の2022年11月29日[23]に発効した。
チリは、2022年12月23日[注釈 8]にCPTPPについての国内手続を完了旨の通報[7]したので、チリについてはその批准の60日後の2023年2月21日[23][26]に発効した。
ブルネイは、2023年5月13日、CPTPP発効のための国内手続を完了した旨を寄託国であるニュージーランドに通報したので、ブルネイについてはその批准の60日後の2023年7月12日に発効した[8][27]。
ブルネイが締約国になることにより、CPTPPは、当初の11カ国すべてについて発効した。
TPP11として合意された「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定」(CPTPP) は、法的には環太平洋パートナーシップ協定 (TPP) とは別の条約として作成された。本文7か条と附属書が1本で構成されている。
付属書において、CPTPPでは適用を停止している22(うち11は、知的財産権関係)のTPPの規定を示している。第9章「投資」及び第18章「知的財産」での適用停止が目立つ。
投資章の適用停止は、たとえば資源採掘やインフラ建設・運営(空港、高速道路等)のコンセッション契約を締結した投資家は、相手国政府に契約違反があっても、その違反が同時にTPP投資章の義務への違反でないかぎり、投資家対国家の紛争解決 (ISDS) に訴えられない。
知的財産章では、TPP交渉の最終段階で米豪間の激しい対立を生んだ、生物製剤特許の保護や「ミッキーマウス延命策」とも揶揄される著作権の保護期間延長(作者の死後70年)など、もっぱらアメリカ合衆国の強い関心を反映した条項が停止された。他方で、電子商取引・国有企業・労働・環境といった新しい分野を規律する章は、ほぼそのままである[123]。
附属書で、TPPの項目のうち適用を停止している規定の主な範囲は次のとおり。
2018年7月18日 - 19日、神奈川県箱根町において首席交渉官会合が開催され、
についての協議がおこなわれた[124]。
2018年11月20日-21日、東京において首席交渉官交渉が行われた。国内手続中の各国の状況の確認、第1回TPP委員会の運営の協議、新規加盟国・地域に対する基本的な方針等について議論が行われた[125]。このなかで新規加入の手続きについては、CPTPPでは細かく規定はないが、TPP協定に準じて、ワーキンググループを立ち上げて、そのワーキンググループで交渉して、最終的に加入の是非を委員会で判断するということで概ね合意がされた。またTPP委員会の議長国のローテーションは2019年は日本、2020年以降は、協定の批准の順にメキシコからローテーションすることも概ね合意がされた。いずれも2019年1月に開催される第1回TPP委員会で正式に決定することになっている[126]。
CPTPPは、最初の6カ国とその後の5カ国とで発効時期が異なるため、特に段階的引下げを行う品目の場合の適用関係が問題になる。これについてはCPTPP協定によって適用されるTPP協定附属書2-Dの4の規定により、
協定の発効日(2018年12月30日)の後、新たに発効する国(新締約国)については、日本を含む当初の締約国が適⽤する関税撤廃のスケジュールは、①新締約国の発効日を起点として適⽤する、②協定の発効日(2018年12月30日)に発効したものとして適⽤する(キャッチアップする)のいずれかを、その都度、決定することとなっている[127]。
ベトナムについては、 1) メキシコとベトナムはお互いにキャッチアップしない(①)[128] 2) メキシコ以外の締約国(日本、シンガポール、ニュージーランド、カナダ、オーストラリア)とベトナムはお互いにキャッチアップする (②) と決定されている[127]。
ペルー、マレーシア、チリについては、すべての締約国とお互いにキャッチアップすると決定されている[127]。
ブルネイについては、日本との関係でキャッチアップすると決定されている[127]
なお当初の締約国がキャッチアップをした場合は、新締約国には選択権はなくキャッチアップを⾏う義務があり、当初の約国がキャッチアップをしない場合は、新締約国はキャッチアップを⾏うかどうか選択できる[129]。
協定発効を受けて第1回CPTPP委員会[注釈 10]が、11か国の閣僚級で2019年1月19日午後に東京で開催された[134]。
この委員会には、CPTPP署名国が参加するが開催日までに締約国となっている7か国が正規メンバーとなり残りの4か国はオブザーバーになる[135]とされ、委員会の決定[136]として、移行期間としての2019年に関する特別措置で、この移行期間において、CPTPPが未だ効力を生じていない署名国は、委員会の会合、高級事務レベル会合、他の全ての小委員会及びその他の補助機関の会合並びに加入作業部会に参加することができることが決定された。
また、委員会の議長について、2019年は、日本、2020年以降は1年交代でCPTPP協定の関係する国内法上の手続を完了した旨を書面により寄託者に通報した締約国の順番(従って2020年はメキシコ、2021年は日本となり、2030年のブルネイまで決定されたことになる)に従って行うこと[136]となった。
CPTPPの加入手続[137]、国と国との間の紛争解決のパネルの手続規則[138]、投資家と国との間の紛争解決の行動規範[139]も採択された。
さらに委員会終了後出席した閣僚による[注釈 11]「協定を拡大していく強い決意を確認した」とする閣僚声明[140]。が発表された。
第2回CPTPP委員会は、2019年10月7-9日に、ニュージーランドのオークランドにおいて開催された。第1回とは異なり、各国の首席交渉官レベルで行われ、日本からは梅本首席交渉官が出席した。また並行して分野別に設置されている物品貿易、SPS、労働、国有企業等12の小委員会等の会合が開催され、関係省庁担当官が出席した。委員会は、TPP委員会の手続規則[141][142]と紛争処理のパネル議長の登録簿の作成に関する決定[143][144]の二つの決定を採択した。また、11か国の共同声明[133][145]を採択し、「全ての署名国による協定の早期発効のための努力を支持し、促進する。」「他のエコノミーにより継続的に示されているTPP11加入への関心を歓迎」を行った。ただし新規加盟交渉について具体的な交渉開始についての発表はされなかった。なお議事内容について委員会報告書[146][147]が公表されている。
第3回CPTPP委員会が、2020年8月5日[注釈 12]にテレビ会議方式にて閣僚級で開催された[149]。協定各章の規定の着実な実施のため、物品貿易、SPS、TBT、競争力及びビジネスの円滑化等15の小委員会等の会合もテレビ会議方式にて行われた[149]。またCPTPP参加11か国[注釈 13]閣僚声明が発表された[150][151]。
CPTPPへの新規加入については、正式申請が見込まれていたタイが、2020年中の申請は困難な状況になっており[152]、イギリス、台湾等も正式申請を行っていないため、閣僚声明で「TPP11協定への加入についての関心を温かく歓迎する[150]に留まり、正式決定はされなかった。
複数のメディアの報道によると、2021年5月26日の記者会見において、日本の西村康稔経済再生担当相が、第4回CPTPP委員会が、2021年6月2日に、オンライン形式で開催されると発言した。[153][154]。日本は、2021年においてCPTPP委員会の議長国である。委員会では、イギリスのCPTPP加入申請への対応を議論され、加入交渉開始が決定される見込みとも報道された[153][154]。
第4回CPTPP委員会が、2021年6月2日[注釈 14]にテレビ会議方式にて閣僚級で開催された[156]。CPTPP加入手続に基づき、イギリスの加入手続の開始及び加入作業部会(議長:日本、副議長:豪州及びシンガポール)の設置についての委員会決定を採択した[157][158]。この決定は、まだ受諾が完了していない署名国も、作業部会の決定に参加できないことを条件に加入作業部会の会合に出席し、かつ参加することができるとしている(決定パラ5)。なお、加入作業部会にはイギリスの政府の代表者を含まない一方、加入の条件を交渉するため又はその他の理由のため、加入作業部会はその会合に英国を招請することができるとしている(決定パラ6)。
今回の会合の際に小委員会等の会合が開催されたかについての言及は、6月2日の日本政府の結果概要の発表にはない[156]。またCPTPP参加11か国[注釈 15]閣僚声明が発表された[159][160]。
第5回CPTPP委員会が、2021年9月1日[注釈 16]にテレビ会議方式にて閣僚級で開催された[162]。
電子商取引章の規定の実施の促進等を行うための電子商取引に関する小委員会の設置についての委員会決定を採択した[163][164]。またCPTPP参加11か国[注釈 17]閣僚声明が発表された[165][166]。
小委員会等の会合の開催については、閣僚共同声明に「委員会会合に先立ち、本年オンライン形式で開催した17の本協定の補助機関」述べられている[165][166]。
第6回CPTPP委員会が、2022年10月8日に、11か国の閣僚級でシンガポールで対面で開催された[167]。対面かつ閣僚級での開催は3年ぶり[167]。また13の作業部会がオンラインで開催された[168]。
委員会においては、各種報告がされたが、中国、台湾等の加入申請の扱いを含め、何らかの決定をされたという公表はない[167]。
第7回CPTPP委員会が、2023年7月16日に、11か国の閣僚級でニュージーランドのオークランドで対面で開催された[170]。
委員会において、7月14日付のイギリスの加盟作業部会報告[171]を受けて、環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定へのグレートブリテン及び北アイルランド連合王国の加入に係る委員会決定[172][173]を採択し、イギリスの加盟を正式に決定した。
また、「税関当局・貿易円滑化に関する特別作業部会の設置に係る環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定委員会決定を採択した[174][175]。
加えてCPTPP参加11か国[注釈 19]の閣僚声明が発表された[176][177]。
この閣僚声明のなかで、新規加盟申請について「加入要請エコノミーの貿易面でのコミットメントに関する経験を考慮して、加入要請エコノミーがCPTPPのハイスタンダードを満たすことができるかどうかに関する情報収集プロセスを現在実施している。 」(パラ19)、「我々は、集められた情報が、加入要請エコノミーについての加入手続の開始を含め、CPTPP参加国によってとられるいかなるプロセス、結果、決定又は行動を予断するものではないことを再確認する。」(パラ20)とし、いまだ検討中であり何らの決定を予断しないと表明した。
2023年11月5日(米国時間)、本年のCPTPP委員会議長国であるニュージーランド主催により、米国サンフランシスコにおいて、イギリスを含む12カ国でCPTPP閣僚会合が開催された[178]。この会合は、APEC等の会合に合わせたものであり、CPTPP委員会に合わせたものではない初めての閣僚会合である。
閣僚会合では、協定に基づく一般的な見直しの作業を進めるため、その作業方針である付託事項(TOR)[179][180]の承認、イギリスに続く加入要請エコノミーへの対応に係る議論がされ、閣僚共同声明[181][182]を採択した。
2024年5月日(ペルー時間)、本年のTPP委員会議長国であるカナダ主催により、ペルー・アレキパにおいてイギリスを含む12カ国でCPTPP閣僚会合が開催された[183]。CPTPP委員会に合わせたものではない2番目の閣僚会合である。
この会合で、閣僚共同声明[184][185]を採択した。この閣僚声明で、CPTPP加入要請について議論を行うための非公式な常設のフォーラムを設立が表明されている
第4回CPTPP委員会での加入手続の開始決定を受けて、加入交渉が2021年6月21日に開始された[186][187][188]。
2021年9月1日、イギリスの加入作業部会第1回会合は、今後1か月程度を目途に開催を目指すと日本の西村康稔経済再生担当相が、第5回CPTPP委員会後の記者会見において発表した[161]。
2021年9月28日、イギリスの加入作業部会第1回会合が、オンライン形式で開催され、イギリスが加盟基準に適合するための具体的な取り組み状況を説明した[189]。
2022年2月18日、日本政府は、CPTPP高級実務者によるオンライン形式の協議が行われ、2021年9月28日に開始されたイギリスのCPTPP加入作業部会第1回会合を終了する旨、締約国間で合意がされた。今後、イギリスより市場アクセスのオファー等が加入作業部会に提出されると発表した[190]。発表を報道した日本の日本経済新聞は、「データ流通や知的財産では高いルール水準を堅持した。加盟申請した中国に対するけん制につなげる。」との論評した[191]。
2022年7月24日-28日、東京においてイギリスのCPTPP加入作業部会がCPTPP参加国及び英国の首席交渉官レベル及び実務専門家レベルで行われた。これは、記念写真の公表があることからの対面で行われた。結果については、公式発表では「ハイスタンダードなルール及び市場アクセスを維持しつつ、加入プロセスが適切に進められるよう、様々な課題について議論を深めました。」とするのみで進捗状況については公表されていない[192]。
2022年9月27日、日本の時事通信は、日本やオーストラリアなどがイギリスに対し、市場開放に関する提案内容を再考するよう求めていると報道した[193]。農業分野を中心に市場開放に慎重で、全体で90%程度にとどめているため[193]。イギリスは近く関税分野の条件を再提示する見込みであるが、審査に一定の時間が要するため、英国が目指す年内の加入合意は難しそうであるとも伝えており、日本政府関係者は「現状のままでは英国の加入は難しい」と指摘。別の交渉関係者は、昨年加入申請した中国などとの協議も念頭に、「イギリスにもルールを緩めず厳しく対応する」と強調しているとしている[193]。
2023年3月31日、CPTPP参加国各国及び英国の閣僚及び代表は、オンライン形式の会合を行い、「CPTPPへの英国加入プロセスに関する閣僚共同声明[194][195]」を発出した。この閣僚共同声明は、「CPTPP加入交渉の実質的な妥結を歓迎した[194]」と明記している。
2023年7月16日の第7回CPTPP委員会における加入の正式決定[196][173]を受けて、同日、イギリスとCPTPP締約国11か国が、環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定へのグレードブリテン及び北アイルランド連合王国の加入に関する議定書に署名した[197]。
この議定書は、交渉の結果を踏まえ、CPTPPが規定する各分野のルールのイギリスによる遵守並びにCPTPPの締約国及び英国が互いに付与する市場アクセスに関する約束等を定めており、各分野のルールについてはCPTPPでの水準をそのままイギリスが受け入れている[198]。
この議定書の署名後、各国においてその締結に必要な国内手続を行うこととなり、日本においては国会の承認が必要とされている[198]。
この議定書は、イギリス及び全てのCPTPP締約国による締結後、60日後に発効。署名15か月以内(2024年10月16日)にイギリス及び全てのCPTPP締約国が締結していない場合、イギリス及び6か国以上のCPTPP締約国が締結後(署名15か月の時点でこの要件が満たされていれば、その時点から)、イギリス及び締結済みのCPTPP締約国について、60日後に発効する。その後に締結するCPTPP締約国について、締結後60日後に発効(議定書第21条)。
企業とTPP加盟国が、協定国での投資に関して論争が起きた場合は、まず両者の協議などで解決を図る。9.18条
協議開始から6か月経過しても論争が決着を見ない場合には、企業側は国家側が、9条1項から9条17項の義務を果たしていないことや、投資に関する協定に則っていないなどの主張を行うことができる。企業側は国家側のTPP義務不履行によって損失を被ったとする主張も行うことができ、申し立てを行って 仲裁に持ち込むことができる。仲裁の方法はthe ICSID Convention and the ICSID Rules of Procedure for Arbitration Proceedings、the ICSID Additional Facility Rules、the UNCITRAL Arbitration Rulesなどから選ぶことができる。9.19条から抜粋
米国離脱後の締結されたCPTPP(TPP11)において、TPP協定の投資に関する規定のうち、「投資に対する合意」及び「投資の許可」違反を理由とする仲裁申立てに関する規定を凍結した[199]。
一般的には、特別法廷は3人の仲裁人から構成され、申し立てる側・対応する側から各1名選ぶ。残りの1人は法廷の長であり双方の協議で決めるが、申し立てから75日以内に決まらない場合はICSIDのSecretary Generalが決める。当事者同士が特別に同意する場合はそれ以外の方法で仲裁人を構成する。9.22条より抜粋
という手続きをとる。9.29条より抜粋
これまでの判例では、特別法廷は訴えられた側と訴えた側両者に対して、弁護士・特別法廷員料など特別法廷に関連する支出を支払うよう命じている。特別法廷に関連するコストの平均は、政府側が約440万ドル、申し立てた側が約450万ドルとなっている[200]。
アメリカの消費者擁護団体Public Citizen(英語版)は「裁判は特別法廷で行われ、政府側が負けた場合は訴えた企業に賠償金を支払い、仮に政府側が勝ったとしても、裁判にかかる弁護士料など諸費用を政府が負担させられる可能性もある。初期のリークされた文書では、特別法廷員にかかる費用の下限は1時間あたり375ドルであったが、最終合意文書ではその費用限度は撤廃された。特別法廷がその裁量で以って、その額を決めることができる。よってその賠償金と特別法廷員にかかる費用などは、訴えられた国家の納税者に負担をかけるだろう」と主張している[201]。
カナダの政治家であるGord Miller(英語版)は「ISDSによる特別法廷で、政府側が賠償金を支払うことを命じられた場合は、その国の有権者に課される『隠れた税金』となる。それは、政府によってではなく多国籍企業などの企業側によって課される税金である」と述べている[202]。
バーニー・サンダースとドナルド・トランプという、一見すると政治に関する立場が大きく違う両者が、反TPP(+ISDS条項)では一致を見ている。左側は「非民主的な大企業による逸脱行為が正当化される」、右側は「国家主権を侵食する」と唱えている[203]。
アメリカの経済学者Dean Baker(英語版)は「過去四半世紀の貿易協定(TPPを含む)では、貿易の特定の領域に関しては自由どころか保護が強くなった。処方薬の特許や本・映画・ソフトウェア・音楽の著作権の保護期間などである。2016年4月時点で、米国国民は一人あたりにして年間およそ1300ドルを薬剤購入に費やしている。これが本当に自由市場ならばその10分の1の費用ですむ可能性がある」と主張している[204]。
カリフォルニア大学バークレー校の研究者らは「TPPは企業が環境、労働(基準)、ヘルスケア、医療に関する規制の回避を可能にする」と主張している[205]。
政府側が新しい医薬品・医療機器をリストに加えそれらの価格を決める場合、政府側は価格決定に関する公式かつ正式なすべての提案(医薬品・医療機器メーカーなど企業側からの提案も含める)を検討することを確約する[206]。
医薬品・医療機器メーカーなど企業側は、専門家らによる審査を行う機会が政府から与えられる。それは内部審査であり、その製品の価格決定に最も影響を受ける申請者(すなわち企業側)の要請で行われるプロセスである。
その内部審査は一回限りでもよい場合がある。そして政府が許可すれば、その内部審査においてその製品の価格を決定することが可能となる。このシナリオでは医薬品・医療機器メーカーが事実上それら製品の価格を決定することになる。
政府が内部審査のみでの価格決定を許可しない場合は企業側がISDSを行使し政府側を訴える可能性がある。26章附属書Aより[206]
18.78条には企業秘密の公開・取得・無断使用の罰則に関する条項が盛り込まれている。 企業秘密の公開・取得・無断使用に対する罰則規程によって、従業員が会社を辞め(同じ産業の)別の会社で働くことができなくなる場合がある[209]。
会社勤務の労働者はその会社の企業秘密にアクセスできる。仮にその労働者がその会社を辞め(もしくは解雇され)、同じ産業の別の会社で働き始めたとする。この場合、その労働者は既に知っている企業秘密を新しく勤め始めた会社に持ち込むことが物理的に可能になる。 よってTPP18.78条が定める企業秘密の公開・取得・無断使用に該当することになり、その労働者が企業秘密を漏洩させる意図が無いとしても、罰則規定の対象になりうる。これはより高い賃金を目指して別の企業に移ろうとする労働者にとっては厳しい。逆に、企業側にとっては労働者の賃金を固定できる道具となる[209]。
2013年11月23日、ラチェット条項[注釈 20]の導入に合意した。この条項は、国が自国の産業を守る為、外資を規制する等が、一部の例外を除いて出来なくなる仕組み。原則、法律で再び規制すること等を禁止する。日本経済新聞は、「日本企業が安心して進出できる環境が整いそう」と報じた[212]。
2015年11月6日、米財務長官は、TPPに異例の為替関連条項が盛り込まれたことに関して発言。「貿易相手国が為替操作に従事することを防ぐ新たな手段が米政府に与えられる」として、このTPP為替条項を歓迎した[213]。
また、為替介入についての報道で、「一部の国は輸出競争力を高めるため自国の通貨を堂々と落としたりもする。 日本のアベノミクスも例外でない。為替市場への介入は程度の差があるだけだ。このため為替レート政策を含むことになればTPP妥結が難しいという観測が多かった。しかしこの部分に対する米国の立場は強硬であり、結局、相当部分が貫徹された。」と、米国側の意見が通りTPPに為替操作防止条項が入ったと報道した[214]。
シンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランドの4か国は原協定(TPSEP)の加盟国である。
アメリカ、オーストラリア、ベトナム、ペルーは参加を表明し、拡大交渉会合に第1回から参加している。次いで、マレーシア、コロンビア、カナダも参加の意向を明らかにした[236]。その内、マレーシアが交渉国として認められた[237]。同時にカナダ、メキシコも交渉に参加し、最後に日本が交渉に参加した。
アメリカは2000年以降、「Asia only」(アジアのみ)の経済ブロックを懸念していたが、TPPの拡大を進めることは「アメリカ締め出し防止」につながる[304]。
2006年のAPEC首脳会議から本格化したアジア太平洋自由貿易圏 (FTAAP) 構想は、東アジア地域での経済統合にアメリカが関与する機会となる。2010年のAPEC首脳会議で、FTAAPの実現に向けた具体的な手段の基礎として、ASEAN+3、ASEAN+6、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)が挙げられている[305]。アメリカは2008年にTPPの#原協定の拡大を持ちかけ、最初に追加された交渉国となった。
サブプライム住宅ローン危機に端を発し2008年のリーマン・ショックで深刻な不況に陥ったアメリカは、2010年1月、5年間で海外輸出を二倍に増やすとする輸出倍増計画を立ち上げ、一般教書演説で大統領バラク・オバマは公にした[306][307]。輸出促進関係閣僚会議がこの計画の為に纏めた報告書では、「アメリカの経済的利益の増進を図る手段と輸出拡大のツールを生み出す」として、TPPの実現を明記しているとしている[308]。
また、同大統領は、APECに出席する為、来日した折、横浜市において輸出倍増計画の大部分はアジアにあり、アメリカにとって大きな機会、とし、TPPはその計画の一環であると演説した[309]。そのうえで国外に10億ドル輸出を増やすたびに、国内に5000人の職が維持される、と発言した[309]。また日本での演説で、「巨額の貿易黒字のある国は輸出への不健全な依存を止め、内需拡大策を採るべきだ。いかなる国もアメリカに輸出さえすれば経済的に繁栄できると考えるべきではない」と発言したとしている[309]。
2017年1月20日には共和党の予備選に立候補した時からTPPに反対していたドナルド・トランプがアメリカ合衆国第45代大統領に就任。直後ホワイトハウスのホームページで公式にTPPからの離脱を表明した[84][310]。2017年1月23日、ドナルド・トランプ大統領は「永久に離脱する」と明記した大統領覚書[9]に署名し、TPP離脱を決定した[311]。2017年1月30日、TPP離脱の大統領覚書に伴い、米国通商代表部はTPP離脱を通知する書簡をTPP事務局を務めるニュージーランドと日本などTPP参加国11か国に送付した、[11][312][313][314]。
シティグループ、AT&T、ベクテル、キャタピラー、ボーイング、コカ・コーラ、フェデックス、ヒューレット・パッカード、IBM、インテル、マイクロソフト、オラクル、ファイザー、ジョンソン・エンド・ジョンソン、先進医療技術協会、生命保険会社協議会、ウォルマート、タイム・ワーナー、カーギル、モンサント、アメリカ大豆協会、トウモロコシ精製協会、全米豚肉生産者協議会等が参加する「TPP推進のための米国企業連合」は米国ホワイトハウスに対して、「アメリカの対外投資にとっての予測可能かつ非差別的な法的環境、強力な投資保護、市場アクセス条項、紛争解決手段を組み込むべき」等の市場アクセス、知的財産、投資、更なる貿易の簡素化、規制の調和、公正な競争の様々な要求を行なった[315]。
2011年3月28日にシンガポールで始まった第6回交渉会合で、アメリカは砂糖などを関税撤廃の例外とするよう求めている模様、と読売新聞がシンガポールからの記者の記事として報じている。これはアメリカ、オーストラリア間のFTAでは、砂糖など108品目を関税撤廃の例外としており、TPPでも同じ扱いを求める、との見方による[316]。
しかし、第6回交渉会合を終えた2011年4月1日、ニュージーランドのシンクレア首席交渉官は「関税撤廃の例外は認めない」と改めて強調している[317]。
2012年2月から3月にかけて、日本政府は各国との協議結果[318][319]を公表した。それによると、例外の扱いに関しては、各国での認識の相違がみられる発言がある。米国との協議結果資料においては、「日本側より、センシティブ品目の取扱いについて関税撤廃からの除外があり得るのか質問したのに対し、米側より、TPPは包括的な協定を目指している旨回答があった」と記載されている。
また、米国以外の国の発言として、「センシティブ品目の扱いは合意しておらず、最終的には交渉次第」、「全品目の関税撤廃が原則。他方、全品目をテーブルにのせることは品目の関税撤廃と同義ではない」との発言や、「90-95%を即時撤廃し、残る関税についても7年以内に段階的に撤廃すべしとの考えを支持している国が多数ある」、といった発言があった旨、記載されている。
2012年2月2日、ゼネラルモーターズ、フォード・モーター、クライスラーのアメリカ自動車大手3社で組織する米自動車貿易政策評議会 ( (American Automotive Policy Council) , AAPC) のマット・ブラント (Matt Blunt) 会長は、TPP交渉への日本の参加を拒否するよう、当時の米大統領バラク・オバマに求めていることを明らかにし、「TPP交渉に日本が参加すれば、交渉が数年にわたって長引き、おそらく実を結ぶことはないだろう」と語った[320]。なお、これはUSTRが1月に意見を公募した結果でもある。
2013年10月1日、ローリー・ワラックは次のように伝えた(要旨)[321][322]。
アメリカン大学のロースクールは、米韓FTAや偽造品の取引の防止に関する協定 (ACTA) の規定を超えた知的所有権強化を懸念し[323]、USTR代表(ロン・カーク)宛に下院議員10名による開発途上国、特にベトナムでの公衆衛生(public health)や医薬品の利用を脅かす事態を憂慮する書簡が提出されている[324]。
ワシントン州議会の民主党の議員らがワシントン州選出の上院・下院議員宛に手紙を書き、TPPの様々な問題点を指摘した[325]。その手紙の中で、製薬会社のための知的財産権の拡大による薬価高騰、法的拘束力無き環境・天然資源保護、航空宇宙産業の雇用へのダメージ、 基本的人権へのコミットメントが無いことや労働基準のコンプライアンス欠如などについて懸念を表明した[326]。USTRは「環境・健康その他に関係する規制には例外処置がある(よって守られる)」と主張している。だが過去のISDS特別法廷では、「政府側の義務」を(申し立てる側が)拡大解釈するのを防ぐ条項を特別法廷が無視してきた。ゆえにUSTRのいう例外処置は役に立たないだろう。そしてTPPはより多くの投資家にISDSを使わせることを可能にする。米国の自己決定権保持者は米国国民であり、外国の大企業ではない。ワシントン州議会議員らはワシントン州選出の上院・下院議員に対してTPPに反対するように呼びかけた[326]。
2016年4月中旬、オックスファムや国境なき医師団を含めた50以上の団体が米国議会に書簡を出し、TPPに反対するよう請願した[327]。
TPPは製薬企業に市場独占を許し新薬の価格設定にも関与する権限を強めるために、薬価が高騰する。バイオ医薬品については基本的に8年間の独占期間が与えられる。Federal Trade Commission(FTC)は、「企業のイノベーションのインセンティブとなりコストの回収にもなるように、バイオ医薬品については独占期間を設けないことが必要である」と結論づけているにもかかわらずである[328]。
薬価を下げる効果的な方法は薬剤市場にジェネリック医薬品を流通させることである。米国ではジェネリック医薬品によって医療コストを(過去10年間で)1.5兆ドル削減することが出来ている。またジェネリック医薬品はHIV流行への対応策としての側面も持っている[328]。
だがTPPはジェネリック医薬品の販売も制限する。薬価高騰の結果、患者が救命のための薬剤を使用することがより難しくなる。さらには製薬会社がISDSを使って政府を訴えて多額の賠償金を請求する場合もあるだろう。既にイーライリリー・アンド・カンパニーがNAFTAのISDSを行使し、2つの薬剤特許の無効化を不服としてカナダ政府を訴えて5億ドルの請求をしている[328]。
オックスファムらの団体は、TPPが米国国内の保健のための優先事項や世界的保健政策と相容れないものであることを指摘している[327]。
エリザベス・ウォーレン上院議員は、米国のプログレッシブ派の議員らにTPPに反対するよう呼びかけている。「TPP支持者は、TPPは国際貿易の枠組みを構築するにあたっての米国の存在感の大きさを示すものだと信じさせようとしています。しかしTPPは米国労働者を助けるような枠組みを構築するものではありません。TPPは巨大企業のための枠組みをつくるものなのです[329]。」
2023年7月16日の第7回CPTPP委員会における加入の正式決定[196][173]を受けて、同日、イギリスとCPTPP締約国11か国が、環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定へのグレードブリテン及び北アイルランド連合王国の加入に関する議定書に署名した[197]。
加入議定書は、交渉の結果を踏まえ、CPTPPが規定する各分野のルールのイギリスによる遵守並びにCPTPPの締約国及び英国が互いに付与する市場アクセスに関する約束等を定めており、各分野のルールについてはCPTPPでの水準をそのままイギリスが受け入れている[198]。
加入議定書の署名後、各国においてその締結に必要な国内手続を行うこととなり、日本においては国会の承認が必要とされている[198]。
加入議定書は、イギリス及び全てのCPTPP締約国による締結後、60日後に発効。署名15か月以内(2024年10月16日)にイギリス及び全てのCPTPP締約国が締結していない場合、イギリス及び6か国以上のCPTPP締約国が締結後(署名15か月の時点でこの要件が満たされていれば、その時点から)、イギリス及び締結済みのCPTPP締約国について、60日後に発効する。その後に締結するCPTPP締約国について、締結後60日後に発効(議定書第21条)。
2024年8月29日、イギリス政府は、イギリス及び6か国(日本、シンガポール、チリ、ニュージーランド、ベトナム及びペルー)が締約を完了したと発表した[346]。2024年12月15日の発効が確定した。なお2024年10月16日までに残る5か国(カナダ、メキシコ、ブリネイ、オーストラリア及びマレーシア)のすべてが締結した場合、発効が繰り上がり、その締結が完了した日から60日後に発効する。
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