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夫婦別姓
夫婦が結婚後も改姓せずそれぞれの婚前の姓を名乗る状態 ウィキペディアから
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夫婦別姓(ふうふべっせい)、あるいは夫婦別氏(ふうふべっし/ふうふべつうじ)は、夫婦が結婚後も法的に同氏へ改姓せず、婚前の姓(氏、名字、苗字)を名乗る婚姻および家族形態あるいは制度のことをいう[1]。 夫婦で別姓・同姓を選択できる制度を、「選択的夫婦別姓」(せんたくてきふうふべっせい)、あるいは「選択的夫婦別氏」(せんたくてきふうふべっし/せんたくてきふうふべつうじ)と呼ぶ[2]。 通称として旧氏(旧姓)を使用することは「旧姓通称使用」と呼ぶ[3][4]。
夫婦別姓(氏)に限らない夫婦の婚前・婚姻後の姓一般については、「Maiden and married names」(英語版記事)を参照。
概要
要約
視点
日本においては、現在、民法750条で夫婦の同氏が規定されており、戸籍法によって夫婦同氏・別氏が選択可能な国際結婚の場合を除き、婚姻を望む当事者のいずれか一方が氏を変えない限り法律婚は認められていない[5](「#関連法令」「#現状」参照)。現在の日本において何らかの理由で当事者の双方が自分の氏を保持したい場合に、別氏のまま婚姻することを選択できる選択的夫婦別姓制度を導入することの是非が議論されている[6][5](「#民法改正案」「#戦後の動き」「#賛否の論点」「#賛否の状況」参照)。関連して訴訟等も提議されている(「#訴訟」参照)。
なお、日本では、日本では、明治8年(1875年)2月13日の平民苗字必称義務令により、国民はみな公的に名字(姓)を持つことになったものの、夫婦同氏が法的に規定されたのは明治31年(1898年)に施行された明治民法からで、明治民法施行以前は明治9年(1876年)の太政官指令15号前段によって夫婦別氏が定められていた[7](「#歴史的経緯」参照)。過去には、日本以外にも夫婦同氏が規定されている国もあったが[8]、2014年時点で、法的に夫婦同氏と規定されている国家は日本のみとされ、日本においては夫婦別姓を選択できる選択的夫婦別姓制度の導入の可否が議論・検討されている[9][10][11](「#国際世論・状況」「#各国の状況」参照)。
用語
現代では、「氏」、「姓」、「名字」、「苗字」は、同義に扱われることが多い[12]。「夫婦別姓(氏)」については、現在の一般的な議論では「夫婦別姓」という語が用いられることが多い[13]。また、歴史学者の久武綾子は、「氏」という表記が家族主義的概念だとして「夫婦別姓」を用いる[14]。一方、法令用語としては明治民法以来「姓」ではなく「氏」(うじ)が用いられているため、弁護士や法の専門家は「夫婦別氏」(ふうふべつうじ)を用いる傾向があり[13]、法史学者の井戸田博史は、法律用語としては「氏」を使うべきとしている[15]。法務省ホームページでは、民法等の法律で「姓」や「名字」のことを「氏」(うじ)と呼んでいるとし、「選択的夫婦別姓(氏)」について「選択的夫婦別氏制度(いわゆる選択的夫婦別姓制度)」と記載している[16]。「選択的夫婦別姓(氏)」については、ほかに「夫婦別姓選択制[17]」「夫婦別氏選択制[18]」「選択的夫婦同姓[19]」「夫婦同姓別姓選択制[20]」などの表記も使用されたり、あるいは使用の提案がなされたりしている。これに対し、婚姻時に両者の姓を統一する婚姻および家族形態、またはその制度のことは「夫婦同姓」(ふうふどうせい)あるいは「夫婦同氏」(ふうふどうし/ふうふどううじ)という。なお、現行制度下の非法律婚を夫婦別姓と呼ぶことがある[21][22]が、本項では「事実婚」を用いる。
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現状
要約
視点
国内の状況
国際結婚を除き、選択的夫婦別姓は認められておらず、その代替としては主に旧姓通称使用か事実婚が考えられる[23]。日本経済新聞は、そのため選択的夫婦制度を求める声が強まる一方、同制度導入への反対派は、これらの問題に旧姓通称使用の更なる拡大で対応するよう求めている、と報道している[24](「#賛否の論点」も参照)。
関連法令
民法および戸籍法の規定
日本では以下の民法および戸籍法により、日本人間の婚姻の場合、夫婦は同氏と定められている。
- 民法 第750条(夫婦の氏)
- 夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する。
- 民法 第739条(婚姻の届出)
- 1 婚姻は、戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、その効力を生ずる。
- 2 前項の届出は、当事者双方及び成年の証人二人以上が署名した書面で、又はこれらの者から口頭で、しなければならない。
- 戸籍法 第74条
- 婚姻をしようとする者は、左の事項を届出に記載して、その旨を届け出なければならない。
- 一 夫婦が称する氏
- ニ その他法務省令で定める事項
- 婚姻をしようとする者は、左の事項を届出に記載して、その旨を届け出なければならない。
国際結婚および婚姻挙行地の方式による婚姻
前節の夫婦を同氏とする規定は国際結婚には適用されず、国際結婚では選択的夫婦別氏が認められている。法の適用に関する通則法により外国人には民法750条が適用されず夫婦別氏になるが、戸籍法第107条に従い、戸籍法上の届け出をすれば戸籍法上同氏になる(原則別氏、例外同氏)。ただし、戸籍法上の届け出によって同氏となった場合も、戸籍実務では民法上改氏はしていないものとして扱われる[注釈 1]。戸籍上の氏と民法上の氏が食い違うほかのケースとして、離婚時、養子離縁時に旧氏に復さず婚氏、縁氏の名乗りを継続する場合(婚氏続称、縁氏続称)がある[25][26]。
また、日本人間の婚姻であっても、外国で現地の方式にしたがって、夫婦が同じ氏を定めないまま結婚を挙行した場合、戸籍の届出をしておらず別氏のままであっても婚姻は有効とされる[27]。
- 法の適用に関する通則法 第24条(婚姻の成立および方式)[28]
- 婚姻の成立は、各当事者につき、その本国法による。
- 2. 婚姻の方式は、婚姻挙行地の法による。
- 3. 前項の規定にかかわらず、当事者の一方の本国法に適合する方式は、有効とする。ただし、日本において婚姻が挙行された場合において、当事者の一方が日本人であるときは、この限りでない。
- 婚姻の成立は、各当事者につき、その本国法による。
- 戸籍法 第107条[29]
- 2. 外国人と婚姻をした者がその氏を配偶者の称している氏に変更しようとするときは、その者は、その婚姻の日から六箇月以内に限り、家庭裁判所の許可を得ないで、その旨を届け出ることができる。
男女共同参画基本計画
男女共同参画社会基本法第13条に基づき、男女共同参画基本計画が2000年に定められ、5年ごとに見直されている[30]。それぞれの基本計画では、選択的夫婦別氏に関して以下のように記載されている[30][31]。
旧姓通称使用
職場・職種によっては旧姓(氏)を通称にすることが便宜上認められる。1988年に富士ゼロックスで初めて導入され、国家公務員でも2001年から認められた[37][注釈 2]。しかし、さまざまな議論がある[40][41][42]。
二つの名前の管理は、企業や行政の負担が大きく[43][44][45]、職場・職業によっては戸籍姓しか認められない[40][46][47][48]。2016年の内閣府調査では旧姓使用を認める企業は全体の半数以下の49.2%である[49][注釈 3]。2021年10月の内閣府の調査では、各府省の所管している302の各種国家資格、免許のうち、旧姓使用ができるものは236だった[52][注釈 4]。(「#旧姓通称使用訴訟」も参照)
運転免許証・印鑑登録証・健康保険証・日本国旅券は、旧姓で作ることはできない[注釈 5][40]。通称は公文書や役員登記、不動産登記、特許出願などには使えず[注釈 6][40][53][54][41][55][56]、未上場株、上場株への投資は戸籍名でしかできない[45]。親から法人を受け継いだ女性等は自分の氏を失うわけにはいかず、結婚をあきらめたり事実婚も多い[49]。2017年と2019年に政府より全国銀行協会に旧姓使用に関する協力要請があったものの、旧姓使用可能な口座は一部にとどまり、特に投資信託口座の旧姓での開設はできない[57][58]。内閣府と金融庁の調査によれば、2022年3月の時点で、全国の銀行のうち、旧姓で預金口座を開設したり、開設済みの口座を使えたりする銀行は62%で、双方に対応していない銀行は31%、いずれも未対応な信用金庫は41%、信用組合は87%[59]。クレジットカードや日本国旅券と旧姓の不一致のために、海外のホテルなどの予約ができないことなどもある[41]。公証役場での署名は旧姓は認められない[60]。自治体によっては、旧姓での選挙の立候補や議員活動が認められないことがある[61][62][注釈 7]。海外への留学生が旧姓を使って留学することはほぼ不可能、との指摘もある[64]。
旧姓併記
旧姓通称使用における問題への対応として旧姓を併記可能とする動きがある[注釈 8][65][66][67] 。2015年から法人登記簿における役員登記において[31][68][69]、2016年、金融庁提出書類の役員欄において、2019年からマイナンバーカード、住民票[57][70]、運転免許[66]において、2021年から特許出願[71][72]において、旧姓併記が可能となった。また、日本国旅券(パスポート)は、これまでも必要な事情がある場合には旧姓を括弧書きで付記することが認められることがあった[73] が、2021年4月より、条件が緩和され、希望すれば誰でも併記可能となった[74][75]。2024年4月からは相続登記において旧姓併記を可能とした[76]。国民健康保険では通称の使用は認められない[40]が、2021年の時点で、一部の自治体では国民健康保険証への旧姓併記が可能となっている[77][78][79][31]。
ペーパー離再婚
旧姓通称使用の様々な問題を回避するために、普段は旧姓を通称として用い、必要に応じて旧姓に戻り旧姓での証明書を得るなどの手続きを行った後、再び婚姻届を提出する夫婦もみられる。このような目的で離婚・再婚を行うことを「ペーパー離再婚」あるいは「ペーパー離婚」とよぶ[80][81]。また、逆に子どもが生まれるたびに婚姻届を出し、すぐに離婚届を出す事実婚夫婦[82]や、選択的夫婦別姓が導入されていないことから、数年おきにペーパー離再婚をくりかえし、夫姓婚と妻姓婚を交互に行う夫婦[83][84]などの報道もなされている。なお、これらの場合再婚相手が同じ人物であるため、民法第733条が定める女性の100日間の再婚禁止期間(待婚期間)は適用されない。ペーパー離再婚における離婚期間は事実婚の状況となる[85][86]。
国際世論・状況
過去には現在の日本と同様に法的に同姓を義務付けていた国家もあったが改正され、2014年現在、比較法的に見て夫婦同氏を強制する国は日本のみ、とされている[7][87][9][10]。2018年には、法務省民事局長が衆議院法務委員会において、婚姻後に夫婦のいずれかの氏を選択しなければならない夫婦同氏制を採用している国は法務省の把握している限りで日本のみ、と説明している[88]。また、選択的夫婦別姓訴訟の弁護団による2025年の調査によると、調査した95カ国のすべてで夫婦別姓が可能で、そのうち、夫婦同姓を選べず別姓を基本とする国は中国やフランスなど33カ国だった[89]。女性差別への意識が高まった1970年代以降、別姓を認める国が増え、その結果別姓を認めないのは日本のみとなったとされる[90]。(「#各国の状況」を参照)
国連女子差別撤廃委員会勧告
国際連合が1979年に採択した「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」に、日本は1980年に署名し、1985年に批准した[91]。国連の女子差別撤廃委員会(CEDAW)は、日本民法の夫婦同氏が同条約に抵触する「差別的な規定」だとし、2003年、2009年、2016年、2024年、と4度にわたり改善を勧告している[92][7][93][94](「#戦後の動き」も参照)。2024年の勧告では、夫婦同姓を義務付ける民法の規定を見直し、選択的夫婦別姓を導入するよう勧告した[94][95][96]。
現民法が抵触するのは同条約の以下の規定とされる[97][40][98][99]。
- 第16条1
- 締結国は、婚姻及び家族関係に係るすべての事項について女子に対する差別を撤廃するためのすべての適当な措置をとるものとし、特に、男女の平等を基礎として次のことを確保する。
- (g) 夫及び妻の同一の個人的権利(姓及び職業を選択する権利を含む。)。
- 締結国は、婚姻及び家族関係に係るすべての事項について女子に対する差別を撤廃するためのすべての適当な措置をとるものとし、特に、男女の平等を基礎として次のことを確保する。
この条約に関連しては、条約違反により権利を侵害された個人・団体が同委員会に通報できる「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約の選択議定書」を日本は批准しておらず、批准を求める動きがある[100][101][102]。
国連自由権規約委員会勧告
国際連合自由権規約人権委員会は2022年に日本政府報告書の審査を行い、総括所見において、夫婦同氏を規定する民法750条が実際にはしばしば女性に夫の姓を採用することを強いていることについて懸念を表明している(総括所見14項)[103][104]。
米国国務省人権状況に関する年次報告書
アメリカ合衆国国務省による世界199カ国・地域の人権状況に関する年次報告書は2015年版から日本の民法規定で選択的夫婦別姓が認められていない問題について言及を続けている[105][注釈 9]。
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民法改正案
要約
視点
選択的夫婦別姓の導入をどのように行うかについては、1994年の「婚姻制度等に関する民法改正要綱試案」[115]、1996年の法制審議会答申の民法改正案[116]、超党派野党や公明党などが2015年などに提示した案、自民党内の例外的に夫婦の別姓を実現させる会が2002年に提案した案などがある[117]。
1996年法制審議会答申
国際連合の1975年の国際婦人年から始まる国際的な女性の権利保障の推進運動や、1985年に日本も批准した女性差別撤廃条約などを受け、1991年、日本は国内の男女平等施策を推進するための国内行動計画を策定するとともに、法制審議会において家族法の見直し作業に着手した(小委員長:加藤一郎)[118][119]。法制審議会の審議は5年にわたって行われ、1992年、1995年の2回の中間報告、1994年の要綱試案の発表などを経て、1996年2月、法務大臣の諮問機関である法制審議会が、家族法の見直しを含む民法改正案要綱を法務大臣に答申した[118]。主な内容は以下の通り[118]。
このうち、婚姻年齢統一は2018年に成立(2022年4月1日施行)[120]、再婚禁止期間の短縮は再婚禁止期間訴訟の最高裁違憲判決により2015年12月16日に実施[121]、婚外子の相続分差別の廃止は婚外子相続差別訴訟における最高裁の違憲判決により2013年に実現している[122][123]。
答申では、選択的夫婦別氏の導入を答申する理由として、以下の3点を挙げている[124]。
要綱試案(1994年)
1994年に法務省民事局参事官室は、1996年の法制審議会答申へ向けた中間報告において、3つの案を「婚姻制度等に関する民法改正要綱試案」として提示した[115][124][注釈 10]。
- A案
- 夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する。ただしこの定めをしないことも可能(原則同氏、例外別氏)。
- 別氏夫婦は、婚姻の際に、夫又は妻のいずれかの氏を、子が称する氏として定めなければならないものとする。
- 別氏夫婦は、婚姻後、戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、夫又は妻の氏を称することができるものとする。
- B案
- 夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称することができるものとする(原則別氏、婚姻の際に特段の合意がされた場合にかぎり、同氏を称することができる)。
- 婚姻後の別氏夫婦から同氏夫婦への転換、及び、同氏夫婦から別氏夫婦への転換はいずれも認めない。
- 別氏夫婦の子の氏は、その出生時における父母の協議により定める。
- C案
- 夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称するものとする。
- 婚姻により氏を改めた夫又は妻は、相手方の同意を得て、婚姻の届出と同時に戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、婚姻前の氏を自己の呼称とすることができるものとする。
- 婚姻前の氏を自己の呼称とする夫又妻は、戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、その呼称を廃止することができるものとする。
後の1996年の法制審議会答申では、現行制度の枠組みを維持しつつ希望者に別氏を認めるA案に同氏・別氏を対等とする修正を加え、B案と折衷した要綱案が作成された[124][91][125][注釈 11]。法務省は2002年4月にも、A案と同様の案(例外的夫婦別氏案)を提示している[126]。
最終答申(1996年)
1991年1月に設置された法制審議会身分法小委員会での審議を経て、法制審議会は、1996年の答申で民法改正案を法務大臣に提示した[116][124][127][注釈 12]。しかし、自民党法務部会が民法改正案の国会提出を拒み答申は実現しなかった。法制審議会答申が実現しなかったのはこれが初めて[119][注釈 13]。法務省は2001年11月[126]、2010年2月[129]にも同様の案を再提示している。2025年4月に立憲民主党が衆議院に提出した案も同様の内容[130]。
- 夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫若しくは妻の氏を称し、又は各自の婚姻前の氏を称するものとする。
- 夫婦が各自の婚姻前の氏を称する旨の定めをするときは、夫婦は、婚姻の際に、夫又は妻の氏を子が称する氏として定めなければならないものとする。
この審議に合わせ、民事行政審議会は、「別氏夫婦に関する戸籍の取り扱い」についても法務大臣に答申した。
- 戸籍は夫婦およびその双方又は一方と氏を同じくする子ごとに編製する。
- 氏名は、子が称する氏として定めた氏を称する者、その配偶者の順に記載する。
- 戸籍には、現行戸籍で名を記載している欄に氏名を記載する。
超党派野党案/公明党案
法制審議会答申以来、野党は超党派でほぼ会期ごとに民法改正案を提出し続けているが、未審議のまま廃案と再提出が繰り返されている[131][132][133](「#年表」参照)。公明党も2001年に改正案を単独で提出している[134]。民主党が2015年に、社民党、日本共産党等と共同で参議院に提出した案は以下のような案である[135][136]。
- 夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫若しくは妻の氏を称し、又は各自の婚姻前の氏を称するものとする。
- 改正法の施行前に婚姻によって氏を改めた夫又は妻は、婚姻中に限り、配偶者との合意に基づき、改正法の施行の日から2年以内に別に法律で定めるところにより届け出ることによって、婚姻前の氏に復することができる。
- 別氏夫婦の子は、その出生の際に父母の協議で定める父又は母の氏を称するものとする。
- ただしその協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、父又は母の請求により、協議に代わる審判をすることができる。
2018年に、立憲民主党、国民民主党、無所属の会、日本共産党、自由党、社民党の5野党1会派が提出した案[137]や2022年に立憲民主党、国民民主党、社民党、日本共産党、れいわ新選組の5野党が提出した案[138][139]も同様の内容である。公明党が2001年に提出した案も同様の内容である[134]。これらは法制審議会答申案とほぼ同じ内容[126]だが、さらに日弁連の提言[117]に沿っている。
家裁許可制選択的夫婦別氏案
2002年7月16日に発足した、野田聖子ら自民党一部議員による例外的に夫婦の別姓を実現させる会が提案した案。職場の事情や祖先祭祀の必要など特段の事由がある場合に、家庭裁判所による許可を得て認める、とする案。議員立法として自民党法務部会に提出されたが党内合意に至らず国会提出は見送られた[140][141][142][143][144][注釈 14]。この案は2004年にも再度議論されたが、国会提出は見送られた[148][注釈 15]。
→「例外的に夫婦の別姓を実現させる会」も参照
- 職業生活上の事情、祖先の祭祀の主宰その他の理由により婚姻後も各自の婚姻前の氏を称する必要がある場合において、別氏夫婦となるための家庭裁判所の許可を得ることができる。
- 夫婦同氏が原則とし、別氏夫婦から同氏夫婦への転換は認める。逆は認めない。
- 別氏夫婦は、婚姻時に「子が称すべき氏」を定める[140]。
その他の案
旧姓続称制度(1997年)
自民党・社会党・さきがけ政権時の1997年に自民党法務部会「家族法に関する小委員会」(座長:野中広務)で検討された案として「旧姓続称制度」[150][126][151]がある。配偶者の同意を得た上で届け出れば、社会生活上の全場面で旧姓を使えるようにするもの[150][151][152][注釈 16][注釈 17]。
例外的夫婦別氏案(2002年)
2001年に法務省は法制審答申案と同様の案を再提出し見送りとなったため、翌2002年4月要綱試案A案と同様の「例外的夫婦別姓案」を提示したが、見送りとなった[126]。
通称使用の法制化案(2002年)
2002年、選択的夫婦別氏に反対する高市早苗は、野田聖子らによる「家裁許可制選択的夫婦別氏案」が自民党内で検討された際に、「対案」として「通称使用の法制化」を主張した[151]。高市は2020年にも自民党法務部会に同じ案を再提出している[155][注釈 18]。この案は以下のような内容である[156]。
- 戸籍に「婚姻前の氏を通称として使用する」旨を記載する。
- 国、地方公共団体、事業者、あらゆる公私の団体は、通称として使用するとされた婚姻前の氏を「併記」するための処置を講ずる義務を負う。
また、2025年には高市はこの私案について、2019年の住民基本台帳法改正によりこの私案における戸籍法改正は不要となったと主張している[157]。
戸籍法改正による選択的夫婦別氏案(2018年)
2018年1月の国に対する訴訟で、原告は、婚氏続称制度を念頭に、「戸籍上の氏」と「民法上の氏」を分け、戸籍法の届け出により、民法上の旧氏を戸籍上の氏=本名として称せるよう戸籍法を改正すべきと主張している[158][159][160][161][162]。具体的には、戸籍法に以下の条文を加えることで、民法を改正することなく選択的夫婦別姓を実現できる、と原告らは主張している[162]。
- 婚姻により氏を変えた者で婚姻の前に称していた氏を称しようとする者は、婚姻の年月日を届出に記載して、その旨を届け出なければならない
同案に関しては、2019年に国民民主党代表の玉木雄一郎が、日本人同士の結婚時にも別氏を選択できる戸籍法改正を目指す考えを示した[163][164]。
日本維新の会マニフェスト(2019年)
2019年、日本維新の会は、参議院選挙の公約(マニフェスト)に「同一戸籍・同一氏の原則を維持しながら旧姓使用にも一般的な法的効力を」を掲げた[165][166]。同党の足立康史の発案。案では戸籍に婚前氏を付記するとともに、それのみを社会生活上で名乗れる、としている[167]。同党は2025年に、立憲民主党の選択的夫婦別姓制度導入法案への対案として、同様の内容の「旧姓の通称使用を拡大する法案」を衆院に提出[168]。
婚前氏続称制度(2020年)
2020年に稲田朋美[注釈 19]が提唱した私案。戸籍上は同一戸籍で、例えば筆頭者は夫でも、妻は旧氏を使うと届け出れば戸籍に明記して公的には旧氏のみを使い続けられるようにし、ファミリーネームは私的な場面で用いる[171]。稲田が2020年11月13日に衆院法務委員会において提案した案では、3カ月以内に届け出をすれば以前の氏を使えるようにする、とした[172][173][174]。案では、民法、戸籍法に以下の変更を加える[175][167]。
- 民法750条第2項「前項の規定により氏を改めた夫または妻は、婚姻の日から3か月以内に戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、婚姻前の氏を称することができる」を新設。
- 戸籍法74条第2項「民法750条2項の規定によって婚姻前の氏を称しようとする者は、婚姻の年月日を届書に記載して、その旨を届けなければならない」を新設。
ミドルネーム案(2021年)
結婚した際に夫婦双方の姓をミドルネームとして戸籍に書き込み、家族が同一戸籍のまま、旧姓にも法的な根拠を与えるという案。自民党の森雅子が2021年3月に参議院法務委員会で提案[176]。
法定旧姓案(2025年)
旧姓の使用を法制化し「法定旧姓」とし、公的証明書への旧姓の併記と単独使用のいずれも可能とする案。選択的夫婦別姓導入に反対する自民党の衛藤晟一が2025年に提案[177][178]。
関連する他の民法改正論
2019年に超党派野党が衆議院に提出した「同性婚」を法制化する婚姻平等法案[179][180]は、同時に選択的夫婦別姓も認める内容で選択的夫婦別氏法案に対する新旧対照表も示されていた[179]。同案は2023年にも立憲民主党が衆議院に再度提出しており、同様に選択的夫婦別姓も認める内容だった[181][182][183]。また同性婚を求める訴訟では、2021年3月17日には札幌地裁で初の違憲判断がなされるなど議論が続いている[184][185]。(「日本における同性結婚」参照)
2026年からは離婚後の共同親権が認められることになった[186][187][188]。
そのほか関連した議論としては、事実婚夫婦のための連帯市民協約(PACS)に関する議論[189]や、夫婦創姓論[190]などがある。
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歴史的経緯
要約
視点
中世以前
姓
大和朝廷によって、古代豪族が元々持っていた氏名(うじな)が新たに下賜されるものもあった(源平藤橘)。さらに国政上の地位を示す姓(カバネ)が与えられた[注釈 20]。奈良時代に律令制が確立するとカバネは形骸化し、氏名(うじな)と同化して姓(せい)と呼ばれるようになる[191]。一般庶民(公民)は戸籍によって把握され、何らかの大氏族集団に属して姓を持った(百姓、ひゃくせい)。奥富孝之は、平安時代前期まではこれが重んじられた、としている[192]。坂田聡は、姓は父系継承であり、婚姻によって改姓することはなかった(夫婦別姓)としている[193]。夫婦の氏の記録としては、夫婦がすべて別氏である戸籍の記録[注釈 21]、同氏と別氏が混在する記録[注釈 22]、すべて同氏である記録[注釈 23]それぞれ存在するが、久武綾子によれば、中国や韓国と異なり同姓不婚のタブーが無く、同姓の記録は同姓の者同士の婚姻による同姓の夫婦と考えられる[196]。
名字・苗字
公家が互いを区別する為に個人の邸宅の居住地に由来する呼称から、一定の家系の呼称に転化して「名字」となった。東国の豪族武士達が自分の名前に本領地の地名を冠して名乗るようになり「名字」と呼ばれた[197]。鎌倉時代の分割相続が南北朝時代には単独相続に移行し、家産や家業などを継承する「家」が成立。名字は家名となり苗字として代々継承されるようになった[198]。後藤みち子は、戦国時代の公家の正妻は婚家の一員として婚家の苗字+妻の社会的呼称で呼ばれるようになり[注釈 24]、これを夫婦別氏で、夫婦同苗字(家の名)としている[199]。坂田聡は、戦国時代から近世にかけての丹波の国の史料にあった三例の実例から庶民の夫婦同苗字について述べている[注釈 25]。
近世
士分の氏
井戸田博史は、近世(江戸期)になると、士分以外の者(庶民)は一部を除き姓・苗字(氏)の公称が原則として禁止されていた(1801年(享和元年)の禁令)、としている[201][注釈 26]。田中優子は、同じ人物が複数の異なる名前を名乗ることも多かった、としている[202]。坂田聡は、姓と苗字の区別が曖昧になり混同されることが多くなったとしている。一方で坂田は、官職の授与などの儀式の際に実名とのセットで姓を使う風習は江戸時代でも残っていた、としている[203]。
庶民の氏
洞富雄や坂田聡や久武綾子は、庶民の使用例も指摘している[204][205]。士分以外への禁令について奥富孝之は、安易な苗字帯刀を「領主・地頭」に禁じたもの、と主張している[206]。井戸田博史は、庶民の氏には公称を許された氏と、私称している氏があったとする[201][注釈 27]。一方、久武綾子らは、庶民にとっては苗字よりも代々の襲名[注釈 28]や屋号が重要だったとしている[208][209]。
妻の氏
妻については、氏を持つ場合には妻はもっぱら生家の氏を名乗り、夫婦別氏だった[210][201][注釈 29]。芦東山の妻の夫の幽閉赦免願書の例[注釈 30]、多勢の誓詞帳の例[注釈 31]、夫婦別氏の墓標があることなどが夫婦別氏の例としてあげられる[214]。また、妻の死後実家の墓地に「帰葬」する習慣が北陸~東北に広く分布することも指摘される[215]。ただし、熊谷開作は、妻が夫の苗字を名乗った例[注釈 32]もあったとしている[216]。
妻の氏に関する庶民慣習については、大藤修は史料が少ないことから不明としている[217]。井戸田博史は、役儀等の事由で庶民が氏の公称が許された場合に氏を名乗れるのは当主を中心とする男子のみで、女性には氏は無縁だった(別氏)としている[201]。一方、熊谷は、妻が氏を自ら名乗ることは少なかった、としつつ[218]、大坂の町人の未亡人が「○○家後家」と名乗る例があったとしている[219]。
近代
明治維新後、明治8年に氏使用が義務化され、明治9年に太政官指令によって夫婦別氏が定められた。その後、明治31年に施行された明治民法によって始めて法的に夫婦同氏が規定された。
氏使用の義務化
1870年10月13日(明治3年9月19日)、太政官布告により平民にも氏使用が許可された[220]。これについて、奥富孝之は、この氏使用は浸透しなかった、としている[221]。同年12月、叙位任官する際には従前の姓+実名から苗字+実名での表記に改め、翌年10月には公用文書も苗字+実名で統一された。1872年(明治5年)5月、国民全員に実名と通称のどちらかを本人に選択させる方針に変更した[注釈 33][222]。
1872年3月9日(明治5年2月1日)、徴税・徴兵・治安維持などのために国民の現況を把握する目的で、戸籍法(壬申戸籍)施行[223]。ここでは苗字または姓が「氏」、通称または実名が「名」として登録され、一人一名主義の原則が確立した[222][注釈 34]。同年8月24日の太政官布告は改氏・改名を禁止。久武綾子は、襲名や屋号を家名として使っていた庶民に混乱をもたらした、としている[225]。そのため、1880年(明治13年)1月7日の太政官指令では改名禁止は一部緩和されている[226]。
1875年(明治8年)2月13日の太政官布告22号では、兵籍取調の必要から氏の使用を義務化した[220]。夫婦の氏の扱いについては、1875年12月の太政官布告で婚姻・縁組・離婚などの際に新しい氏を作って良いとされた[224]。
夫婦別氏とする太政官指令の発令
夫婦の氏に関して、妻は夫の身分に準じるので夫家の氏を称するのが穏当だが前例が無く決し兼ねる、として内務省が太政官の判断を仰いだのに対し、1876年(明治9年)3月17日に発令した太政官指令15号において「伺の趣婦女人に嫁するも仍ほ所生の氏を用ゆ可き事/但夫の家を相続したる上は夫家の氏を称すへき事」[注釈 35]とした[220][227][228][229]。前段で、妻は「所生の氏」すなわち生家の氏を用いるべきと定めた[228](夫婦別氏制[220])。なお後段は、これに先立つ明治6年の太政官布告第28号で夫の死後子もなく養子をとることも難しい場合などやむをえない場合に妻が女戸主として家督を相続することが認められたことに対応したもので、その場合の女戸主は家督相続後夫家の氏を称する[228][注釈 36]。
太政官法制局が夫婦別氏制をとった理由について、「妻は夫の身分に従うとしても、姓氏と身分は異なる」「皇后藤原氏であるのに皇后を王氏とするのはおかしい」「歴史の沿革を無視」の3点が指摘されている[230][228]。一方、この後明治民法公布直前まで、妻が夫家の氏を称するのが慣習だとする地方官庁からの伺いが多数出された[231]。増本敏子らは、太政官指令後も民間の慣例では多くの場合妻は夫の氏を称していた、としている[232]。東京府では、婚姻後も生家の氏を称する妻は僅かと報告されていた[233][234][注釈 37]。熊谷開作は、同指令後、戸籍上妻の氏を記載しない例も氏を残す例もあった、としている[239]。
なお、太政官指令15号による夫婦を別氏とする規定は、1891年(明治24年)の司法省指令でもそのまま残されている[240]。
民法制定までの動き
明治民法の制定以前に、いくつかの民法草案や施行されなかった旧民法などが作成されている。1872年(明治5年)、司法省が作成した民法草案「皇国民法仮規則」では、姓不変の原則を規定している(夫婦別氏)[240][注釈 38]。1877年(明治10年)9月に上程された「民法草案人事編」[注釈 39]では、「妻は夫の姓を用いる」と規定した(夫氏での夫婦同氏)[注釈 40][注釈 41][注釈 42][注釈 43][注釈 44]。1888年(明治21年)に熊野敏三らによって作成された旧民法人事編草案(旧民法第一草案)では、妻が夫の氏を称する普通婚姻(原則)と夫が妻の氏を称する特例婚姻(双方の意思がある場合の特例)の規定が設けられた(いずれも夫婦同氏)[注釈 45][注釈 46][注釈 47]。法律取調委員会の修正案(旧民法再調査案)では、戸主及び家族はその家の氏を称する、と規定した(夫婦同氏)[257][注釈 48]。この案では、入夫婚姻に加え第一草案では認められていなかった女戸主を認めている[258][注釈 49]。1890年(明治23年)10月、民法典(旧民法)家族法が公布されるも民法典論争により施行されなかった[262][263]。この旧民法では戸主及び家族はその家の氏を称する、と規定された(夫婦同氏)[注釈 50]。原則は妻は夫家の氏を称するが、入夫婚姻の場合には夫が妻家の氏を称する[264][注釈 51][注釈 52][注釈 53]。
夫婦同氏とする明治民法の制定
1898年(明治31年)に明治民法家族法部分が公布・施行され、法的に夫婦同氏が初めて規定された。
- 第746条
- 戸主及ひ家族は其の家の氏を称す
- 第788条
- 1.妻は婚姻に因りて夫の家に入る
- 2.入夫婚姻及ひ婿養子は妻の家に入る
すなわち、「妻は婚姻に因りて夫の家に入る」ため(788条1項)、妻が夫家の氏を名乗るのが原則である(746条)[注釈 54]。ただし、入夫婚姻および婿養子の場合は、夫が妻の家に入るため、妻家の氏を名乗る(788条2項・746条)[273][注釈 55]。
当時の諸外国民法
フランスでは、1793年の革命法の氏の名乗りの自由化が混乱を招き翌年に覆されていた[注釈 56]ものが、フランス民法典が規定しなかったことから効力を保ち、氏不変の原則が確定した[275][注釈 57][注釈 58][注釈 59]。ナポレオン体制下でフランス法が適用されていたオランダでも、1829年のオランダ民法典[282]によって姓不変の原則が規定された[注釈 60]。一方イタリアは、同様にナポレオン体制下にあったものの1865年に多少独自色を加えた民法典を制定している[284][注釈 61]。また、ドイツ(神聖ローマ帝国)では、妻が夫の氏を称するのが慣習法として確立しており、領邦もそれに依っていた[286][注釈 62]。1888年(明治21年)1月にドイツ民法第一草案が完成した[288]。
明治民法との関連
政治学者の中村敏子は、明治民法で規定された夫婦同氏の規定について、「夫婦一体」という結婚観によって同姓を強制していた西洋の影響が大きい、としている[289]。佐藤一明、田中優子や山口一男は、明治31年の民法の同氏規定は、ドイツの影響と主張している[290][202][291]。これに対し、法学者の滝沢聿代は、夫婦同氏規定についてドイツ民法が参照されたのは明治民法ではなく戦後の改正民法だと主張している[292][注釈 63]。梅謙次郎は、明文の無い場合も含めスイス[注釈 64]、オーストリア、イタリア、ドイツ[注釈 65][注釈 66]の民法では妻が夫の氏を称すると紹介しつつ、プロイセン法典(1789年)の影響は少なく[297]、日本において入夫婚姻及び婿養子縁組で妻の家に入るのは慣習だとしている[298][299][注釈 67][注釈 68]。
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戦後の動き
要約
視点
改正民法・戸籍法の制定
戦後、1946年7月より、内閣臨時法制審査調査会と司法省司法法制審議会で民法の改正の審議が開始され、1947年12月、改正民法が成立し、翌年1月施行。夫あるいは妻の氏での夫婦同氏が規定された[303]。婚姻に関しては、夫氏での同氏婚とする案と「氏は社会の慣習に委ねる」案があったが、最終案では夫または妻の氏を称する夫婦同氏とする案となった[303][注釈 69][注釈 70][注釈 71][注釈 72][注釈 73][注釈 74]。また、家制度(戸主の制度)は廃止され、それに伴い婿養子や入夫婚姻の制度も廃止された[注釈 75]。なお、これらの改正は急いで行われたことから、この家族法改正に関しては、1947年10月にこの家族法部分を可及的速やかに将来更に改正する必要があるとする国会付帯決議がなされている[31]。(「#関連法令」参照)
同民法施行と同時に改正戸籍法も施行。戸籍は戸主と家族を記載する家の登録から、個人の登録に変わった。戸籍の編成基準は一組の夫婦と氏を同じくする子(戸籍法6条)とされた[310][注釈 76][注釈 77]。
1980年代までの動き
1954年7月、早急に制定された改正親族法の再検討のため民法部会を設置。1955-1959年公表の「法制審議会民法部会身分法小委員会における親族編の仮決定及び留保事項」では「夫婦異姓を認むべきか」が挙げられた[313][注釈 78]。
1960年代には、選択的夫婦別氏への支持や立法論が出てきた[303]。
1974年には「結婚改姓に反対する会」が結成され[315]、1975年には参議院に選択的夫婦別氏を求める請願が提出される[316][310]。
1976年には、女性の地位向上の観点から、離婚時に妻が婚姻時の氏を保持できない民法規定が見直され、選択可能にする婚氏続称制度が導入された[124][注釈 79]。
1984年、戸籍法が改正され、外国人の称する氏への変更を簡易に認める規定が設けられ、国際結婚では選択的夫婦別氏が実現した[315]。同年には、「夫婦別氏をすすめる会」(現、夫婦別姓選択制をすすめる会)が東京で結成された[317]。
1985年には日本政府が女性差別撤廃条約を批准。これに応じて政府の婦人問題企画推進本部は、社会情勢の変化に対応して婚姻・親子の法制の見直しを検討するとした[303]。
1987年には、養子離縁時の縁氏続称が認められた[318][319]。
1988年には、国立大学の女性教授が通称として旧姓を使用する権利を求めて訴訟[320](1993年東京地裁棄却、1998年和解、「#国立大学女性教授旧姓通称使用訴訟」参照)。同年、在日韓国朝鮮人氏名の日本語読みに関する最高裁判決で、氏名は社会的には他人から識別し特定する機能を有するが、個人から見れば人格の象徴で人格権の一内容を構成するもの、との指摘がなされた[321]。
1989年、岐阜県各務原市の夫婦が、別氏の婚姻届不受理への不服申し立てを家裁に行い、却下された。同年、法務大臣諮問機関である婦人問題有識者会議において、選択的夫婦別氏問題が取り上げられた[194]。
1990年代から2010年代まで
1991年には法制審議会が「民法の婚姻・離婚制度の見直し審議」を開始した[7]。1996年には法制審議会が選択的夫婦別氏制度を含む「民法の一部を改正する法律案要綱」を答申した[7]。しかし、自民党内の反対・慎重論によって同年5月に国会上程が見送りとなった[322]。
→「§ 1996年法制審議会答申」も参照
1992年の時点では多くの選択的夫婦別氏制推進団体の存在が報告されている[303][323]。
1997年にも自民党法務部会「家族法に関する小委員会」(座長:野中広務)で「旧姓続称制度」が検討されたが見送られた[150][126][151]。また、この頃より「選択的夫婦別姓制度」とする民法改正案が議員立法により提出されるようになった[303]。
その後も、1999年の男女共同参画社会基本法の成立および男女共同参画局の設立により選択的夫婦別姓問題は中心的課題と位置づけられた[324]。一方で、山口智美は、これらの運動が、日本会議や神道政治連盟などの反発を呼び起こしたとの主張している[324][325][326]。
→「バックラッシュ (社会学)」も参照
2001年11月に法務省は選択的夫婦別氏案を再提示したが見送られた。2002年4月には、法務省は例外的夫婦別氏案を提示、意見一致せず見送りとなった[126]。同年7月には、自民党内の選択的夫婦別姓制度を求める議員ら(野田聖子ら例外的に夫婦の別姓を実現させる会)が法案の国会提出を模索し、党内反対派に譲歩し、家裁の許可を要件とすることを盛り込んだ例外的夫婦別氏制を議員立法で自民党法務部会に提出。しかし党内合意に至らず国会提出は見送られた。その後、2010年代までは党内の議論は停滞した[141][144][327]。
一方、立憲民主党や国民民主党、社民党、共産党などは、法制審答申以来、超党派で会期ごとに民法改正案を国会に提出し続けている[131][132][133]。2001年には公明党も参議院に選択的夫婦別氏案を提出した[6][134]。(「#超党派野党案/公明党案」を参照)
2003年(平成15年)国際連合女子差別撤廃委員会が、婚姻最低年齢、離婚届後の女性の再婚禁止期間の男女差、非嫡出子の扱いと共に「夫婦の氏の選択などに関する、差別的な法規定を依然として含んでいることに懸念を表明する」と日本に勧告[328]。その後も2009年、2016年に勧告[329][330][331]。これに対し、日本国政府は2008年4月に選択的夫婦別氏について、国民の議論が深まるよう努めていると報告したが[332]、2009年8月に再度、委員会は委員会は依然差別的な法規定が撤廃されていないことについて懸念を有すると勧告したほか、「本条約の批准による締約国の義務は、世論調査の結果のみに依拠するのではなく、本条約は締約国の国内法体制の一部であることから、本条約の規定に沿うように国内法を整備するという義務に基づくべき」と勧告した[92][331]。政府は2014年8月にも国連に報告書を提出したが[333]、2016年に委員会は再度批判的勧告を出した[329][330]。(「#国連女子差別撤廃委員会勧告」を参照)
一方、2010年に、民主党・社民党・国民新党の連立政権で法案提出が議論され、同年2月には1996年の法制審議会答申に沿った改正案が法務省政策会議で示された[129]。しかし連立政権を組んだ国民新党の反対や党内からの異論があり法案提出に至らなかった[144][91]。
また、多くの訴訟が起きている。2006年に別氏婚姻届不受理取り消しの申立てが却下。2011年に国に対し選択的夫婦別氏の導入を求める訴訟提議、2015年に最高裁は棄却。その後も同様の訴訟が4件提議されている。(「#選択的夫婦別氏訴訟」を参照)
2016年には、結婚後に職場で旧氏の通称使用を認めないのは人格権の侵害だとして、女性教諭が勤務先の学校法人を東京地裁に提訴、同年棄却[334][335]。2017年に和解した[336](「#女性教諭旧姓通称使用訴訟」を参照)。
2018年以降、地方議会から国へ選択的夫婦別氏法制化を求める意見書を可決する動きが広がり、三重県議会[337]、東京都議会[338][339]、大阪府議会[340]等で意見書が可決された[341][342][343]。(「#地方自治体議会」を参照)
2020年代以降
立法府の動き
2020年2月から3月にかけて、与野党超党派議員や自民党女性議員による選択的夫婦別姓導入に関する勉強会の開催が報じられた[347][327]。2020年11月11日、政府は第5次男女共同参画会議の策定に向けた答申の中で、選択的夫婦別姓について「国会の議論の動向を注視しながら検討を進める」と記述[348][349]。同月13日、衆議院法務委員会において自民党の稲田朋美が、結婚後も旧姓の使用を続けられる制度を提案[172]。24日には自民党で賛成派議員を中心に「氏の継承と選択的夫婦別氏制度に関する有志勉強会」が設立された[350]。一方、25日には自民党内で反対派議員を中心に「『絆』を紡ぐ会」設立[351]。同月26日、自民党の女性活躍推進特別委員会委員長の森雅子らは、この問題への対応を求める提言を首相の菅義偉に提出[352]。同年12月1日には、自民党女性活躍推進特別委員会で選択的夫婦別氏の検討を開始した[353]。しかし同月25日に閣議決定された第5次男女共同参画基本計画では、「夫婦の氏に関する具体的な制度の在り方に関し、司法の判断も踏まえ、さらなる検討を進める」とされ、「選択的夫婦別姓」という文言は削除された[354]。2021年3月、自民党内選択的夫婦別姓賛成派議員が、「選択的夫婦別氏制度を早期に実現する議員連盟」を発足[355]。同年4月、自民党内の選択的夫婦別姓慎重(反対)派が、議員連盟「婚姻前の氏の通称使用拡大・周知を促進する議員連盟」を発足[356]。これらの動きと並行して、同月、自民党は選択的夫婦別姓について議論する「氏制度のあり方に関するワーキングチーム」(座長・石原伸晃)を発足させた[357][358][359]。 同年9月の自民党総裁選[360]、同年10月の衆議院選挙[361]、2024年9月の自民総裁選[362]、同年10月の衆議院選挙[363]、では、争点の一つとして選択的夫婦別姓が挙げられた。 2025年の第217回国会では、選択的夫婦別姓制度が焦点の一つ、と報道された[364]。さらに、同年参議院選挙の重要な争点として選択的夫婦別姓制度が挙げられている[365]。
裁判の動き
2021年6月、事実婚夫婦による4件の選択的夫婦別氏を求めた家事審判、最高裁が却下[366][367]。同月、ソフトウエア開発会社社長らによる訴訟、および東京の再婚・連れ子の弁護士夫妻による訴訟について上告棄却[367][368][369]。2022年3月、東京都と広島県の事実婚の男女7人による訴訟について棄却、最高裁[370][371]。同月、残る東京都の訴訟についても棄却、最高裁[372]。
2022年7月、米国で認められたとされる婚姻の別姓での婚姻届の不受理に対し家事審判申し立て[373][374]。
2024年3月、男女12人、選択的夫婦別姓を求める提訴、東京、札幌両地裁[375]。(「#選択的夫婦別氏訴訟」を参照)
地方自治体の動き
2020年以降も、神奈川県議会[376]や埼玉県議会[377]、香川県議会[378]など、地方議会から制度の法制化を求める意見書を可決する動きが継続している[379][380][381][382][383]。2024年3月19日には、香川県内の全議会(県議会・市町議会)が法制化や議論の活性化を国に求める意見書を採択した[384][385][386]。(「#地方自治体議会」を参照)
またこれに加え、性的少数者(LGBTQ)のパートナー関係を公的に認める自治体の「パートナーシップ制度」において、異性の事実婚夫婦も対象に含める動きが広がっている[387][注釈 80]。
経済界の動き
2024年3月、経団連や経済同友会など経済団体の代表者や経営者有志、全国女性税理士連盟会長らが、首相の岸田文雄らに宛てた選択的夫婦別姓制度の導入を求める要望書を矢田稚子(首相補佐官・首相の代理として)、門山宏哲(法務副大臣)らに提出した[388][389]。
国際的な動き
2024年10月29日、国連女性差別撤廃委員会が日本に対し、夫婦同姓を義務付ける民法の規定を見直し選択的夫婦別姓を導入するよう勧告した[94]。
年表
1980年代まで
1990年代
2000年代
2010年代
2020年代
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訴訟
要約
視点
選択的夫婦別姓制度導入をめぐっては、1989年、2006年に家裁への不服申し立て[313][421]、2011年に国家賠償訴訟が提議され、訴えは退けられた[439]。2018年1月に戸籍法規定に関する国家賠償訴訟、同年5月に事実婚夫婦による国家賠償訴訟、同年6月に、外国で結婚した日本人別氏夫婦による婚姻を確認する訴訟、同年8月に再婚同士でそれぞれ連れ子のいる夫婦の国家賠償訴訟[538]がおきたが、いずれも最高裁で棄却された[367]。その後、2024年3月に新たに選択的夫婦別姓を求める訴訟が起きている[539]。
また、通称として旧姓を使用する権利を求めた民事裁判として、国立大学教授夫婦別姓通称使用訴訟(1993年東京地裁判決)、女性取締役通称使用訴訟(2001年3月判決)、神奈川元高校男性教諭通称使用訴訟(2013年横浜地裁和解)、女性教諭通称使用訴訟(2016年東京地裁判決)がある。また、他にも旧姓での役員登記に関する審査請求(2019年裁決)がある。
選択的夫婦別氏訴訟
1989年家事審判
1989年5月12日、岐阜県各務原市の夫婦が、市が別氏の婚姻届を受理しなかったのは基本的人権の侵害であり違憲だとして、岐阜家庭裁判所に不服申立書を提出[540]。同家裁は同年6月23日、「夫婦の同姓は一体感を高める上で役立ち、第三者に夫婦であることを示すためには必要」として、申立て却下[313][91][401][402][421][31]。
2006年家事審判
2006年4月25日、東京家裁は、別姓婚姻届不受理取り消しの申立てに対し「立法政策の問題であることは確定した解釈」だとして却下[421][541][31]。
2011年訴訟
2011年(平成23年)2月に、元高校教師らが、民法750条の夫婦同氏規定が憲法13条、14条1項、24条1項及び2項に違反するとして訴えた[542][543][544][注釈 83]。
2015年(平成27年)12月16日、最高裁判所大法廷は「名字が改められることでアイデンティティが失われるという見方もあるが、旧姓の通称使用で緩和されており、日本国憲法に違反しない」「我が国に定着した家族の呼称として意義があり、呼称を1つに定めることには合理性が認められる」として、現在の民法規定を合憲とし訴えを棄却[546][547][548]。男性裁判官10名[注釈 84]が合憲とした一方、女性裁判官の3名全員を含む5名[注釈 85]が違憲として反対した。反対意見を出した山浦善樹裁判官は、立法の不作為を理由に国の損害賠償責任も認めた[439][549]。多数意見は氏の変更で「仕事上の不利益」「アイデンティティーの喪失感」などが生じることは一定程度認めており、裁判長寺田逸郎は補足意見で「人々のつながりが多様化するにつれて、窮屈に受け止める傾向が出てくる」と指摘[547]。選択的夫婦別氏が「合理性がないと断ずるものではない」とするとともに「制度の在り方は、国会で論ぜられ、判断されるべき事柄にほかならない」として立法に委ねた[550][551]。
2018年1月訴訟
2018年1月9日、ソフトウエア開発会社サイボウズ社長の青野慶久、女性1名、事実婚の男女の計4名[552]が、戸籍法上国際結婚では同氏か別氏かを選べるのに、日本人同士では選べないのは憲法上の「法の下の平等」に反すると提訴[445][553][554][555][158][556][557][注釈 86]。
2019年3月25日、東京地裁は原告の請求を棄却[559][455][560]。2020年2月26日、東京高裁が原告の控訴を棄却[464]。2021年6月24日、最高裁が原告の上告を棄却した[368][369]。
2018年3月家事審判
2018年3月、東京都と広島県の事実婚のカップル4組は、婚姻届の「婚姻後の夫婦の氏」の欄で双方の氏の欄にチェックを記入して役所に提出し不受理となったため、東京家裁、同立川支部、広島家裁の3カ所で、受理を求める家事審判を申し立てた[449][448][446][447][561][562]。2019年3月28日、東京家裁と立川支部は申し立てを却下[563]。2020年12月9日、これらのうち3件の特別抗告審のそれぞれについて最高裁大法廷への回付が決定[480][564]。2021年6月23日、最高裁大法廷は抗告を棄却し、申し立てを却下した原審が確定した[366][565]。決定は15人の裁判官の内11人[注釈 87]の多数意見。4人[注釈 88]は違憲判断だった[566]。同月25日、残る1組についても特別抗告を棄却する決定[367][567]。これに対し、同年7月26日、世田谷区の事実婚夫婦が再審申し立てを行った[568]が、同年9月17日、最高裁第三小法廷、棄却[569]。
この決定に関連して、2021年10月の最高裁裁判官の国民審査において、この最高裁決定において夫婦別姓を認めない民法の規定を「合憲」とした裁判官の罷免を求める率が他の裁判官よりも高かった、と報道されている[570][571][572]。
2018年5月訴訟
2018年5月10日、夫婦別氏の婚姻届が受理されず法律婚ができないのは違憲だとして、前節3月の家事審判原告の一部を含む事実婚当事者が国に損害賠償を求め、同3か所の地裁で提訴[448][449][573][注釈 89]。
この訴訟では、同氏を選べば法律婚ができるが、別氏を選ぶとできないのは「信条」によるカップル間の差別であり、憲法14条違反だとして、民法・戸籍法の違憲性を主張[448][575][562]。また、法律婚に限定された法益権利・利益(共同親権、相続権、税法上の優遇措置、不妊治療など)が与えられず、夫婦として社会的承認も得られないなど差別がある、両性の実質平等が保たれていないことが憲法第24条、国際人権規約(自由権規約)と女性差別撤廃条約に違反していることも問う、と主張[562]。原告は異なるが、弁護団は2011年訴訟と同じ弁護士が中心となって担当した[576]。
2019年10月2日、東京地裁は請求を棄却[459][577]。11月14日、立川支部[460][578]、19日広島地裁も請求棄却[461][579][577][578]。2020年9月16日、広島高裁が広島の事件の原告控訴を棄却[469]、同26日に原告が上告[580]。同年10月20日、東京地裁判決に対する控訴審で東京高裁が控訴を棄却[473]。同23日、同立川支部の事件の控訴審で東京高裁が控訴棄却[474]。いずれの原告も最高裁へ上告[475]。2022年3月22日、これらのうち立川と広島の2事件について、最高裁、棄却[370][371][372]。賠償請求の棄却については5名の裁判官の判断が全員一致した一方、夫婦別姓を認めない民法の現規定について5名の裁判官のうち2名が「違憲」判断とした[370][371][注釈 90]。同月24日、残る東京都の事実婚男女2名の事件についても請求棄却[372][581]。
最高裁での棄却後、同訴訟弁護団は2023年秋を目途に第3次訴訟を準備中と報道され[582][499]、2024年3月、第3次訴訟が提議されることになった[583][375]。
2018年6月訴訟
2018年6月18日、1997年にアメリカ合衆国ニューヨーク市で適法に成立した夫婦別氏婚が日本の戸籍に反映されないのは立法の不備であり憲法24条違反に違反するとして、映画監督の想田和弘と舞踏家で映画プロデューサーの柏木規与子の夫妻が、国を相手取り婚姻関係の確認と慰謝料を求めて東京地方裁判所に提訴[584][452][585][注釈 91]。2021年4月21日、東京地裁は請求を棄却[491]した一方で、原告夫婦が別姓のまま婚姻関係にあることについては認める判決[492]。原告は控訴せず判決は確定[587]。2022年6月13日、夫妻は戸籍への記載を求め婚姻届を東京都千代田区役所に提出したが、区は受理しなかった[588]。これに対し夫妻は2022年7月に東京家裁に不服申し立てを行った[588][589][373][374](「#2022年7月家事審判」を参照)。
2018年8月訴訟
2018年8月10日、東京都文京区の弁護士と女性が、民法750条の夫婦同氏強制は初婚しか想定しておらず、立法府の法改正懈怠により精神的苦痛を受けたとして、国に損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こした。原告夫婦双方に元配偶者との間の子(連れ子)がいるが、現民法は子どもへの影響等を想定しておらず法改正が必要と主張[454]。これに対し、2019年9月30日、東京地裁は、最高裁大法廷判決以後の議論の高まりは認めながらも、憲法違反といえるような事情の変化は認められないとして棄却[590][458]。同10月11日、東京高裁に控訴[591]。2020年3月26日、同棄却[467]。原告は上告の方針[592]。2021年6月25日、最高裁で上告が棄却され、敗訴が確定[367]。
2022年7月家事審判
2018年6月訴訟原告でもあった映画監督の想田和弘と舞踏家で映画プロデューサーの柏木規与子の夫妻(「#2018年6月訴訟」を参照)は2022年6月に、米国の婚姻証書を添え、戸籍への登録のために必要な婚姻届を改めて同区に提出したものの受理されなかったため[注釈 92]、2022年7月4日、別姓での婚姻届の受理を認めるよう求め、東京家庭裁判所に審判を申し立てた[373][374]。前の裁判において、東京地方裁判所が「結婚は日本でも有効に成立している」と認めた一方「戸籍については家庭裁判所に申し立てるほうが適切だ」としたことを受けたもの[373][374]。2025年1月16日、東京家庭裁判所は受理を認めず。原告は東京高等裁判所に即時抗告予定と報道されている[526]。
2024年3月訴訟
2024年3月、夫婦別姓を認めない民法や戸籍法の規定は憲法違反だとして、30~60代の男女計12人が、別姓のまま婚姻できる地位の確認や損害賠償を求め、提訴。東京、札幌の両地裁[375][583][539]。
旧姓通称使用訴訟
国立大学女性教授旧姓通称使用訴訟
1988年、国立大学の女性教授が通称として旧姓を使用する権利を求め、訴訟を起こした[320][31]。1993年に東京地裁は判決で、通称名も「人が個人として尊重される基礎となる法的保護の対象たる名称として、その個人の人格の象徴となりうる可能性を有する」が、同一性を把握する手段として戸籍名の使用は合理性があり、通称名が国民生活に根づいていない、また大学は業績の公表などで通称使用を配慮しており、違法性はないとして棄却[593][594][595]。控訴の後、1998年、東京高裁にて旧姓使用を認める和解が成立した[596]。国は研究報告や論文などで通称使用を認め、2001年には公務員の通称使用が認められた[320]。
→「国立大学夫婦別姓通称使用事件」も参照
女性取締役旧姓通称使用訴訟
2001年3月29日、被告の会社が女性取締役に対し夫が当該会社を退職したことに伴い支障がなくなったことを理由に婚姻氏を名乗ることを命じたのは人格権の違法な侵害だったとして、精神的苦痛に対する慰謝料が認められた。大阪地裁[411][597][31]。
男性元高校教諭旧姓通称使用訴訟
2012年4月、男性元高校教諭が教員異動の新聞発表に際して旧姓の通称が認められず、精神的苦痛を被ったとして神奈川県を提訴(横浜地裁)。2013年1月、神奈川県は旧姓使用取扱要綱を改正し、同年6月に和解が成立[598][599][411][31]。
女性教諭旧姓通称使用訴訟
2016年には、結婚後に職場で旧姓の通称使用を認めないのは人格権の侵害だとして、女性教諭が勤務先の学校法人を東京地裁に提訴[334]。東京地裁は同年に「旧姓を戸籍姓と同じように使うことが社会に根付いているとまではいえず、職場で戸籍姓の使用を求めることは違法ではない」として請求を棄却[335][600]。その後控訴審で高裁より和解勧告が出され、2017年に学校側が、時間割などの文書や日常的な呼び方で旧姓の使用を全面的に認める形で和解が成立[336]。
京都府弁護士役員登記審査請求
2018年に京都府の弁護士が、京都地方法務局に対し、旧姓での役員登記申請を却下したのはプライバシー権の侵害だとして却下処分の取り消しを求めた審査請求で、同局は2019年、却下は適法として請求を棄却[456][601]。
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賛否の論点
要約
視点
現況の民法に対し、アイデンティティ喪失、間接差別、改氏の不利益[602]などの理由から、別氏のままの婚姻を選択できる制度の導入が検討され、訴訟も起きている[7][6][5][124]。一方で、親と子が異なる氏となるのは問題とする主張[603][604][605]や、旧姓の通称使用拡大で十分との主張[606]などの反対論・消極論がある。
議論状況分析
我妻栄は、1961年の著作で、民法750条の夫婦同氏規定には以下の2つの批判があるとした[607]。
- 妻が改氏することが多い一方で改氏しない側が戸籍筆頭者となるのは、夫婦の平等の理想の向上に害がある。
- 知名度が高い場合などの妻の改氏は妻にとっても社会的に不利である。
法務委員会調査室の内田亜也子は、2010年の論考で、選択的夫婦別姓について、戦後個人の価値観が多様化し賛成論が広がってきたとしている。反対論は、
- 夫婦とその未成年の子からなる集団を『家族』とし、その構成員の氏が同一であることが望ましいという考え方に基づいている
と解釈している。一方、賛成論は、
- これからの家族法は、家族を構成する個人相互の関係として規律するべき
- 家族法の個人主義化は行き過ぎだが、現行家族法の公序の組替えが必要
- 個人としての独立性を示すとともに、家族の一体性をも示したいという要請にも配慮する形で導入すればよい
の3つに分けられる、としている[6]。
社会学者の阪井裕一郎は2011年の論考で、「同姓原則論者」の中にも男女平等の観点から創姓や複合姓を提唱する論者やフェミニストもいる一方、「家名の継承」等の理由から「選択的夫婦別姓法制化」を求める保守層もおり、選択的夫婦別姓をめぐる論争は、「同姓=家族主義、保守」/「選択的夫婦別姓=個人主義、リベラル」のような二項対立ではない、としている。その上で阪井は、議論は
- 夫婦同姓原則論(複合姓論、創姓論の導入を主張しつつ法制化に反対する論を含む)
- 選択的夫婦別姓法制化賛成論(家名の継承などの理由による賛成も含む一般的な賛成論)
- 法律婚批判、戸籍制度廃止(届からの自由を求める論。法制化には反対)
- 選択的夫婦別姓法制化賛成、戸籍制度廃止(届からの自由への次善策としての賛成論)
に類型化できる、としている[608]。
各論
人権・多様性
社会システム・コスト
旧姓通称使用・旧姓併記
歴史・伝統論
舘幸嗣や榊原富士子らは、夫婦同氏の歴史は100年余、としている[317][696][26]。井戸田博史は、女性が婚姻後も生家の氏姓を保つ慣行は武士法を通して古来より明治の前半期まで伝えられてきた、としている[697][注釈 97]。これらに対し、坂田聡は、現行法の「氏」は前近代の「苗字」に相当すると主張し、夫婦同氏の伝統は5、600年と主張している[注釈 98][699][700]。熊谷開作は現行法の改正論には歴史の検討が不可欠と主張している(1970年[701])一方、大藤修は、現行法の改正論と歴史は切り離して議論すべきと主張している(2012年[702])。
家族制度
家族のあり方
法務委員会調査室の内田亜也子は、選択的夫婦別姓に対する賛成論と反対論は、伝統的家族モデルの維持に関する議論において大きく対立している、とする[6]。
現在の情勢・状況
その他の議論
2015年最高裁判決についての論評
2016年旧姓通称使用訴訟判決に関する論評
2016年の女性教諭による旧姓通称使用訴訟の東京地裁判決に関して様々な論評がある。
- 日本経済新聞は、2016年10月16日の社説において、判決は社会の流れを理解していないと批判。また2015年12月の第一次選択的夫婦別姓訴訟最高裁判決で「改姓不利益は通称使用で一定程度は緩和される」と判断したこととも食い違う、と批判している[781]。
- 毎日新聞は、2016年10月13日の社説において、旧姓使用が広がっている実情への理解が欠けた判決だと批判。2015年12月の第一次選択的夫婦別姓訴訟最高裁判決で、「旧姓使用が社会的に広まることで、改姓することの不利益は一定程度緩和される」としたこととも整合しない、と批判している[782]。
- 二宮周平(法学者)は、この地裁判決は、2015年12月の第一次選択的夫婦別姓訴訟最高裁判決の前提だった通称使用を『社会的に受け入れられていない』と真っ向から否定しており、最高裁からすれば、選択的夫婦別姓を認めよと言われているようなもの」としている[783]。
- 被告側の理事は、「今回の裁判は、『個人のアイデンティティーvs.学校のアイデンティティー』という構図になってしまった。でも、別姓を認める法律があれば、こんな戦いをせずに済んだはず」としている[783]。
2021年最高裁判決についての論評
2021年の最高裁判決に関しても様々な論評がある。
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賛否の状況
要約
視点
政治状況
国政選挙
2019年の第25回参議院議員通常選挙[344]や2021年の第49回衆議院議員総選挙[361][注釈 100]や2024年の第50回衆議院議員総選挙[363]、2025年の第27回参議院議員通常選挙[365]において、選択的夫婦別氏が争点の一つ、と報道された。
国政各政党
導入に積極的・賛成している政党
- 公明党: 選択的夫婦別氏導入に積極的[144][790][791]。2001年に民法改正案を衆議院に提出[6]。2002年には党大会重点政策として選択的夫婦別姓導入を掲げ、2005年、2007年、2009年、2010年[792][793][25][注釈 101]、2021年[795][796][797][注釈 102]、2022年[804][805]、2024年[806]、2025年[807]には、公約に選択的夫婦別姓制度の導入を挙げている。2021年8月には、地方議員に対し各議会での選択的夫婦別姓を求める意見書の採択を呼びかけた[808]。2023年5月には党女性委員会が政府に対し選択的夫婦別姓の導入を提言している[809]。2025年1月には選択的夫婦別姓制度の導入に向けたプロジェクトチームを設置(座長矢倉克夫)[810]。
- 立憲民主党: 2017年の衆議院選挙[811][812]、2019年の参議院選挙[813][814][815]、2021年衆議院選挙[816][797]、2022年参議院選挙[817]、2024年衆議院選挙[818][819]、2025年参議院選挙[807]において選択的夫婦別姓の実現を公約として挙げた。2018年[450]、2022年[496][820]には超党派で、2025年[130]には単独で、民法改正案を衆議院に提出している。
- 国民民主党: 2019年参議院選挙公約[821][822]、2021年衆議院選挙公約[823][797]、2022年参議院選挙[824]、2024年衆議院選挙[825]、2025年参議院選挙[807]において、選択的夫婦別氏実現を挙げている[注釈 103]。2018年[450]、2022年[496][139]に超党派で民法改正案を衆議院に、2025年[828]には単独で衆議院に提出している。
- 日本共産党: 2003年、2004年、2005年、2007年、2010年[792]、2014年[829][830]、2021年[797]、2022年[831]、2024年[832]、2025年[833]等に発表した政策や選挙公約において選択的夫婦別姓制度実現を挙げている[注釈 104]。衆参両院において選択的夫婦別氏法案を提出してきた[834]。2022年にも超党派で提出している[496][138]。
- 社会民主党: 選択的夫婦別氏導入に賛成[144]。1999年に発表した人権政策大綱でも実現を掲げ、2004年参議院選挙、2007年参議院選挙、2009年衆議院選挙[792]、2009年衆議院選挙[835]、2016年参議院選挙[836]、2017年衆議院選挙[837]、2019年参議院選挙[838]、2021年衆議院選挙[797]、2022年参議院選挙[839]、2024年衆議院選挙[840]、2025年参議院選挙[841]等、選挙公約に選択的夫婦別姓制度導入の実現を盛り込んでいる。2018年[450]、2022年[496][138]には超党派で民法改正案を提出。
- 沖縄の風: 2018年に選択的夫婦別氏のための民法改正案を参議院に超党派で共同提出している[842][注釈 105]。
- れいわ新選組: 2021年衆議院選挙[797]、2022年参院選[154]、2024年衆院選[847]、2025年参院選[807]では公約として選択的夫婦別姓を挙げている[注釈 106]。2022年には超党派で選択的夫婦別姓を実現する民法改正案を提出している[496][138]。
党内の賛否が分かれている政党
- 自由民主党: 野田聖子が2002年に例外的に夫婦の別姓を実現させる会を立ち上げるなど選択的夫婦別氏制導入を目指したが断念[141][142][143][144][注釈 107]。その後自民党は、野党であった2010年の党公約においては選択的夫婦別氏導入反対を掲げた[854][794][855][注釈 108]。2012年の政権公約では民主党の夫婦別姓制度導入法案に反対する、とした[858]。2015年には、党の姿勢として選択的夫婦別氏制度に反対あるいは積極的でないと報道された[144][794][630][注釈 109]。2019年にも同党は選択的夫婦別姓に「後ろ向き」と報道されている[862][注釈 110][注釈 111]。一方、2020年になって、自民党議員を含む与野党超党派による選択的夫婦別姓に関する勉強会や同党女性議員による議連「女性議員飛躍の会」による選択的夫婦別姓に関する勉強会の開催が報道されている[347][327]。同年11月には、選択的夫婦別姓制度導入に賛同する議員を中心に「氏の継承と選択的夫婦別氏制度に関する有志勉強会」が立ち上げられた[350][注釈 112]。一方、同月、反対する議員を中心とする「『絆』を紡ぐ会」も立ち上げられた[351]。2021年3月25日には、賛成派議員による議連「選択的夫婦別氏制度を早期に実現する議員連盟」が発足[355]。同年4月1日には、選択的夫婦別姓制度制度導入に慎重な(反対する)議員による議連「婚姻前の氏の通称使用拡大・周知を促進する議員連盟」が発足[356]。同月2日には、「氏制度のあり方に関するワーキングチーム」(座長:石原伸晃)の初会合が行われた[357][358][359]。同年9月の自民党総裁選挙では選択的夫婦別姓が争点の一つに挙げられた[360][注釈 113]。産経新聞は2022年11月に、党執行部や重鎮を含め自民党内で容認論が拡大しつつある、と報道している[498][注釈 114]。2024年7月に「氏制度のあり方に関する検討ワーキングチーム」再開(座長:逢沢一郎)[522]。2024年9月の総裁選でも争点の一つに選択的夫婦別姓が上げられ[362]、同年10月の衆議院選挙では公約で、氏制度について課題等を整理し合意形成に努める、とした[872]。2025年6月には首相の石破茂が、党議拘束を外す案について一つの考え方であると述べた[873]。
代替案等を主張している政党
- 日本維新の会: 2019年参議院選挙や2021年衆議院選挙の公約では、「同一戸籍・同一氏の原則を維持しながら旧姓使用にも一般的な法的効力を」を掲げた[165][166][797][注釈 115][注釈 116]。代表の松井一郎は、2021年10月、党議拘束を外し採決し結論を急ぐべき、としている[875]。2022年参議院選挙の公約では、「戸籍制度及び同一戸籍・同一氏の原則を維持しながら、旧姓使用にも一般的な法的効力を与える制度(維新版選択的夫婦別姓制度)の創設など、結婚後も旧姓を用いて社会経済活動が行える仕組みの構築を目指す」とした[876]。2024年衆議院選挙における公約においても「維新版・選択的夫婦別姓の導入を推進」としている[877]。2025年参議院選挙においても同様[807]。2025年には「旧姓を法的に通称使用できるようにする法案」を衆議院に提出している[878]。
- 参政党: 2025年参議院選挙で選択的夫婦別姓に反対し、旧姓通称使用を広げる法制度の整備を公約[807]とした。
過去の政党
- NHK党: 2022年参院選の公約で、法務省が提示している代替案「例外的夫婦別氏制度」の検討の提案をするとした[154]。
- 社会保障を立て直す国民会議: 同会派を含む5野党・会派と市民連合は、共通政策として「選択的夫婦別姓の実現」を掲げた[879]。
- 自由党: 2018年、超党派での選択的夫婦別氏制度導入のための民法改正案の衆議院への提出に参加[450][注釈 117]。
- 民進党: 前身の民主党時代から選択的夫婦別氏制度導入のための民法改正に意欲的だった[882][131][883][884][885][436][437][886]。2001年、2003年、2005年には選挙公約において選択的夫婦別姓導入を掲げている[792]。しかし、民主党政権時には連立政権を組んだ国民新党の反対や党内からの異論があり法案提出には至らなかった[144][887]。維新の党と合流前の2016年2月には、共同で選択的夫婦別姓と再婚禁止期間短縮等を柱とする「民法の一部を改正する法律案」を共同議員立法として登録[888]、民主党から民進党への党名変更時には、党の柱として挙げる「民進党11の提案(共生イレブン)」の中に、選択的夫婦別姓の実現を盛り込んでいる[889][注釈 118]。2016年には、民進党を含む超党派野党4党が選択的夫婦別姓の導入を盛り込んだ民法改正案を衆議院に提出している[444][133]。
- 希望の党: 2017年の結党会見において細野豪志が、選択的夫婦別姓にも取り組む、と述べた[891]。同年、衆議院選挙公約で選択的夫婦別姓を検討していることが報道された[892]。2018年5月に解党。
- 日本のこころ: 幹事長(当時)の中野正志が選択的夫婦別氏に反対する談話を出すなど、党として反対の立場[893]。
- 維新の党: 党分裂前の2014年の時点では「選択的夫婦別姓について反対」を掲げていた[894]。しかし、2015年の党分裂後の賛否は不明と報道された[144]。さらにその後、2016年2月に民主党と共同で選択的夫婦別姓と再婚禁止期間短縮等を柱とする「民法の一部を改正する法律案」を共同議員立法として登録した[888][注釈 119]。維新の党は2016年3月に『民進党』に合流[895]。
- 国民新党: 2010年の政策宣言において、選択的夫婦別氏に対し「反対」としていた[25]。
- 新党さきがけ: 選択的夫婦別氏の民法改正案を、1997年から2001年にかけて、2000年を除き毎年提出していた[6]。
- 新進党: 選択的夫婦別氏法案を議員立法で国会に提出[881]。
地方自治体議会
2018年以降、地方議会から国へ選択的夫婦別氏法制化を求める意見書を可決する動きが広がり[337]、 2024年12月16日までに435件の制度導入を求める意見書が地方議会で可決されている[896][343][注釈 120][注釈 121]。都道府県議会での可決状況は以下のとおり。
これらの動きに関連しては、2021年1月に高市早苗ら自民党内の反対派国会議員が50名連名で選択的夫婦別姓制度導入に賛成する意見書を採択しないように求める文書を47都道府県議会議長のうち自民党所属の地方議会議長約40人に送付していた、と報道された[484][485][486]。一方、公明党は2021年8月に、同党地方議員に対し各議会での選択的夫婦別姓を求める意見書の採択を呼びかけている[808]。
各種団体の賛否状況
経済団体
- 選択的夫婦別氏導入に積極的・賛成
- 日本経済団体連合会は、2024年1月に、日本の約95%の夫婦は女性が改姓しており女性活躍機会を奪うことと、旧姓の通称使用にとどまることによる経済的損失についての視点から多様性社会の実現を目指して政府に導入を要望している[918][505]。同年6月には、選択的夫婦別姓の早期実現を求める提言を公表している[514][919][920]。
- 経済同友会は、選択的夫婦別姓制度に賛成し、2024年に政府に対し選択的夫婦別姓を要望している[921][509]。
- 新経済連盟は、2024年に選択的夫婦別姓の実現を政府に要望している[508]。
- 「日本取締役協会」は選択的夫婦別姓を求める会長声明を公表している[922][923]。
- 「選択的夫婦別姓の早期実現を求めるビジネスリーダー有志の会」は選択的夫婦別姓の実現を求めている[924]。
- 日本跡取り娘共育協会[925]は、選択的夫婦別姓導入を求めている[926]。
学術団体
- 選択的夫婦別氏導入に積極的・賛成
職能団体
- 選択的夫婦別氏導入に積極的・賛成
- 士業系団体
- 労働組合系団体
- 全国労働組合総連合は、ただちに選択的夫婦別氏のための法改正が必要との事務局長談話を発表[940]。
- 日本労働組合総連合会井上久美枝総合政策推進局長は、一刻も早い導入が必要、としている[941]。
- 日本自治体労働組合総連合は、2023年の自治労連ジェンダー平等宣言の中で選択的夫婦別姓に取り組むとしている[942]。
- 日本退職者連合は、2025年に公明党に対し選択的夫婦別姓制度の早期実現に向けた要望を出している[943]。
政治/社会運動団体
- 選択的夫婦別氏導入に積極的・賛成
- 「選択的夫婦別姓・全国陳情アクション」は、選択的夫婦別氏制法制化を求める市民団体[944][945][注釈 125]。同団体は、2023年に「一般社団法人あすには」を設立[949][950]。
- NPO法人の「mネット・民法改正情報ネットワーク」は、選択的夫婦別氏を求めて運動[951][952][390]。
- 国連NGO女性団体の「新日本婦人の会」は、選択的夫婦別氏実現を求めている[953][954][注釈 126]。
- 「日本婦人団体連合会」は選択的夫婦別姓の実現を求めている[956][954][注釈 127]。
- 「実家の名前を継承したい姉妹の会」は、氏の継承問題の解決のため選択的夫婦別氏を求めて運動している[711][712]。
- 「夫婦別姓選択制実現協議会」は、「夫婦別姓のままで法律婚ができるように民法を改正してもらう」活動を行っている。顧問に野田聖子[957][958]。
- 「夫婦別姓選択制をすすめる会」は、1984年に発足した、選択的夫婦別氏の実現を目指す市民団体[959][960][961]。
- 「選択的夫婦別姓を実現する会・富山」は、2011年夫婦別姓訴訟支援者らでつくられた、選択的夫婦別氏のための民法改正を求める団体[962][963][964]。
- 「別姓訴訟を支える会」は、夫婦別姓訴訟を支援し、選択的夫婦別氏早期実現を目指す団体[372][965]。
- 「NPO法人選択的夫婦別姓の実現を願う会」は選択的夫婦別氏の実現を目指す団体[966][967][注釈 128]。
- 「別姓を考える会」は宮城県を中心に活動している選択的夫婦別氏を求める団体[968][969][970]。
- 選択的夫婦別氏導入に消極的・反対
- 日本会議[注釈 129]は、選択的夫婦別氏導入に反対している[978]。2010年には、日本会議は「夫婦別姓に反対し家族の絆を守る国民大会」と題された大規模集会を開催し、複数の国会議員[注釈 130]も参加[979][980]。
- 日本会議に関連した議員連盟である日本会議国会議員懇談会も、選択的夫婦別姓制度導入への反対運動を行っている[981][982]。2025年1月の会合では「旧姓の通称使用の法制化を目指し、夫婦同姓制度の維持」をその方針として「確認」している[983][注釈 131]。
- 日本会議女性部「日本女性の会」(2001年設立)[984][985]が積極的に選択的夫婦別姓への反対運動を行っている[979][974][986][注釈 132]。2025年2月にも同団体が反対の街宣運動を行っていることが報道されている[984]。
- 日本政策研究センター[注釈 133]は、機関誌「明日への選択」などの同団体出版物上などで選択的夫婦別姓反対の論説を掲載している[991][992][993]。
- 「新しい歴史教科書をつくる会」は、他社の公民の教科書が「日本社会と国家を解体するために(選択的)夫婦別姓や外国人参政権を説いている」と主張し、『新しい公民教科書』は「家族解体、国家解体の傾向と闘」っているとしている[994]。
- 親学推進協会会長(当時)の木村治美[注釈 134]は、「親学の観点からすれば、(選択的)夫婦別姓は家族を崩壊させる」と主張[996]。同団体は、選択的夫婦別姓や性教育に批判的[997][998][738]な高橋史朗(日本会議政策委員、新しい歴史教科書をつくる会副会長[997])が提唱する「親学」[注釈 135]を推進する団体[1000]。日本会議事務総長の椛島有三は、「親学は男女共同参画に対する対案」と述べている[1000][1001]。親学推進協会は2022年に解散[1002]。
- 全国教育問題協議会[注釈 136]は選択的夫婦別姓に反対している[1004]。
宗教団体
- 選択的夫婦別氏導入に積極的・賛成
- 公益財団法人の日本キリスト教婦人矯風会は、選択的夫婦別氏制度導入を求めている[1005][1006]。
- 真宗大谷派解放運動推進本部女性室の発行する広報誌『あいあう』では家族形態の多様化が今後の寺院・教団に与える影響を重要視しており、夫婦別姓訴訟原告によるコラムを掲載するなどしている[1007]。
- 日本ナザレン教団社会委員長の阿部頌栄は、選択的夫婦別姓の議論について、パートナーの一方が極端に負担を強いられる制度になっていないかが重要、としている[1008]。
- 選択的夫婦別氏導入に消極的・反対
- 宗教法人の神社本庁の関係団体である神道政治連盟[注釈 137]は、選択的夫婦別氏反対を主張しそれを国会議員に働きかけてきた、とされる[1009][739][1010]。神社本庁は、機関誌「神社新報」でも選択的夫婦別氏制制度導入への反対論を展開している[1011][1012]。神道政治連盟は2013年の参議院選挙で、有村治子(自民党)[注釈 138]を支援したとされる[1014](詳細は「神道政治連盟#選挙応援」を参照)。福島みずほによれば、個人的には賛成でも、神道政治連盟の推薦を受けているために表明できない自民党若手女性議員がいるとされる[1015]。しんぶん赤旗は、1996年に法制審議会が答申した際、神社本庁や日本遺族会を背景とした自民党議員などから唐突に選択的夫婦別氏制制度導入への反対の声があがったと報道している[1016][注釈 139]。2021年の衆議院選挙では、神政連中央本部が、選択的夫婦別氏制度の導入に反対することなどを求める公約書を自民党の国会議員と交わしたとされる[1018]。また、2022年には、自民党の衆参議員が参加した関連団体神道政治連盟国会議員懇談会の会合において配布された冊子に選択的夫婦別姓や同性婚についての内容が書かれ、その中に性的マイノリティーに対する差別的な内容が含まれていたことが報道された[1019]。さらに、神道政治連盟の埼玉県本部など地方本部は2023年の統一地方選挙において、選択的夫婦別氏制度の導入に反対することなどを求める公約書(政策協定書)を各自治体の候補者に送っている[1018][注釈 140]。同連盟は2024年の衆議院選挙においても、議員を推薦するのにあたって「選択的夫婦別姓」に反対することなどを約束する「公約書」の提出を求めている[1020]。
- 宗教法人の世界平和統一家庭連合(旧統一教会)[注釈 141]は、選択的夫婦別姓に反対している[1022]。同宗教団体は「猛烈に」ジェンダーバッシングを行っているとされる[974][1023]。毎日新聞は、この宗教団体の関連団体が掲げる「夫婦別姓阻止」などの政治的主張が、自民党の政策に反映された疑いもある、としている[1024][注釈 142]。関連政治団体に国際勝共連合があり、運動方針の一つに「選択的夫婦別姓に潜む共産主義の策動を阻止する」をあげ[1027]、反対するチラシの配布なども行っている[1028]。同宗教団体を母体とする宗教紙の世界日報でも選択的夫婦別氏制制度導入への反対論を展開している[1029][1030][1031]。同宗教団体機関紙「世界思想」でも選択的夫婦別姓反対論を展開している[1032]。関連団体の世界平和連合は、選択的夫婦別氏を危険としている[1033]。
- 宗教法人の新生佛教教団[注釈 143]は、特に2000年代前半に男女共同参画に反対する活動を行っている[975]。同団体を母体とする宗教紙の日本時事評論でも、男女共同参画や選択的夫婦別氏制制度導入に対し反対論を展開している[1035]。その後、同紙は男女共同参画反対の活動よりも原子力発電所推進に活動の軸を置くようになっている、との指摘が2012年になされている[975]一方、2018年3月2日の記事において、選択的夫婦別姓制度導入への反対論を行っている[743]。2004年の参議院選挙では、同教団は山谷えり子(自民党)[注釈 144]を推薦[1038]。また、2013年の参院選では、同教団は衛藤晟一(自民党)[注釈 145]を支援したとされる[1014]。
- 宗教法人の幸福の科学を母体とするWeb媒体TheLibertyWebは、選択的夫婦別氏に否定的である[1040][1041]。同宗教団体を母体とする政治団体の幸福実現党は、2022年の参院選でのアンケートに対し、選択的夫婦別姓に対し「反対」と回答している[1042][注釈 146]。
- その他
報道機関
以下の報道機関が社説等で姿勢を示している。
世論調査
政府系機関世論調査
家族の法制に関する世論調査
内閣府は、1996年から約5年ごとに「家族の法制に関する世論調査」を実施している[1168]。 1996年~2017年の調査では、夫婦が婚姻前の名字(姓)を名乗ることを希望している場合には、夫婦がそれぞれ婚姻前の名字(姓)を名乗ることができるように法律を改めてもかまわない」「夫婦が婚姻前の名字(姓)を名乗ることを希望していても、夫婦は必ず同じ名字(姓)を名乗るべきだが、婚姻によって名字(姓)を改めた人が婚姻前の名字(姓)を通称としてどこでも使えるように法律を改めることについては、かまわない」「婚姻をする以上、夫婦は必ず同じ名字(姓)を名乗るべきであり、現在の法律を改める必要はない」の三択の選択肢が設けられたが、このうち2つ目に関する選択肢について、この調査項目を作成した法務省は「国会議員から通称使用ではどうか、という意見が出たので加えた」としている[1169][注釈 147]。2021年の調査から選択肢の文言が変化した[1171][注釈 148]。2021年の調査で設けられた3つの選択肢について、法務省が調査前に内閣府から「選択的夫婦別姓と現行制度の2択でやるべき」と事前に指摘されていたにもかかわらず、設問では旧姓の通称使用の法制度導入を含めた3択となった、と指摘されている[1170][注釈 149]。
- 2017年以前の調査
- 2021年調査
男女共同参画白書
2022年、内閣府男女共同参画局は、男女共同参画白書令和4年版において、独身の男女に対する調査(「令和3年度 人生100年時代における結婚・仕事・収入に関する調査」)を行い、積極的に結婚したいと思わない理由として「名字・姓が変わるのが嫌・面倒だから」に「当てはまる」、「やや当てはまる」は、20代、30代女性で25.6%、40代以上女性で35.3%だった。男性では20代、30代で11.1%、40代以上で6.6%だった。一方、結婚したい理由としては「好きな人と同じ苗字にしたい」に「当てはまる」「やや当てはまる」は、20代、30代女性で5.5%、40代以上で2.2%、男性では、20代、30代で2.3%、40代以上で0.6%だった[1192][1193][1194]。
人生100年時代における結婚・仕事・収入に関する調査
内閣府が2021年度に20歳以上70歳未満の2万人を対象に行った調査[1195][1196]。 独身者を対象に「積極的に結婚したいと思わない理由(複数回答)」について回答を性別で比較した場合に、男女で最も差が開いた理由は、「名字・姓が変わるのが嫌・面倒だから」で、該当すると回答した女性は31.9%、男性は8.6%だった[1195]。
その他
男女共同参画局の調査によると、2023年の婚姻した夫婦において、夫の姓を選んだ夫婦は94.5%、妻の姓を選んだ夫婦は5.5%だった[1197]。
大手報道機関調査・報道
2019年以前
2020年代前半
2020年代後半
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各国の状況
要約
視点
過去には日本以外にも夫婦同氏とする規定を持つ国(ドイツ、オランダ、イタリア、ノルウェー、フィンランド、タイ、トルコ、南アフリカ等)もあったがそれぞれ改正等がなされ、2014年時点では、法的に夫婦同氏と規定している国家は日本のみとなっている[注釈 162][1295][8][9][10][1296]。
アジア
東アジア
東アジア地域においては、伝統的に夫婦別姓が多い[706][注釈 163]。
韓国
- 不文法として「姓不変の原則」があり、夫婦別姓である[763][1300][1301][注釈 164][1303]。
- 朝鮮においては10世紀初頭の高麗の時代より姓が急速に広まり、さらに李氏朝鮮が法制度上戸口式(戸籍)に姓の記載を義務づけ、「同姓同本不婚」(姓、本貫が同じであれば婚姻できない)、「姓不変」(生涯姓は変わらない)、「異姓不養」(養子は姓、本貫が同じ場合にのみ可能)が定着した[1304]。日本の監督下にあった1909年に日本の戸籍に相当する「民籍法」が成立。民籍には戸主、本貫が記録された[1301]。日韓併合後、1912年には「朝鮮民事令」が施行され、日本の民法の規定が適用されたが、朝鮮の慣習として「同姓同本不婚」「姓不変」「異姓不養」は踏襲された[1301]。1940年の民事令改正で「創氏改名」が行われ、夫の姓に合わせる夫婦同姓が終戦まで強制された[1301][1305]。大韓民国成立後、創氏改名は廃止されたものの、戸主制度、同姓同本不婚については踏襲された[1301]。同姓同本不婚の規定は、1997年憲法裁判所が違憲の決定をし、1999年に廃止された[1306]。2005年には長男が全財産を相続するとする戸主制度が廃止された[1301][注釈 165]。2008年には、血統主義に立脚した正当な理由のない制度だとして戸籍制度が廃止され、個人を登録する形になった[1301][1307]。
- 以前は子の姓・本貫は法的に父親姓・本貫とするとされていたが、2008年の民法改正の際に母親姓・本貫とすることが可能となった。ただし、「子は父親姓と本貫に従う」という民法第781条1項を残したまま、「婚姻届提出の際に夫婦間で同意すれば、母親姓に従うことができる」とされたため、母親姓とするためには婚姻の際に明示的に届けなければならない[注釈 166][注釈 167][注釈 168][1309][1310]。2008年より、離婚後に母が子を引き取った場合には、子の姓を母の姓に変更することも可能になった[1311][1312]。なお、2021年5月に夫婦協議により母親姓を継がせられる民法改正案が提出されている[1303]ほか、2021年の同国女性家族部が発表した新たな家族政策の骨組みを盛り込んだ「第4次健康家庭基本計画」では、2025年までに夫婦の協議により母親の姓を継がせられるよう民法を改正する、とされている[1313]。
北朝鮮
- 現行法に婚姓に関する規定はなく、各自の姓を継続使用できる。法的には夫婦の権利平等。同姓同本不婚の規定は無い[1314]。2001年2月に女子差別撤廃条約(CEDAW)に加入している[1315]。
→「朝鮮人の人名」も参照
中国
- 基本は夫婦別姓だが、複合姓(冠姓・冠夫姓:妻が自分の姓の前に夫の姓を付加[1316][1317][注釈 169])、夫婦同姓も選択可。1950年の婚姻法において「自己の姓名を使用する権利」が認められ、相手方の家族等に関係なく夫婦自らの意志での選択が可能[1318][1319]。
- 旧中国の一般の習慣では妻は無姓無名、あるいは夫の姓を用いていたが、1949年成立の中華人民共和国において同姓、別姓、結合姓が認められた[1320]。1980年改正で、子の姓は両親のいずれかから選択することになり、2001年改正でより夫婦平等が強調された法文となった。伝統的には父の姓が用いられる[1321]。中島恵は、2016年以降一人っ子政策が見直され子が2人まで認められるようになり、第一子は父親の姓に、第二子は母親の姓にする、という動きが都市部の一部で起きている、としている[1317]。また、中島や斎藤淳子は、子供が複合姓とすることは現在認められていないが、近年、夫婦の姓の一方を子の姓に、もう一方を子の名前の最初に用いる例[注釈 170]が増えている、としている[1322][1316][1317]。
- なお中国にも戸籍制度があり、是非には議論がある[1323]。
中華民国(台湾)
- 夫婦別姓または複合姓(冠姓)の選択が可能。1985年民法では原則冠姓、当事者が別段の取決めをした場合は別姓とされていた[1324][763]。1998年の改正で、原則として本姓をそのまま使用し、冠姓にもできる、と改められた。職場では以前から冠姓せず本姓を使用することが多かった[1325]。2018年の調査では冠姓を用いている者は4.74%で、そのうち女性が99.83%だった[763]。2010年改正では、成人の自由改姓が認められた[761]。
- 子の姓は、原則的に父系の姓が適用されていた(入夫の場合は逆)が、1985年の改正で、母に兄弟がない場合は母の姓にもできるようになり、兄弟別姓も可能となった[1325]。しかし男女平等原則に反するとして、2008年の戸籍法改正で両親が子の姓を合意し、署名を入れ提出することになった。合意がない場合は役所が抽選で決める[1326]。さらに養子も本姓を維持可能になった[761]。
東南アジア
タイ
- 現行法では同氏、別氏、結合氏からの選択制。1913年の個人氏名法により国民全員が氏を持つことが義務化された。この時点では、別氏、妻が改氏する同氏、から選択可だった。1941年に妻が改氏する夫婦同氏制に転換。この同氏強制に対し2003年に憲法裁判所より違憲判決が下り[1329]、2005年に現行法に改正された[315][1330][1331]。子の氏は父母のどちらかから選択可[1332]。
フィリピン
- 2010年以前は、結婚時に、妻は自分の氏に夫の氏をミドルネームとして加えるか、夫の氏を用いるか、夫のフルネームにMrs.をつけるかからの選択だった。しかし、2010年に、裁判所は、女性の権利の尊重の観点から、自分の氏のみを用いてもよいとの判断を下した[1333]。2017年時点で夫婦別氏が可能となっている[1334][1335]。
→「en:Filipino name」も参照
マレーシア
- 婚姻時に氏は変更されない[1336][1337]。
シンガポール
- 別氏、同氏を選択可能。多くは別氏[1338]。
インドネシア
- 通常は夫婦は別氏。通称として夫の氏を名乗ることも多い。男性側の改氏も可能[1339]。伝統的には結婚した女性は夫の姓(苗字)にすることがあり、外国人男性と結婚した際も相手の姓とする例がある[1340]。
東ティモール
- 別氏の多い地域も、改氏、複合氏の多い地域もある[1341]。
ブルネイ
- 妻は夫とは別に自身の氏を用いてよい[1342]。
ミャンマー
- 国民の9割以上が氏を持たず、結婚時に人名は変わらない[1343]。名前の節は1つの場合もあれば、多数の場合もある[1344][1345]。
ベトナム
- 結婚時に名前は変わらない。名前は2つから5つ程度の名前からなり、最初の名前がファミリーネーム、最後の名前がギブンネームである。両親の伝統や好みによって、ミドルネームはない場合もあれば、複数ある場合もある[1346][1347]。ベトナム政府は2017年に、戸籍制度の撤廃を発表している[1348]。
→「ベトナムの人名」も参照
カンボジア
- 婚姻で氏は変わらない[1349]。名前は「氏、名」の順[1350][1351]。氏としては、中国やベトナムと同じ氏も多い[1352]。多くの場合子の氏は父親の氏をつけるが、父親の名を子の氏とすることもあり、兄弟が異なる氏を持つこともある[1353]。
→「en:Cambodian name」も参照
南アジア
インド
- インドの法体系はコモン・ローであり[1356]、結婚時の氏に関する厳密な法律的な規定は存在せず、同氏、別氏を選択可。氏名は自由に変更することが可能である[1357][1358]。2012年以降婚姻の登録が義務となったが、登録時には、改氏する場合には新氏を届ける[1359]。ヒンズー教徒は夫婦同氏とする[92][注釈 171]一方、シーク教徒は常に男性は「Singh」、女性は「Kaur」を氏として持ち、婚姻で変化しない[1360]。マハーラーシュトラ州では、婚姻時に婚前の氏を保持できることが2011年に明文化されている[1361]。2017年には首相のナレンドラ・モディが、女性が結婚後にパスポートを変更する必要はない、と述べている[1362][注釈 172]。
ネパール
- 婚姻すると、女性は、自身の父または母の氏、夫の氏のいずれかを用いることができる[1363]。
ブータン
- 氏は「家の名」ではなく個人それぞれに名付けられる。婚姻時に改氏しない[1364]。
バングラデシュ
- 婚姻時に女性が改氏することもしないこともある[1365]。
スリランカ
- 何も手続きを行わなければ、婚姻時に改氏はない。改氏したい場合は婚姻時より使いはじめ、証明などの必要が出た際に手続きを行う[1366][1367]。
モルディブ
- 婚姻を理由とした改氏は法的に認められていない[1368]。
パキスタン
- 別氏または夫の氏。イスラム法では夫の氏に変えることを求めておらず、イスラム系住民は別氏が多い[1369]。
アフガニスタン
- 女性は伝統的には婚姻時に改氏しない。西欧と接点のある女性は改氏することもある[1370]。
中央アジア
南コーカサス
中東・西アジア
中東や北アフリカのアラブ諸国では、イスラム教徒の女性は伝統的には婚姻時に改氏しない[1377]。なお、アラブ圏における人名の表記は基本的には1)誰の親か、2)本人名、3)父祖の血統を表す父称群、4)出自名、5)尊称あるいはあだ名、からなる、とされる[1378]。
トルコ
- 同氏、別氏、複合氏からの選択制。2001年の法改正により女性の複合氏がまず認められ[1379]、2014年に婚前の氏のみを名乗ることを認めないことに対し憲法裁判所において違憲判決が下され、2015年9月より家庭裁判所に申請することで婚前氏を継続できるようになった[1380][1381][1382]。2024年1月からは、民法においても司法手続きを経ずに婚前の氏のみを名乗ることができるとされた[1383]。
イスラエル
- 別氏、同氏、ミドルネーム(複合姓)から選択可[1384]。
イラン
- 通常、婚姻時に改氏しないが、夫の氏を後ろに加える女性もいる[1377]。1976年までは妻を含め家族の氏を決める権利が夫にあったが、現在では、家族のいずれの成員も氏を自身で決めることができる[1385][1386]。
イラク
- 通常は婚姻時に改氏しないが、西欧風に夫の氏にする女性もいる[1377]。
サウジアラビア
- 婚姻時に改氏しない[1387]。養子縁組でも改氏しない[421]。
クウェート
- 婚姻時、女性は改氏しない[1388]。
バーレーン
- 婚姻時、女性は改氏しない[1388]。
カタール
- 婚姻時に改氏できない[1389]。
アラブ首長国連邦
- 伝統的に婚姻時に改氏しない[1390]。
シリア
- イスラム教徒の女性は婚姻時に改氏しない。改氏する女性もいる[1391]。
オマーン
- 女性は婚姻の際に改氏しない権利を持つ[1392]。
イエメン
- 慣習で、女性は婚姻の際には改姓しない[1393]。
パレスチナ
- 伝統的に、婚姻時に女性が改姓することはない[1394]。
ヨルダン
- 婚姻時、女性は改氏しない[1395]。
ヨーロッパ
欧州連合
1978年にヨーロッパ理事会閣僚協議会において「民法における夫婦の平等に関する決議」がなされ、スウェーデン、デンマークなどが別姓の選択を認めるよう民法を改正し[1320]、現在は夫婦同姓を規定する国はない(以下参照)。
西ヨーロッパ
イギリス
- 英国の法体系はコモン・ローであり[1356]、伝統的に氏に関する法律の規定はなく、詐害の意図がない限り氏を自由に変更でき、同氏も別氏も複合氏も選択できる。伝統的には妻が夫の氏を称する[1300][421][763]。同氏とする場合も、どちらかの氏とする、併記する、ハイフンでつなぐ、合成して新たな氏を作る、同氏にした上で改氏した側のみ旧氏をミドルネームとして加える、関係ない新しい氏を作成する、など様々な夫婦が見られる[1396]。2016年のYouGovの調査では婚姻した女性の89%が夫の氏を用いていた[763]。婚姻には宗教婚と民事婚の2通りあるが、いずれも改氏はせず、同氏や複合氏など改氏する場合は、別に改氏のための証書(ディード・ポール[1397])を作成する必要がある[1396]。子の氏は公序良俗に反しなければ自由につけられる[1398]。2004年に同性カップルが婚姻と同等の保護を受けられる「シビル・パートナーシップ」制度ができたが、2018年よりこの制度を異性カップルでも用いることができるようになった[1396]。
→「en:English name」も参照
→「en:Irish name」も参照
フランス
- 法に規定はなく、「氏名不変の原則」から改氏しない。第一共和政下で制定された「姓名不変に関する1794年8月23日法」によって「いかなる市民も出生証明書に記載されている以外の姓名を名乗ることはできない」とされた[1401][注釈 173]。「通称に関する1985年12月23日法」により、1986年から、通称が可能となり[763][1402][1403][1404][1401]、通称として出生氏と継承できなかった親の氏をハイフンでつなげた連結氏(順序自由)、出生氏とパートナーの氏をハイフンでつなげた連結氏(順序自由)、女性の場合に夫の氏、を選ぶことができる。さらに2013年からは男性の場合は妻の氏を選ぶことができるようになった[1404][1405][1406]。通称を用いる場合、パスポートに通称を記載することができる[1404]。1999年、同性カップルの共同生活に関する契約PACSが法制化されたが、異性カップルも対象とするようになった[注釈 174][1404]。
- 2004年以前は子の氏は父の氏としていたが、2005年改正法は父母のどちらかか、両者の氏をハイフンでつないだ複合氏を選択可能にしている[1407][1398][1408]。申請しなかった場合は父親の氏となる[1409]。2013年からは、夫婦が子の氏について一致できなかった際は父母の氏のアルファベット順の結合氏となる。養子は養子の氏と養親の氏の結合氏となる[315]。2022年に、いかなる者も一生に一度、自身と氏の異なる親の氏に変更、あるいは自身の氏のその氏を追加することができるようになった[1410][注釈 175]。フランスの国立統計経済研究所(INSEE)が調べた2014年統計によると、結婚した95%は父親の姓を子どもにつけている。事実婚でも、子どもは75%が父親の姓、11%が母親の姓、11%が父・母の順の複合姓を選択している[1411]。
→「en:French name」も参照
オランダ
- 別氏、同氏、複合氏(選択配偶者の氏の後に自己の氏を後置)から選択可[1412]。2001年時点では、夫の氏は不変、妻は夫の氏(同氏)または自己の氏(別氏)を称する。妻は自己の氏を後置することもできる、と報告されている[1300]。かつては婚姻後妻は夫の氏に改氏するとされていたが、氏名法が改正され選択制となった[1413]。子の氏はどちらの氏でも構わないが、同じ両親の子の氏はいずれも同じとしなければならない[1414]。
→「en:Dutch name」も参照
ベルギー
- 婚姻によっては氏は変更されない[1415][1336]。2014年以前は子の氏は父親のみとされていたが、2014年の法改正で父親、母親、または両親の氏からの複合氏(複数の子がいる場合、氏の順序は同じ)から選択可能となった[1416]。複合氏の順序について合意できない場合はアルファベット順[1417]。
ルクセンブルク
- 婚姻によって法的な氏は変更されない。ただし、配偶者の許諾があれば、その氏を通称として使用できる。離婚後も元配偶者の許諾があれば用い続けることができる。なお、1982年より、氏あるいは名の変更が可能となった(十分な変更理由が必要)[1418][1419][1420]。子の氏に関しては、かつては父の氏と定められていたが、2006年の法改正により父の氏、母の氏、複合氏(順序は問わない)より選択可能となった[1421][1422]。
ドイツ
- 同氏、別氏、複合氏(片方のみ)より選択可。2024年4月までは、双方とも複合氏とすることはできなかった[1423][1424]が、2024年5月より、双方とも複合氏とする選択が可能となった[1425]。かつては1900年発効の民法典により夫の出生氏での同氏が民法で規定されていたが、1957年に複合氏が認められ、さらに1976年に夫婦の合意の元で妻の出生氏を家族の氏とすることが認められた(合意が得られない場合は夫氏での同氏)。しかし1991年にこれらの規定が連邦憲法裁判所で違憲とされ、1993年の民法改正で、夫婦の氏を定めない場合は別氏とする選択制となった[1426][1427][91][763]。ドイツ語協会(GfDS)の2016年の調査によると、婚姻時の氏の選択は、夫氏婚が約75%、別氏婚(夫婦双方とも改氏しない)約12%、複合氏が約8%、妻氏婚約6%だった[1428][注釈 176]。婚姻で氏を変更して後離婚・死別した場合には、旧氏に戻す選択肢の他、旧氏を婚氏に加える二重氏を選択することもできる[1430][421]。
- 子の氏に関しては、親権が父母それぞれにある場合には、どちらの氏とすることも可能であるが、子一人ごとに氏を変えることはできない。複合氏はできない。離婚しても子供の姓を変更出来ない[421][1429]。そのほか、養子の氏に関しては、養親の氏、あるいは養子縁組前の氏と養親の氏の複合氏から選択可能[1427]。
→「en:German name」も参照
オーストリア
- 1811年民法では妻は夫の氏、子は父の氏、とされていた。1995年より定めがない時は夫氏としつつも選択肢が追加され[1431]、原則夫の氏、決定がある場合は妻の氏を称する、あるいは自己の氏を後置する複合氏[1300]、とされていたが、2013年4月以降、婚前に特に手続きしないかぎり原則別氏になった[1432][1433][315]。夫の氏に変更、あるいは複合氏を選択するためにはそのように婚姻前に手続きを行わなければならない[1433]。子の氏には出生時に定める。父母が別氏の場合は、父母の氏、複合氏のいずれかから選択。子の氏を定めない場合は母の氏となる[315]。
スイス
- 2013年以前は、夫の氏が優先。正当な利益があれば妻の氏を称したり、自己の氏を前置する複合氏も可能[1300]とされていたが、2013年以降、婚前に特に手続きしないかぎり原則別氏に変更された。配偶者の氏や複合氏を選択するためには婚姻前に手続きが必要[1434]。別氏の場合、子の氏は婚姻時あるいは第一子の出生時に、父あるいは母の氏より選択する。第二子以降は第一子と同じ氏とする[1435]。
リヒテンシュタイン
- 同氏、別氏、複合氏から選択可。別氏の場合の子の氏は親が決定[1436]。
南ヨーロッパ
イタリア
- 選択制。1865年の最初の民法典では、第131条「家族の長は夫であり、妻は夫の市民的身分に従い夫の姓を名乗る」とされ、さらに1942年の民法典第144条でも同じ内容が踏襲された[1437]。この婚姻時に妻が夫の氏にならうという民法規定は1975年まで存在していたが、1961年の最高裁判決で妻は婚姻で本来の氏の使用権を失うのではなく、夫の氏の使用権を得ると解釈され夫婦別氏が可能となった[1438]。さらに、1975年に民法が改正され、明示的にも同氏、別氏、結合氏より選択可能となった[1439]。1997年には、国務院が本人確認のために有効なのは結婚前の姓のみと認めるとともに、1998年には外務省が「パスポートについて、既婚女性が自らの姓の後に、夫の姓を添えるかどうかは任意である」と通達している[1437]。なお、イタリアの離婚率は0.9%(2011年)である[1440]。
- 一方、子の氏に法的な規定はなく、慣習法は父親の氏としていた。これに対し、母の氏を選択できるようにするべき、との判決が2014年に欧州人権裁判所において出され[1441]、さらに2016年には国内の憲法裁判所においても子の氏として父の氏しか選択できないのは違憲とされた[1442][1443]。2018年時点で、子の氏として、従来どおり父親の氏をつける選択肢に加え、父親の氏に母親の氏を加えた複合氏をつける選択肢があった。未婚の母親で、父親が認知していない場合には母親の氏のみを子につけることができる。これらは出生時に決定する[1444][1445][1446]。さらに2022年、子の氏が自動的に父親の氏を継ぐことに対して差別的であるとの最高裁判決が出され、原則として父母の姓の父母が同意した順での複合姓を子の氏とし、父母が同意した時のみいずれか片方の親の氏を子の氏とする、とした[1447][1448]。
スペイン
- 個人の名は、一般的には「名、父方の祖父の氏、母方の祖父の氏」だが、1999年に「名、母方の祖父の氏、父方の祖父の氏」でもよいと法改正された。順序は父母の合議による。兄弟でこの順序は統一される。夫婦の氏に関する規定は民法にはなく改氏の義務は無いが、女性は「de+夫の父方の氏」を後置する、「母方の祖父の氏」を「夫の父方の氏」に置き換える、「母方の祖父の氏」を「de+夫の父方の氏」に置き換える、などの選択が可能である[315][1449]。
ポルトガル
- 別氏、または複合氏(配偶者の氏を自己の氏に前置または後置)から選択可能。1977年の法改正で別氏が選択可能になった[1450]。2011年の時点では、既婚女性の60%が婚前の氏をそのまま用いている[1451][1452]。子の氏は父の氏と母の氏を付与するが、順序は定められておらず、兄弟で順序が異なってもよい[315]。
→「en:Portuguese name」も参照
北ヨーロッパ
北欧では、かつては父親の個人名の後ろに-sonや-senという接尾辞をつけた父称姓が主流だった。現在でもアイスランドではそのような父称姓が主流である[1378]。
スウェーデン
- 選択制で、1983年の氏名法では同氏または別氏、自己の氏または配偶者の氏を中間氏(ミドルネーム)にもできた[1300]が、2016年の新法で二重氏が許容されるとともに中間氏は取得できなくなった[763]。その後2019年の新法では創氏も可能となった[1423]。子の氏については、1983年の氏名法では、両親が別氏の場合、父か母の氏から選択する。その場合他方の氏を中間氏とすることもできた。なお複数の子がいるときは同じ氏としていた[315][1458]。2016年新法では、別氏夫婦の子の場合に父か母の氏、あるいはそれらの二重氏、父母いずれかの名前に-son(息子)、-dotter(娘)を付加した氏、父母が同じである他の子の氏から選択、となり、中間氏は選べなくなった[763]。
ノルウェー
- 選択制。婚姻時、妻が夫の氏に加え自己の氏を中間氏とするのが46%、夫の氏に変更するのは34%、別氏は20%、と2016年に報告されている[1459]。1923年以前は父称を用いており、婚姻時に改氏する伝統もなかったが、1923年の氏名法によって、婚姻時に妻が夫の氏に改氏する(夫婦同氏)と定められた。その後、1949年の法改正で夫の同意のもと別氏が可能となった[763]。さらに1965年の改正で夫の同意なく別氏が可能となった。さらに1979年の法改正で男女の権利が平等となるとともに、別氏を原則とする形となった。さらに2003年の改正で二重氏が認められた[763][1460]。
デンマーク
- 同氏、別氏、配偶者の氏をミドルネームとすることから選択可。1981年までは、特段の書類による定めによらない限り夫婦は同氏とされていたが、1981年の法改正で婚姻前の氏を原則とし、届け出によって氏を変更するとされた。氏は祖父母の氏や許諾を得た別人の氏を用いることも可能[1461][1462]。子の氏は、両親いずれかの氏、いずれかの両親が過去に称したことのある氏、および国内で2000人以上の個人によって称せられている氏であればどのような氏でも子につけることが可能である。父親の氏を選ぶことが多いが、届けのない場合は母親の氏となる[1416]。
フィンランド
- 同氏、別氏、複合氏、創氏(新しい氏を作成)から選択可[1463][1464][1423]。
- 1700年代から上流階級や聖職者の子女の間で夫の姓を名乗ることが流行し、1800年代になるとこれが裕福な農民層にも広がった[1465]。その後1920年の法律によって、すべての人が苗字を作ることを規定された[1465]。1930年の婚姻法で妻が夫の氏を用いること(夫の氏、もしくは旧姓と夫の姓を合わせた複合姓)が義務付けられていた[1465]。1980年に国連女性差別撤廃条約に署名[1465]。その批准のため、1985年8月に法改正され、別氏(非改氏婚)が可能となった[1463][1464][1466][763]。さらに2018年1月の法改正によって、複合氏のバリエーションが増えるとともに、新しい氏を作ることも可能となった[1463]。ただし、創氏の場合審査が必要である[1465]。また、事実婚の場合も夫婦を同氏とすることが可能となった[1463]。2022年の時点で、結婚時に妻が夫の姓に改姓するカップルは47%、まったく改姓せず元の姓のままであるカップルは41%[1467]。
- 子の氏に関しては、親が同氏(複合氏で同氏の場合を含む)の場合はその氏、そうでない場合は、出生後に届け出た氏(父親・母親いずれかの氏)とする。ただし、複数の子がある場合はいずれの子も同じ氏とする[1466]。子につけられる名前は2018年の法改正で最大3つから4つに増えた[1463]。
アイスランド
- 特に請求がない限り人名は変更されない[1468]。なお、アイスランドでは「家族の氏」という概念はなく、原則として、父の名前、母の名前、あるいはその双方それぞれに「の息子」の意を表す-sonあるいは「の娘」の意を表す-dóttirを付けたもの(父称)をラストネームとして名乗る[1469]。
→「アイスランド人の名前」も参照
バルト諸国
東ヨーロッパ
ロシア
- 選択制。1995年家族法典では別氏、同氏、複合氏から選択できる(第32条1項)[1473][1474]。名前は、名、父称、の氏からなる[1475]。子の氏は、両親の協議により父か母の氏から選択する[1474]。14歳以上ならば、氏も名も父称も自分の意思で変更可能である[961]。
- 歴史的には、帝政ロシア時代には夫婦の姓についての法的記述は特になかったが、1918年法典で夫婦は共通の氏を称することとなった。しかし男女同権の原則から1924年に夫婦別氏が認められた。1926年法典では、夫婦の姓は共通氏または同氏とされている。なお当時ロシアでは複合氏は認められていなかったが、旧ソ連の他の共和国によっては複合氏が認められていた共和国もあった。1968年の法典では、複合氏については各共和国に委ねている[1320]。
ポーランド
- 別氏、同氏、複合氏から選択可[1476]。ただし複合氏にする場合、3つ以上の氏をつなげてはいけない[1476](1964年)。
チェコ
- 別氏、同氏、結合氏から選択可[1477]。
スロバキア
- 別氏、同氏から選択可[194]。
ハンガリー
- 別氏、同氏、複合氏(順序はいずれでもよい。ハイフンでつなぐ)、自らのフルネームを配偶者のフルネームにnéを付加したものに変更する(この場合出生時の氏名は失われる)、配偶者のフルネームにnéを付加したものに自己のフルネームを加えたものを自己のフルネームとする(この場合フルネームは4つの名からなる)、自己の氏の前に配偶者の氏にnéを付加したものを追加する(自己の氏は中間氏となる)、などより選択できる[1478]。伝統的には、妻が夫のフルネームにnéを付加したフルネームに改名し、出生時の名前は失われていた。その後、1895年、1953年、1974年、2004年などの改正を経て男女の公平性が高められ、選択肢が増えた[1478]。なお、ハンガリーでは、日本同様、氏が名の前に来る[1478]。
→「en:Hungarian names」も参照
バルカン諸国
ブルガリア
- 別氏、同氏、複合氏から選択可[1484]。
セルビア
- 別氏、同氏、複合氏から選択可[1485][1486][1487]。
クロアチア
- 別氏、同氏、複合氏から選択可[1488]。
北マケドニア
- 選択制。伝統的には女性は婚姻時に夫の氏の女性形に改氏していたが、近年では別氏、夫の氏、複合氏を用いる女性もいる[1377]。
コソボ
- 別氏、同氏、複合氏から選択可[1489]。
アルバニア
- 別氏、同氏から選択可[1490]。
モンテネグロ
- 別氏、同氏、複合氏で統一(同氏)、一方の配偶者のみ複合氏、から選択できる[1491]。
ボスニア・ヘルツェゴビナ
- ブルチコ行政区の民法では、同氏、別氏、複合氏、いずれも可[1492]
アメリカ
米州機構
米州機構「米州人権条約」[注釈 177]では、「すべての人は自身の父母の双方の氏、あるいは片方の氏を用いる権利を持つ」(第18条)とされている[1494]。
北アメリカ
アメリカ合衆国
- 婚姻関係の法は州ごとに定められている。コモン・ローの法体系であり、原則として不当な目的がない限り自己の姓名を自由に選択する権利を持つ、とされているものの、1960年代までは婚姻すると妻が夫の姓を称する慣習となっていた[1320]。1964年の公民権法、1972年の男女機会均等法などの制定を経て、1972年のメリーランド州控訴裁判所において別姓を認める判決に始まり[1320]、1976年にハワイ州民法における夫氏での夫婦同姓規定が違憲となって以後、全州で選択的夫婦別氏が認められ[763]、別氏の他にミドルネームなど概ね5つの選択肢がある[1495][1496]。2015年のニューヨーク・タイムズの調査では自己の氏を維持した女性は15.9%だった[763][注釈 178]。2015年より全州で認められている同性結婚でも異性婚と同様の婚姻時の氏の選択が認められている[1498]。ニューヨーク州では、1)改氏しない、2)他方の配偶者の婚姻時の氏、3)自身または他方の配偶者が過去に保持していたことのある氏、4)それぞれの配偶者の婚姻時の氏または過去の氏の全てまたは一部をつなげた氏、5)それぞれの配偶者の婚姻時または過去の氏からなるハイフンあるいはスペースで区切られた複合氏、から選択が可能である[763]。カリフォルニア州では婚姻で改氏の必要はなく、変更を希望する場合の選択肢として、他方の配偶者の氏、自己または配偶者の出生時の氏、それぞれの配偶者の現在または出生時の氏の全部または一部をつなげた氏、それぞれの氏の組み合わせ、があるほか、希望するならばミドルネームの変更も可能である[763]。
- 憲法上は子の氏に規定はなく[1499]、ケンタッキー州ではどのような氏を子につけてもよい。ジョージア州では子の氏は父母いずれか、またはその複合氏に限られる。ルイジアナ州、テネシー州では、子の氏は原則として父の氏とするが、両親の合意の上変更可能である。アリゾナ州、ワシントン州、マサチューセッツ州では、氏の長さの規定がある。テキサス州ではアクセントやウムラウトなどに制限がある。ニュージャージー州では公序良俗に反する氏は禁止されている[1398][1500]。一方、子に氏を付ける権利について、1970年代までは父親が持つとする州が多かったが、その後平等になるよう改正されてきた。合意できない場合は、多くの州では裁判所が決定するが、フロリダ州、ニュージャージー州では両親の氏のアルファベット順による複合氏になる[1501][1502]。
カナダ
- 婚姻関係の法は州ごとに定められている。ケベック州では1981年以降婚姻による改氏が禁じられている[1503][1504][1505][763]。同州では、子の氏は、父、母、父母の氏の複合氏のいずれかより選択する[1506]。ただし3つ以上の氏からなる複合氏を与えることはできない[763]。オンタリオ州では、婚姻しても出生証明書の氏名は変わらないが、運転免許証等では配偶者の氏を用いることができる[1507]。子の氏は、父の氏、母の氏、複合氏から選択するが、両親が同意に至らない場合は、両親の氏のアルファベット順の複合氏とする[1508]。アルバータ州では、別氏、同氏、結合氏から選択[1509]。ブリティッシュコロンビア州では、同氏、別氏、複合氏から選択。直前の氏、出生時または養子縁組により有していた氏、配偶者の氏を使用可能[1510][763]。ニューブランズウィック州では、婚姻しても氏は変わらないが手続きをすれば配偶者の氏に改氏できる[1511]。
中央アメリカ
メキシコ
- 一般的に女性は改氏しない[1512]。各個人は二つの氏を持ち、伝統的には、父親の第一氏と母親の第一氏が子の第一氏と第二氏となるが、2017年には両親双方の第二氏を子の氏とすることが認められた[1513]。
コスタリカ
- 妻の氏は不変だが、夫の氏を結合させて使うことができる[315]。子は父方と母方の2つ姓を受け継ぐが、その順序を父方、母方の順とするとの従来の民法の規定が2024年に最高裁で違憲とされ、順序が自由となった[1514][1515]。
グアテマラ
- 婚姻時、改氏しない、あるいは妻が夫の氏を加えるのが伝統。子は双方の親の姓を受け継ぐ[1516]。
パナマ
- 婚姻時に改姓することはないが、婚姻証明書を用いて氏名変更をすることができる[1517]。
カリブ海諸国
ジャマイカ
- ジャマイカの法体系はコモン・ローであり[1518]、法の規定は無い[注釈 179]。夫は妻の氏に変えない。別氏のほか、婚姻の際妻が夫の氏にならうか、複合氏を名乗ることがある[1521][1522][1523][1524][1525]。改氏する場合、パスポート申請時に婚姻証明書を提出しなければならない[1526]。
トリニダード・トバゴ
- 同氏も別氏も可能[1530]。
南アメリカ
ブラジル
- 別氏、同氏、複合氏から選択可。1977年以前は妻は結合氏を義務付けられていたが、1977年の改正で別氏が可能となり、2002年改正で夫側も結合氏が可能になった[315][1532]。子の氏は一般的には母の氏と父の氏を並べるが、逆順も可[315]。
コロンビア
- 別氏、または婚姻時に女性が改氏。父方の氏を夫の父方の氏に置き換えるか、de+夫の父方の氏を後置できる[1533]。
ペルー
- 別氏、または「de+夫の氏」を後置する複合氏にできる[1534]。
チリ
- 通常、婚姻によって改氏しない。社交上「de+夫の氏」を追加した複合氏を用いることもあるが、廃れつつある[1535]。子の姓は一般的に父親の氏、次に母親の氏となっていたが、2021年より両親の合意により逆順も可とした。また、同年より18歳以上の成人が1回に限り氏を変更することを認めた[1536]。
アルゼンチン
- 別氏、または婚姻時にde+夫の氏を追加した複合氏にできる[1537]。
ガイアナ
- 伝統的には婚姻時に妻は夫の姓に改姓してきたが、そのような法的な義務はなく別姓も可能である[1538]。
パラグアイ
- 女性は婚姻時に原則として夫の氏を加える(複合姓)が、加えないことも可能[1539]。
ボリビア
- 女性は婚姻時に夫の第一氏を第三氏として追加することもできるが、加えないこともできる[1540]。
オセアニア
ニュージーランド
- ニュージーランドの法体系はコモン・ローであり[1541]、別氏、結合氏、同氏から選択可。結合氏の場合、つなげる順序はどちらが先でもよく、ハイフンで結んでも、間にスペースを入れて結んでもよい[1542]。伝統的には女性が男性の氏を名乗ることが多いとされる[1543]。子の氏は公序良俗に反しなければどのような氏でも自由につけることができる[1398][1544]。また18歳以上であれば、ほぼ自由に改氏することも可能である[1545]。
アフリカ
アフリカ連合
アフリカ連合において2003年に採択されたマプト議定書(人及び人民の権利に関するアフリカ憲章に基づくアフリカにおける女性の権利に関する議定書[注釈 180])において、「全女性は婚姻前の姓を用いる権利を有するべきである」(第6条(f))とされている[1557]。
北アフリカ
北アフリカや中東のアラブ諸国では、イスラム教徒の女性は伝統的には婚姻時に改氏しない[1377]。
東アフリカ
エチオピア
- 婚姻してもほとんどの女性は改氏しない[1561]。
エリトリア
- 婚姻してもほとんどの女性は改氏しない[1561]。
ソマリア
- ソマリ人は伝統的には結婚しても改氏しない。一方、西欧社会的な家庭では、妻は夫の氏を用いる[1377]。
ケニア
- 結婚時に改氏することもしないことも可能[1562]。
ウガンダ
- 結婚時に改氏することもしないことも可能[1563]。
ルワンダ
- 氏が同じことは親類関係を意味せず、氏は家族間で異なるのが一般的。慣習では、子には家族のいずれとも異なる氏をつける。家族がすべて同じ氏を持つことは極めて稀[1508]。
スーダン
- 女性は婚姻で改姓しない[1564]。
タンザニア
- 婚姻時に改姓しないが、氏名変更届を出すことによって、夫姓、あるいは妻姓での同姓も可能[1565]。
西アフリカ
中部アフリカ
南部アフリカ
南アフリカ共和国
- 別氏または夫の氏または複合氏からの選択可[1574][1575]。1992年の時点では妻は夫の氏としていたが、2002年からは、別姓が選択できるようになった[1576]。1997年からは複合氏も可能となっている[1575]。子の氏は、父氏、母氏、複合氏のいずれも可能[1508]。
ナミビア
- 同氏、別氏ともに可能。子は両親のいずれかの氏とする。2013年現在、子の氏に選択肢を広げる議論がある[1508]。
ボツワナ
- 婚姻時に女性は、別氏、同氏、複合氏、夫の氏名に「Mrs.」を追加したものを用いる、の内から選択可。伝統的には女性が夫の氏にならう[1577]。
ジンバブエ
- 結婚時の氏に関する法はなく、婚前の氏を用いることも、夫の氏に変更することも可能[1578]。
マラウイ
- 婚姻時に改氏する法的な必要は無い。とくに北部では伝統的に改氏しない[1579]。
ザンビア
- 別氏、同氏、いずれも可能[1580]。
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脚注
参考文献
関連項目
外部リンク
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