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第43回世界遺産委員会
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第43回世界遺産委員会(だい43かいせかいいさんいいんかい)は、2019年6月30日から7月10日の間、アゼルバイジャンの首都バクーで開催された世界遺産委員会の年次会議である。会場となったのはバクー・コングレス・センターである。文化遺産24件、自然遺産4件、複合遺産1件の計29件が登録された結果、世界遺産リスト登録物件の総数は1121件となった。
委員国
委員国は以下の通りである[1]。地域区分はUNESCOに従っている。
議長国 | ![]() |
議長 Abulfaz Garayev |
アジア・太平洋 | ![]() |
副議長国 |
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報告担当者Mahani Taylor | |
アラブ諸国 | ![]() |
副議長国 |
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アフリカ | ![]() |
副議長国 |
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ヨーロッパ・北アメリカ | ![]() |
副議長国 |
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カリブ・ラテンアメリカ | ![]() |
副議長国 |
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審議対象の推薦物件一覧
要約
視点
物件名に * 印が付いているものは既に登録されている物件の拡大登録などを示す。太字は正式登録(既存物件の拡大などについては申請用件が承認)された物件。英語名とフランス語名は諮問機関の勧告文書に基づいており[2]、登録時に名称が変更された場合にはその名称を説明文中で太字で示してある。
第43回世界遺産委員会の審議で、新規に世界遺産保有国となった国はない。この時点で、世界遺産条約を締約している193か国のうち、世界遺産を保有していない国は26か国のままである。
自然遺産
複合遺産
文化遺産
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危機遺産
リストからの除去
リストへの新規登録・再登録
この他、以下の世界遺産が危機遺産リストへの掲載を検討されたが見送られた。
名称変更
以下2件の名称変更が保有国から申請され、承認された[104]。ウクライナの世界遺産の方は、キーウ(キエフ)の綴りのみが変更されたものである(綴りの違いの意味するところはキーウ#名称とその表記も参照)。
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軽微な変更
その他の議題
- 委員会の本開催を前にプレセッションとして2019年6月24日から4日間、アゼルバイジャン建築建設大学において世界遺産ヤングプロフェッショナルフォーラムが開催され、世界遺産センターのメヒティルド・ロスラー所長が世界遺産保護のために教育・科学・訓練・雇用の分野における若手専門家の育成体制の充実を図ることを表明し、このユースプロフォーラムを遺産保全のためのプラットフォームとして位置付けることとした[105]。
- プレセッションとして2019年6月27日に第3回世界遺産管理者フォーラムが開催され(於:バクー・コングレス・センター)、既登録地の担当者が参集し保存と活用に関した話し合いが行われ、世界遺産都市機構のような登録地間の横の繋がり(国際的ネットワーク)の各分野における形成や世界遺産における持続可能な開発について提唱があった[106][107]。
- 世界遺産における盗掘、文化財の違法な輸送、文化資材の違法な搾取、武力紛争地域における文化財や自然環境の破壊、地域紛争のような人為的災害の影響などに対処するため、ユネスコ・世界遺産委員会と世界遺産条約締約国との対話を促進し、保護・保存と管理の取り組み強化を目指す「バクー宣言」が決議され、委員会最終日に採択される予定[108]。
- 世界遺産委員会における新規登録審査において、諮問機関(ICOMOS・IUCN)の勧告を政治的思惑で覆す事態(下記委員会に対する批評参照)が増えていることを憂慮し、学術的観点である事前評価を重視することを再確認し、推薦国が世界遺産センターへ提出する暫定版推薦書受理の段階から諮問機関が携わることとした。また、事前審査での現地調査費用の増加(第42回世界遺産委員会#その他の話題参照)に伴い、その費用を推薦国に負担してもらうことも決めた[109]。
- 2017年の世界遺産委員会において気候変動や自然災害がもたらす世界遺産への影響を検討したことをうけ(第41回世界遺産委員会#その他の議題参照)、憂慮する科学者同盟が「Climate Vulnerability Index(CVI・気候脆弱性指数)」という指標を策定し、これに基づき環境負荷が懸念される世界遺産を抽出して分析したところ、ガラパゴス諸島・イースター島・イエローストーン国立公園などで影響が確認されたことを発表。今後ユネスコとしてCVIを採用してモニタリングに充てることを検討[110]。
- 昨年の世界遺産委員会において世界遺産と水資源やダムに関する問題が協議されたことをうけ(第42回世界遺産委員会#その他の議題参照)、NPO団体のWorld Heritage Watchが抽出した50の世界遺産の内42カ所が水インフラにより水生生態系が脅かされていることを世界水力発電会議で「世界遺産と水力発電」と題して発表したことを報告し、ユネスコ・世界遺産センター・世界遺産委員会としても本格的に取り組むことを確約[111]。
- 世界遺産を観光資源と位置づけ(遺産の商品化)、持続可能な観光を追及すべく、昨年の世界遺産委員会に引き続きライフ・ビヨンド・ツーリズムをヘリテージツーリズムに応用する協議(第42回世界遺産委員会#その他の議題参照)が行われた[112]。なお、ライフ・ビヨンド・ツーリズムは2019年10月25~26日に北海道で開催される第14回20か国・地域首脳会合(G20サミット)の観光大臣会合でも協議される。
- 遺産の資源利用など世界遺産における資源開発に関した協議が行われ、戦略的環境アセスメントの重要性が確認されたほか、国家事業などから順次計画の見直す検討を促したり、例えば発電所などは緩衝地帯であっても造るべきではないといった具体的な指針も提示[113]。さらに石炭火力発電に伴う排出粉塵が生態系に及ぼす影響を指摘し、2021年までに世界遺産域の石炭火力発電所の存在を見直すことも示唆[114]。
- 2015年に保全状況確認(SOC)が行われた際に指摘事項があった知床(第39回世界遺産委員会#その他の議題参照)の審査が行われ、サケの産卵環境を向上させるため遡上を妨げているルシャ川のダム中央部を撤去するなどの環境改善策を示し評価されたが、漁業被害防止を目的としたトドの駆除に関してその必要性を示すデータが不足しているとして捕獲量の見直しが要請され2020年12月1日までに次回報告書の提出が求められた[115]。
- 2016年に保全状況確認(SOC)が行われた際に指摘事項があった富士山-信仰の対象と芸術の源泉(第40回世界遺産委員会#その他の議題参照)の審査が行われ、登山道の混雑回避などの取り組みを盛り込んだ日本政府の報告書を承認[116]。今回は審査時間節約のため委員会開催前に事前審査を実施しており、富士山に関しては概ね了承が出されていた[117]。なお、2019年になり再浮上した富士山における鉄道構想については報告されていない。
- 2020年分登録審査対象の確認を行い、日本の奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島も取り上げられた。2020年から全体審議数の上限が35件となり登録数の少ない国を優先されるため、推薦物件が多い場合には日本からの推薦が受理されない可能性もあったが[118]、推薦締め切りの2019年2月1日時点で29件の届け出しかなかったため審査が受けられることは確定した。なお、2003年から毎年登録物件を増やし続け、今委員会で文化遺産と自然遺産を一件毎登録したことで所有数が55件となりイタリアと並ぶ世界1位タイとなった中国からの推薦が途絶えることとなった[119](暫定リスト掲載は2019年1月末の更新時点で61件ある[120])。
- 次回の第44回世界遺産委員会は2020年6月29日から7月9日に中国の福州市で開催することが決まった[121]。その議長には、田学軍(Tian Xuejun)教育部副部長(日本の文部科学省副大臣に相当)を選任[122]。中国での開催は2004年に蘇州で開催した第28回以来、二回目となる予定だったが、2020年4月中旬に、新型コロナウイルス感染症の流行を理由に日程の延期が決まった(2021年にオンライン・ミーティングの形で開催される予定)[121]。
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その他の話題
- 昨年の第42回世界遺産委員会においてバクーでの委員会開催が決まってから約一か月となる2018年8月9日、イルハム・アリエフアゼルバイジャン大統領は世界遺産委員会開催のための組織委員会を設立し、メフリバン・アリエヴァ副大統領(ユネスコ親善大使)・外務大臣・財務大臣・情報通信技術大臣・内務副大臣・教育副大臣・青年スポーツ副大臣・国家税関委員会副会長・国家安全保障局副局長・国家移民局副局長・国境局副局長・アゼルバイジャン国営放送会長・アゼルバイジャン航空副会長らを委員として選任し、国家を上げての万全の体制を構築した[123]。
- 本委員会のバクー開催について議長となるAbulfas Garayev文化大臣は、「委員会の誘致成功には2013年にバクーで開催した無形文化遺産の第8回政府間委員会開催とその成功が評価されてのこと」と談話を述べた[124]。
- 開会式に先駆けアリエフ大統領および組織委員会とユネスコのオードレ・アズレ事務局長ら代表団が会見し、イスラム教国のアゼルバイジャンが異文化間対話を積極的に行うバクープロセスに従い文化的不寛容を払拭し、国内のゾロアスター教やキリスト教の文化を保護していることを評価し、国立科学博物館設立計画へのユネスコの支援を表明した[125]。
- 開会式はヘイダル・アリエフ・センターで行われ、アリエヴァ副大統領が開会の挨拶を務めた[126]。→副大統領の挨拶全文「First Vice-president Mehriban Aliyeva attends the opening ceremony of UNESCO World Heritage Committee’s 43rd Session」(副大統領の個人サイト)
- 開会式においてアズレ事務局長は「世界遺産は対立する集団間を分かつものではなく、懸け橋になるべき。また信頼性を保証する科学的専門知識によるものであるからこそ、共通の善についての対話のための貴重な場になりうる」とコメント、ユネスコ理事会のイ・ビョンヒョン(李炳賢・이병현)理事長は被災したノートルダム大聖堂の再建策に対して関係各方面からの各種の支援が寄せられたことに感謝の辞を述べた[127]。
- 委員会議長を務めるAbulfas Garayev文化大臣は開会式後の記者会見で、「アゼルバイジャンの国土であるナゴルノ・カラバフにおいてキリスト教徒のアルメニア系住民が多くの文化遺産(イスラム教のモスク)を破壊しており、ユネスコに対し長らく現状視察を申し入れてきたが、アルメニアが妨害している」と名指しで批判[128]、これをうけユネスコも「アゼルバイジャン滞在中に安全が確保されるならばナゴルノ・カラバフへの訪問を検討する」と回答した[129]。このことに関してアルメニアがユネスコに対して正式な苦情を提出した[130]。
- 上述のようにアゼルバイジャンと隣国アルメニアはナゴルノ・カラバフ戦争を経て停戦しているとはいえ緊迫が続く関係にあり、アゼルバイジャン外務省はアルメニアが世界遺産委員会に対して威力妨害などを仕掛けることを危惧し、委員会開催にあたり特別な保安体制を敷いたことを明らかにした[131]。
- 開会に際し、ユネスコのアズレ事務局長はじめ委員会参加者らがアゼルバイジャンの世界遺産ゴブスタンの岩絵の文化的景観を見学した[132]。
- 委員会開催を記念しバクーにて、無形文化遺産に登録されているアゼルバイジャン伝統の「絨毯」・「ケラガイ(女性用スカーフ)」・「ラフジの銅細工」[133]といった工芸品を紹介するフェスティバルが開催された[134]。
- 委員会開催を記念しアゼルバイジャン国立図書館にて、上述の伝統工芸品に関する資料やユネスコ世界の記憶(記憶遺産)に登録されている史料[135]が特別公開された[136]。
- 昨年の世界遺産委員会においてパレスチナの世界遺産ヘブロン旧市街のマクペラ洞穴修復計画をユネスコのオードレ・アズレ事務局長が中立的な立場からユネスコ主導で修復を行いたい旨を表明して承認されたが(第42回世界遺産委員会#その他の議題参照)、これに対しイスラエル・ヘブライ大学のシモン・サミュエルズ博士(Dr.Shimon Samuels)が「マクベラ洞穴の修復はイスラエルに行わせるべき」との書簡を委員会宛に提出した[137][注釈 9]。
- 昨年の世界遺産委員会において明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業における朝鮮人強制連行を解説する施設建設が実現されていないことに韓国が異議申し立ての動議を発動したが(第42回世界遺産委員会#その他の議題参照)、今回ソ・ギョンドク誠信女子大学校客員教授が個人的に「少なくとも軍艦島は世界遺産の登録を抹消すべき」との書簡を委員会宛に提出した[138]。
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委員会に対する批評
要約
視点
日程の長期化により委員会開催にかかる運営費用の増大が問題となっているが(第42回世界遺産委員会#委員会への批判参照)、産油国であるアゼルバイジャンは潤沢なオイルマネーにより新築で設備が充実した施設が多く、多くの国際会議を誘致している実績があり、途上国では提供できない快適な状況を提供しており、今後の開催希望都市へのプレッシャーを与えかねない[139]。
アゼルバイジャンはイスラム教国ながら世俗主義で、キリスト教社会との接点も多いことから西洋世界の評判も良く、異文化間対話を積極的に行うバクープロセスはユネスコも高く評価している[125]。一方で事実上の一党独裁制で専制的な側面もあり、強気な姿勢の表れなのか、自国の推薦物件である「シャキの歴史地区とハーンの宮殿」の登録審査では、事前勧告では不登録だったものを、Abulfas Garayev議長が議事進行役を離れ文化大臣の肩書で委員国の委員として列席するという前代未聞の状態でシャキの歴史地区とハーンの宮殿の素晴らしさを力説して登録に持ち込んだ[140]。シャキの歴史地区とハーンの宮殿が登録された7月7日夜、アゼルバイジャン大統領宮殿において大統領主催の登録記念祝賀パーティーが予定通り開催された[141]。この逆転登録とは対照的に、不登録勧告をうけた案件を取り下げた推薦国に「世界遺産条約の精神に則っている」と拍手を送る場面もあった[142]。
他方、2019年1月1日付でユネスコを脱退したアメリカが「フランク・ロイド・ライトの20世紀建築作品群」を推薦し登録となった。米国務省は「(ユネスコは脱退したが)世界遺産条約を破棄したわけではなく、世界遺産基金も納付しており推薦の権利はある」[143]としたことで、今後模倣追従する国が現れないか危惧される。
ユネスコ関係者もさまざまなコメントを発したノートルダム大聖堂の火災後の再建に関して今回の委員会では議題にされないことが確定し、世界遺産の管理者として無責任との批判が噴出している[144]。
今委員会において登録されたイタリアの「コネリアーノとヴァルドッビアーデネのプロセッコ栽培丘陵群」に関して、2007年に端を発した世界金融危機(世界同時不況)により高額なフランスのシャンパン離れから、安価で高品質なプロセッコ(スパークリングワイン)に注目が集まり大幅な売上増加となったことで(2015年の売り上げは前年比75%増)、急遽増産植栽を行ったため土地が痩せ2016年には収穫量が50%も落ちたばかりか、大雨で土壌流出が発生し世界遺産として評価された景観を形成するシグリオニも崩壊した。こうしたことからユネスコと世界遺産委員会は登録審査に際して学術的価値の精査のみならず、経済活動が伴う稼働遺産ではその経済的現況や社会背景にも注意を払うべきとの意見が出されている[145]。
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脚注
参考文献
外部リンク
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