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黄道十二星座の1つ ウィキペディアから
みずがめ座(みずがめざ、ラテン語: Aquarius)は、現代の88星座の1つで、プトレマイオスの48星座の1つ[2]。黄道十二星座の1つで、水瓶を抱えた人物をモチーフとしている[1][2]。このモチーフとなった人物について、現代ではトロイアの王子ガニュメーデースであると語られることが多い[2][7]が、古代ギリシア・ローマ時代にはそのモデルについて諸説分かれていた[8][9]。
Aquarius | |
---|---|
属格形 | Aquarii |
略符 | Aqr |
発音 | [əˈkwɛəriəs]、属格:/əˈkwɛəriaɪ/ |
象徴 | 水瓶を抱えた人[1][2] |
概略位置:赤経 | 20h 38m 19.1706s - 23h 56m 26.5355s[3] |
概略位置:赤緯 | +3.3256676° - −24.9040413°[3] |
20時正中 | 10月下旬[4] |
広さ | 979.854平方度[5] (10位) |
バイエル符号/ フラムスティード番号 を持つ恒星数 | 97 |
3.0等より明るい恒星数 | 2 |
最輝星 | β Aqr(2.89等) |
メシエ天体数 | 3 |
確定流星群 | 5[6] |
隣接する星座 |
うお座 ペガスス座 こうま座 いるか座 わし座 やぎ座 みなみのうお座 ちょうこくしつ座 くじら座 |
2等星以上の明るい星が1つもない星座だが、γ・ζ・η・π の4星が作る Y の形のアステリズムは、欧米では Watar Jar、日本では三ツ矢と呼ばれて親しまれている。1846年9月23日、ベルリン天文台のヨハン・ゴットフリート・ガレと助手のハインリヒ・ダレストが海王星を発見したとき、海王星はみずがめ座の領域にあった。
領域の北端付近を天の赤道が通っている[3]ため、地球上のどこからでも星座の一部を見ることができる。黄道十二星座ではおとめ座に次いで2番目に、全天88星座でも10番目に大きな星座である[5]。20時正中は10月下旬頃[4]で、秋の四辺形とみなみのうお座のフォーマルハウトの中間あたりに見ることができる。21世紀現在隣のうお座に位置している春分点は、地球の歳差運動の影響により西暦2597年頃にみずがめ座の領域に入る見込みである[10]。
「水があふれ出る瓶を抱えた人物」というみずがめ座の描像の原型は、「グラ (Gula)」と呼ばれた古代バビロニアの星座に遡ることができるとされる[11][12]。グラには「偉大なるもの (Great One[12])」という意味があり、メソポタミアの知恵と水の神であるエンキ[注 1]と密接に関係するものとされ、手に1つまたは複数の水があふれ出す壺を持った大地に立つ男の巨人の姿で描かれるのが一般的であった[12]。彼の持つ壺からあふれ出す水は、天から降り注ぐ豊穣な雨を象徴したものと見なされた[12]。またその足下に、あふれ出す水を飲む魚の姿が描かれることもあり、この魚はみなみのうお座の原型になったとされる[11]。
古代ギリシア期を通じて、みずがめ座は「水を運ぶ人」という意味の Ὑδροχόος と呼ばれていた[2]。ただし、この名で呼ばれる星座の領域は時代によって異なり、古い時代には「瓶を抱える人物」と「瓶から流れ出る水」をそれぞれ別の星座とすることもあった。たとえば、紀元前3世紀前半のマケドニアの詩人アラートスの詩篇『パイノメナ (古希: Φαινόμενα)』では、瓶を抱える人物の星座 Ὑδροχόος と、瓶から流れる水の星座 Ὕδωρ をそれぞれ別の星座としていた[2][13][14][15]。
紀元前3世紀後半の天文学者エラトステネースの天文書『カタステリスモイ (古希: Καταστερισμοί)』や、1世紀初頭の古代ローマの著作家ガイウス・ユリウス・ヒュギーヌスの『天文詩 (羅: De Astronomica)』では、これらを1つの星座としながらも、体の部分と水の部分の星の数を分けて記述されている[2][9]。エラトステネースの『カタステリスモイ』では人物の部分に17個、水の部分に31個、計48個の星があるとされ[8]、ヒュギーヌスの『天文詩』では、人物の部分に14個、水の部分に31個、計45個の星があるとされた[9]。帝政ローマ期2世紀頃のクラウディオス・プトレマイオスは、天文書『ヘー・メガレー・スュンタクスィス・テース・アストロノミアース (古希: ἡ Μεγάλη Σύνταξις τῆς Ἀστρονομίας)』、いわゆる『アルマゲスト』で、水の部分に20個[2]、計42個の星があるとした[8]。これらの天文書いずれでも、瓶から流れ出る水の終端にあたる星はフォーマルハウトであるとされており、フォーマルハウトがみずがめ座とみなみのうお座の両方に属する星として扱われていたことを示している[2]。
17世紀初頭のドイツの法律家ヨハン・バイエルは、1603年に刊行した星図『ウラノメトリア』で、α から ω までのギリシャ文字24文字とラテン文字9文字の計33文字を用いてみずがめ座の星に符号を付した[16][17][18]。バイエルは、フォーマルハウトをみなみのうお座のみに属するものとし、瓶から流れ出る水の終端を現在のc1星とした[17][18][19]。またバイエルは、みずがめ座に描かれた人物の候補とされるデウカリオーン・ガニュメーデース・ケクロプス・アリスタイオスの4名の名前を星座名に付記していた[16]。
太陽系の第8惑星海王星は、現在のみずがめ座の領域で発見された[20]。1846年9月23日から翌9月24日にかけて、フランスの天文学者ユルバン・ルヴェリエの計算に基づいて未発見の惑星が存在すると予測された領域を観測していたベルリン天文台のヨハン・ゴットフリート・ガレと助手のハインリヒ・ダレストによって、みずがめ座ι星の近くのやぎ座との境界付近で発見された。
1922年5月にローマで開催された国際天文学連合 (IAU) の設立総会で現行の88星座が定められた際にそのうちの1つとして選定され、星座名は Aquarius、略称は Aqr と正式に定められ[21]、以降この名称が世界で共通して使われている[1]。
紀元前500年頃に製作された天文に関する粘土板文書『ムル・アピン (MUL.APIN)』では、みずがめ座の星は天空に3つある層のうち最下層の「エアの道」で2番目の「偉大なるもの (Gula)」とされていた[22]。また、イスラムの月宿マナージル・アル=カマルでは、第23宿から第25宿までがみずがめ座の星と対応している[23]。ε星が第23月宿の「サアド・ブラア」、β・ξ が第24月宿の「サアド・アル=スアウード」、γ・ζ・π・η が第25月宿の「サアド・アル=アクビーヤ」に、それぞれあたるとされた[23]。
ドイツ人宣教師イグナーツ・ケーグラー(戴進賢)らが編纂し、清朝乾隆帝治世の1752年に完成・奏進された星表『欽定儀象考成』では、みずがめ座の星は、二十八宿の北方玄武七宿の第三宿「女宿」、第四宿「虚宿」第五宿「危宿」、第六宿「室宿」に配されていたとされる[24][25]。
女宿では、ε・μ・4・3 の4星が既婚の女性あるいは身分の卑しい女性を表す星官「女」に、1番星が真珠や飾った婦人服を表す星官「離珠」に配された。虚宿では、β がこうま座αとともに墳墓に侍衛する役人を表す星官「虚」に、24・26 の2星が人間の寿命を司る神を表す星官「司命」に、25番星がペガスス座11番星とともに俸禄に関することを司る星官「司禄」に、安危禍福を司る天界の役人を表す星官「司危」に、38番星が大声で泣くことを表す星官「哭」に、ρ・θ の2星が声を立てずに嘆き悲しむことを表す星官「泣」に、ξ・18・9・8・ν・14・17・19 の8星がやぎ座の5星とともに天軍の砦を表す星官「天累城」に、それぞれ配された[24][25]。危宿では、α がペガスス座の2星とともに屋根の上を表す星官「危」に、ζ・γ・η・π の4星が墳墓を表す星官「墳墓」に、ο・32 の2星が屋根のある建物を表す星官「蓋屋」に、44・51・κ・HD 216953 の4星が墓所を表す星官「虚梁」に、それぞれ配された[24][25]。室宿では、ι・σ・λ・φ の4星がやぎ座・うお座の星とともに城塁を表す星官「塁壁陣」に、29・35・41・47・49・υ・68・66・61・53・56・50・45・58・64・65・70・74・τ2・τ1・δ・77・88・89・86・101・100・99・98・97・94・ψ3・ψ2・ψ1・87・85・83・χ・ω1・ω2 の40星が天帝の親衛軍を表す星官「羽林軍」に、103・106・108 の3星が斧と鉞を表す星官「鈇鉞」に、それぞれ配された[24][25]。
エラトステネースの『カタステリスモイ』やヒュギーヌスの『天文詩』では、瓶を持つ人物は大神ゼウスに見初められて拐かされた美少年ガニュメーデースで、神々に不死の酒ネクタールを給仕している姿であるとされた[2]。
またヒュギーヌスはみずがめ座のモデルについて2つの異説を伝えている。1つは、紀元前3世紀から紀元前2世紀頃のアレクサンドリア生まれの歴史家ヘゲシアナクスの伝える「プロメーテウスの息子でプティーアーの王デウカリオーンである」とする説である[9][8]。デウカリオーンは、ゼウスが人類を滅ぼすべく大洪水を引き起こした際に父プロメーテウスの警告に従って方舟に乗り込んで難を逃れた、という伝説で知られる[9][8]。この説では、みずがめ座はデウカリオーンが抱えた水瓶から流れ出る水は、天から大量の水が降り注いで起きた大洪水を示唆したものとされる[9][8]。
もう1つは、紀元前4世紀後半のメッシーナ生まれの哲学者エウヘメロスの伝える「アテーナイの初代の王ケクロプスを記念したものである」とする説である[9][8]。この説では、ケクロプスが抱えた水瓶から流れ出る水は、人類にワインがもたらされる以前は神々への生贄にワインではなく水が使われていたこと、そしてワインがもたらされる以前からケクロプスが統治していたことを示しているとされた[9][8]。
また、紀元前1世紀から1世紀にかけての帝政ローマの軍人ゲルマニクスがラテン語訳したアラートスの『パイノメナ』に後世付けられた欄外古註には、この星座のモデルをアリスタイオスであるとする伝承が記述されていた[9]。アリスタイオスはアポローンとキューレーネーの息子で、夜明け前にシリウスが昇ってくる頃の酷暑を和らげるためにエテジアンの風を呼び寄せる儀式を執り行わせた功績によって星座にされたと伝えられている[9]。
ラテン語の学名 Aquarius に対応する日本語の学術用語としての星座名は「みずがめ」と定められている[26]。現代の中国では、寶瓶座[27](宝瓶座[28])と呼ばれている。
明治初期の1874年(明治7年)に文部省より出版された関藤成緒の天文書『星学捷径』で「アカリュース」という読みと「寶瓶宮」「水瓶」という解説が紹介された[29]。その5年後の1879年(明治12年)にノーマン・ロッキャーの著書『Elements of Astronomy』を訳して刊行された『洛氏天文学』では「寶瓶」と紹介された[30]。それから30年ほど時代を下った明治後期には「宝瓶」という呼称が使われていた[31][32]が、1910年(明治43年)に「水瓶」と改められたことが日本天文学会の会報『天文月報』の第2巻11号掲載の「星座名」と題した記事で報告されている[32]。この際、漢字の読みについては特に定められていなかった[32]。1925年(大正14年)に東京天文台の編集により初版が刊行された『理科年表』では「水瓶(みづかめ)」と「瓶」を清音で読み下していた[33]。のちの1944年(昭和19年)に天文学用語が見直しされた際には「水瓶(みづがめ)」と「瓶」の読みが濁音に改められた[34]。戦後も継続して「水瓶(みづがめ)」が使われていた[35]が、1952年(昭和27年)7月に日本天文学会が「星座名はひらがなまたはカタカナで表記する」[36]とした際に Aquarius の日本語名は「みずがめ」とされ[37]、以降も継続して用いられている。
山口県吉敷郡佐山村須川(現・山口市佐山)には、θ・γ・η・λ の4星が作る四辺形を「トウキョウミ(東京箕)」と呼んでいた。これは、秋の夜に西の方角に見えるいて座の ζ・τ・σ・φ が作る四辺形を「ナガサキミ(長崎箕)」、東の方角に見えるみずがめ座の四辺形を「東京箕」と呼んで対比させたものとされる[38]。
γ・ζ・η・πの4星が作るY字形は、Water Jarと呼ばれるアステリズムである[2]。野尻抱影がこの4星を三ツ矢サイダーの商標に喩えたことから、日本では三ツ矢とも呼ばれる[7]。
2023年11月現在、国際天文学連合 (IAU) によって13個の恒星に固有名が認証されている[39]。
このほか、以下の恒星が知られている。
18世紀フランスの天文学者シャルル・メシエが編纂した『メシエカタログ』に挙げられた天体が3つあるが、そのうちの1つ「M73」は、複数の恒星がたまたま同じ方向に見えているだけの星群である[74]。このほか、2つの惑星状星雲がパトリック・ムーアがアマチュア天文家の観測対象に相応しい星団・星雲・銀河を選んだ「コールドウェルカタログ」に選ばれている[75]。
みずがめ座の名前を冠した流星群で、IAUの流星データセンター (IAU Meteor Data Center) で確定された流星群 (Established meteor showers) とされているものは、みずがめ座δ南流星群 (Southern delta Aquariids, SDA)・みずがめ座δ北流星群 (Northern delta Aquariids, NDA)・みずがめ座η流星群 (eta Aquariids, ETA)・みずがめ座ι北流星群 (Northern iota Aquariids, NIA)・みずがめ座κ昼間流星群 (Daytime kappa Aquariids, MKA) の5つである[6]。みずがめ座η流星群は、ハリー彗星を母天体とする流星群で、毎年5月6日頃に極大を迎える[6]。
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