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直通運転

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直通運転
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鉄道における直通運転(ちょくつううんてん)とは、複数の路線・区間や鉄道事業者にまたがって旅客列車運転することである。列車乗り入れと表現されることもある。英語ではtrackage rightsまたはthrough serviceと表現する。

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JR東日本の路線へ直通運転する東武鉄道「100系特急電車スペーシア」(右)
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阪神電気鉄道尼崎駅での3社の鉄道車両が並ぶ光景。左から山陽電気鉄道5000系電車近鉄9020系電車阪神8000系電車が並んでいる。

概要

要約
視点

日本では、郊外から都心や副都心への交通の便の確保、乗り換えの不便解消、ターミナル駅の混雑解消で大都市圏の地下鉄私鉄路線が郊外の私鉄路線と直通運転するものや[1]JR国鉄から経営分離された第三セクター鉄道がJRと直通運転するものなどが代表的である。その形態は一様でなく、事実上一体的に運行されているが運営事業者が異なるために直通運転と表現されるもの[注 1] から、特急などの限られた列車のみが乗り入れているものまでさまざまである。

ヨーロッパやアジアにおいては複数の国にまたがって国際列車が運行されている。一方で、日本で見られるような地下鉄と郊外鉄道との直通運転は行われていない都市も多く、あるいは地下鉄と郊外鉄道が一体的に運営されている例もある。

貨物列車に対して使われることもあるが、貨物列車は通常複数の路線にまたがって広域的に運行されることから、旅客列車の場合と比較すると一般的な用法ではない。なお、1960年代までの車扱貨物による鉄道貨物輸送が主流の時代、私鉄が所有する貨車が国鉄の貨物列車に連結されて、国鉄線上を運行したケースも多く、「直通貨車」と呼ばれた[2]。→貨車#所有者別の分類を参照

同一路線内であっても、通常乗り換えが必要な区間を通して運転することを指して使われる例もある。

日本においては、ほとんどの鉄道事業者が施設・車両の保有と列車の運行の両方を担っていることから、事業者間の直通運転で用いられる車両を保有する事業者の違いを区別して表現することがあり、相互の事業者の車両を用いるものを相互乗り入れ相互直通運転双方向直通運転)、片方の事業者の車両が一方的に他方の事業者の路線へ乗り入れて運行するもの、自社の路線の車両は乗り入れないが、他社の車両が自社の路線に乗り入れることを片乗り入れ片方向直通運転一方向直通運転)という。また、3事業者以上の鉄道事業者が直通運転を実施するものの、例えば事業者A・事業者B・事業者Cの3事業者による直通運転で、事業者Aと事業者Cの所有車両を使用せずに事業者Bの所有車両のみの乗り入れをする場合は、事業者Aと事業者C間では相互乗り入れや片乗り入れにはならないことから、この場合は変則乗り入れ変則直通運転変則的直通運転)とも称す。なお、3事業者以上の鉄道事業者が直通運転に絡む場合は、相互乗り入れと片乗り入れ、また場合によっては変則乗り入れとを組み合わせる事例もあり、日本の首都圏での実施例を挙げると、京成電鉄では都営地下鉄浅草線や京急、芝山鉄道および北総鉄道との間では相互乗り入れの形態であるが、新京成電鉄とは片乗り入れとなっている。また、相鉄ではJR東日本と東急との間では相互乗り入れであるが、都営地下鉄三田線や東京メトロ南北線・副都心線および埼玉高速鉄道とは、当面の間は自社車両のみの片乗り入れとなっている。また、東武東上本線との直通運転を実施するが、相鉄と東武との間では両者車両の相互および東京メトロの車両による直通は実施されず、その間にある東急の車両のみが両路線間を跨って運転する変則乗り入れの状態である。

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効果

例として2013年3月16日に開始された東急東横線東京メトロ副都心線の直通運転を挙げる。この直通運転では、従前より行われていた直通運転とあわせ、横浜高速鉄道みなとみらい線東武東上線西武有楽町線西武池袋線の各線が結ばれた。東武東上線沿線の川越市を訪れた観光客は630万人を超え、これは川越を舞台にしたNHK連続テレビ小説つばさ」が放送された2009年を上回る過去最高のものである。川越市の観光課によると、2013年4月から12月は神奈川県からの観光客が全体の約13%を占め、前年比で約6ポイント増えたという。一方で横浜市への観光客も増加し、横浜高速鉄道によると、2013年4月から2014年2月までのみなとみらい線内の6駅の利用者数は前年比で約9.4%増加の約6370万人となり、沿線に大型商業施設を抱えるみなとみらい駅は約20%、元町・中華街駅は約7.6%増加した。みなとみらい線沿線のホテル宿泊者や横浜駅周辺の百貨店利用者も増加した。これに加え、沿線の私立学校の受験者の増加や、比較的割安だった東上線沿線の不動産価格の上昇も伴い、埼玉西部や神奈川で沿線の商業面にプラスの効果を生み出した[3]

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直通運転の要件

要約
視点

直通運転にあたっては、単に線路を接続させるだけでなく、地上設備や車両などの規格の統一や、運転業務・営業の取り扱いにおける事業者間の取り決めが必要となる。

地上設備

直通運転にあたっては、実施する両路線の軌間電化方式などの規格を揃えるのが通常である。しかし、現に営業している路線においてこれらを変更するには多大なコストがかかるため、車両の側で複数の方式に対応できるようにすることで、地上設備の大規模な改修を避ける例も多く見られる。

直通運転を実施する路線の軌間が異なる場合は、軌間をどちらか一方に合わせて改軌する(京成電鉄など)か、両方の車両が走行できるように三線軌条化(小田急箱根鉄道線など)が行われる。車両側で対応する例としては、スペインフランス国境のタルゴのように軌間可変車両を導入したり、中国ロシアモンゴルの国境のように台車の交換により直通を実施するものがある。この場合、接続部にはそのための地上設備が設けられる。

電化方式が異なる場合には、電化方式を一方に合わせて変更するか、複数の異なる電化方式でも走行できる設備を備えた車両(複電圧車交直流電車など)を導入して対応する。また、非電化区間へは電車はそのままでは乗り入れられないが、電車を機関車で牽引することによって直通運転を実施する例がある。この場合、車内照明や空調等のサービス電源をまかなうため、発電機の搭載や電源車の連結が行われる。

また、直通運転する区間では案内表示の交換・新設がなされるほか、直通路線間の接続駅では、線路配線や信号設備の変更、プラットホームの新設・改築などが行われる。直通運転により乗り入れてくる車両の規格に対応させるために路線全体の地上設備(直々セクションの設置など)を改修する場合もある。運用の変更に伴い車両基地の改修・新設・移転などを実施する場合もある。

車両

直通運転に使用される車両は、乗り入れ先路線の設備や運行形態に対応したものが必要である。具体的には、車両限界の要請による車両の大きさや、扉の数や位置、加減速度や最高速度など車両の性能などが挙げられるほか、軌間や電化方式の違いを車両側で対応するための装置などもある。また、当該の事業者間の取り決めにより、車両の操作方法[注 2] など、これら以外のさまざまな点についても一定の定めを設ける[注 3]

しかし、車両規格については相手の路線へ乗り入れられることが最低限の条件であって、完全な統一が必須というわけではなく、異なる車両規格で相互乗り入れを行うこともあり、日本では阪神電気鉄道と近畿日本鉄道との間、福井鉄道とえちぜん鉄道との間、他路線を介して乗り入れする例としては東京急行電鉄(東急電鉄)東横線と東京メトロ日比谷線を介して東武鉄道伊勢崎線との間(東急は当時18m級車両、東武は20m級車両での運行、東横線の20m級車両は1969年の8000系が最初)での事例が挙げられる(ただし、この3社は直通運転開始前の1957年に「2号線車両規格」を制定し、この基準を満たしている車両以外は直通運転運用には充当されなかった[4])が、東横線と日比谷線との直通運転は2013年3月15日を以て終了している[5]

また、信号方式や保安装置ATSATC等)、列車無線の通信方式などが異なる場合、すべての事業者に対応できるよう同じ機能を異なる方式で複数搭載する必要が発生する。場合によっては、これらの設備を直通事業者間で統一した上で直通運転を行うこともある[注 4]

非常時の救援に備え、連結器も各者で共通化することが理想ではあるが、困難な場合は異なる連結器同士をつなぐための中間連結器を車両側および地上側に常備するが、あるいは専用の牽引用車両を用意することもある。

なお、一部の車両のみを直通運転に対応させ、残りの車両は直通運転させず自社線内のみを運行させるという方法も採られている。車両の保有数や系列が多岐に渡る大手私鉄などでは一部の系列や編成のみが対応車として充当されることが多い[注 5]。若しくはほとんどの車両が直通対応となるが自社線で特急に充当されることなどを理由に直通対応から外されるケースもある[注 6]。一方で地下鉄などの場合同一線区で運用される車両の規格が統一されていることが多く、使用車両全車が直通対応となることが多い[注 7]

業務の取り扱い

直通運転においては、乗務員駅員などの係員の業務の取り扱いも定める必要がある。

乗務員(運転士車掌等)の列車への乗務は大きく2つの方法に分けられ、具体的には、それぞれの事業者の乗務員が自事業者の管轄する区間のみを乗務し境界駅交代する方式と、それぞれの事業者の乗務員が自事業者の車両に乗務し、相手方の路線まで通して運行する方式とである。前者の方式では、各乗務員が相手の事業者の車両の操作に習熟することと、境界駅での乗務の引き継ぎの方式を定めることとが必要となる。後者の方式では、各乗務員が相手の事業者の区間の路線の特徴や取り扱い方式などに習熟することが必要となる。日本においては、両方の方式が用いられてきたが、後者の方式をとった路線において阪急神戸線六甲駅列車衝突事故および信楽高原鐵道列車衝突事故といった重大事故が発生したことから、多くの路線において前者の方式へ切り替えられた。境界駅はそのまま通り越して、相手方の駅で交代する方式もある。阪神なんば線近鉄奈良線(阪神と近鉄のATS区分駅である桜川駅(阪神単独駅)で交代)や、北陸新幹線(境界駅の上越妙高駅は「かがやき」が通過してしまうため、全列車停車駅の長野駅(JR東日本単独駅)で交代)などが挙げられる。

また、運転指令所においては直通事業者同士で緊密な連携が必要となるほか、境界駅での駅業務の管轄、各駅での連絡乗車券類の発売、乗り入れ先での拾得物取扱いなどについても定められる[6]

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車両使用料・線路使用料

直通運転では、複数の事業者(会社)がそれぞれの区間を互いの車両によって運行するため、何らかの方法で経費の精算または相殺を行う必要がある。日本においては、ほとんどの場合線路などの施設の保有・車両の保有と列車の運行のすべてを区間ごとに一つの事業者が担う形態で運営されていることから、各事業者が直通相手の事業者に車両を貸し出して運行するという形を取っており、この際に車両使用料を収受することになる。実際には、双方の支払うべき車両使用料が同じになるよう調整し、支払いを相殺することがよく行われる[7]。このため、時として相手方の路線内だけを往復する運用や運用の持ち替えが見られる。かつては走行キロの貸し借りで精算をしていたが、税務上物々交換は適切でないとのことで、現在は1車1キロ走行あたりの車両使用料を算出するようになり、毎月の走行距離の車両使用料に消費税額を加えたものを相手会社に支払うことで、会社間で料金のやり取りをしている[8]

一方、施設を保有している会社と車両を保有し列車を運行する会社が異なる場合には、運行会社が保有会社に対して線路使用料を支払う形になる。

線路使用権

日本国外においては、列車を運行する会社が他社の鉄道路線を走行する契約を線路使用権(せんろしようけん)ということがある。この契約では、前者が後者のどの区間で運行し、営業を行うかが子細に定められる。前者は後者の路線を走行するが、貨客を問わず営業はしない契約形態もあり、それをオーバーヘッド・トラッケージ・ライト (Overhead trackage rights) またはインシデンシャル・トラッケージ・ライト (Incidental trackage rights) という。時には、後者は自社での運行を取りやめ、前者の列車のみが運行されることがある。これは、路線の一部をリースさせているのと同義となる。

線路使用権は、必要に応じて一時的な契約であったり、長期に及ぶ場合もある。一時的に線路使用権を設定するときの例としては、災害により自社路線が被災した場合に、被災していない平行他社路線を使用して列車を運行する、というものがある。長期契約の例としては、他社路線を使用したほうが利益が高くなる場合や、他社路線を使用すると短絡できる場合がある。

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日本における直通運転

要約
視点

日本における直通運転は、大都市の地下鉄が郊外への私鉄路線と直通運転するものや、JR国鉄から経営分離された第三セクターがJRと直通運転するものなどが代表的である。大都市においては、運輸大臣の諮問機関である運輸政策審議会(現在の国土交通大臣の諮問機関交通政策審議会に相当)の答申により、路線建設時には直通運転を前提として計画がなされる。特に関東私鉄で盛んに行われている。

日本において特徴的な直通運転の形態としては、都心部にターミナル駅を持つ私鉄と地下鉄とが直通する際に、ターミナル駅そのものではなく、数駅郊外側の駅で地下鉄の路線と接続して直通しているというものがあり、首都圏、近畿地方などで例が見られる(小田急小田原線西武有楽町線東武伊勢崎線近鉄京都線など)。

また、同一事業者内ではあるが、東京や大阪のJRでは複数の路線間で直通運転を行っており、都心部をまたいだ一体的な列車運行や、広域的な中距離列車の運行がなされている。代表的な例としては東京の中央・総武緩行線上野東京ライン及び湘南新宿ライン、大阪のJR神戸線JR京都線JR宝塚線JR東西線学研都市線[注 8]などが挙げられる。

日本における直通運転の歴史

直通運転の歴史は明治時代に遡る。1950年代以前にも奈良電気鉄道(→近鉄京都線)と近畿日本鉄道奈良線橿原線、および奈良電と京阪神急行電鉄京阪線(→京阪電気鉄道)などの異事業者での直通運転はあったが、本格的に異事業者間で直通運転開始をしたのは高度経済成長期全盛の1960年代に入ってからである。

民鉄と地下鉄との相互乗り入れ黎明期は営団地下鉄日比谷線のように各駅停車による直通運転を原則としていた。地下鉄に民鉄の優等列車が定期列車で初めて乗り入れたのは京成電鉄1964年10月1日ダイヤ改正で都営浅草線に通勤準急(現在廃止)を乗り入れさせたのが最初である[9]

ただし、かつては同一事業者の路線が別会社に分割されて新たに異なる事業者間の直通運転となった例や、これとは逆に、かつては異なる事業者間の直通運転だったものが、同一事業者の路線間の直通運転となった例も存在する[注 9]。この他にも、一旦は直通運転を廃止したものの、運営形態の変更により営業上および書類上は再び直通運転となった例もあり[注 10] また、車両の譲渡などの理由により、それまで片乗り入れだったものが相互乗り入れに変更された例もある[注 11]

日本における直通運転の年表

日本における直通運転の事例

日本において、定期列車で行われている事業者間の直通運転の実施路線を示す。

JR同士

  • 下表のほかに、寝台特急「サンライズ瀬戸」がJR東日本(東海道本線) - JR東海(東海道本線) - JR西日本(東海道本線・山陽本線・宇野線・本四備讃線) - JR四国(本四備讃線・予讃線)の4社を、「サンライズ出雲」が上記にある東日本・東海・西日本3社の東海道・山陽本線のほかにJR西日本の伯備線・山陰本線へ直通運転を行っている。
さらに見る 事業者名, 路線名 ...

JRと私鉄・第三セクター

地下鉄が関係するものについては後述

さらに見る 事業者名, 路線名 ...

私鉄・第三セクター同士

地下鉄が関係するものについては後述

さらに見る 事業者名, 路線名 ...

地下鉄とJR・私鉄

さらに見る 事業者名, 路線名 ...
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アメリカ合衆国における直通運転

アメリカ合衆国では、ユニオン・ステーション(共同使用駅)線路使用権が設定されている例のひとつである。ユニオン・ステーションはたいていの場合、入換専業鉄道が保有しており、線路使用権も入換専業鉄道や、入換専業鉄道に出資している鉄道が使用する。

アメリカ合衆国においては、線路使用権の契約は陸上交通委員会に登録されており、公文書として閲覧できる。

韓国における直通運転

近来の韓国の鉄道界では「直通」という用語の曖昧さを回避するために、日本での「直通運転」(직통운전)に相当することは「直結運行」(직결운행)または「直結運転」(직결운전)と、「急行」のことは「急行」(급행)または「急行運転」(급행운전)といっている。

韓国における直通運転の事例

中国における直通運転

中国の鉄道(国鉄)における旅客輸送は長距離輸送が中心であるため、線路間の直通運転は日常茶飯事である。さらに高速鉄道網も形成されており、高速鉄道同士、あるいは高速鉄道と在来線との間での直通運転も多くある。

一方、中国では日本における国電のような都市近郊電車網が皆無のため、国鉄 - 地下鉄の直通運転は全くない。一部地下鉄の線路と国鉄線路は物理上つながっているが、直通列車は設定されていない。

各会社同士が緊密に協力しないため、地下鉄と国鉄の直通列車を設定していない。

香港における直通運転

  • 北西部を走る路面電車軽鉄 (香港)では、同じく兆康駅屯門碼頭駅を結び、杯渡・市中心を経由する614P系統と、良景・石排を経由する615P系統が終日にわたり直通運転を実施している。どちらかの系統を運行する列車が終点に到着後、運行系統を変更してそのまま直通し、終点に到着すると再び変更して運行することを繰り返し、実質環状運転を実施している。
    • 例:兆康→(614P系統で運行)→杯渡→市中心→屯門碼頭→(615P系統に変更)→石排→良景→兆康→(再び614P系統に変更)→(以降繰り返し)
  • ほかに、朝ラッシュ限定ではあるが途中駅で運行系統を変更する列車も数本ながら存在する。
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脚注

関連項目

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