本項「NHKの不祥事 (エヌエイチケイのふしょうじ)」では、NHK(日本放送協会 )職員による業務に関わる不祥事や、業務外で行われた犯罪などのうち主なものについて記載する。また後段でNHKの組織的問題として批判を受けたものを挙げる。
NHKの受信料 制度は最高裁で合憲とする判決が確定しており、受信料納付が義務化しているが[1] 、とくに2004年の番組製作費着服事件、またそれにつづく数々の不適切な経費処理の発覚で、その使途には視聴者からきわめて厳しい目が向けられるようになった。NHK側も公金処理に関する不祥事には厳格にのぞみ[2] 、カラ出張やタクシー券の不正処理などの懲戒処分が素早く公開されるようになった。また職員による痴漢や軽微な窃盗なども、さまざまな情報に接しうるNHKという組織内部における規律の緩みのあらわれとして、細かく報道されるようになっている[3] 。
さらにNHKは他の放送局同様、放送法 によって「不偏不党」を求められており[4] 、時の政府の意向と放送内容のバランスをどう取るかがつねに注目を集めるため、その判断が問題化しやすい。2005年の「NHK番組改編問題 」は、その典型的なものである。
業務外で行われた職員による不祥事等は、NHK職員・関連団体職員の事件として報道されたものに限って掲載する。
2004年
番組製作費着服事件
東京・渋谷にあるNHK放送センター(2016年)
7月、番組制作局のチーフプロデューサーが巨額の製作費を着服していたことが『週刊文春 』の報道で発覚[6] 。着服額は約6200万円にのぼった。このチーフプロデューサーは1998年から2001年にかけて、知人の経営する企画会社に、実態のない業務名目で支出、それをキックバックさせて遊興費に使っていた[6] [7] 。NHK内部では不正を数年前に把握しながら放置していたことも発覚した。
この事件では、受信料が着服されたことや、不正の舞台に花形番組の「NHK紅白歌合戦 」が含まれていたことなどから、大きな衝撃を与えた。不正を行ったチーフプロデューサーはNHKに刑事告訴され、2006年に詐欺罪で懲役5年の判決を受けて確定している。
NHKはこの事件に関して民事訴訟を3件起こし、チーフプロデューサーへの請求額は時効となったものも含め最終的に約1億4000万円にのぼった[8] 。またこの事件が明るみに出た後、岡山放送局 の放送部長が架空経費を着服していたことや、韓国のソウル支局長が業務発注の上乗せ請求が明らかになるなど、NHK内部のコンプライアンス違反が次々に報道された[7] 。
この事件が発覚したあと視聴者からの批判は厳しさを増し、受信料の支払い保留・拒否件数は2004年から2005年3月頃までに約75万件にのぼった。収入のほとんどを受信料に依存するNHKにとって「開局以来最大の危機」とも指摘された[3] 。
2005年
2月、NHKは解説主幹と国際放送局チーフプロデューサーの2名が、シンガポール支局に勤務していた際、不正な経費処理を行っていたとして、それぞれ懲戒処分にしたと発表[9] 。解説主幹は1995〜1998年にかけて、チーフプロデューサーは1998〜2002年にかけて記者としてシンガポール支局に駐在。それぞれ契約カメラマンや外部スタッフの報酬を水増し処理していた[9] 。NHKはチーフプロデューサーに対し、業務として使った裏付けが取れなかった262万円を弁済させた。解説主幹については、水増し額が特定できなかったが、本人が紛失したと申告していた取材費40万円の弁済をさせた[9] 。
5月、「NHKニュース おはよう日本 」などに出演していた放送総局の男性アナウンサーが、強制わいせつ容疑で逮捕。渋谷区富ヶ谷の路上で、女性に抱きついて胸を触るなどした疑い[10] 。
5月10日 に放送された『プロジェクトX〜挑戦者たち〜 」の「ファイト!町工場に捧げる日本一の歌」にて、淀川工業高校 元教諭高嶋昌二 によるグリークラブ設立のエピソードが取り上げられたが、事実と相反する内容として批判を受け、後日NHK は学校に謝罪、同回は書籍版への掲載が見送られ、NHKオンライン からも削除された。
11月、大津放送局 に所属する20代の記者が放火容疑で逮捕。同年4〜5月にかけて大津市内 で発生した11件の連続放火、また6月の岸和田市内 での放火事件のいずれも自分がやったと自供[11] [12] 。のちの捜査段階で心神耗弱と鑑定されたが、大津地裁 で懲役7年の実刑判決を受けた。
2006年
12月、渋谷の放送センターに勤務する30代の男性職員が、千葉方面へ向かう総武線 車内で男子大学生の尻をさわるなどして東京都迷惑防止条例で逮捕された[13] 。
2008年
4月 、NHKがニュース番組で企業による風力発電 のファンドが設立されたとの内容のニュースを放送するに当たり、札幌市 在住の写真家が撮影した風車の写真を使用し放映したが、この写真使用に当たり、写真家が「写真を無断使用された」として、NHKや取材担当の記者を相手取り、札幌地方裁判所 に訴訟を起こした。NHKは「事件報道では、出所表示の慣例や義務はない」と主張したが、2010年 11月10日 に同地裁は、「写真はファンド設立とは無関係」などとして著作権 ・著作者 人格 侵害を認定、NHKなどに対し約40万円の支払いを命じた[16] 。
インサイダー取引事件
1月17日、複数の職員によるインサイダー取引 が発覚[19] 。水戸放送局 のディレクター、報道局テレビニュース部の製作記者、岐阜放送局 記者の3名が、ニュース番組の制作現場で使用される局内共通の原稿端末などを利用し、特定企業に関する放送前の情報を入手、これをもとに取引を行って合計で106万円の利益を上げていた[19] 。3名の職員は金融庁から課徴金を課されたほか、4月10日付で懲戒免職となった[20] 。
この事件はNHKの職員が業務で知った情報を悪用したケースとして大きく報道されたほか、他の新聞社などがもっている報道関係の職員による株取引を禁止する就業規定が、NHKには経済部などをのぞき存在しなかったことも、驚きをもって受けとめられた[21] 。
NHKは全職員を対象にした実態調査を行い、この過程でさらに81人が勤務中に株取引を行っていたことが判明[20] 。加えて1100名が調査協力を拒否しており、NHK組織内の規律の緩みが厳しく批判された[20] 。以後NHKは報道端末を扱う職員に対して「株取引の禁止」への同意を義務づけるようになった[22] 。
2010年
7月2日 、NHKの関連団体・NHKサービスセンター で派遣社員として勤務していた女性について、名目は専門業務派遣 だったにもかかわらず、実際は庶務的な一般の職務に就かされていたとして、東京労働局 が同サービスセンターに対し「偽装派遣 である」として指導を行い、同センターが直接雇用に切り替えていたことが判明した[31] 。
2012年
2月16日 、松山放送局 が放送した『おはようえひめ 』で、実際には発生していない偽事件のテロップ 『窃盗 の疑い 愛媛大学 教授逮捕 』が約2秒間流れた。職員の操作ミスによって、放送試験用の字幕が誤って放送された[33] 。この事故の原因調査の過程で、同局の原稿閲覧システムをアクセス権限のないアルバイトが日常的に操作してきた疑いが出ている[34] 。
3月4日 、BSプレミアム で放送の『晴れ、ときどきファーム!』において、2月6日の番組収録の際、MAX のメンバー3人が軽自動車 の運転席 と後部座席に乗り、東京都 内から千葉県 内のロケ地へ向かう車内の様子を助手席から撮影していたが、この際、運転席と助手席のヘッドレスト が邪魔になると番組ディレクターが判断し、外して走行した。3月26日 の再放送の後、視聴者から問い合わせがあり発覚。NHKはこの件で、警視庁 代々木署 から道路運送車両法 違反で注意を受けた[35] 。
5月1日 、鹿児島放送局 がNHK受信料の契約業務などを委託している請負会社の契約社員が、鹿児島県 の霧島市 の男性の衛星放送受信契約書を偽造していたことが発覚した。男性の口座からは、半年分のデータを偽造されたNHK-BS 放送が含まれた受信料を、銀行口座から引き落としていた。鹿児島放送局と委託会社が男性に謝罪し、NHK受信料 は返還された[36] 。
11月、放送総局に所属する40代の男性アナウンサーが電車内で女性の胸をさわったなどとして、強制わいせつの疑いで現行犯逮捕。男性はニュース番組「おはよう日本」の週末・祝日キャスターなどを務めていたため大きく報道された[37] 。翌12月、東京地検 は被害者側の告訴が得られなかったとして不起訴処分とするが、NHKは男性キャスターに3か月の停職処分を下した[38] 。
2013年
2008年4月、NHKがニュース番組で放送した、札幌市の写真家が撮影した風車写真を無断使用した民事事件は、損害賠償金支払命令40万円の一審判決から、増額された二審判決賠償額104万円+法定利息に増額され、3月27日付で最高裁が上告を棄却したので、二審(高裁)判決が確定した。[39]
名古屋放送局 が、4月1日 から8月19日 にかけて放送した東海 ・北陸 地区向けの天気予報において、三重県 の津市 と岐阜県 の岐阜市 の予報表示が入れ替わっていたことが明らかになった。コンピュータシステムのプログラム更新の際に設定ミスがあったことが原因だった[40] 。
6月26日 から7月19日 にかけ、総合テレビとEテレで、EテレをPRする目的で流した映像について、1秒間につき3回までと定められている光点滅ガイドラインの基準を超える、計8回の光点滅を含む映像が計45回流された[41] 。
10月16日 、NHK放送技術研究所 の主任研究員が音響設備会社に架空発注を行い、約280万円を振り込ませる、百数十万円相当の物品を受け取っていたなどして、同職員を懲戒免職処分 とし、詐欺罪 の疑いで警視庁 に刑事告訴 すると公表した[42] 。
2014年
「魂の旋律」事件
2月5日 発売の『週刊文春 』2月13日 号が、当時盲目の作曲家として注目を集めていた佐村河内守 を取りあげ、実際には佐村河内が視力を失っておらず、自作として発表された曲の大半も別人の作曲だったと暴露した(「全聾 の作曲家はペテン師 だった!」)。のちに佐村河内は会見を開いてこの事実を大筋で認め、実際の作曲を行っていたのが新垣隆 であることも明らかになった。
佐村河内の人気を押し上げるきっかけの一つとなったのがNHKが前年2013年の3月に放送した「魂の旋律 音を失った作曲家 」だった。この番組は佐村河内が自ら作曲を行う内容で構成されており、暴露報道によって、その大半が否定されることとなった。「魂の旋律 音を失った作曲家」はNHKオンライン から大部分が削除され、NHKオンデマンド では映像配信が停止された。
「出家詐欺」過剰演出問題
5月に放送された『クローズアップ現代 』(追跡 “出家詐欺” ~狙われる宗教法人~)で、多重債務者が出家して融資を受ける「出家詐欺」のブローカー役が出演したが、これが大阪放送局の男性記者による捏造だったと『週刊文春』が報道[43] 。NHKは調査を行い、番組に「過剰な演出」があったと認めて、男性記者を停職3か月の懲戒処分とした。これを受けて『クローズアップ現代』でも当時の国谷裕子キャスターが番組内で謝罪した[43] 。
2015年
2015年1月2日、籾井が私的にハイヤー でゴルフ場に出かけた際、乗車代金がNHKに請求されていたことが内部通報で明らかになった。
NHKの子会社であるNHKアイテック の本社と千葉事業所の社員計2人が、実体のない会社に対し、受信施設の工事や業務などの架空発注を繰り返し、計約2億円を着服していたことが12月17日に明らかになり[44] 、2人は2016年2月に懲戒免職、2016年12月逮捕[45] 、2017年1月再逮捕[46] 、東京地裁で2017年4月東京地裁で懲役2年2カ月の実刑判決[47] と2018年3月懲役4年の実刑判決[48] が下った。
2016年
1月29日、さいたま放送局 が「埼玉県警察 の記者クラブ に所属する記者3人が1年余りに渡り、業務用タクシーチケットを友人との会食など私的な移動に使用していた」として、31歳の記者を諭旨免職(約36万円分)、23歳の記者を停職1ヶ月(約12万円分)、29歳の記者を出勤停止5日(6,850円分)としたほか、管理・監督責任のある放送局長や放送部副部長など上司5人も3日から14日の出勤停止とした[49] 。
2017年
1月、横浜放送局 営業部に所属していた40代の男性職員が、受信料数十万円を着服していた疑いがあると発表した。職員はNHKが調査を進めていた2016年10月中旬に死亡したという。NHKによると、職員は2015~2016年、受信契約に関する架空の伝票を複数回にわたって作成。受信料を先払いしている受信契約者の個人情報 を悪用し、契約を解除したように装うなどして、払戻金を着服していたとみられる。NHK広報部は、個人情報を悪用された契約者への影響は「ない」とし、今後も調査を続け被害額を確定させた上で、遺族らに弁済を求める方針である。NHKは「誠に遺憾であり、再発防止に努めてまいります」としている[50] 。
2月、山形放送局 に勤務する20代の男性記者が強姦致傷などの罪で逮捕された[51] 。男性記者が山形、および前任地の山梨(甲府放送局 )の両県で2013〜2016年に女性3人の自宅に侵入、性的暴行を加えた疑い。男性記者は逮捕後に懲戒免職され、2018年に山形地裁 は「常習性が高く、反省の態度が見られない」として懲役21年を言い渡した[52] 。
警視庁調布警察署 は3月30日、強制わいせつ 容疑でNHKが業務委託する会社の社員を逮捕した[53] 。2016年11月14日、NHK受信料の契約のために訪れた調布市 内のアパートで、犯行に及んだとみられる。
2018年
2016年 及び2017年 の紅白歌合戦 の責任者を務めていたNHK制作局エンターテインメント番組部元部長の50代の男性職員が、女性職員にセクシャルハラスメント をしたとして、8月に停職 3ヵ月の処分を受けていたことが判明した[54] 。
オウム真理教 の後継団体であるアレフ の取材をしていた札幌放送局 のディレクターが、住民らへのインタビューを録音したデータの含まれたサイトを、アレフ本部へ誤送信していたことが明らかになった[55] 。
同局のバラエティ番組『テンゴちゃん』の制作の委託を受けている会社が、街頭インタビューの映像などの含まれたファイルを、誤ったメールアドレス に誤送信していたことが明らかになった[56] 。
帯広放送局 の51歳の技術部副部長が、単身赴任 手当など524万円を不正に受け取っていたとして12月11日付で懲戒免職処分にした[57] 。
2019年
2018年に放送したNHKワールド JAPAN のドキュメンタリー番組『Inside Lens』で、家族や友人などの代役を派遣するサービスについて取り上げたが、サービスを運営する派遣会社のスタッフが利用客を装って出演していたことが明らかとなり、5月29日の記者会見で謝罪した[58] 。
6月、NHKは、放送総局大型企画開発センターの40代の男性チーフ・プロデューサーが、2月に強制わいせつの疑いで逮捕されていたと発表した[59] 。東京都 練馬区 の歩道で、徒歩で帰宅途中だった40代女性の肩をつかんで押し倒した後、わいせつな行為をした疑い。男性はAI(人工知能)を活用した特別番組を担当していた。
2019年9月18日に放送した「アッキー&ヤナギーがゆく!もっと知りたい沖縄・石垣島」において、石垣島 の陸上自衛隊 施設の予定地付近に、農業用水に使用されている川があることに対し、配備予定地から約1.6km離れた農業用ダムの水源の映像に併せて、石垣島の水道水の8割を賄っていると、誤った発言やテロップを流した。これに対し、沖縄県 の石垣市 議会は抗議決議を可決した。NHKは川が農業用水であるとを承知しており、配慮すべきだったと釈明した[60] 。
2019年12月27日、NHKニュースサイトなどで「北朝鮮 のミサイル 海に落下と推定」などとする誤報を流した。その後、NHKは速報を取り消し、TV放送などで訂正・謝罪した。「ミサイル発射対応訓練中に、誤って放送ボタンを操作したことによるミス」と説明された[61] [62] 。
2021年
2021年5月30日放送の『将棋フォーカス 』において、一部コーナーで外部サイトの説明文をそのまま無断引用する形で同番組のナレーションに使用していたことが後日判明し、ホームページにて謝罪した[65] 。これを受けて、同サイトの運営者はNHKを相手取り裁判を起こしていたが、東京地方裁判所は2022年9月に請求棄却の判断を出した[注 2] [66] [67] 。
2021年12月26日にBS1スペシャル 「河瀬直美 が見つめた東京五輪 」が放送された際、番組内のインタビューで表示された「五輪反対デモ に金をもらって参加した」とする字幕について、翌2022年1月、制作した大阪放送局 は誤りだったと発表して謝罪した[68] [69] [70] [71] 。この問題はのちに放送倫理・番組向上機構 (BPO)の放送倫理検証委員会が制作関係者などへの聞き取りをもとに審議し、2022年9月に「重大な放送倫理違反があった」と結論づける見解を公表した[72] 。委員会によると、聴き取りに対し、番組制作に関わったほぼ全員が「デモや社会活動に関心がなかった」と答え、「デモの参加者にお金が支払われることに違和感を抱かず、報道価値も感じなかった」と話したスタッフもいた[73] 。委員会はNHK側の事後対応の「不誠実さ」と合わせ、「NHK全体の信頼を毀損しかねないものだった」と厳しく批判した[73] 。
2022年
NHKが関連会社であるNHKテクノロジーズ に対して発注した和歌山県 の高野山 テレビ中継放送所の更新工事を行った際に小型運搬車で資材を搬入する目的で和歌山県や高野町 の許可無く、世界遺産 である「紀伊山地の霊場と参詣道 」構成資産の高野参詣道女人道の路肩や階段を一部破損し、文化財保護法 違反にあたるとの指摘が寄せられたことを受けて、4月15日に謝罪すると同時に工事を一時中断した[74] [75] [76] 。
6月1日、取材の移動のためだと偽って旅行会社から乗車券と特急券計120枚(販売価格計約105万円)を詐取したとして、NHKの子会社であるNHKグローバルメディアサービス の元社員が詐欺容疑で逮捕された。同様の手口を繰り返し、2017年7月~21年10月に計780回、総額約1億8千万円の不正な購入をしていたとみられている[77] 。
6月8日に尾瀬国立公園 において、同月19日にBSプレミアムで放送予定の番組撮影として、撮影スタッフが同公園内の木道を通行止めにした状態で撮影を行った[78] 。同公園を管理する関東地方環境事務所 によれば、NHK側は「ドローンの撮影がメイン」としていた[78] 。
6月24日、NHKは国際放送局に所属する50代男性の管理職職員を24日付で諭旨免職にしたと会見で発表した[79] 。この職員は海外特派員だったこともあり、チーフ・リードと呼ばれる管理職だった。2019年6月から22年1月にかけて、まだ公共交通機関が動いている時間帯に帰宅のためタクシー券を使ったり、日帰り旅費の電車代を虚偽の理由で請求するなど、合計70万3728円の不正を働いていた[80] 。男性は不正を認め、全額弁済したと発表されている[81] 。管理・監督責任で国際放送局局長など管理職5人も懲戒処分となった[81] 。
2023年
2月20日、札幌放送局 に勤務していたアナウンサー船岡久嗣 が同僚女性アナウンサー邸宅への侵入容疑で警視庁に逮捕された[82] 。この事件により船岡はストーカー規制法 に基づく禁止命令を受けた後、不起訴となったものの、NHKは4月21日に「公共メディアの職員として社会的信用を大きく損なった責任は重い」として船岡を諭旨免職処分とした[83] 。
6月13日、独ソ戦を取りあげたドキュメンタリー番組『映像の世紀 バタフライエフェクト 』(5月22日放送)の中に誤りがあったとNHKが発表した[84] 。発表によると、番組中でスターリンのものとして紹介した発言がまったく別人のものだったほか、複数の誤りが見つかった。放送後にSNSなどで専門家から批判が集まっていた。NHKは6月11日に誤りを修正して再放送したが、番組中では修正の有無は触れず、番組ホームページで謝罪したのみだった[85] 。
6月19日、1955年に放送された、長崎県 の端島炭坑 (通称:軍艦島 )を紹介した番組『緑なき島』を巡り、NHK幹部が自民党会合で、番組中で「軍艦島での朝鮮人の強制労働」として流された映像が戦後に撮影されたものだと判明したと説明した[86] [87] [88] 。保守派メディアなどでは、この映像が「韓国で戦時中の「朝鮮人強制連行」を表すものとして使用され誤解を広めている」とする批判が起きた[89] 。特命委員長の有村治子参院議員によると、出席したNHKの担当者は今後この映像を使用しない方針を示したとされる[87] 。
8月9日、水戸放送局 はかつては茨城県内で開催されていたものの、新型コロナウイルス感染対策などの観点から2022年から会場を千葉県に移して開催していた野外音楽フェス「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 」を2024年は茨城県ひたちなか市 の国営ひたち海浜公園 でも開催することを独自報道 として報じた[90] 。しかし、同イベントの総合プロデューサーである渋谷陽一 はNHKに対して「公式と同時に発表することを要望していたにも関わらず、全く聞いてもらえなかった」として、同局の姿勢を批判した。同月10日、水戸放送局は「(同イベントの)開催について、関係者の皆様が様々な調整を重ねてこられた実情をくみ取り切れていなかった」として、謝罪した[91] [92] 。
11月2日、NHK報道局の記者が、私的な飲食を取材と称し、約34万円を不正に経費請求していたことが判明し、懲戒免職にすることを発表した[93] 。12月19日、この問題でNHKは外部有識者から成る第三者委員会を設置し、調査した結果、不正な経費請求は789万円である事を発表した[94] 。
12月、放送センターに勤務していたアナウンサーの青井実 が上司の許可を得ずに親族企業から役員報酬を得ていたとして、兼職を禁止する服務準則に基づいて厳重注意を受けていたことが2024年1月に報じられた[95] [96] 。後に青井は2024年2月に退職[97] 。同年3月に行われたフジテレビ の夕方ニュース番組『Live News イット! 』のキャスター就任会見の中で謝罪した[98] 。
12月21日、内部監査室の職員3人が内部監査に関する規定等に違反し、内部監査の資料を持ち出すなどの行為をしていたことが認められ、3人を停職1ヶ月にした[99] 。
新型コロナ関連動画でBPOが意見書
5月15日の報道番組「ニュースウオッチ9 」で、新型コロナ の5類移行 後の社会状況をつたえる約1分間のVTRが放送された際、新型コロナウイルスワクチンの接種後に家族が死亡したと訴えている遺族を「コロナ感染で死亡した」と受け取られるように紹介していた[100] 。遺族らは取材時の趣旨説明と異なり、また発言の意図をねじまげられたとして放送後にNHK側へ抗議し[101] 、さらに放送倫理・番組向上機構(BPO) へ訴えを出した。
NHKは調査の結果、取材者の認識不足やチェック体制の不備をみとめて翌日16日の番組内で謝罪[100] 。取材した職員ら4人に出勤停止や譴責・減給などの処分を行った[102] 。またBPOも審議の結果「放送倫理違反があった」とする意見書を出した。
問題発覚後に「NHKがワクチン被害を隠蔽しようとしたのではないか」などとする観測が一部で行われたが[103] 、意見書によるとこの問題は、取材した職員に映像製作・取材の経験がなく「コロナ感染での死亡とワクチン接種による死亡でも大差ない」という取材不足による思い込みにとらわれていたこと、また番組のエンディングに流す1分間のナレーションのない動画にすぎないと軽んじて上司らが内容や取材プロセスの厳しい吟味を行わなかったために起こった事案とされ、内部の規律のゆるみや指導体制の不備が指摘された[104] 。
取材メモ流出
11月、報道業務にたずさわる記者が番組製作のため作成した関連の企画書や取材メモがソーシャルメディアX(旧ツイッター)上に流出したことが判明した[105] 。メモにはインタビュー記録が含まれており、これは、若年女性を支援する一般社団法人「Colabo (コラボ)」に対してかつて中傷を繰り返した「匿名男性」に対して行ったとされるもので、19ページにわたってその一問一答などが詳細に記されていた[106] 。
このインタビュー内容を、匿名男性が「中傷に加わったきっかけ」として挙げていたXアカウント所有者がX上に「タレコミがありました」と述べて公開したことから、発覚した[106] 。コラボ側は、このアカウント所有者が名誉を毀損したとして提訴しており、後にNHK側は「流出先としてあってはならないところに流れてしまった」と述べている[105] 。
調査では、NHKの子会社が契約している30代の派遣スタッフが流出させたことを認めている。この派遣スタッフはニュースのテロップの制作などに関わっていて、専用端末への限定的なアクセス権限が与えられていたという[107] 。取材内容が報道目的以外で流出したことは「取材対象者との信頼関係を損なう重大な失態」として強い批判を浴びた[105] 。NHK側は取材した男性と、女性支援団体に謝罪[108] 。また端末の管理体制や、操作するスタッフへの教育強化などに取り組むと発表した[109] 。
2024年
ラジオ国際放送での不規則発言
8月19日、NHKワールド・ラジオ日本 並びにNHKラジオ第2放送 で放送した『中国語ニュース』の中で、靖国神社 の石柱への落書きを報じたさい、放送原稿を読み上げていた中国籍の外部スタッフが、約20秒間、沖縄県 の尖閣諸島 の帰属などをめぐって突然以下のように発言した[114] 。
「釣魚島と付属の島は古来、中国の領土です。NHKの歴史修正主義宣伝とプロフェッショナルではない業務に抗議します」(中国語) 「南京大虐殺 を忘れるな。慰安婦 を忘れるな。彼女らは戦時の性奴隷だった。731部隊 を忘れるな」(英語)[115]
これらの内容は日本政府の公式見解と異なっており、原稿にもこうした表現はなかった。また放送原稿を読み上げているさいにも、「『軍国主義』『死ね』などの抗議の言葉が書かれていた」と、原稿にはない文言を加えていた[116] 。男性は48歳で、2002年にNHK国際放送で関連業務を開始[115] 。放送時点では、関連団体であるNHKグローバルメディアサービスを通じてNHKと業務委託契約を結び、NHK原稿の中国語訳と生放送での読み上げ業務を担当していた[115] 。NHKはこの事態を受けて、関連団体を通じて厳重に抗議すると共に、21日付でこのスタッフとの契約を解除した[115] 。
NHK会長の稲葉延雄 は、同月22日に自民党情報通信戦略調査会に出席して経緯を報告し「国際番組基準に抵触する極めて深刻な事態だと受け止めている」と謝罪した。調査会の自民党衆議院議員で事務局長の大岡敏孝 は「放送法 違反の案件で非常に深刻と受け止めている」と指摘[117] 。NHKでは同月26日に総合テレビ・ラジオ第1で5分間の謝罪放送を行った[118] 。
9月10日、NHKは国際放送担当の傍田賢治理事が同日付で辞任すると発表した。稲葉会長、井上樹彦副会長、山名啓雄専務理事、中嶋太一理事と、中国人スタッフと委託契約していたNHKグローバルメディアサービスの幹部2人を役員報酬50%を1カ月自主返納とした他、国際放送局長ら5人を減給などの懲戒処分にした[119] [120] [121] 。また同日、中国人スタッフの発言は「放送の乗っとりとも言える事態」だったうえ、「事案の発生時に即座に対処できなかっただけでなく、視聴者・国民への適時の説明などでも対応が十全でなかった」などとする調査結果を公表した[122] 。11日、総務省は「「放送法の規定に抵触すると認められ、看過できない」としてNHKを注意する行政指導をした[121] [123] [124] 。
NHKは不規則発言をおこなった外部スタッフに対して、放送に対する信頼を失墜させる民法上の不法行為だとして1100万円の損害賠償を求めて提訴したほか、刑事告訴についても検討するとした[125] 。また生放送で発生したことから、英語をのぞくすべての言語の放送を事前収録に切りかえ[125] 、さらに放送でのAI音声の早期導入を検討するとした[126] 。
この外部スタッフは、当人のものとされるSNSなどの書き込みから、既に中国へ帰国したとされている[114] 。NHKでの待遇や勤務条件にたびたび不満を漏らし、さらにネット上で自身の個人情報を特定された場合に中国政府から攻撃されるリスクがあるとして不安を訴えていたという[115] [127] 。
職員の不祥事ではないがNHKの組織的問題等として報道された事件・事故、またNHKが関連する訴訟など。NHK側が問題性を否定しているものも含む。
2002年
4月28日に放送された『NHKスペシャル』「奇跡の詩人 」では、重度の脳障害を抱えた少年が文字盤にある文字を母親の補助で指すことによって他の人とコミュニケーションを図るという内容であったが、子供が居眠りをしたりしている間も正確に文字盤を指しているなど、不自然な場面が多々見られるという指摘がなされ国会でも取り上げられた[128] 。NHKは釈明放送を行い、児童が自分で文字盤を指しているように見えたので児童の意思であると結論付けたが、放送終了直後関連書籍を発行した講談社とのタイアップ疑惑も指摘された[128] 。この疑問を巡っては『異議あり! 「奇跡の詩人」』という批判本も出版された。
2005年
NHK番組改編問題
1月、従軍慰安婦問題 を扱った番組『ETV特集 』(2001年1月放送)で、番組を担当したプロデューサーが会見を開き、自民党議員による政治的圧力で当初の番組内容が改変されたと告発。また同時期に朝日新聞も、この議員らが事前にNHK幹部を呼びつけて圧力をかけた結果、番組の内容がねじまげられたと報じた。両議員とNHK側は、ともに報道を完全に否定し、NHKと政治の関係をうかがわせる事件として大きな注目を集めた[129] 。
番組に出演・協力した市民団体などは、当初説明されたのとは全く異なる内容が放送されたとしてNHK側を提訴した。控訴審では原告側の訴えを一部みとめ、NHKなどに損害賠償を命じたが、最高裁判決はこれを破棄し、原告側の敗訴が確定した[130] 。一方で「放送倫理・番組向上機構 (BPO)」放送倫理検証委員会は、市民団体から提議をうけてこの問題を審議し、NHKに放送倫理上の問題があったことを認めた[131] 。
2007年
2007年9月12日 、NHK関連33団体の2005年度末の余剰金が、計886億8800万円に上ることが、会計検査院 の調査で判明し、改善を求められた[132] 。
2017年
記者過労死事件
10月4日 、『ニュースウオッチ9 』が2013年 にNHK職員が過労死していたと放送。この職員は首都圏放送センター所属の31歳の女性記者で、うっ血性心不全 による過労死 、2014年に労働災害 に認定されていた[152] [152] 。東京都議会議員選挙 や参議院議員通常選挙 の取材に携わっていたおり、時間外労働時間は死亡直前の1か月間が159時間37分、5月下旬から1か月間が146時間57分に及んでいたという。死後4年もたってからの放送となったのは、NHK側の対応に不満をもった遺族が事実を公表したためとみられている。放送につづいて、NHK会長の上田良一 が記者の両親宅を訪問して謝罪した。
放送が遅れた理由についてNHKは「遺族の要望で公表を控えていたため、報道しなかった」と説明したが、遺族は「NHKの説明は間違いである」と、厚生労働省 での記者会見でさらに批判した[153] 。NHKに対しては、遺族が事実を公表しなければ情報を隠蔽しつづけたのではないか、なぜ『NHKニュース7 』など他の番組では放送しなかったのか、といった批判が集まった[154] 。
本件により、NHKはブラック企業大賞 2017年度ウェブ投票賞を受賞した[155] 12月14日、女性記者の過労死事件を受けて、4月1日から記者職を対象に導入した専門業務型の裁量労働制 について、渋谷労働基準監督署 から指導を受けた[156] 。
2020年
2020年5月6日のNHK NEWS WEBは「防衛省はイージス・アショア の秋田県 新屋演習場への配備について、住宅地との距離や地元の反対を理由に事実上断念し、別の候補地を検討する方針を固めた」と読売新聞 オンラインに後続して報じたが河野太郎 防衛相や菅義偉 官房長官は断念はしておらず、ゼロベースの検討下であるとしてこれら報道を否定し、防衛相はフェイクニュースと非難した[166] [167] 。6月15日、防衛省 は山口県 むつみ演習場内へのブースター落下が困難であることを理由として、秋田・山口両県への同システム配備プロセスの停止を発表したが、防衛相は自身のブログで、この決定と5月6日の報道は無関係であると回答している[168] [169] 。
2022年
知床遊覧船沈没事故 に関し、兵庫県 在住の犠牲者遺族への取材を巡り、兵庫県警 記者クラブ におけるメディアスクラム 防止の申し合わせに反し、幹事社であるNHKはこの遺族に対して個別取材を行い、その際に記者に遊覧船会社の遺族らに対する説明会での情報・資料を「記者クラブ全社で共有してほしい」と託されたにもかかわらず、5月5日に「独自スクープ」として報道。同記者クラブにはこの遺族からの抗議が寄せられ、NHKはこのことについての説明責任 を果たそうともしなかったことから、同月27日に記者クラブの総会で「幹事社業務を怠り、遺族と報道機関との信頼を損ねた」「説明責任を尽くさず、クラブの品位を傷つけた」としてNHKの除名が決定。今後はクラブ主催・共催の記者会見 に出席できなくなり、クラブ内のブースも使用できなくなる。なおNHK側は同月30日にはクラブから退去しているという[170] [171] 。
9月、NHKが会見を開き、首都圏放送センター(現在の首都圏局 )の都庁キャップを担当していた40代の男性管理職が2019年10月に死亡し、渋谷労働基準監督署から2022年8月に労働災害認定を受けていたと発表した。過労死とみられている[172] 。NHKは会見で「長時間労働による負担があった」と認めて謝罪[172] 、男性の遺族は「職員の命を奪うほどの長時間労働を認める組織風土」を強く批判した[173] 。
2023年
2022年7月頃から当時のNHK会長である前田晃伸 の下でインターネット同時配信サービス「NHKプラス 」の配信対象波にBS放送も加える計画を秘密裏に進め、まだ関連規則などが改正されていないにもかかわらず、2023年3月に国会 にて承認された同年度のNHK予算にその関連費用が計上されていたことが発覚したため、この計画を白紙撤回すると共に謝罪した[174] [175] [176] [177] 。
注釈
「悪あがきをすればするほど、あなたの評価は下がる一方だ」「仮に有罪判決になってもインタビュー に出て世間に本音をさらしたことで執行猶予 がつくのは間違いない」「逆に無罪を主張し続ける限り、減刑の余地はなく、実刑になる可能性も否定できない」などと書かれていた。
川崎泰資『NHKと政治 : 蝕まれた公共放送』(朝日文庫, 2000)
高島秀之『NHK改革』(創成社、2008)
永田浩三『NHKと政治権力 : 番組改変事件当事者の証言』(岩波現代文庫, 2014)
飯室勝彦『NHKと政治支配 : ジャーナリズムは誰のものか』(現代書館、2014)