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アメリカの映画 ウィキペディアから
『沈黙の戦艦』(ちんもくのせんかん、英: Under Siege)は、1992年に公開されたアメリカ映画。核弾頭ミサイルを狙ってテロリストに乗っ取られたアメリカ海軍の戦艦を、元海軍特殊部隊の指揮官であったケイシー・ライバックが奪還を目指すアクション映画。監督はアンドリュー・デイヴィス。主人公のケーシー・ライバックをスティーヴン・セガール、テロリストたちのリーダーをトミー・リー・ジョーンズが演じた。第65回アカデミー賞で2部門にノミネートされた。
沈黙の戦艦 | |
---|---|
Under Siege | |
監督 | アンドリュー・デイヴィス |
脚本 | J・F・ロートン |
製作 |
アーノン・ミルチャン スティーヴン・セガール スティーヴン・ルーサー |
製作総指揮 |
J・F・ロートン ゲイリー・ゴールドスタイン |
出演者 |
スティーヴン・セガール トミー・リー・ジョーンズ ゲイリー・ビジー エリカ・エレニアック コルム・ミーニイ パトリック・オニール アンディ・ロマーノ デイル・ダイ レイモンド・クルス ニック・マンキューソ ダミアン・チャパ トロイ・エヴァンス |
音楽 | ゲイリー・チャン |
撮影 | フランク・タイディ |
編集 |
デニス・ヴァークラー デイヴィッド・フィンファー |
製作会社 | リージェンシー・エンタープライズ |
配給 | ワーナー・ブラザース |
公開 |
1992年10月9日 1993年5月15日 |
上映時間 | 103分 |
製作国 | アメリカ合衆国 |
言語 | 英語 |
製作費 | $35,000,000 |
興行収入 |
$83,563,139[1] $156,563,139[1] |
次作 | 暴走特急 |
セガールが主人公を演じる「沈黙シリーズ」の第1作にあたるが、これは日本独自のものであり、タイトルに「沈黙」と付いていても本作とは関係がない。本作の正当な続編は『暴走特急』である。
退役が発表されたアメリカ海軍のアイオワ級戦艦「ミズーリ」は、ハワイからサンフランシスコに向かって最後の航海を始めた。艦のコック長を務めるケイシー・ライバック上等兵曹は敬愛する艦長のJ・T・アダムス大佐の誕生日を祝うため、食事の準備を行っていたが、もとより仲の悪い副長のピーター・クリル中佐の命令に背いたため、彼の勘気に触れ乱闘騒ぎを起こす。コックにしては強いライバックに勝てないクリルは上官権限で処分しようとするが、営倉処分には艦長の許可が必要なため、彼をキッチンの保冷倉庫に閉じ込める。
クリルは艦長に対するサプライズ・パーティーを企画しており、ロックバンドやケータリング業者、プレイメイトなどを独断で乗船させる。ところがロックバンドやケータリング業者の正体は、元CIA工作員のウィリアム・ストラニクス率いるテロリスト集団であり、クリルもその仲間だった。一味は船員たちを船倉や船室に監禁したうえに、アダムス艦長を殺害し、ミズーリを乗っ取ってしまう。その狙いは艦に搭載されている核弾頭搭載トマホーク巡航ミサイルを奪い、ブラックマーケットに転売することであった。
倉庫に閉じ込められたがゆえに難を逃れたライバックだったが、その素性は海軍特殊部隊「ネイビー・シールズ」対テロ部隊の元指揮官(海軍大尉)であった。彼はパナマ侵攻時に情報の行き違いから部下を多数死傷させ、当時の情報将校を殴打して降格処分になったところを、不憫に思ったアダムスの計らいで、前歴を伏せたまま艦の烹炊所に配置されていたのだった。不穏な事態に勘づいたライバックはクリルの命令で自分を殺しにやってきたテロリストを、その場のものを使って効果的に返り討ちにする。やがて不審に思ったクリルは艦長室の資料からライバックの来歴を知り驚く。
状況把握を始めたライバックは、巻き込まれたプレイメイトのジョーダン・テートや、自分のように難を逃れた同僚を発見し、共に艦の再奪取に向けて動き出した。一方、ストラニクスは攪乱のため、国防総省に戦艦を乗っ取ったことを通告する。これを受けて海軍のベイツ大将らは対応を迫られ、海軍特殊部隊を武装ヘリで派遣するが、テロリスト集団が持ち込んだ携帯式地対空ミサイルで撃墜される。そして乗員の中にライバックがいることを知ると、彼に望みをかけ、もし失敗した場合は最終手段として人質の船員もろともミズーリの撃沈を命じることを決める。
ストラニクス一味は仲間が北朝鮮から奪った潜水艦にミサイルを積み込み始める。一方、ライバックを仕留められず業を煮やしたクリルは船倉に注水して乗員たちに溺死の危険を与えることで、彼を誘い出そうとする。しかし、ライバックに出し抜かれたうえ、ミサイルの積み込みが終わった潜水艦もライバックの仲間たちに砲撃されて撃沈され、潜水艦内にいたクリルも死亡する。
潜水艦が撃沈され自暴自棄となったストラニクスはホノルルに向けてトマホークミサイルを発射する。これを阻止するためライバックはCICに乗り込み、ストラニクスとナイフと徒手格闘による一騎討ちを展開。ストラニクスはまったく歯が立たないまま返り討ちにされ、勝利したライバックはトマホークに指令を送って空中で自爆させ危機を阻止する。船倉に閉じ込められ水攻めを受けていた乗員たちも全員助かる。
そして後日、ミズーリ艦上ではアダムス艦長の葬儀が行われ、ライバックたちミズーリ乗員一同が艦長に別離の敬礼を贈る場面で物語は終わる。
役名 | 俳優 | 日本語吹替 | |
---|---|---|---|
ソフト版 | テレビ朝日版 | ||
ケイシー・ライバック兵曹 | スティーヴン・セガール | 玄田哲章 | 大塚明夫 |
ウィリアム・ストラニクス | トミー・リー・ジョーンズ | 菅生隆之 | 池田勝 |
ピーター・クリル中佐 | ゲイリー・ビジー | 樋浦勉 | 金尾哲夫 |
ジョーダン・テート | エリカ・エレニアック | 伊藤美紀 | 松本梨香 |
ドーマー | コルム・ミーニイ | 秋元羊介 | 納谷六朗 |
J・T・アダムス艦長 | パトリック・オニール | 丸山詠二 | 大木民夫 |
ベイツ提督 | アンディ・ロマーノ | 田中信夫 | 阪脩 |
トム・ブレーカー | ニック・マンキューソ | 神谷和夫 | 若本規夫 |
ニック・ガーザ大佐 | デイル・ダイ | 丸山詠二 | 仁内建之 |
タックマン | ダミアン・チャパ | 中多和宏 | 平田広明 |
シャドウ | エディー・ボー・スミスJr. | 小関一 | 宝亀克寿 |
テイラー少尉 | グレン・モーシャワー | 高宮俊介 | 神谷和夫 |
ピット | リチャード・ジョーンズ | 伊藤和晃 | 小島敏彦 |
アジア系のコマンド隊員 | ジョージ・チェン | 仲野裕 | 田原アルノ |
ラミレス | レイモンド・クルス | 桜井敏治 | 鳥畑洋人 |
グレンジャー | トロイ・エヴァンス | 星野充昭 | 石波義人 |
フリッカー | デヴィッド・マクナイト | 中博史 | 小山武宏 |
ジョンソン | デュアン・デイヴィス | 小山武宏 | 田中正彦 |
キャラウェイ | サンディ・ウォード | 幹本雄之 | 藤本譲 |
ハリス中佐 | バーニー・ケイシー | 星野充昭 | 沢木郁也 |
グリーン少佐 | ジョン・レトガー | 安井邦彦 | |
エンジン・ルーム当直士官 | ジョセフ・F・コサラ | 幹本雄之 | 峰恵研 |
ナッシュ二等兵 | トム・ウッド | 成田剣 | 真殿光昭 |
キュー・ボール | リー・ヒントン | ||
バラード大尉 | マイケル・ウェルデン | 仲野裕 | 松本大 |
スマート大尉 | レオ・アレキサンダー | 小関一 | 若本規夫 |
デヴィッド・トレントン 国家安全保障問題担当補佐官 | デニス・リプスコム | 宝亀克寿 | 岩田安生 |
スペルマン大佐 | ドルー・アン・カールソン | 野沢由香里 | |
ケイツ | トム・ミュジラ | 桜井敏治 | 沢木郁也 |
ジグス | ジョン・ラフリン | 星野充昭 | 田中正彦 |
ウェイヴ | トム・レイノルズ | 津田英三 | |
ダミアーニ | マイケル・デス・バレス | 大川透 | |
提督の補佐官 | ラルフ・ウェズリー・ケリー | 篠原大作 | |
本人(アーカイブ出演) | ジョージ・H・W・ブッシュ | 宮田光 | |
役不明またはその他 | 林一夫 中村雄一 鈴木勝美 | 坪井智浩 荒川太朗 島香裕 | |
演出 | 蕨南勝之 | 佐藤敏夫 | |
翻訳 | 中島多恵子 | 平田勝茂 | |
調整 | 山下裕康 | 兼子芳博 | |
効果 | リレーション | ||
音響制作 | 相原正之 中西真澄 | ||
プロデューサー | 小川政弘 貴島久祐子 | ||
制作 | ワーナー・ホーム・ビデオ プロセンスタジオ | 東北新社 | |
解説 | 淀川長治 | ||
初回放送 | 1995年10月1日 『日曜洋画劇場』 (約92分) | ||
※ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント発売の「吹替の力」シリーズ『沈黙の戦艦 日本語吹替音声追加収録版 ブルーレイ』にはVHS・DVD・BD版に加え、初回放送時にカットされたシーンを追加録音したテレビ朝日版の吹き替え版が収録。また、初回放送当時の淀川長治による解説を収録した特典映像DVDが付属している。
本作はJ・F・ロートンのオリジナル脚本『Dreadnought(ドレッドノート)』に基づいており、100万ドルで落札された[3]。
ワーナーは最初から主役にスティーブン・セガールを希望していたが、当初、彼は断っていた。この理由としてセガールはのちに「自分とペアを組むことになるのが、ケーキから出てくる馬鹿な女(bimbo)」であることに難色を示したと語っている。しかし、脚本の修正によって「徐々に知性を発揮する」キャラクターになったという[4]。
ロートンは「私たちは、彼(セガール)をもっとメインストリームにしようとしていた(中略)純粋なアクションジャンルから脱却して、俳優としての役割を与えようとした」と述べている。また脚本家は「予算を妥当な範囲に収めようとした。オリジナルの脚本では戦艦が吹き飛ばされるなど、(予算制約に対して)ほとんど無責任だった。あのままでは『Dreadnought(ドレッドノート)』の製作費は1億ドル以上になっていただろう。それが今や3,000万ドル台だ。スティーブンのアイデアで、映画の中にアリゾナ記念館を登場させたんだ」[5]。
監督のアンドリュー・デイヴィスは、過去に『刑事ニコ/法の死角』でスティーブン・セガールとコンビを組んだことがあった。のちにデイヴィスは「(ワーナー会長の)テリー・セメルが、セガールは映画に41分しか出てなかったからもう一度一緒にやりたいと言ってきたんだ。トミー・リーはスティーブンより長く映画に出ている。それはそれでよかった。うまくいったよ。私たちは動きやすく楽しい時間をすごして、製作をとても楽しんだし、何よりこの映画のおかげで『逃亡者』に繋がったんだから、価値のあるものだったよ」と語っている[6]。
ミズーリ艦内の多くの場面は戦艦アラバマ(博物館)、北朝鮮の潜水艦内は潜水艦ドラム(博物館)で撮影された[7]。
本作ではイントロビジョン・プロセスが多用されている。イントロビジョン・プロセスとは、従来のブルースクリーンを用いた技術ほど重いコストをかけず、前景のキャラクターに投影された背景とのリアルなな3次元的相互作用を可能にするフロント・プロジェクションの一種である[8]。 この技術は、映画『アウトランド』、『メガフォース』、『キャプテン・スーパーマーケット』などで用いられ、デイビス監督によるのちの作品『逃亡者』でも使用されている[8]。
デイビス監督は「ほとんどの人が、この映画がかなり洗練されていることに驚いている」と言い、「本作は核兵器についての見解を持っている人たちにアピールするためのものであり、ストーリーは決して突飛ではなく、あなたに信憑性をもたらすのです」[4]。
マーケティング部門は、初期脚本のタイトル『Dreadnought(ドレッドノート)』では観客受けが悪いと考え、他のセガール映画のように3語のタイトルを考えていた。初期案は『Last to Surrender』(直訳で最終降伏)であったが、ロートンとセガールはこのタイトルを嫌って、特にセガールは変更を求めて戦い、最終的に『Under Siege』(「包囲網下」や「四面楚歌」の意)というタイトルになった[9]。
日本語版タイトルの『沈黙の戦艦』は、当時ヒットしていた日本の漫画『沈黙の艦隊』にならったものである[10]。本作以降、セガール主演作のほとんどに「沈黙の」という邦題が付くこととなり、各映画の公開時や映像ソフト発売時に「沈黙シリーズ最新作」とうたわれるまでになっていった。例えば『沈黙の要塞』(1994年、原題は On Deadly Ground)は本作とまったく関係がなかったが、日本では本作の続編と紹介された。実際には本作の正式な続編は『暴走特急』(原題: Under Siege 2: Dark Territory )である。
洋上の戦艦を舞台とするアクションを描いた本作は劇場公開当時、海の『ダイ・ハード』と称され、もともとは海が舞台の予定だった『ダイ・ハード3』(1995年)の内容が変更されたといわれる[11]。
本作は2,042の劇場で公開され、初週週末興行収入は15,760,003ドルを稼ぎ、1館あたり平均7,717ドルを記録した[12][13]。その後、83,563,139ドルを達成し、全世界では1億565万3,139ドルの収益を上げた[14]。当時、批評家向けの試写会が行われなかった映画の中で、最も成功した作品となった。
レビュー集計サイト「Rotten Tomatoes」では28件のレビューを基に79%の支持を獲得している。同サイトの批評コンセンサスでは「限定的な舞台を最大限活用した優れた演出のアクション・スリラーである『沈黙の戦艦』は90年代初期のアクションと、そのスターの散漫なフィルモグラフィーの頂点を示している」としている[15]。CinemaScoreによる観客投票では本作はA+からFの評価で平均「A-」とされている[16]。
本作は、『エグゼクティブ・デシジョン』や『マチェーテ』と並んで、Rotten Tomatoesで「フレッシュ」と認定された数少ないスティーブン・セガール作品の1作であり、映画評論家からは「戦艦のダイ・ハード」と評されている。また、トミー・リー・ジョーンズとゲイリー・ビジーの悪役演技も評価された[17][18][19]。
アカデミー賞にノミネートされた唯一のセガール映画でもあり、音響効果編集賞(ジョン・レベック、ブルース・スタンブラー)と録音賞(ドナルド・O・ミッチェル、フランク・A・モンターニョ、リック・ハート、スコット・D・スミス)の2部門にノミネートされた(いずれも受賞は無し)[20]。
のちの『逃亡者』(1993年)の製作にあたっては、ハリソン・フォードが本作のラフカットを見て、アンドリュー・デイヴィスが監督を務めることを認めた[21]。
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