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2009年新型インフルエンザの世界的流行
2009年に発生した、H1N1亜型インフルエンザウイルスによる感染症の世界的流行 ウィキペディアから
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2009年新型インフルエンザの世界的流行(2009ねんしんがたインフルエンザのせかいてきりゅうこう、Pandemic 2009H1N1)は、2009年1月頃から2010年3月頃にかけ、豚由来インフルエンザである A(H1N1)pdm09型インフルエンザウイルスの人への感染が世界的に流行した事象である[3]。CDCによるインフルエンザ・パンデミック重度指数(PSI)においては、カテゴリー1に分類されるパンデミックである[4][5]。

発生源はブタの間で流行していた豚インフルエンザウイルスとされ、これが農場などで豚から人に直接感染し、それから新型ウイルスとして人の間で広まったとされている[6]。新型インフルエンザ、豚インフルエンザ(swine flu)、A型H1N1亜型インフルエンザ、H1N1インフル(H1N1 flu)、A/H1N1 pdm[7]とも呼ばれる(詳細は#呼称)。
この流行が大きな問題になったのは、流行初期にメキシコにおける死亡率が非常に高いと報道されたからであるが、実際には重症急性呼吸器症候群 (SARS) のような高い死亡率は示してはいない[注 1]。当時の日本では、感染症法第6条第7項の「新型インフルエンザ等感染症」に分類され、感染者は原則入院の対象となっていたが、2009年6月19日に厚生労働省が方針を変更してからはこの扱いはなくなり、通常の季節性インフルエンザとほぼ同等の扱いとなっている[9]。
A(H1N1)pdm09型に対するインフルエンザワクチンは既に完成している。2010年 - 2011年冬シーズンから接種可能なインフルエンザワクチンは、通常の季節性インフルエンザワクチン2種に加えて、新型インフルエンザワクチンにも対応した3価ワクチンに、2015年 - 2016年冬シーズンからは、A型株2価とB型株2価の4価ワクチンになっている。
CDCとWHOによる推計では、2012年の段階で犠牲者数が28万4千人(15万人から最大57万5千人)とされる[10][11]。一方で重症化率は季節性のインフルエンザと同等かそれ以下とされており[12]、季節性インフルエンザによる毎シーズンの死者数はWHOの推計で25万人から50万人である[10]。
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発生確認
→豚由来インフルエンザのこれまでの流行については「豚インフルエンザ § 人への感染例」を参照
遺伝子調査により、最初の人間への感染は2008年の6月以降と推定されている[13]。
2009年2月からメキシコで3か所、アメリカでは2か所においていずれも局地的な発生が確認された。その後、メキシコのメキシコシティ、アメリカのテキサス州とカリフォルニア州の3か所にて確認された[14]。感染者はいずれも20歳以下の青少年だった。他にも感染が疑われるケースは1,000以上にも及び、これら全てを把握することは不可能に近かったため、WHOの緊急委員会は「すべての国が、通常とは異なるインフルエンザのような症状や深刻な肺炎に対する監視態勢を強化する」よう勧告した[15]。2009年4月24日の段階では、メキシコで感染が疑われている例は大半が比較的若い年齢層で、小児や高齢者の感染確認例は無かった[16]。これらの患者からは、ヒト同士でも感染するA型インフルエンザウイルスのH1N1亜型が検出されている。
4月に入り、WHOはアメリカのアメリカ疾病予防管理センター (CDC) から7件の確定と9件の疑い例の報告を受理した[17]。WHOの陳馮富珍事務局長は、4月25日の緊急委員会の会合に先立ち、感染が世界的流行(パンデミック)につながるかどうかについて「断定はできない」とした上で、「その可能性はある。人に感染しているからだ」と懸念も表明している[18]。同会合(第1回会合)後の記者会見で、陳馮富珍事務局長は「報告のあった症例に関する臨床的特徴、疫学、ウイルス学及び適切な対応に関して、情報が不十分な点が多いことが分かった」としながらも、緊急委員会の助言に基づいてWHOの国際保健規則(IHR)が定める「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」(PHEIC) に該当する史上初の状況と決定したことを表明した[19]。その後、WHOの緊急委員会は4月27日の会合で世界的流行の警戒水準(下の節を参照)をフェーズ3からフェーズ4に引き上げることを決定[20]。さらに4月29日には、各国の専門家らによるWHOの電話会議でフェーズ5への引き上げを決定、陳馮富珍事務局長が記者会見で発表した。そして、その後も世界中で感染が拡大し続け、WHOは同年6月11日にフェーズ6を宣言するに至った。
2009年6月に、アメリカは「証明できる手段はないが、メキシコで発生したとされる世論とは異なりアジア由来だと考えられる」とコメントした[21]。しかし、後のマウントサイナイ医科大学の調査ではメキシコ中央部で発生した可能性を指摘している[22][23]。
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症状
H1N1インフルエンザの症状は他のインフルエンザの症状と似ており、発熱、咳(通常は乾咳)、頭痛、筋肉や関節の痛み、喉の痛み、悪寒、倦怠感、鼻水などがある。下痢、嘔吐、神経学的問題も報告されることがある[24][25]。重篤な合併症のリスクが高い人口は、65歳以上、5歳未満の子供、神経発達障害のある子供、妊婦(特に妊娠後期)などである[26][27]。
トリアージ基準
各種ガイドラインで示されたトリアージ基準は以下の通り。
- 重症 - 呼吸困難・異常に早い呼吸・けいれん・意識障害など
- 軽症 - 急な38度以上の熱・せき・のどの痛みなど通常の風邪と同程度[28]
- 症状がない
- 重症の場合 - すぐに、119番。救急隊到着までの数分間(3 - 6分)に心肺蘇生が必要になる可能性も
- 軽症の場合(通常の風邪と同程度) - 感染が疑われる場合は早期受診を(日本感染症学会[29]、感染研)[28][30][31][32]
- 発症後48時間 - 急激な重症化の危険性があるので、発症後48時間は目を離さないでほしい
- 基礎疾患の有無に関わらず、重症化の兆候が認められる場合は、すぐに119番などできる限り早急に医療機関を受診し抗ウイルス薬投与を
- 17歳以下・65歳以上・高リスク者、特に2歳以下の小児の様子を注意深く観察し、早めの受診を心がけてほしい
- タミフルの処方の有無を問わず、急激に重症化したり飛び降りる場合もあるので、一人にならないよう配慮し、目を離さないでほしい[33]。
高リスク層
下記の人々[34]は、特に注意が必要とされる。
- 妊娠中の女性 - 特に妊娠28週以降。妊婦はそうでない一般集団より集中治療室を必要とする確率が10倍高い[35]
- 5歳以下の子供 - 2歳以下の小児は特に注意が必要。目を離さないでほしい。
- 65歳以上の人 - 1930年以降に生まれた80歳未満の人のほとんどは免疫がない[36][37]。免疫を持たない人は重症化が懸念される(感染研)
- 持病のある人 - 腎臓・心臓・呼吸器・神経に病気・障害のある人、糖尿病など代謝性疾患の人、免疫機能不全の人(癌、ステロイド全身投与、メタボリックシンドローム等)
- 免疫力が低下 - 栄養状態が悪い、過労、睡眠不足、体力が落ちている場合など
- 治療までに時間がある - 抗インフルエンザ治療薬の投与が発症後48時間以内に行われていない(欧米、カナダ、メキシコ)[38]、貧困(アメリカ、メキシコ、中国)、医療アクセスが悪い(アメリカ、ウクライナ、オーストラリアのアボリジニ)など
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感染力
CDCによると、18歳以下が家庭内感染・発症する確率は、19 - 50歳の2倍。4歳以下の乳幼児は3.5倍、51歳以上は0.4倍。家庭内感染の大半は、最初の患者が発症して間もない時期か、その直前に起きると考えられ、家族に感染し発症するまでの期間は、平均2.6日[39]
予防
要約
視点
→「インフルエンザ § 予防」も参照
個人における衛生
→「セルフケア」も参照
メイヨークリニックは季節性インフルエンザの感染を個人のレベルで予防する方法を提唱しているが、それは新型インフルエンザに対しても応用可能である。それは、可能な時に予防接種を受けること、頻回に充分に手洗いをすること、新鮮な野菜と果物を含むバランスのとれた栄養、全粒穀物、脂肪の少ない蛋白質、充分な睡眠、恒常的に運動すること、人ごみを避けることなどである[40]。
WHOなどが提唱する他の追加的な予防法:口や鼻を触らない(感染者の手に付着したウイルスがボタン・ドアノブ・手すり・つり革などに付着し、他者がそれらを触れ、そのまま手で口や鼻を触ると感染する可能性が高い)。うがいをする。石鹸で手洗い。症状のある人に近づかない。部屋を換気し、温度・湿度を高めに保つ。
- マスクを着用
- 室内は、換気・室温高め・湿度高め - 室内にぬれタオルを干すなど工夫を[43]。暖房・冷房で部屋を閉め切ると、感染の危険性が高まる。新型ウイルスは湿気を嫌い低温を好む
- 室内でのスカーフ・マフラーなど防寒着の着用。体温を暖かく維持
- 手のケア
- 外出中は、ボタン・ドアノブ・手すり・つり革などはティッシュの上から触れる
- 外出後は手洗い
- 口のケア
- 外出後はうがい
- こまめに水分補給。のどが渇かないようにする
感染管理
→「インフルエンザ § 感染管理」も参照
- 周囲に感染させない- 高リスク者の感染を防ぐには、感染患者による2次被害防止は必要不可欠。新型インフルエンザは弱毒性ではない[44]。4月のウイルスは重篤な全身症状を生じる遺伝子を欠くために季節性インフルエンザと同様に主に呼吸器の症状にとどまり、3 - 7月の致死率は約200万人が死亡したアジア風邪並みの約0.5%(オランダ・ユトレヒト大学の西浦博氏ら)であったが、10月には致死率は2 - 9%へ上昇[45]している。
- マスクの着用 - 症状が出た人はマスクを着用し、外出を自粛し、他人にせきやくしゃみをかけないよう推奨されている[46][47]。マスクにより、せきの飛沫は95〜99%減少。患者全員が真剣にマスクをすれば、感染抑止力は大きい(西村秀一 仙台医療センター ウイルスセンター長)
- 自宅待機 - 自宅待機の目安となる体温は37.5度。家族などとは別の部屋で過ごして接触を避ける。タオルは家族などとは違うものを使用し、マスクを着用。窓を開けての換気と水分補給はこまめに。十分に睡眠。熱が下がってから2 - 7日間は外出を控える[28]。
- 通院前に電話で行動を確認 - 必ず、通院前に電話で医療機関に受診場所・受診時間・入り口などを確認[28][48]
- 大きな効果 - 患者1人がマスクを着用し外出を控えると、感染患者・国内患者総数は40 - 75%に減少、効果はワクチン1600万人分に匹敵(田中剛平・東京大学助教(数理工学)、合原一幸教授・東京大生産技術研究所)
新型インフルエンザワクチン
→「インフルエンザワクチン」も参照
2009 - 2010年時点の情報であり、英国医師会は有効性の根拠となるデータに疑問を示した(#治療参照)
- 対象:スペイン風邪では医療従事者の感染が多く医療体制が崩壊したため、医療従事者に優先接種。季節性インフルエンザの高リスク層(幼児・高齢者)より、新型インフルエンザ感染者の多い集団を優先すべき(米ジョージ・ワシントン大学のシモンセン教授。2009年5月9日 Bloomberg)。日本では、2009年9月8日までに入院した患者は、19歳以下が75%、基礎疾患なしが55%[49]であったため、同年11月以降に小児に優先接種、以降は感染者総数が減少。
- 接種回数:小児と免疫不全以外を1回にすることでより多くの人へ接種するよう推奨[50][51]
- 「2回接種」より「1回で2倍の人口」が効果(科学技術振興機構、神戸大)[52]
- 変異型:重篤な症状を生じている変異型にも有効[53]
- 供給:WHOは、発展途上国など85か国でワクチン調達の見込みがないと資金・技術の提供を呼びかけ、米英仏は自国で確保したワクチンから5000万回分を寄贈[54][55]、グラクソ・スミスクライン社は5000万本を寄贈し途上国95か国へ配布[56]。
- 2010-11年冬は、季節性ワクチンへの新型ワクチンの組み込みを推奨[57]
アメリカ
欧州
- 副作用への懸念や、H1N1インフルエンザの毒性は強くないと考えられて、確保したワクチンの8 - 9割に接種希望がなく、接種率が極めて低い[61]
- 英:接種率17%。病院を訪れる人の54%、妊婦の95%がワクチン接種を拒否[62]
- 仏:接種率14%。追加注文の5割を解約[63]
- 独:接種率8%。追加注文の3割を解約[63]
- 伊:接種率5%
- ポーランド:ワクチンを一切輸入していないが死亡率は他の欧州諸国と大差なかった[63]
政府による医薬品以外の対策
- 発熱相談センター
- 発熱相談センターの有効性。住民は冷静に対応でき、不要不急の救急要請が抑制され、救急搬送全体が逼迫することなく機能[65]
- 医療体制
- 小児用の医療体制。発症時の万全の医療体制があれば、今回は医療体制を維持するために行われた、学級閉鎖は必要ない
- 厳寒期における基礎疾患のある高齢者などへのワクチン接種について、自宅からワクチン接種会場(病院など)への行政による送迎
- 入院施設。発症して外来を訪れる全ての小児患者・ハイリスク者について、投薬中の5日間入院が可能であれば、投薬後の様態急変に100%対処できる
- 貧困状態にある人・子への無償治療・無償ワクチン。不況に伴う失業・非正規労働などで貧困状態にある人・子は、感染時に通院できず治療を受けていない
- 職場
- 感染者の自宅待機(無給では従業員は休まないので、政府から資金面で補償をとの意見も)
- 感染者の同居者の自宅待機(同)
- 通勤時の混雑を回避(出勤時間・通勤手段の変更など。国土交通政策研究所によると、8割は、通勤における混雑回避に勤務先の指示が必要[66])
- 自宅勤務
- 休暇取得
- 入国者・帰国者への検疫
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治療
→「インフルエンザ § 治療」も参照
治療法は従来のインフルエンザと同様である。特徴的な事としては、治療薬の予防目的使用が推し進められた点がある。
アメリカ疫病予防管理センター (CDC) は、健康な人、大人でも子供でも大部分は抗ウイルス薬がなくても休養すれば治るもので、抗ウイルス薬による治療は必要なく、薬の備蓄には限りがあり、過剰に投与すれば耐性ウイルスの危険性があるとした[69]。
2009年には、WHOなどによると、インフルエンザ症状がある場合は、検査結果の確定を待つことなくできるだけ早期のタミフル投与が重要とされた[70][71]。発症後48時間を越えるとウイルスは既に最大限増殖してしまった後となり、効果は低くなる。子供用タミフルの不足に伴い、大人用を分解して処方している場合もある[72]。
日本感染症学会の提言では、病院施設、高齢者施設においてインフルエンザが発生した場合、ワクチン接種の有無にかかわらず、同居者に対して抗インフルエンザ薬の予防的投与を行うとの方針を取った[73]。
しかしWHOやアメリカCDC、欧州ECDCタミフルを推奨したが、その根拠となるデータは確認しておらずまたロシュは臨床試験の完全なデータを公開すると約束していたが、その大部分は未発表のままであった[74]。『イギリス医師会雑誌』(BMJ)はサイトを立ち上げ[74]、ロシュ社に対して完全な臨床試験データを公開するよう促した[75]。2012年には、コクラン共同計画が日本、アメリカ、欧州の規制機関に提出された臨床試験のデータをシステマティック・レビューし、21時間発症時間が短縮されることと、感染や入院のリスクを低下させるかは結論できないとし、また出版バイアスの可能性を発見した[76]。そして2014年には提出された完全なデータに基づいて、報告は改定された[77]。伴って、コクラン共同計画とBMJは声明を出した[78]。それは、出版バイアスを除外した24,000人以上からの分析からは、オセルタミビル(タミフル)とザナミビル(リレンザ)は、当初の使用の理由である入院や合併症を減少させるという十分な証拠はなく、成人では発症時間を7日から6.3日に減少させ、小児では効果は不明であり、5%に嘔吐・悪心の副作用が生じ、精神医学的な副作用を1%増加させるとし、世界的な備蓄が必要なほどの恩恵があるかどうかの見直しの必要性を報告した[78]。このH1N1インフルエンザの流行中に実施された臨床試験は0に近いため、オセルタミビルとザナミビルがどれほど有効かは不明である[79]。
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各国政府の対応
要約
視点
各国は、インフルエンザの流行に備えて、数千億円規模を投じてオセルタミビル(タミフル)を備蓄したが[80]、不発に終わり、後には政府や科学者に対する「エフ・ホフマン・ラ・ロシュ」による影響があったためとみなされている[81]。
日本
→詳細は「日本における2009年新型インフルエンザ」を参照
2009年4月26日、麻生太郎首相が検疫体制の強化や在外日本人への情報提供などの体制を指示、厚生労働省や自治体に電話相談窓口が開設された。4月27日、厚生労働省が感染の疑いのある帰国者・入国者を留め置く停留施設を成田周辺で約500室を確保した[82]。4月28日からはメキシコ、米国、カナダから成田、中部、関西、福岡の国内4空港に到着した国際便については、降機前に乗客に機内検疫(健康質問表への記入、サーモグラフィーなどで体温を計測し問診を行なう)の実施を始めた[83]。
4月29日からは「臨船検疫」も開始され、横浜、神戸、関門の港についても、上記3か国からの乗員乗客への検疫体制が強化される。だが、日本全国の検疫官は358人(2009年度)であり、十分な水際対策を行うには人手不足であった。検疫官不足解消のため、防衛医科大学校職員と陸上自衛隊医官の応援派遣が実施された。また4月30日より、品種改良の目的で輸入された生きた豚の全頭検査も開始された。
国内各地で保健所での「発熱相談センター」や医療機関での「発熱外来」が順次設けられ、4月28日から開設された。同日、政府は「新型インフルエンザ対策本部」を設置し「基本的対処方針」を決定した。地方自治体の動きとしては、5月5日に最初の感染者が神戸市で発見されたことにより、5月17日に兵庫県庁が「緊急事態宣言」を発表した。
政府の方針転換を受けて、7月24日以降に全数検査を全国で中止するよう通達が出され、発熱外来も多くの保健所で廃止し、全ての医療機関で受診、治療を受けられるようにした。また、東京などの都市部では、A型インフルエンザと判定された場合でも、従来型か新型かの追加検査を行わない方針とした保健所が多い。これにより、都市部では通常の季節性インフルエンザと同等の扱いとなるが、都市部以外では依然として独自に自治体内の新型感染者数の全数調査を行うなど、特別扱いしている地方も多く、全国で対応が統一されるには至らなかった。
また、法的措置としては当初、感染症法に基づく対処を目論んでいたが、公衆衛生上の対策(例として、外出自粛や学校、興行場、催物の制限など)を市民に要請する際に、感染症法では興業の制限などの要請を想定しておらず対応が出来ないことが明らかとなった。この事態を踏まえ、2012年5月に新型インフルエンザ等対策特別措置法が施行された[84]。
アメリカ合衆国
アメリカ合衆国(アメリカ)は2009年4月26日、ジャネット・ナポリターノ国土安全保障長官が緊急記者会見において、「公衆衛生に関する緊急事態」を宣言した[85]。
2009年10月24日、アメリカのバラク・オバマ大統領が新型インフルエンザを深刻な自然災害などに準ずる国家非常事態に指定する宣言に署名した。アメリカでは新型インフルによる死者が23日に1000人を突破し、ワクチンの調達確保など対策強化が必要な状況になっている。 [86]
イスラム圏
エジプト政府は2009年4月29日、人民議会の勧告を飲む形で、同国内で飼育されている豚の処分に着手した[87]。イスラム教では豚は不浄の動物とされる一方で飼い主たちはキリスト教系のコプト派信者だったが[87]、あるイスラム原理主義系議員は「宗教上の理由で豚の飼育に反対しているわけではない」と読売新聞に語っている[88]。なお、エジプトでは豚が処分された結果、今まで豚が生ゴミの処分を行っていたため生ゴミが処分されずに町中に溢れかえりゴミ問題が深刻化している[89]。
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統計
要約
視点
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感染の状況(感染確認事例数)
要約
視点
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死亡者が確認された国・地域
感染者が確認された国・地域
感染の疑いのある者が存在する国・地域
感染者がまだ確認されていない国・地域

5000人以上の感染者が確認された国・地域
500 - 4999人の感染者が確認された国・地域
50 - 499人の感染者が確認された国・地域
5 - 49人の感染者が確認された国・地域
1 - 4人の感染者が確認された国・地域
感染者がまだ確認されていない国・地域
→個別国の患者数のデータについては「en:2009 flu pandemic tables」を参照
日本

死亡者が確認された都道府県
感染者が確認された都道府県
感染者がまだ確認されていない都道府県
→詳細は「日本における2009年新型インフルエンザ」を参照
厚生労働省は、重症化や死亡した例などを除いて新型インフルエンザかどうかを調べるPCR(遺伝子)検査を当分の間行わなくてよいとしたため、現在の国内の正確な感染者数は不明であるが、国立感染症研究所は2009年第28週(同年7月12日)以降これまでの累積の推計患者数は約1546万人に達したと推計している。
また、ここには国立感染症研究所が発表した2009年12月7日-12月13日(2009年第50週)の間に都道府県ごとに簡易検査でインフルエンザA型と診断された人数(全国約5000カ所の定点医療機関からの報告数のみ)と、同定点医療機関の1医療機関あたりの人数、それに2009年12月21日までの新型インフルエンザによる死者数が掲載されている。
※1 新型か季節性かは不明だが、ほとんどは新型とみられている。
→日本におけるインフルエンザ感染確認事例数については「日本における2009年新型インフルエンザ § 感染の状況」を参照
感染確認の推移
2009年7月6日より、WHOの集計方法が変更された。
(注) 南北アメリカ地区は、11月13日の発表より新たな感染者の報告を中止した。
2009年12月4日より、WHOの集計方法が変更され、感染者数の公表を中止した。
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発生からの動き
要約
視点
2009年
1月から3月
4月
- 4月2日 - メキシコ政府は、東部ベラクルス州ラグロリア村での4歳男児の感染(3月下旬から発熱。後に回復)が確認された(4月27日の記者会見で公表)[138]。
- 4月13日 - メキシコ南部オアハカ州で女性の感染(後に死亡)が確認された(当初、メキシコでの最初の症例とされた。)。メキシコでは解明ができず、カナダの保健当局にウイルスの検査を依頼[138]。
- 4月14日 - アメリカの疾病対策センター(CDC)が、サンディエゴの少年について豚インフルエンザの感染例と初めて断定[138]。
- 4月23日
- 4月24日 - メキシコの一部事例とアメリカの事例で、H1N1型ウイルスが共通する遺伝子を持っているとするカナダの研究所の調査結果をWHOが公表[139]。
- 4月25日 - 状況がWHOの国際保健規則(IHR)が定める「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」に該当するとの決定を事務局長が発表[19]。
- 4月26日
- 4月27日
- 4月28日
- 4月29日
- 4月30日
5月
- 5月1日
- 5月2日 - 韓国、イタリアで初の感染が確認される[152][153][154]。
- 5月6日 - テキサス州の慢性病を抱える女性が新型インフルエンザで死亡(アメリカ国内居住者初の死者となった。)[155][156]。
- 5月7日
- 5月8日
- 5月9日
- 5月10日
- WHO 発表による2009年5月10日 7時30分 UTC現在の感染確認事例数:メキシコ1626(うち死亡例45)、米国2254(うち死亡例2)、カナダ280(うち死亡例1)、中南米、北米、欧州、中東、東アジア、オセアニアの計29か国・地域で4379(うち死亡例3カ国49)。(日本は感染確認4)(注目のスペイン93、英国39)
- 5月11日 - キューバが感染確認事例を発表(同国初)。同国の大学で学ぶメキシコ人男性[167]。
- 5月12日
- 5月17日
- 午後7時過ぎに、新たに神戸市内の高校生と保護者の計12人の感染を確認した。この時点で日本国内感染者は計40人。WHOの幹部は、日本国内での感染に対して「注視」していると話した(渡航歴なしの高校生に対して感染が流行している点)。また、フェーズの引き上げ基準は北米以外での二次感染が正式に確認された場合としており、日本次第によってはフェーズの引き上げも検討していると話した。
- 5月18日 - 厚労省は同日未明、大阪府と兵庫県に全中学・高等学校の臨時休校を要請[170]。
- 5月27日 - 新たに4カ国で感染を確認(シンガポール[171]・ドミニカ共和国[172]・ウルグアイ[172]・ルーマニア[173])。
6月
7月
- 7月6日 - イギリスで5人目の死者が発生したと報じられた[179]。(初の事例など特殊な例を除き、何人目などの報道は時系列に必要ない。)
- 7月15日 - 山形県が初の感染確認を発表(14日にタイから帰国した20歳代女性会社員)[180]。
- これにより、日本の全都道府県で感染が確認された。7月15日午前6時時点での感染者数は3122人。
- 7月18日 - グルジア(現・ジョージア)で初の感染が確認がされた(イギリスから帰国した男性)[181]。
- 7月19日 - ECDCによると、世界で779人の死者が発生したと報じられた[182]。
- 7月21日 - アルバニアで初の感染確認(1人のアルバニア人学生と3人のフィリピン人船員)[183]。
- 7月22日 - ハンガリーで初の死者(41歳の男性)[184]。
8月
- 8月3日 - インドで初の死者が出た(14歳の女子学生)[185]。
- 8月7日 - パレスチナで初の死者(34歳の男性)[186]。
- 8月11日
- 茨城県で国内初の重症例[187]。
- コスタリカのオスカル・アリアス・サンチェス大統領が新型インフルエンザに感染したことが分かった。国家元首としては初[188]。
- WHOは、新型インフルエンザによる死者が8月6日時点で1462人に達したと発表した。また、感染者が確認されたのは170か国・地域で、累計感染者数は少なくとも17万7457人になった[189]。
- 8月15日
- 8月19日
- 8月27日
- FAOとチリ政府の発表によると、2つの農場でヒト型(新型)インフルエンザH1N1に感染した七面鳥が発見された:これはヒトと豚以外で初めて新型インフルエンザが発見された例である。
- より重要なことは「ヒト→鳥」の直接感染が初めて確認されたことである[193]。
- 遺伝子検査結果によると、世界中に配布されている(ヒトの)新型インフルエンザの参照見本(A/California/4/2009)と、8つの部位(HA、NAなど)すべてで99.5%以上一致した。幸いなことにチリでは鳥インフルエンザH5N1が存在しないので交雑(遺伝子が組み合わさること)は起こらなかったが、H1H1とH5N1が組み合わさった場合の脅威について、FAO,OIE,WHOは重大な懸念を表明している[194]。
- 今回「種の壁」(「伝染病は他の種に伝染するのが極めて困難である」という経験則。例えばコメの病気は人間にうつらない。しかし狂牛病などを通して見直しを迫られている。新しい型のインフルエンザが鳥や豚に由来するという考え方が主流になってから約10年である。)は存在しなかった。
- FAOとチリ政府の発表によると、2つの農場でヒト型(新型)インフルエンザH1N1に感染した七面鳥が発見された:これはヒトと豚以外で初めて新型インフルエンザが発見された例である。
- 8月29日
9月
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10月
2009年10月24日、アメリカのオバマ大統領が新型インフルエンザを深刻な自然災害などに準ずる国家非常事態に指定する宣言に署名した。アメリカでは新型インフルによる死者が23日に1000人を突破し、ワクチンの調達確保など対策強化が必要な状況になっている[86]。
専門家によると、日本の対策には問題がいくつかある。(主として、「カンブリア宮殿」「クローズアップ現代」などによる。)
- 学級閉鎖、学校閉鎖基準が変化し、対応できない。
- 厚労省が情報提供してくれるが、量が多く未整理のうえ、何回も改訂された。
- 輸入ワクチンがMDCK細胞由来の細胞培養で、十分試験が済んでいない。
- ワクチンの絶対量が少ない。(予定量が確保できないし、医療従事者にゆきわたっていない)
- 病院によっては発熱外来を設けているが、待合室や特に薬局での物理的・時間的分離がなされていない。
- 少ない医師数で発熱外来を設ける場合、通常医療が停滞している。
- 開業医は通常の2倍程度の患者を診ている。病院によっては3時間以上の受診待ちをしている。(10月11日には札幌市の休日診療所は8時間待ちだった。開業医の診察人数は連日100人を越えていた。10月12日に江戸川区の休日急病診療所は平年の5倍の268人、9月末の連休には世田谷区の休日診療所で連日300人を診察した[195]。)
- 新型対策に追われ、季節性インフルエンザへの対応準備が不十分である。
11月
2009年11月6日、世界保健機関(WHO)は新型インフルエンザによる日本の入院率・死亡率が主要国で最も低いことを明らかにした。北半球と南半球のそれぞれ5カ国、計10カ国を調査したところ、人口10万人当たりの入院患者数は日本が最も低い2.9人。アメリカは3人、ブラジルは8.8人、オーストラリアは22.5人。最も高いのはアルゼンチンの24.5人だった。人口100万人当たりの死亡者でも日本が最も低い0.2人。イギリスは2.2人、アメリカは3.3人、ブラジルは7.0人、オーストラリアは8.6人。最も高いのはアルゼンチンで14.6人だった。日本の新型インフルエンザ死亡率が低いことについて専門家は、日本では医療保険制度が整備されており、少ない家計負担で医療機関を受診できるため、発熱者の医療機関受診率が高いことが要因であると分析している[196]。
2010年
3月
6月
8月
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動物への感染
2009年11月末現在、遺伝子解析により以下の動物への感染が確認されている。
- 豚
- 七面鳥(2009年8月チリ、以後カナダ、アメリカ・カリフォルニア州)
- 猫
- 犬 (2009年11月 中国)
- フェレット(イタチの一種)(2009年10月 アメリカ)
- チータ(2009年11月 カリフォルニア)
呼称
要約
視点
2009年の確認当初は、豚インフルエンザに最も近いとする分析[201]や、メキシコにおいて豚からヒトに伝わった可能性が高いとする見方[202]もあって、WHO[203]や米国CDC[202]を初めとする公的機関の発表、英語[204]や日本語[205]などによる報道では、呼称として「豚インフルエンザ」が用いられた。
ところがこの呼称が、ウイルスが豚肉を介して感染するとの誤解を招き、豚製品の敬遠など、養豚関連産業への影響が出始めたこともあり、呼称から「豚」を外す動きが起きた[202]。また、宗教上の理由で、「豚」という言葉を忌避する向きもあり、イスラエルの保健副大臣は2009年4月28日、ユダヤ教では豚を食べることが禁じられている事を受け、「メキシコ・インフルエンザ」という呼称を用いると発表した[206]。
WHOは2009年4月30日、"swine" (豚)を冠する英語呼称"swine Influenza A/H1N1(豚インフルエンザA/HINI) "を、ウイルス型による呼称"influenza A(H1N1)"に切り替えた[203][注 2]。農業や食品業界への風評被害に配慮したものと言われる[211]。同様にフランス語呼称は"Grippe A(H1N1)"[212]に切り替わっている。なお、WHO には「混乱を招く」として呼称切り替えに消極的な向きもあったとされ[202]また、国際獣疫事務局は当初から発生地(北米)にちなむ呼称を提唱した[202]。WHOが英語呼称を切り替えた4月30日には、両機関とFAO(国連食糧農業機関)を合わせた三機関が、豚肉の安全性に関する共同声明を出している[213]。
日本政府は、2009年4月28日から「新型インフルエンザ」と呼び始めた[20][201][注 3]。
アメリカは2009年4月29日から、農家の生活を守るために亜型名H1N1による呼称に切り替えた[202]。
カナダ公衆衛生庁のサイトでは2009年5月4日現在、亜型名H1N1による呼称のほかに「ヒトの」を意味する言葉を「豚インフルエンザ」に添えた呼称(英語"Human Swine Flu"[215]; フランス語"grippe porcine chez l'être humain"[216])も使用している。
一方、WHOがによる呼称切り替え後も英語圏の報道において「豚の」を意味する"swine" はなお使用された[注 4]。
日本の法律上の呼称"新型インフルエンザ"の"新型"について、日本の新聞社による英語表記を見ると2009年5月現在、読売新聞[222]と毎日新聞[223]が少なくとも"new type"と"new strain" を使用、"new strain"は朝日新聞[224]も使用している。
中国語呼称も「猪流感」(「猪」は豚)[225]から「甲型H1N1流感」[226]へと切り替わり、中国のメディアでは5月1日に国営新華社通信が呼称変更を伝え、国営中国中央テレビは変更理由を「養豚場や飲食店などでの無用な混乱を避けるため」と報道した[227]。
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利益相反の告発
→「病気喧伝」も参照
2010年1月には、ドイツの副議長で欧州評議会の保健委員会長のヴォルフガング・ワダルグが主張するには、大企業がワクチンを売るために「偽りのパンデミック」を宣言するよう、世界保健機関 (WHO) に圧力をかけるためのパニック・キャンペーンを画策してきた。政界最大の医学のスキャンダルの1つだと述べ、2009年5月にメキシコシティで始まったとされる「偽りのパンデミック」キャンペーンは、数百人程度の「通常」のインフルエンザ症例が報告され、これが新たなパンデミックの脅威だとされたが、その根拠は乏しかった[228]。
3月には、欧州評議会は国際的な豚インフルエンザ・キャンペーンは製薬会社の影響を受けているとして調査を開始した[229]。4月、WHOのインフルエンザの責任者でもあるケイジ・フクダがパンデミック宣言を導いた体制が、H1N1についての混乱をもたらしたと述べ、その懸念を表明したがそれは、恐れるほどの致命性がないものだと判明したこの新しいウイルスに関する、不確実な部分について、情報伝達が失敗したということであり、陳馮富珍事務局長は、レビューを実施するために機関の外部の専門家を任命したことを伝えた[230]。
6月、BMJのフィオナ・ゴッドリー編集長は調査をもとにWHOを批判し、パンデミックに関するWHOの顧問に、抗ウイルス薬とワクチンを生産している製薬会社との間に金銭関係があるという調査があるとした[231]。これに対して陳馮富珍事務局長は「製薬業界の影響を受けているという印象を残してしまうだろうが、パンデミック宣言の決定は定義された基準に基づいたもので、この基準をねじまげるのは難しい」と応答している[230]。
→「オセルタミビル § 有効性」も参照
脚注
参考文献
関連項目
外部リンク
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