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日本遺産

文化庁の文化財保護制度。各地方の複数の文化財で構成される歴史・文化的ストーリーを文化庁が「日本遺産」として認定する。 ウィキペディアから

日本遺産
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日本遺産(にほんいさん、Japan Heritage)は、文化庁が認定した、地域の歴史的魅力や特色を通じて日本の文化・伝統を語るストーリーである[1]。各地域の魅力溢れる有形・無形の文化財群を、地域が主体となって整備活用し、国内外へ発信することで地域活性化を図ることを目的とした、日本の文化遺産保護制度の一つ。

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『日本遺産「信長公のおもてなし」が息づく戦国城下町・岐阜』の横断幕がかかる岐阜市湊町の鵜飼遊覧船乗り場(2016年12月23日撮影)

経緯

当初、日本遺産は世界遺産を目指す地域や文化財を対象に、世界遺産に対応するための新制度とすると発表された[2]

その後、「クールジャパン推進のためのアクションプラン」で「文化財の保存・整備や活用・発信」[3]、「観光立国実現に向けたアクション・プログラム」で「地域の文化財等の保存・整備を図るとともに、観光資源として積極的に国内外へ発信する」[4]、「日本再興戦略」で「地域の文化財について、保存・整備を図るとともに、観光資源として積極的に国内外へ発信し、活用する」[5]とその方向性が示され、世界を惹ひきつける地域資源で稼ぐ地域社会の実現としている[5]

文化庁の2015年度予算概算要求では、「我が国の多彩な文化芸術の発信と国際交流の推進」の中で「文化遺産保護等国際協力の推進」として、「世界遺産普及活用・推薦のための事業推進」を新規事業(8,700万円)で計上[6]。こちらは「世界遺産暫定リストに記載された文化遺産等を日本遺産(Japan Heritage)という呼称で、国内外に発信するにあたり、その手法等について調査研究を行う」としている。

一方、文部科学省は新たに「文化財総合活用戦略プランの創設」を掲げ、「日本遺産魅力発信推進事業」として15億円の予算を計上した[7]。文化財総合活用戦略プランでは、「地域に点在する有形・無形の文化財をパッケージ化し、日本遺産に認定する仕組みを創設する」とあり、2015年度に15件程度の日本遺産を認定し、2020年の東京オリンピックパラリンピックまでに100件程度にまで増やすとしていた[8]。第1期の募集は2015年2月10日で締め切り、世界遺産暫定リストへの過去の提案物件を中心に83件が申請された[9]

第1期の締め切り前に日本遺産への関心を示しながら、文化財とストーリー性の関係を構築できずに応募に間にあわなかった地域も多数あった。例えば京都府下では6件の案件があった[10]が、申請されたのは滋賀県と共同申請の1件を含む4件であった。この他、栃木県益子町益子焼[11]長野県伊那市高遠石工[12]模索していた。

日本遺産の認定については、閣議決定等において2020年度までに100件程度としていたが、104件の文化財群が認定された[13]

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展望

要約
視点

文化財を地域単位でまとめ包括的に発信・活用する計画は、文化庁による歴史文化基本構想歴史文化保存活用区域があり、文化財総合活用戦略プランでも「歴史文化基本構想の策定や、地域の文化財の一体的な公開活用を促進するための情報発信、設備整備等の取組を行う自治体等への重点支援を行う」とある。歴史文化保存活用区域は2008年から20か所25市町村で3年間のモデル事業を展開しており、日本遺産もその中から選定される可能性はあるが、モデル事業地で世界遺産暫定リスト掲載案件でもあるのは新潟県佐渡島だけとなる。鹿児島県奄美市もあるが奄美大島自然遺産候補であり、日本遺産制定後の2016年にようやく暫定リストに掲載された。そして、第44回世界遺産委員会において、世界遺産に正式決定した。

地域における歴史的風致の維持及び向上に関する法律(歴史まちづくり法)が指定する歴史的風致維持向上地区も実績があり選定候補となりえるほか、国土交通省が「地域遺産」の名称で日本遺産に類似した事業の調査を実施しており[14]経済産業省も「地方物語事業」として類似施策を始動している[15]

また、世界遺産に登録された富岡製糸場と絹産業遺産群を取り巻く群馬県下の絹産業関連遺産群を網羅する「ぐんま絹遺産」[16]のように世界遺産を補完する事業も日本遺産には存在し、ふるさと文化財の森[17]として文化資材供給源を育成する試みもある。これはユネスコが推進する文化の持続可能性にも通じる。

一方、元ユネスコ大使で文化庁長官を務めた近藤誠一外務省主催の講演で、ユネスコ事業の一つである創造都市ネットワーク(クリエイティブシティネットワーク)での文化・芸術による地域おこしを提言している[18]。近藤は別の講演で世界遺産推薦を取り下げた鎌倉に対しても創造都市を紹介している[19]文化遺産創造産業の融合は、ユネスコ指針「遺産と創造性」でも推奨している。

なお、日本遺産の事例として文化庁は「防御拠点や統治の象徴としての機能を持った近世日本の城郭建築群」や「日本各地に造られた大規模な大名庭園」を挙げており、これを「ネットワーク(シリアル=複数自治体横断)型」と呼び(これを後押しするものとして文化財保護法での名勝に10県13か所にまたがる「おくのほそ道の風景地 - 文化遺産オンライン文化庁」が指定されている)、対して「屋台祭礼の場として守られてきた数百年前の町並み」や「過酷な自然環境と共存するための建築物等の生活環境と祭礼等の文化環境」を挙げこれを「地域型」とし、二つのタイプを想定している[20]。さらに国会議員による文化芸術振興議員連盟と芸術関係団体で構成する文化芸術推進フォーラムが開催したシンポジウム「五輪の年には文化省」で、文部科学大臣(当時)の下村博文は「函館にこれこそ日本遺産といういい例がある。ロシア正教の教会があり、その隣にフランスのカトリック教会が建つ。ななめ向こうには英国国教会の教会。150年前からある建物だから函館では当たり前だが、世界の方から見たら、奇跡だ。道路を隔てて、ひとつの場所に異なる宗教が共存しているのは、世界の視点からするとあり得ない話。日本人にとっては当たり前で不思議に思わないが、そういう文化がある。ひとつひとつの教会も魅力があるが、面的にしたらどうなるか。日本遺産というコンセプト、ストーリーをつくる」と例えを提示し[21]、ストーリージェニックさを求めている[22]

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体制

文化庁は自治体から候補を募集する旨を発表した。これは文化財保護法に基づく国の指定制度というよりは、所有者が申請する登録有形文化財に近い。選定も文化審議会ではなく、有識者会議に委ねる。このことから指定ではなく、認定という扱いになる[9]。認定登録されると、多言語ホームページパンフレットの作製、ボランティア解説員の育成、国内外でのPR活動に助成が得られる[8]

文化庁は、国土交通省や観光庁はじめ関係省庁と連携・協力し、省庁横断的に支援することを表明している[20]。また、申請・運用は自治体のみならず、民間企業NPO)参入も可能である含みを持たせている[20]。これは中小企業による地域産業資源を活用した事業活動の促進に関する法律地域の自主性及び自立性を高めるための改革の推進を図るための関係法律の整備に関する法律を応用することで可能になる。

認定後の地域の取組に温度差があることから、取組を評価し改善を図るため、2017年に日本遺産フォローアップ委員会が設置された[23]

2月13日は「にほん(2)いさん(13)」とも読めるため、日本遺産の日とされている[24]

認定の問題

「女人高野」の認定におけるジェンダー問題

2020年6月に、高野山女人禁制に対応して生じた寺院群、通称「女人高野」が、「女性とともに今に息づく女人高野 ― 時を超え、時に合わせて見守り続ける癒しの聖地」というスローガンで日本遺産に認定された[25]。宗教学・文化人類学者の小林奈央子は、女人禁制は女性の穢れ視や戒律の問題等から生じ、男性中心主義的な宗教思想の中で強化・定着したものであり、このようなスローガンは、女性を聖地から排除してきた歴史を肯定するかのような表現で、「女人禁制下、参詣が認められた寺や女人堂で祈りを捧げるしかなかった女性たちの歴史がロマン化され、観光客誘致、地域活性化のために利用されている」と厳しい批判を行い、こうした歴史を活用しようとすることの是非を問うている[25]

根拠のない「レイライン」問題

同じく2020年6月に、長野県上田市の遺産群が「レイラインがつなぐ「太陽と大地の聖地」~龍と生きるまち信州上田・塩田平~」のスローガンで日本遺産に認定された。しかし「レイライン」という用語自体に学術的な裏付けがなく(→レイラインを参照)、認定申請者である上田市も「いわゆる「レイライン」を意識して選地されたことを示す資料の存在も確認できない」、「いわゆる「レイライン」をはじめとした太陽と神社仏閣といった文化財との関わりについて、これを具体的に示すことが出来る資料等を、私たちは持ち合わせていない」[26]と認めている。このことから、「「文化財を行政が「スピリチュアル」な側面から取り扱う」べきではない」[27]と批判されている。上田市は批判を受けて補充調査をおこなっているものの、この調査報告書において「レイライン」の用語が歴史学的な背景ではなく地域で「集客イメージとして採用」されていたものを発展させる形で日本遺産のタイトルに採用されたことを明かしている[28]。さらに調査成果として挙げられているのは「観光要素」としての評価に留まり[29]文化庁が「日本遺産」として認定するストーリーが踏まえているべき項目として挙げている「歴史的経緯や(地域の風土に根ざし世代を超えて受け継がれている伝承,風習等」[1]については言及していない。

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認定後の課題

2017年10月11日、「日本遺産フォローアップ委員会」が設置された。その目的は、認定された日本遺産が各地域での取り組み状況に差が出てきており、どのような状況になっているのかを検証し、改善をはかる必要があるためと文化庁は説明している[30]

認知度の低さ

日本遺産認定により知名度が向上し、実際に観光客が増えた地域もあるが、伸び悩み取り残される認定地も出てきている[31]。また、認定地の中には観光化をより推進するために、遺産認定が意味する本質とは異なる取り組みを行う傾向も一部にみられることから、認定のあり方を含め、場合によっては認定解除という厳しい対応も視野に入れた検討を行うべきとの意見もある[32][33]

近代化産業遺産の認定事業との類似

「近代化産業遺産」の認定事業は、経済産業省が2007年から2009年に、66件の「近代化産業遺産群」を認定している。産業の近代化を遺産群と組み合わせて「ストーリー」をつくり、その「ストーリー」を審査し認定していること、地域の活性化を目的にしていることなど、認定事業の類似性が指摘されている[34]

事業の継続

文化庁が目安としている2020年が過ぎても、事業が継続すること。また、補助が終わった案件も継続的なフォローが実施されることなど[33]。2020年12月、日本遺産のフォローアップを受けながら6年間で成果(定量・定性的目標の達成度や、日本遺産フォローアップ委員会の評価)をあげられなかった地域、次の3年間の地域活性化計画の認可を受けられなかった地域について、時間的猶予を与えた上で、認定解除する制度を作る旨が通知された。また、新たに認定候補地域の募集が2021年3月から始まり、候補地域への認定とフォローアップを経て、解除地域との入れ替えを行い、認定団体数は100件程度を維持すると指針が示された。

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一覧

要約
視点

この節の参考文献:[35][36][37][38][39]

さらに見る 認定日, 名称 ...
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ギャラリー

日本遺産フェスティバル

同フェスは2016年、岐阜で日本遺産サミットとして初開催以来、持ち回りで開催されている。2023年は東京八王子で開催され、次回2024年は会津で開催予定。

テレビ番組

脚注

参考文献

関連項目

外部リンク

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