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1976年制作の日本の映画作品 ウィキペディアから
『犬神家の一族』(いぬがみけのいちぞく)は、1976年(昭和51年)10月16日[注釈 1]に公開された日本映画。横溝正史作による同名の長編推理小説の映画化作品の一作。製作:角川春樹事務所、配給:東宝。監督:市川崑。カラー、146分。画面アスペクト比の異なる2つのバージョンが存在する(後述)。
1970年代中頃から1980年代中頃にかけて一種のブームとなった角川映画の初作品であり、市川崑監督・石坂浩二主演による金田一耕助シリーズの第1作でもある。主人公の私立探偵・金田一耕助を初めて原作通りの着物姿で登場させた映画でもある。
映画公開のタイミングに合わせて、関連書籍、音楽などとのメディアミックス戦略を積極的に多用した草分け的作品である[3][4]。劇場公開時の併映作品は『岸壁の母』。
2006年(平成18年)には市川・石坂のコンビでリメイク版が製作された。リメイク版も石坂が金田一を演じている(→詳細は『犬神家の一族(06年版)』を参照)。
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おおむね原作どおりであるが、現代の人間に分かりやすい設定、かつ時間制限のある劇場映画であるゆえに説明過多になることを避け、また映像での衝撃度を優先した展開に変えられている部分がある。
また、以下のような原作に無い要素が追加されている。
主要スタッフのみ記す。
映画製作に強い意欲を持っていた製作者の角川春樹は、米国映画『ある愛の詩』を、原作出版元の角川書店とCIC、CBSソニーの3社によるメディアミックスでヒットさせて収益化システムを確立すると、横溝正史原作の『八つ墓村』を映画化するべく製作を開始するが、配給を想定していた松竹が自社製作を選び、角川は出資を断られてしまう。
憤慨した角川は松竹と袂を分かち、新たな配給先に東宝を選ぶと、同じ横溝正史原作の『犬神家の一族』を映画化するべく奔走する[6]。角川によれば、『犬神家の一族』を選んだ理由は、当時、洋画『オリエント急行殺人事件』の公開や海外ドラマ『刑事コロンボ』などの放映で探偵推理モノが注目され、さらに山崎豊子原作の『華麗なる一族』がベストセラーになって、縦社会を生きる日本人に受ける、普遍的なテーマだと思ったからだという[7]。
製作費は、角川が1億5000万円、東宝が7000万円を出資した[1]。
脚本は当初、長田紀生が単独で執筆したが、オカルト的な展開に角川春樹が不満を抱き、東宝の子会社である芸苑社で映画を撮っていた市川崑に監督の打診を行い、快諾した市川の元、脚本の書き直しが行われることとなった。
角川は市川崑を監督に決めた理由として、「久里子亭[注釈 4]」の共同ペンネームで脚本を書くほどミステリーが好きで、また「色彩の魔術師」と呼ばれて評価も高く、1970年代頃から見直されつつあった日本の習俗を美しく撮ろうとしていることを挙げている[8][9]。
脚本の書き直しにあたり、市川は原作者の横溝正史に承諾を求めた。横溝は「あんたなら安心やから、任しときます」と一任した。市川は日高真也と共に、長田の脚本を原作を再構成する形で書き直し、主人公である金田一耕助も、横溝の了解を得た上で、デザインは原作順守としつつ、設定を「アメリカ帰りの名探偵」から「神の使いのような無名の風来坊」に変更した。ラストで金田一が見送りを拒否して旅立つ場面は、「神様である彼の正体がバレないほうがいい」と考えた市川監督による演出である[10]。
市川は、自身が手掛ける映画の金田一耕助には、現代性な透明感があり、しかも二枚目でなく二枚目半な役者が良いと考え、TBSのタレント人気調査で3年連続トップになるなど、お茶の間では圧倒的人気を誇りながら、映画では目ぼしい実績を掴み損ねていた石坂浩二を抜擢した。製作者の角川春樹や市川喜一は「二枚目過ぎる」と反対したが市川は押し通し、犯人である犬神松子も妖艶なキャラクターにしたいと考え、候補に挙がっていた森光子でなく、歌手・司会者としても活動する高峰三枝子を起用した。高峰は「こんな人を殺す恐ろしい役はやったことがない」と初めは断ったが、市川に説得されて出演することになった[11]。
原作者・横溝正史が民宿・那須ホテルの主人役としてゲスト出演している。
音楽には、それまで劇映画を全く手掛けてこなかったジャズピアニストの大野雄二が抜擢された。角川は、サスペンスドラマ枠『火曜日の女シリーズ→土曜日の女シリーズ』(日本テレビ系、1969年 - 1974年)や『ニュースセンター9時』(NHK総合、1974年 - 1988年)のテーマ曲など、大野が作曲した楽曲にテレビを通じて日常的に親しんでおり、おどろおどろしい本作の世界に清明な「水」のような音楽を流したいと考え、クールなジャズを使用したいと、大野の起用を閃いたという。角川は、当時の日本映画の相場だった音楽費100万円に対して、1000万円以上を投じて楽曲を制作させた[12]。
劇中では作曲家小杉太一郎の唯一の邦楽作品、箏曲「双輪」が効果的に映画音楽として使われている。この曲は箏曲家山田節子の委嘱により作曲されたものである。市川はその後も「双輪」を大変気に入り、『古都』(1980年)や『竹取物語』(1987年)など、以後も箏曲が必要な時にはたびたび使用している[注釈 5]。
角川春樹は、1967年の米国映画『卒業』のサントラ盤が、劇場公開後も売れ行きが良いことに着目し、出版社の社長として、音楽が売れると原作本も売れ続けると考え、メディアミックスの一環として映画のサントラ盤LP『「犬神家の一族」オリジナルサウンドトラック』を映画公開と同時に発売した。映画と同時にサントラ盤が発売されたのは、日本では本作が初である。主題曲「愛のバラード」はシングルカットされたほか、のちに金子由香利の歌(作詞:山口洋子)によるバージョンも発売された。
サントラはヒットしたが、角川は、テーマ曲が歌であったならもっと売れたと考え、次に製作する『人間の証明』には、テーマ曲をジョー山中に歌わせている[13]。
本作は東宝ワイドフレーム(通称「東宝ビスタ」、画面アスペクト比1.5:1)による劇場公開を前提としつつ、35mmスタンダード・サイズ(1.33:1)で撮影された。
主に長野県でロケーション撮影が行われた。犬神家の屋内場面は東京の東宝撮影所の大ステージにセットを組んで撮影された。
角川は上記の制作費に加え、総額3億円の宣伝費をかけた。これは映画の宣伝と同時に、出版社として自社の文庫本(角川文庫)で展開していた『横溝正史フェア』を告知するための戦略的出費であり、1000万冊以上の文庫本に、映画の広告を印刷した、割引券としても使用可能な栞が挟み込まれた[25]。結果として、横溝正史の角川文庫本は、累計販売数1800万部の売り上げを叩き出している[26]。
テレビのスポットCMを日本映画の宣伝に使ったのは本作が初であり、「金田一さん、事件ですよ」というキャッチコピーで流されるCMに、50万円の製作費と500万円の放映料が使われた。邦画各社が「映画館から客を奪うライバル」とテレビ局を敵視していた当時としては、画期的な取り組みであったという[27]。
本作も含め、角川映画の海外セールスは(日本での配給会社に関係なく)ほぼすべて東映国際部が担当している[28]。成果については不明。
本作の公開中、使途不明金や伝票操作による着服金が110万円あるとして、角川春樹は、プロデューサーの市川喜一を横領罪で告訴した。これに対して市川は、朝日新聞を通じて「忙しい映画制作の現場では、領収書をもらえない時もある。裏金を渡すケースも出てくる」と反論記事を展開し、逆に角川を、誣告罪及び債務不履行で告訴する事態となった。「金を出す側の気持ちも考えてみろ」と憤慨した角川だったが、東宝側と話し合った結果、最終的にお互いの告訴を取り下げることになった。しかし今後の映画界のためとして、角川は今回の一件を表沙汰にした上で、以後の映画製作で発生した経費を、全て自分でチェックするようになったという[29]。
本作は1976年度の邦画で2位となる15億6000万円の配給収入を記録する大ヒットとなった[2]。
批評家やファンからも高い評価と支持を受けたが、一方、朝日新聞が1976年10月22日夕刊での本作の映画評として「角川書店の若社長が初めてプロデュースした作品だ」と書き出し、同年11月27日には、角川と同世代の映画プロデューサーの意見を匿名で「春樹氏の合理主義は、結局はもうけのためだ」と紹介するなど、当時のマスコミには「本屋の2代目の坊々が道楽で映画を作った」「文庫の宣伝のために映画を作るな」という揶揄や反感をあらわにする空気も存在した[29]。
角川春樹は、監督の市川崑と主演の石坂浩二に対して、興行で利益が出た場合は、それを更に配分する契約を交わし、市川にはギャラ500万円に加えて700万円、石坂にもギャラに利益分を加えて、それぞれ支払っている[30]。
第50回キネマ旬報ベスト・テンで第5位にランクインのほか、第1回報知映画賞作品賞などの各賞を受賞した。
キネマ旬報によれば、本作のヒットにより製作と宣伝にコストをかけた邦画の一本立て大作路線が本格的にスタートした[31][注釈 6]。また、フジテレビや徳間書店といった他業種の映画参入を促し、映画興行も邦画が洋画を上回ったため、洋画の宣伝も高額な費用を投じた手法が展開されるようになっていく[33]。
「波立つ水面から突き出た足」のシーンや、不気味な白マスク姿の登場人物・佐清などの印象的な場面が多く、後に何度もパロディされている。
発売日 | レーベル | 規格 | 規格品番 | タイトル | サイズ | 備考 |
---|---|---|---|---|---|---|
1983年 | ポニー | VHS | VAF-1109 | 犬神家の一族 | スタンダード(1.33:1) | |
ベータ | VFF-1109 | 犬神家の一族 | スタンダード(1.33:1) | |||
1983年 | ポニー | VHS | V200F71378 | 犬神家の一族 | スタンダード(1.33:1) | レンタルオンリーで、映画「金田一耕助の冒険」との2本立て |
1983年 | パック・イン・ビデオ | VHD | VHPP-44013 | 犬神家の一族 | スタンダード(1.33:1) | |
1984年3月21日 | パイオニア | LD | FH090-34KD | 犬神家の一族 | スタンダード(1.33:1) | |
1989年12月27日 | 東宝ビデオ | VHS | TG-4011 | 犬神家の一族 | スタンダード(1.33:1) | |
1991年10月25日 | パイオニアLDC | LD | PILD-1061 | 犬神家の一族 | 劇場公開版(1.5:1) | ネガテレシネによる高画質デジタル(D2)ニューマスター仕様により再発 |
2000年8月25日 | 角川映画 | DVD | KABD-78 | 犬神家の一族 | スタンダード(1.33:1) | |
2003年3月21日 | 角川映画 | DVD | KABD-550 | 角川映画クラシックスBOX〈70年代ミステリー編〉 | スタンダード(1.33:1) | 「人間の証明」「金田一耕助の冒険」との3枚セット |
2006年12月8日 | 角川エンタテインメント | DVD | DABA-0312 | 犬神家の一族 コレクターズ・エディション(初回限定生産) | 劇場公開版(1.5:1) | HDテレシネによるニューマスターをさらにレストアした究極のデジタルリマスター版で、特典ディスク付きの2枚組 |
2007年7月6日 | 角川エンタテインメント | DVD | DABA-90361 | 犬神家の一族 | スタンダード(1.33:1) | 廉価版 |
2007年7月6日 | 角川エンタテインメント | DVD | DABA-0358 | 犬神家の一族 完全版 1976&2006(初回限定版) | スタンダード(1.33:1) | 1976年版と2006年版のセット |
2011年1月28日 | 角川映画 | DVD | DABA-0765 | 犬神家の一族 | スタンダード(1.33:1) | デジタル・リマスター版 |
2012年9月28日 | 角川書店 | Blu-ray | DAXA-4250 | 犬神家の一族 | ハイビジョン(1.78:1) | 角川ブルーレイ・コレクション、デジタル・リマスター版 |
2016年1月29日 | KADOKAWA / 角川書店 | DVD | DABA-91102 | 犬神家の一族 | スタンダード(1.33:1) | 角川映画 THE BEST |
2019年2月8日 | KADOKAWA / 角川書店 | Blu-ray | DAXA-91502 | 犬神家の一族 | スタンダード(1.33:1) | 角川映画 THE BEST、廉価版 |
2021年12月24日 | KADOKAWA / 角川書店 | 4K Ultra HD +Blu-ray +特典Blu-ray |
DAXA-5817 | 犬神家の一族 | 劇場公開版(1.5:1) | 4Kデジタル修復 Ultra HD Blu-ray【HDR版】 『犬神家の一族』完全資料集成付き |
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