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元素の中国語名称

中国語による元素名称の表記及び発音 ウィキペディアから

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元素の中国語名称(げんそのちゅうごくごめいしょう)は、中国語における化学元素の表記と発音のことであり、現在では、1元素につき漢字1文字、1音節である。古来の漢字のうちに化学元素を表すのに適切な文字がない場合は、形声の方法で新しい漢字が作られる。元素を表す漢字の部首は、金属元素気体元素などの区別を反映している。中華人民共和国(大陸)と中華民国(台湾)では若干異なる字を用いる。

部首

現在では、化学元素を表す漢字は、必ず次の4種類の部首のいずれかに属する形声字である。過去にはこの法則に合わない漢字も使われていたが、そのような字はこの法則にあてはまる字に置き換えられた。

なりたち

要約
視点

2017年1月現在、化学元素は118種類が国際純正・応用化学連合(IUPAC)で命名されており、そのうち全種類(118字)について漢字が決まっている。118字のうち、古来物質の種類を表す字は、原子番号順に、「硼」(ホウ素。その化合物のホウ砂漢方薬として知られていたが、単体のホウ素は中国で知られていなかった)、「硫」(硫黄)、「鐵」()、「」、「」、「」、「」、「汞」(水銀)、「」のわずか9文字である。それ以外の109文字は、19世紀以降に元素を表すために転用または考案された字である。

109文字のうち、原子番号順に「」、「」、「」、「」、「」、「」、「」、「」の8文字は、意訳により元素を表すために転用または考案された。

  • 」:水素は当初「輕氣」と訳した。「輕」から音符「」を取り出し気体元素を示す「气」と組み合わせた。
  • 」:炭素は当初「炭」と訳した。これに固体の非金属元素を示す「石」を組み合わせた。
  • 」:窒素は当初「淡氣」と訳した。「淡」から音符「炎」を取り出し「气」と組み合わせた。
  • 」:酸素は当初「養氣」と訳した。「養」から音符「羊」を取り出し「气」と組み合わせた。
  • 」:リンは本来鬼火を表す「燐」の転用で表した。次に、これの「火」を「石」に取り替えて、「」の転用で表した。「」は本来「」で水の流れや玉石の輝きを形容する漢字であった。
  • 」:塩素は当初「緑氣」と訳した。「緑」から音符「」を取り出し「气」と組み合わせた。
  • 」:臭素は本来潤いを表す「」の転用で表した。
  • 」:白金は当初「白金」といった。これを1文字にまとめるために、本来金属箔を表す「」を転用した。

109文字のうち、残りの101文字は、音訳により元素を表すために転用または考案された。よって、漢字の旁(形声字の音符)の字義と元素の性質との間に全く関連がない。その代わり、旁の発音(形声字の発音)が、西洋の言語でその元素を意味する単語のうちの1音節を模している。第1音節を模する例が多い。

  • 第1音節を模する例
    • ヘリウムを表す「」は、音符「亥」に従い「hài/ㄏㄞˋ」と読む。
    • セレンを表す「」は、音符「西」に従い「xī/ㄒㄧˉ」と読む。
    • リチウムを表す「」は、音符「里」に従い「lǐ/ㄌㄧˇ」と読む。
  • 第2音節を模する例
    • ラドンを表す「」は、音符「冬」に従い「dōng/ㄉㄨㄥˉ」と読む。
    • 砒素(英語では「arsenic」)を表す「」は、音符「申」に従い「shēn/ㄕㄣˉ」と読む。
    • アルミニウムを表す「」は音符「呂」に従い「lǚ/ㄌㄩˇ」と読む。
  • 第3音節を模する例
    • 沃素(英語では「iodine」)を表す「」は、音符「典」に従い「diǎn/ㄉㄧㄢˇ」と読む。

ところで、109文字のうちには、本来元素とは無関係の意味であった既存の漢字であって元素の名称を表すのに転用されたものと、元素の名称を表すために新たに考案されたものとがある。前者の例は前出の「」「」「」であり、この場合、中国の古典にそれらの字が見えるからといって、中国でその時代に白金、リン、臭素が知られていたことの証拠とはならないことは勿論である。

また、紛らわしいことに、過去に別の元素を意味していた漢字を新発見の元素の命名に転用した例がある。

過去には、2種類の元素を同じ字で表したことがあった。

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発音

元素を表す漢字は全て形声字であるので、大体、の発音に従って発音する。ただし、古来物質の種類を表す9文字を除いても例外がある。例えば、「」(酸素)の発音は、「羊」(yáng)と同じではなく「養」と同じ「yǎng」であり、「」(ナトリウム)の発音は「」(nèi)と同じではなく「」と同じ「nà」である。

大陸の普通話の発音では、声調も含めて全く同音に発音される元素の組が一つある。「」(セレン)と「」がそれであり、発音は「xī」である。

台湾の国語では、声調も含めて全く同音に発音される元素の組が一つある。*「硫」(硫黄)と「」(ルテチウム)が「liú[2][3] である。

広東省香港などで使う広東語では、次の4組が同音である。

  • 」(亜鉛)と「」(砒素
  • 」(ローレンシウム)と「鑪」(ラザホージウム
  • 」(ロジウム)と「」(ルテチウム
  • 」(クリプトン)と「𨭆」(ハッシウム

大陸と台湾の差異

要約
視点

新発見の元素の漢字による命名は、中華人民共和国(大陸)と中華民国(台湾)のそれぞれで行われる。大陸では、政府の全国科学技術名詞審定委員会が命名する。台湾では、国立編訳館が命名する。

命名がそれぞれで行われる結果として、大陸では簡体字を用い台湾ではこれを用いないという点を除外しても、大陸の用字と台湾の用字との間には若干の差異が生じている。大陸の用字(繁体字)と台湾の用字とを比較対照し、両者の用字が異なる元素を探すと、次の表のように11種類(2013年8月以前は14種類)が見つかる。表には、元素の発見年を付記している[4]

さらに見る 原子番号, 元素記号 ...

珪素とルテチウムを除くと、用字が大陸と台湾で異なる元素の発見年は、1937年から1974年までの約40年間に集中している。そして、1980年以降に発見された元素は、簡体字と繁体字の差はあるものの、大陸と台湾で同じ字で表す。新元素の発見から漢字による命名までのタイムラグを考慮すると、この結果は、大陸で中華人民共和国が成立した1949年以降1970年代が終わる頃まで、大陸と台湾との間の交流が活発でなかったことの反映と解釈できる。

珪素とルテチウムは、中華人民共和国の成立前に既に漢字で「」「」と命名されていた。その後、同国では、「」が「」(セレン)および「」と同音であり、「」が「硫」(硫黄)と同音であるのを嫌い、1955年にそれぞれ「硅」、「」に改名した[10]。その結果、この2種類の元素の用字は、大陸と台湾で異なることとなった。

新発見の元素の命名に当たり大陸が採用する原則は大体次のとおり[11]

  • できるだけ既存の漢字から選定し、新しい字の考案は避ける。
  • できるだけ、画数がほどほどで、形が美しく、構造が単純で、ほかの字と区別しやすい字を選定または考案し、奇怪な字は避ける。
  • 発音が国際純正・応用化学連合(IUPAC)の命名に近い形声字を選定または考案する。
  • 既存の元素と同音になる字や読み方が複数ある字は避ける。
  • 既存の漢字から選定する場合は、生活常用字をできるだけ避ける。
  • 大陸と台湾、中国語文化圏の科学技術用語の統一のために、繁体字と簡体字で差がない字が最も好ましい。

なお、UnicodeCJK統合漢字には旧称の釒拉、釒都は収録されていない。2024年現在CJK統合漢字拡張JブロックのそれぞれU+33185(釒拉)、U+331BE(釒都)に追加が予定されている。[12][13][14]

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固有名詞の表記との比較

要約
視点

元素には、地名、科学者の名前など、固有名詞にちなんで命名されたものが多くある。そこで、中国語における元素の名称と、元素の名称の語源となった固有名詞の中国語表記とを比較したのが次の表である。次の表では、(英語「copper」など、キプロスにちなむ名称を使う言語がある)と水銀(英語「mercury」など、メルクリウスにちなむ名称を使う言語がある)は割愛している。

さらに見る Z, 記号 ...
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一覧表

要約
視点
  • 「Z」欄は、原子番号
  • 「記号」欄は、元素記号
  • 「大陸簡体」欄は、中華人民共和国の簡体字
  • 「大陸繁体」欄は、この簡体字に対応する繁体字
  • 「大陸発音」欄は、普通話の発音(漢語拼音)。
  • 「台湾正体」欄は、中華民国(台湾)の漢字。
  • 「台湾発音」欄は、中華民国の国語の発音(漢語拼音)。
さらに見る Z, 記号 ...

周期表配列

各マスは上から元素記号、「大陸簡体」、「台湾正体」の順に表記する。色分け等の凡例は周期表の項目を参照。

1 18
H

2 13 14 15 16 17 He

Li

Be

B

C

N

O

F

Ne

Na

Mg

3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 Al

Si

P

S

Cl

Ar

K

Ca

Sc

Ti

V

Cr

Mn

Fe

Co

Ni

Cu

Zn

Ga

Ge

As

Se

Br

Kr

Rb

Sr

Y

Zr

Nb

Mo

Tc

Ru

Rh

Pd

Ag

Cd

In

Sn

Sb

Te

I

Xe

Cs

Ba

*1 Hf

Ta

W

Re

Os

Ir

Pt

Au

Hg

Tl

Pb

Bi

Po

At

Rn

Fr

Ra

*2 Rf
𬬻
Db
𬭊
𨧀
Sg
𬭳
𨭎
Bh
𬭛
𨨏
Hs
𬭶
𨭆
Mt

Ds
𫟼
Rg
𬬭
Cn

Nh
[15]
Fl
𫓧
Mc
[15]
Lv
𫟷
Ts
[15]
Og
[15]
*1 ランタノイド 57
La

58
Ce

59
Pr

60
Nd

61
Pm

62
Sm

63
Eu

64
Gd

65
Tb

66
Dy

67
Ho

68
Er

69
Tm

70
Yb

71
Lu

*2 アクチノイド 89
Ac

90
Th

91
Pa

92
U

93
Np

94
Pu

95
Am

96
Cm

97
Bk

98
Cf

99
Es

100
Fm

101
Md

102
No

103
Lr

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歴史

要約
視点

清代の1855年、イギリス人医師宣教師ベンジャミン・ホブソン(漢名、合信)は、上海墨海書館から『博物新編[16]という科学書を出した[17]。この本では、元素を「元質」と訳し、水素、窒素、酸素などの気体の性質と製法を紹介している[17]。元素名の翻訳は一貫しておらず、水素は「輕氣」または「水母氣」、酸素は「養氣」または「生氣」と訳している[17]。窒素は「淡氣」である[17]。「水母氣」は英語「hydrogen」の語源に基づく意訳と思われ、それ以外は対応する英単語の語源とは関係のない意訳と思われる。

『博物新編』の後、1870年代までには、『金石識別[18]、『格物入門[19]、『化學初階[20]、『化學鑑原[21]などの書物が化学元素の名称の中国語訳を試みた[17][22]。その訳語は、後出の対照表に示すように、著者によりまちまちである。

アメリカ人医師、宣教師のダニエル·ジェローム·マガウアン(Daniel Jerome Macgowan。漢名、瑪高温)と華蘅芳は、James Dwight Danaの『Manual of Mineralogy』という鉱物学書を翻訳し、『金石識別』と題した[18]。全12巻のうち巻十一の最後に「重率全表」という原子量の一覧表があり、意訳した元素名と音訳した元素名が登場する。音訳は、複数文字の漢字で、英単語の全音節を模しているように見える。例えば、「素地恩」(ナトリウム)は英語「sodium」の訳、「夕里西恩」(珪素)は、英語「silicium」(「silicon」の同義語)の訳と思われる。

アメリカ人宣教師のWilliam Alexander Parsons Martin(漢名、英語版記事)は、『格物入門』を著した[19]。全7巻のうち巻六が化学を扱っており、その中には「原行總目」という元素の一覧表がある。この一覧表所載の元素の一部について、中国語訳が付けられており、その訳語は、後出の表のとおりであり、大体意訳である。本書が砒素の訳に使っている「信石」とは、江西省信州で産する石を意味し[23]、これは三酸化二ヒ素を含有する。マンガンの訳に使っている「蒙石」は、音訳かもしれない。

John Glasgow Kerr(漢名、嘉約翰)と何瞭然は、George Fownesの『Manual of Chemistry』とDavid Ames Wellsの『Well's Principles and Applications of Chemistry』の両書を種本として、『化學初階』を著した[20]。後出の表のとおり、元素名は意訳したものと音訳したものとがあり、意訳も音訳も、漢字1文字としたものが多い。「」は「礬」と同音の「凡」に金偏を付けて、アルミニウムの意味を表した意訳であろう。「」は、英語「zinc」の発音を「星」の発音で模し、亜鉛の意味を表した音訳であろう。

John Fryer(漢名、傅蘭雅中国語版記事)と徐寿は、『Well's Principles and Applications of Chemistry』を訳して『化学鑑原』を出した[21]。本書巻一の「第二十九節 華字命名」では、本書で採用した命名の理由が説明されている。すなわち、元素の名称を簡潔に意訳するのは難しく、西洋の発音の全部を音訳したのでは冗長だという[24]。そこで、西洋の発音の最初の音を1文字の漢字で音訳し、それが不都合な場合は次の音を1文字の漢字で音訳し、この漢字に偏(石偏、金偏)を加えて元素の種類を表す[25]。また、元素の名称が漢字1文字でないと化合物の命名に不便であるから、従来「白鉛」や「倭鉛」と呼んでいた亜鉛は、西洋の発音(英語の「zinc」)を採り「」で表し[26]、「白金」は「」に改める[27]

『化學鑑原』が元素の名称が漢字1文字でないと化合物の命名に不便であるというのは、本書では、組成式や分子式の元素記号を漢字に置き換え、アラビア数字を漢数字に置き換えることで化合物を命名しているためと思われる。例えば、本書では、三酸化硫黄(SO3)は「硫養」で[28]二酸化炭素は「炭養」で表している(「養」は「養氣」すなわち酸素。実際は縦書き)。

4冊に見られる訳語のうち、原子番号35までの主な元素の訳語を対照したのが次の表である[17]。「淡氣」が『格物入門』では水素を指し『化學初階』と『化學鑑原』では窒素を指し、「」が『化學初階』ではアルミニウムを指し『化學鑑原』ではバナジウムを指すという混乱ぶりが見て取れる。また、『金石識別』は複数文字で音訳、『格物入門』は意訳、『化學初階』は1文字で意訳(そのために造字をためらわない)、『化學鑑原』は1文字で音訳という傾向が読み取れる。さらに、現在中国で使われている訳は、『化學鑑原』の訳に近いことが分かる。

さらに見る Z, 記号 ...

气部(きがまえ)の元素名は、石偏、金偏の元素名より遅れて登場した。気体元素を气部の漢字で表すことを発明したのは、杜亜泉中国語版であるという[30]。杜は1894年発見の元素アルゴンのために「」という漢字を考案した[30]。その後、中華民国教育部が公布した『化學命名原則』では、従来「輕」「淡」「養」「緑」で表していた水素、窒素、酸素、塩素のために「」「」「」「」という漢字が採用された[30]。「气」の左下に「輕」「養」「緑」をそのまま書いた画数の多い字[31]も、一時期使われたことがあるようである[32]

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水素の同位体

水素の同位体のうち、質量数が1から3のものは、元素と同様に、漢字1文字で表現できる。「气」の左下の部分の画数が質量数に対応する。

  • 」(piē):軽水素(プロチウム、水素1、1H)
  • 」(dāo):重水素(デューテリウム、水素2、2H、D)
  • 」(chuān):三重水素(トリチウム、水素3、3H、T)

化合物の命名

二元化合物は、元素の名称を使って、中国で「某化某式」と呼ばれる方式で命名される。例えば、塩化ナトリウムは、「」(塩素)と「」(ナトリウム)の化合物であるので「」という。二酸化炭素は「」である。「某化某式」命名法は日本語の命名法から中国語に採り入れられた[32]アンモニアは「」(ān)の1文字で表す。

元素の命名には气部(きがまえ)、水部(みず、さんずい)、石部(いしへん)、金部(かね、かねへん)の漢字を使ったが、有機化合物の命名には、火部(ひへん)、艸部(くさかんむり)、酉部(ひよみのとり)、肉部(にくづき)、口部(くちへん)の漢字を使う。有機化合物の命名にも、近代になって考案された漢字を多数使用する。

脚注

関連文献

関連項目

外部リンク

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